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71.扱いに遠慮を感じなくなってきたんだが

いろいろ片付いたし、そろそろリンデを迎えにいく予定を立てないとな。

いや、俺じゃなくてもいいか。

でもな、アホ犬に任せると不安しかねぇ。

事情を知ってるのも俺とアホ犬。


はぁ・・・行くしかねぇか。


そういや、家が出来るんだよな。

コトナの木を使った家具を、改めて見るのもいいかもしれねぇ。

その時はマーレを連れて行くのもありか。

客の居ない店内をぼーっと見て考えていると、呼び鈴が音を立てながら扉が開いた。

・・・


「リアいるー?」

アホ姫か。

「いねぇよ。」

目が合ったがどうでもいい。

「あ、そうなんだ。」

と言って、ディディが掴んでいた袋をちらつかせる。

「報酬はまた今度でいっか。」

「まてまて、本人目の前によくそんな事が言えるな。」

「本人目の前にいねぇとか言える方がどうなのよ。」


「邪魔だから外でやってくれない?」

ユアナがにこやかな笑みで短剣を見せる。

・・・

俺の店なんだがな。

「夕べ・・・」

抜く動作も見えずに目の前に刃先が存在した。

「まだ何も言ってねぇだろうが。」

「最初の件で自殺願望が出てたわよ。」

短剣を向けてんのはお前だ!

他殺だよ!

