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76.女子なのに興味が沸かないんだが

「伝説のぶーっ!・・・」

グラードのところに行こうと外に出て歩いていると、猛威を振るう武器が目に入った。

だが何故だ?

明らかな重圧から胃液が飛び出しそうだぜ。

「え、死にたいんじゃなかったの?」

「誰がだ!」

死にたいんじゃなく手にしたいだけだってのに。

容赦ねぇ。

「店に行くね。」

「あぁ。俺は朝からおっさんの相手で疲れたから休憩だ。」

「おっさん?」

「ユーリウス。」

「あ、来てたんだ。なんか面倒そうだね。」

面倒だよ。

巻き込んでやろうか。

「じゃ。」

と言ってサーラは足早に店に向かった。

巻き込まれるのが嫌だから、さっさと逃げやがったな。



朝から来たユーリウスは、決行日を伝えに来た。

決行日は五日後。

いつ来るか不明だが、メイニとも調整する必要がある。

王国兵は動かせないため、ユーリウスが抱える兵を使うそうだが、トロルの相手は危険なためエリサにお願いしたいそうだ。

まぁ、エリサならトロルでも問題無い気はする。

後は、どうやって貴族に今後手を出させない様にするかを考える必要がある。

薬を使う事に変わりはないが、何を使うかだな。

という事を朝から考えさせられたから、休憩がてらコーヒーを飲みに来たわけだ。



「リアさん、今日は早いですね。」

「あぁ。朝から込み入った話しで疲れたからな。」

「何処か行くんですか!?」

・・・

何故俺が話しをすると出かける方向になると思ってんだこいつは。

「たまには私も連れてってくださいよ。」

「別に行かねぇから。行くとしても近所だ。」

「遠出する時は教えてくださいね。」

嫌なこった。

「グラードに貢献しろ。」

「してますよ!ね、店長。」

と言ってレアネがグラードに声を掛けると、苦笑いした。

相変わらず人の会話を聞いてんじゃねぇよ。


と思っていたら、グラードが嫌な顔になった。

アホ女が変な事をしたことでも思い出したか?

「話しがある。」

「うにゃっ・・・」

頭部を掴まれたレアネが変な声を上げる。

いつの間に居たのか、レアネの背後にあの態度の悪い男が居た。

こいつはこいつで何者なんだろうな。

グラードが嫌な顔をするのも納得だ。

こいつ、営業妨害するしな。


「私は仕事中なんですよ!」

と言って、男の手を振り払う。

「すまぬ店主、少し話しがあるのでこいつを借りたい。」

男はグラードの前に行くと、目の前に小袋を置いた。

音からするに硬貨だろう。

しかし、どういう風の吹き回しだ?

今までの傍若無人を感じないんだが。

「少しなら。もうすぐお昼時間で忙しくなるから、それまでには戻して欲しい。」

「わかった、善処しよう。」

男は言うと、レアネの手を掴んで店の外に出て行った。

その光景を見ながら紫煙を吐き出す。


いつかレアネが言っていた聞いて欲しい話し。

あれと関係してんのかもな。

面倒だから、正直なところ聞きたくはねぇんだが。






「ソアくん、ちょっと態度変わった?」

「そんな事はどうでもいい。それより確認したい事がある。」

人気の無い裏路地まで来ると、ソアはレアネの手を離した。

「ローラ・マクレディの事?」

「なっ!?」

どうせレアネの事だから、知らない、覚えてない、という反応を想定していたソアは驚きに口を開いて硬直した。


「そ、そうだ。啓示がまたも変わった。俺がこの仕事して、こんなにも頻繁に変わる事など今まで無かった。」

「知ってるよ。私だって、そんな状況になった事ないもん。」

気を取り直して言ったソアに、レアネは多少頬を膨らませて言う。

「何か心当たりがあるんだな?」

今までのレアネからは想定できない反応に、ソアは目を細めて確認した。


ローラ・マクレディ、アデルは貴族殺害の罪を糾弾され極刑に処される筈だった。

当然、それに加担した孤児院は潰され、孤児院にいた子供は後任の貴族によって奴隷にされる。

若しくは売られる運命だった。

街ぐるみだった事から、課税も厳しくなり、言葉ひとつの不満も許されなくなる。

やがて、ボーレヌグ領が廃退するまで。


「この国の姫様が、それを許さなかった。」

「どういう事だ?」

「貴族の弾圧で苦しんでいたアデルが、手を汚さないように。子供たちが、未来を生きていけるように。姫様はそれを憂いてそうならない様に計ったの。自ら現地に行ってね。」

「ばかな・・・」

クローディアは可もなく不可もなく、女王としての責務を全うする筈だ。

一貴族の横暴に出向いてまで何かをする事は無い。

それでも、この国が衰退せずに保ったのは真面目な性格と、機転の成せる事である筈だった。


だが、クローディアが行った行為はボーレヌグ領の廃退どころか繁栄だった。

それも、王国への多大な寄与とともに。

本来ローラ・マクレディは、マール・アルマディとなり王国を繁栄に導く啓示だったが、レアネのミスにより没落すると示された。

しかし、クローディア自らアデルと関り軌道修正したと取れなくもない。

(まさか、そんな事が?)