確実に、アホか。

「とりあえず、移動するか。」

「うん。私も丁度、店長に用があるしね。」

そうか。

「じゃ、ちょっと頼む。」

「うん。最初からそうして。」

最近、遠慮ってもんを知らなくなったな。

アホ姫を筆頭に俺のまわりはこんなのばっかか・・・


店に移動すると、ディディは真っ直ぐにグラードのところへ移動した。

俺には関係ないので、席に移動すると早速キセルに葉っぱを詰め込む。

注文の準備だろう、忙しそうにしていたグラードが目の前に人が来たので手を止めてその人物に目を向けた。

驚きで手が止まったが、直ぐに笑顔を作る。

「これは姫様、いらっしゃませ。いつもご利用ありがとうございます。」

よく言う・・・

ボーレヌグから帰って数日経つが、帰った当日店に行ったら「こういう事は困るんだよね。」とか、文句を言っていたくせに。

一介の店長では国家権力を前に、言いたい事は言えないらしい。

「レアネを予定より長く借りてごめんね。」

「いえいえ、とんでもない。お役に立てたなら何よりです。」

嘘つけ。

お前の当日の発言を晒してやろうか。

あとレアネはお前のものでもないしな。

お役に立てたならとか言ってんじゃねぇよ。


「どうしました?」

そんな事を思いながらグラードを見ていると、レアネが怪訝な顔で俺の視界を塞いだ。

邪魔だよ。

「早くコーヒー持ってこい。」

「店長が話し中だから、もうちょっと待ってくださいよ。」

使えねぇ。

そのグラードはと言うと、ディディから受け取った小袋の中身を見て満面の笑みを浮かべていた。

ま、俗物的な事は悪い事じゃないな。


「結構渡したな?」

席に着いたディディに冷めた目を向ける。

「まぁ、予定より長く借りちゃったしね。必要経費。」

「あんなに満面の笑みを浮かべたグラードは見た事がねぇぞ。」

「そうなの?多かったか・・・」

ディディは言うと渋い顔をした。

ちょっと金銭感覚が庶民とは違うからな。

この前、改めるとか言っていたが、改めてこれなんだろうな。

どうせ市場とか確認してないんだろ。

ま、俺にとってはありがたいが。


「まぁ、渡しちまったもんは諦めろ。」

「わかってるわよ。」

今後は考えて渡すんだな、と思っても言わないでおく。

「お待たせしました。」

レアネがコーヒーを置くと、続けて頼んでもいない焼き菓子も置かれる。

「店長からサービスです。」

しかも、盛り合わせとか贅沢なやつ。

グラードの方を見ると笑顔で親指を立てていた。

「よほど嬉しかったらしいな。」

「うるさいわね。」

気にはしているんだな。


「で、今日はなんだよ。頼み事なら聞かねぇからな。」

ボーレヌグの事で、二度とこいつの頼みは受けないと決めた。

「報酬を渡しに来ただけよ。」

「ならさっさと城に帰って仕事しろ。」

コーヒー飲んで寛いでいるほど暇じゃねぇだろうが。

「冷たいわね。どっかの管理地の話しも凍りそうだわ。」

こいつは・・・

すぐ力にものを言わせやがる。

「そんな脅しには屈しねぇぞ。」

「もう、少しくらい話してってもいいじゃない。息抜きよ、息抜き。」

まぁ、考えてみればまだ姫だしな。

此処でコーヒー飲んでいるからといって、国が傾く事にはならんか。


「で、なんの話しだよ。」

ディディは俺の質問に答えずに、煙草に火を点けて吸うと、焼き菓子をつまんでコーヒーを口にした。

いや、話しが無ぇならいいけどよ。

俺もそう思って、紫煙を吐きながら街に目を向ける。

生前と違うのは、街に目を向ける事だな。

当時向けていたのは、スマホの画面がほとんどだった気がするわ。

「カフェでこんなのんびりなんて、無かったわね。スマホが手放せなかったし。」

・・・

共感したくねぇから口には出さなかったのに。

出されてもしてやらんが。


「そんな事を言いたかったのか?」

「え、違うけど?」

違うけど?

じゃねぇよ。

こっちはわからねぇから聞いたんだろうが。

なんだその言い種は、アホか。

「直轄領の件さ、王様に怒られちゃったのよね。」

俺には関係ないが?

「領に関しての是正は言われてたけどさ、直轄領に関しては独断だったからねぇ。」

「おぃ・・・」

そんな事に俺を巻き込むなよ!

「てへっ。」

てへっ、じゃねぇわ!

「ババァがやっても可愛くねぇわ!むしろなんて事に巻き込んでくれてんだ。」

「馬鹿ね、この姿なら問題ないでしょ。」

お前に馬鹿とか言われたくねぇわ。

俺は精神の話しをしているんであって、見た目の話しをしてんじゃねぇ。

「それに、私の独断だからリア組に迷惑はかからないわよ。」

「組って言うな、そんなもんは無ぇ。」


「でさ、ちゃんと説明したのよ。」

相変わらずこっちの話しは聞かねぇな・・・

「一応、ボーレヌグの今後については一任されたのよね。責任は果たせって。」

王様ってのも、話しが通じそうではあるな。

まぁ、話す事も無いだろうが。

「思惑通りになって良かったじゃねえか。」

「そうね。ボーレヌグの安定化もそうだけど、関与していた貴族に対しても良い牽制になるわ。」

あぁ、なるほど。

私利私欲に走るとこうなるぞ、という見せしめだな。


「そんなわけで、よろしくね。」

は?