「おかしいとは思わないのか?」

「啓示はあくまで啓示。人にはそれを変えてしまう何かがある。そんな気がするの。」

「そんな事は知っている。だが、それは稀有な例だ。現状はそうではないだろうが!」

「ソアくんの思い込みじゃないですか?」

冷めた目をするレアネの首に、ソアは手を伸ばそうとして止めた。


「まぁいい。アデルの啓示に関してはわかった。」

ソアは考える素振りをして、レアネに視線を戻す。

「マール、マーレ、アデル、クローディア。すべての啓示が変化している。このすべてと関りがある人間はいるか?」

その言葉に、レアネは微笑んだ。

「多分、リアさんですね。」

「どこのどいつだ。」

「ソアくんが来ると、いつも端の席にいる少女ですよ。」

「あいつか!」

ソアは大きな声を出すと、見えないカフェの方向に目を向けた。

おそらく、そこが特異点だろうと思って。


「態度の悪いガキだと思っていたが、何者だ?」

「私たちとは別の担当が、あの事件から転移させたくらいしか・・・」

思い出す様に言ったレアネの胸座をソアが掴む。

「誰だ?」

「知らないですよ、他の担当の事までは。」

「くそ!相変わらず使えない駄神め・・・」


「それよりソアくん、お願いがあるんだけど。」

レアネはソアの手を引き剥がすと、真っ直ぐにソアの目を見つめた。

「なんだ、復帰なら認めんぞ。」

睨むように見返してソアは口にする。

「うん。復帰はしなくていいから、永久剥奪して人間にして。」

「なんだとっ!?」

思いもしなかった内容に、ソアはそれ以上言葉が出て来なかった。


「事の顛末を、人として、みなさんと一緒に見届けたい。そう思ったの。」

微笑んで言うレアネに、ソアは言葉が出ずに口だけを開けた。

「ソアくんも、その方が清々するでしょ。使えない私なんか、相手にしなくてよくなるんだかうっ・・・」

「ふざけるな・・・」

ソアはレアネの首を掴むと漏らす様に言う。

「ふざけるなよっ!!」

その手に力を籠め、建屋の壁にレアネを押し付けて怒号した。

「くっ・・・」

レアネはソアの腕を力いっぱい掴んで外した。

「ふざけてなんかないですよ!ずっと、ずっと、ずっと考えてたんですよ!ダメな私がどうしたらいいか、どうしたらみなさんの顛末を見られるか・・・」

叫ぶように言ったレアネの言葉は、最後は嗚咽で掻き消えるようだった。

「・・・」

ソアは無言でその姿を見ていた。

それは、見た事のないレアネに対して戸惑ったからだったが、自分でもそんな状態になるなんて思いもしなかったため、動く事も言葉を発する事も出来ないでいた。

「今日は帰って・・・」

レアネはそれだけ言うと、ソアに背を向けて歩き出す。


路地の角を曲がって姿が見えなくなるまで、ソアは立ち尽くして呆然としていた。






コーヒーも飲み終わり、混む時間帯になるので帰ろうかと思ったらレアネが戻って来た。

もう少し早く出れば良かったぜ。

レアネはグラードに挨拶をするとこっちに近付いて来る。

目が赤いのは気のせいだろうか。

「私が可愛いからってそんなに見つめないでくださいよ。」

死ね。


気にして損した。

「帰るんですよね、片付けますね。」

「あぁ・・・」

レアネが片付ける横をすり抜け、グラードに代金を払うと店を出た。

あの男と何かあったんだろうが、それを俺から聞く必要は無い。

いつか自分で話すと言ったんだから、それまでは。


言った内容はいつものアホさ加減だったが、声に力が無いと言うか、覇気が無いと言うか、何かあったのは間違いなだろう。

出来れば、面倒だから聞きたくはないんだが。

そんな事を思い、出る時にもう一度レアネを見たら、恥ずかしそうに両手で頬を覆い身体をクネクネさせやがった。

やっぱ死ね。





店に戻ると、奥から話し声が聞こえた。

声はマーレのようだが。

「誰か来ているのか?」

口調からしてエリサではないだろう。

「えぇ、来ているけど、私の知らない人だったわ。」

ふむ。

知り合いでも出来たか。

と思って覗いてみると、アデルだった。

なんであいつが家に来てんだよ。


「リアちゃん知ってる?」

「あぁ。この前行った、ボーレヌグ領の孤児院に居た奴だ。」

「そうなんだ。」

「マーレとの会話って事は、おそらく新孤児院設計の話しだろうな。」

ゆっくりしようと思ったが、それも出来そうにない。

あと、何故か俺の興味は反応しないから、どうでもいい。

「そうなんだ。自宅だけじゃなく、他の施設まで手掛けるなんて凄いわね。」

そうだな。

「それで稼いでくれると、店も安泰だけどな。」


と言ったところで、呼び鈴の音とともに扉が開く。

目をやると、俺のだった。

「ぐ・・・」

抱き着こうとしたらおでこを押さえられ前に進めん!

「何をしておりますの?」

「だから挨拶を。」

「言葉だけで問題ありませんわ。」

俺の気持ちの問題だ!

「それより、話しは決まりました?」

「あぁ。」


メイニは頷くと、奥に行こうとしたので手で制す。

「来客中ですわね。」

察した様でなにより。

「マーレに設計を依頼しに来た外部の奴だ。例の話しなら場所を変えよう。なんなら俺の部屋でも・・・」

「別の場所へ移動しましょう。」

最後まで言わせろよ!

せめて。


「あ、メイニ!ちょうど良かった!」

声が聞こえたからだろう。

奥からマーレが出て来てメイニに近寄ってくる。

「何かしら?」

「今度、ボーレヌグ領に孤児院を建てる事になりそうなの。それで、また資材をお願いしたいと思っていてね。」

「構いませんわ。わたくしも、新しい流通経路の開拓を考慮する段階ですわね。マーレさんが設計した建屋の資材が、いつでも発注可能な様に。」

「あ、それいいね。」

確かにそれは重要だな。

設計だけで家が建つわけじゃなし。

メイニにとっても、今まで扱ってこなかった内容だろう。


「それはそれとして、こっちもメイニと話しがあるんでな。ちょっと出て来る。」

マーレの話しはまだまだ先の事だろう。

「え、そこで話せばいいじゃん。」

と言って、ダイニングの方を指差す。

(元教師様には聞かれたくない話しなんでな。)

(あぁ、なるほど・・・)