「もう俺は関係無いだろうが。」

何をよろしくしろってんだ。

「今後、自治領化までの間、何度か足を運ぶ必要が出て来るわ。」

それはお前の仕事だろうが。

「政に俺は関係無い。」

「何言ってるの?私の従者でしょ。」

・・・

死ね。

「それは事を起こすまでの役割だっただけだ。」

「気にならないの?」

おそらくアデルの事だろうが、前にも言った通り興味はない。

「ならん。あと俺は忙しいんだ。」

「此処でコーヒー飲みながら煙草吸ってると、説得力無いわよ。」

そりゃお前もだろうが。

「適度な休憩。モチベーション維持には必要なもんだろ。」

「うん。でも城に居ると無いわよ、そんなの。狡くない?」

いや、俺に言われても。

そういう立場になったんだから諦めろ。


「まぁいいわ。行くときにはまた来るから。」

「行かねぇって言ってんだろうが!」

言うだけ言って去っていきやがった。

こっちの話しは聞いちゃいねぇ。

「私も行きますよ。」

・・・

こいつも暇さえあれば人の話しを聞いて割り込んでくるよな。

「もう行かねぇよ。」

そもそもちゃんと店に貢献しろよ。

「楽しい事を独り占めなんて狡いですよ!」

アホの相手はしてられん。

そもそも何が楽しかったんだよ。

「ちょっとリアさん、聞いてます?」

アホ女は無視して、俺はグラードに代金を払うと店に戻る事にした。




「また何処か行くの?」

店に戻るとユアナが聞いて来た。

基本は面倒だから何処にも行きたくないんだがな。

アホ姫の所為で余計な詮索をさせる羽目になってるじゃねぇか。

「いや、愚痴を聞かされただけだよ。」

「そうなのね。」

「まて。行くと言えば行くな。」

「何それ?」

と言ってユアナが笑みを浮かべる。

その仕草だけなら可愛いんだがな。

手癖が悪すぎる。

「リンデを迎えに行く必要がある。」

「ドラゴンだっけ。リアちゃんって本当に凄いわよね。」

「好き勝手してるだけだっての。」

それでも、いろんな種族と関り合っているのは俺くらいなものだろう。


「って事は、また数日空けるのよね。」

「そうなるな。」

片道三日だからな。

ま、それが終われば遠出の予定はしばらく無い。

やっと落ち着いて薬の準備が出来るな。

前に考えていたテドロキシムやベンクロニムの入手方法、入手経路を確立する必要がある。

ベンクロニムに関しては、成分を抽出できる植物はこの大陸には無さそうな感じだった。

とすれば、海から取れるテドロキシムの入手について考える方が現実的だな。

そのためには、港町クレーエルで伝手を作る必要がありそうだ。

出来れば新しい家が出来る前には確保したいところだな。


家と言えば、マーレはメイニのところに朝から出かけていたな。

煙草工場とは違って、家は自分たちで建設するのは難しい。

資材調達と併せ、その伝手も確認したいんだとか。

確かに、いま居る面子でどうこう出来る問題でもなさそうだ。

場合によってはユーリウスあたりに相談してみるのもいいだろう。

・・・

いや、話したくねぇな。


はぁ、俺もメイニに会いたいぜ。

最近来てないからな。






「ふにゃっ!」

涎を垂らしながら中庭の薬草を前に横たわっていたアホ犬に蹴りを入れる。

「エリサ、暇だろ。」

「何すんだご主人!見ての通り薬草の手入れをしてんだ、暇じゃないぞ!」

・・・

どうして誤魔化せると思ってんだ。

「まず涎を拭け。」

「う、うん。そうだな。」

アホだ。


「そろそろリンデを迎えに行こうと思ってな。」

「そうか。ついに再戦だな!」

エリサは両こぶしを握って力強く言う。

「さして成長してねぇだろうが。」

「やってみなきゃわからないぞ!」

いやわかる。

誰がどうみてもわかる。

「あの場所で待ってればいいか?」

「お前も行くんだよ!」

「イタイイタイ・・・」

アホな事を言いだすエリサの頬を両手で摘まんでグリグリと回してやる。


「酷いぞご主人・・・」

「とりあえずマーレにも話さないとな。」

頬をさするアホ犬は無視して、日程の事を考える。

俺らの都合より、新居の建設に動いてもらっているマーレに合わせる必要がありそうだな。

コトナの木で家具を作っているカーベルまでは1日かかる。

となると、1泊は確定だ。

それが可能な予定を作ってもらおう。

「あたしはいつでもいいぞ。明日か?」

「いや。マーレも連れて行こうと思ってな。」

「なんでだ?マーレもリンデと闘いたいのか?」

戦闘から離れろ。

むしろ今までマーレのどこに戦闘要素があったんだよ。

「カーベルって町があっただろ、あそこに連れていきたいんだ。」

と言ってみるが、エリサは首を傾げていた。

あぁ、はいはい、言った俺がバカだったよ。


「メイニと一緒に行っただろうが。」