小声で言うと、マーレは察してくれた。

煙草を吸っただけであの態度だ。

物騒な話しをすれば何を言い出すかわからない。


「あの、リアさん。」

そこで、アデルも店内へ移動してくる。

「リアさんにも、お願いがあって・・・」

お願いなら順番がある。

「まだ居るんだろ?俺としてはこっちの話しが優先なんだ。」

「わかりました。その後で、大丈夫です。」

「私たちは間取りの続きを話そうか。」

「はい。」

マーレは言いながら、アデルをダイニングの方に移動させた。

「さて、俺らも出るか。」

「えぇ。」


「グラードのところは今さっき行ったところなんだよな・・・」

店を出ると、隣を歩くメイニに言う。

煙草を吸いたいのもあるが、それ以上にすぐに戻ったみたいで居辛い。

「わかりましたわ。別のお店にしましょう。」

「助かる。」

正直、住んで長いがグラードのところが都合良すぎて他の店は開拓してない。






店から大通りを跨いで反対側の区画に移動した路地にある小洒落た店に入る。

メイニを見た店員が、奥の個室に案内した。

「結構来るのか?」

「お店で使用している食器や椅子、机等はわたくしの店で用意しているのですわ。」

なるほど、そういう事か。

「いつもので?」

案内した店員とは別の男が現れる。

もしかすると店長とかかもしれん。

「えぇ、お願いするわ。」

「了解。」

と言って、男は皿を一つ置いて去って行った。

「リアさんを見習って、いきつけの一つや二つは持っていなくてはと思いまして。」

メイニは言うと、キセルを取り出した。

「もしかして、これ灰皿か?」

「その通りですわ。」

「やるな。」

「わたくしを誰だと思ってますの?」

まぁ、そうだな。

メイニと一緒であれば利用出来そうだが、俺が一人で来ても相手にされない可能性ある。

俺がここに食事に来て一服、というわけにはいかないだろう。

残念だが。


「此処なら、大声で話したりしなければ問題ありませんわ。」

「良い店だ。」

「えぇ。」

俺ももうひとつくらい開拓すっかな。

「で、ユーリウス卿はなんと?」

「五日後だとさ。」

「わかりました。予定を空けておきますわ。店に来てくださる?」

「もちろん、そのつもりだ。後は方法だな。」

と言っても、薬品を使った脅迫。

という部分は変わらないとして、どれをどう使うかによるな。

「それは、お任せしますわ。荒事はわたくしが対処します。」

「あぁ。二度と手を出したくなくなるようにすればいいんだよな。」

「えぇ。貴族である事を否定するつもりはありません。相手を選んで行動して欲しいものですわ。」

と言って、メイニは目を細めて紫煙を吐き出した。

すっかり様になってやがる。

流石俺の女だ。

「まったくだな。」


薬は転じれば毒と変わらない。

中毒や機能障害等、生きたまま弊害を発生させる事も可能だろう。

方法としては、その手の内容を使うか。





メイニと食事をし、食後の一服を終えて店に戻った。

盲点だったが、確かこの大陸に生える植物図鑑にジグリリスという花があった筈だ。

分布図はあったので、現地ではアホ犬に探させればいいだろう。

葉や茎から取れるジグトキシムは強毒だ。

これも確実ではないが、心不全を起こせる。

量を調整すれば、機能不全を起こすことが可能だ。

誰だって、身体に障害が残ったら嫌だろう。

外傷と違って、恐いよな。

と思うと、やはりこの辺から攻めてみるか。

確か、成分はあった筈だ。


「ちょっとリア、聞いてる?」

「あぁ。毒性を弱めて使用痛ぇっ!」

俺は考えていた事を口にしたら、マーレからげんこつが降って来た。

「常備薬!アデルが欲しいって!!」

・・・

常備薬?

と思って、マーレからアデルに目を向けた。

おぉ、そんな話しか。

「わかった。」

「直ぐにまとまったお金は用意出来ないんですが、少しでも子供たちのために用意できたらと思って。」

そういう話しね。

まったく聞いてなかったわ・・・

「たいした物は用意できん。あっちほど便利な世の中じゃないんでな。」

「それは承知しているわ。」

「ならいい。ちなみに金は要らん。」

「それじゃ私が納得できないわ。用意が出来たらちゃんと払う。」

あっそ。

面倒くせぇな。

「そんじゃ、用意してくるからちょっと待ってろ。」




「また厄介事?」

アデルが帰った後、マーレに聞かれた。

「それが俺の仕事だ。」

「気を付けてね。」

「あぁ。」

言われなくても。

順風満帆とはいかないまでも、この面白ぇ生活を現状手放そうなんて思わねぇからな。


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