と言っても、首は傾いたままだ。

ダメだな、こりゃ・・・

「途中まで一緒なだけだ。」

「そうか。わかったぞ。」

それだけ通じればいいか、もう。

どうせ家具にも興味が無いだろうからな。




「なぁマーレ。」

「なに?」

帰って来たマーレに早速声を掛ける。

周囲を見渡すが、家の中なので見回す必要も無かった。

「コーヒー・・・いや・・・」

「何が言いたいのよ。」

グラードのところもダメだ、アホ女がいる。

となると、自分の部屋しかねぇか。

怪訝な目を向けて来るマーレを、手招きして部屋へ連れて行く。


「リアがこんな事をするなんて珍しいわね。」

察しが良いのか、部屋に入ると小声で言って来た。

「あぁ。出来れば他の奴には聞かれたくない。」

「え・・・なんか面倒な事じゃないでしょうね。」

状況からそう言われるのは仕方ない。

「家具に興味はあるよな?」

「そりゃもちろん。自分の部屋とか、好きなの置きたいもの。」

だよな。

俺もだよ。

「実は、前にメイニに教えてもらった良い家具があるんだ。出来れば一緒に見に行かないかと思ってな。」

「良いけど、何でこんな内密みたいに話してんの?」

そこまでは考えないか。


「凄くいい感じなんだが、値段がな・・・」

「あぁ・・・」

マーレが察したように力無く声を漏らした。

「つまり、全員分買う余裕が無いって事ね。」

「そもそも俺が買ってやる必要は無いだろう。自分の金で、自分の好きな物を買えばいいだけだ。」

「そうだけど、あてにされるのが嫌なのね。」

「そうだ。いるだろ?この家にも。だから、家具を見に行く話しは聞かれたくない。」

「なるほどね。それでカフェも止めたのね、レアネが居るから。」

「察しが良くて助かるよ。」

アホ犬は理解しなくても、聞いたことはさらっと口にしやがる。

レアネも似たようなものだ。


「いいわよ。いつ行くの?」

「それを決めようと思ってな。リンデを迎えにいく途中で寄る町にあるんだ。」

「なるほどね。」

「1日かかるから、1泊する必要がある。」

もう少し近ければいいんだけどな。

買った家具の宅配とかしてくれないだろうな。

「それって、帰りは私一人になるじゃない。」

「そうだが?」

「いや、もし帰り道に襲われたら戦えないんだけど・・・」

「言われてみるとそうだな。乗合馬車とかも確実に安全とは言えないしな。」

「でしょ?」

となると、護衛がいるか。

ユアナが手っ取り早いが、店を閉める事になっちまう。

プーのサーラでもいいが、買えとか言われるとムカつくからやめておこう。


「こういう時、都合の良い人がいないわね。」

「だな・・・」

確かにな。

思い当たる奴もいねぇ。

いっその事、メイニにでも頼んでみるか?

カーベルで泊まる時、チャンスが訪れるかもしれん。

よし!

それで行こう!

「私も一緒に行くわ。」

・・・

俺の計画が。

「時間はあるのかよ。」

「資材も、人材も時間がかかるって。あ!」

なんだよ。

「メイニが手配してくれるそうよ。家を建てる人達。」

「そうか、それは良かった。ダメならユーリウスあたりに相談しようか迷うところだったよ。」

「相談を迷う手前だったのね。」

「あぁ。あんまり関わり合いたくねぇし。」


「じゃぁ、一緒に行く流れでいいな。」

「うん。気分転換にもなるし。」

なんの気分転換だよ。

あとは建つのを待つだけじゃねぇか。

「家を建て始めたら、私は抜けられなくなるじゃない?現地に張り付く事になると思うし。」

「そういうものか?」

「後で図面と違う!ってなったら嫌でしょ。」

「確かにな・・・」

そこまで考えてなかったぜ。

出来るまでは、マーレの世話になりっぱなしって事だな。

「外に出て刺激を受けるのもいいし、家具もきっと良い刺激になるから。」

「そういう事なら。」

「うん。発つ日は決めていい?」

「あぁ。」

そんな悠長な事にはならないだろう。

と思うと、マーレが決めていいだろうと思えた。




「あ、リアちゃん、薬の依頼が入っているわよ。」

部屋を出て、店に戻るとユアナが紙を渡して来る。

頭痛薬ね。

「内緒話し?」

そうだけど。

内緒ってわかってんなら聞くなよ、アホか。

「大詰めだからな、家の詳細を詰めていたところだ。」

「あ、そうなんだ。」

「新築だから、自分たちで家具も用意しなきゃならんだろ。」

「言われてみるとそうね。何も考えてなかったわ。」

まぁ、そうなんだろうな。

「幸い、メイニとの伝手もある。相談もありだろう。」

「その時は、私も混ぜてね。」

「自分で買えよ。」

ユアナなら自分でちゃんと買うだろう。

そうは思っても、念のため。

「当たり前でしょ。」

「そうと決まれば、今夜部屋でゆっくり・・・」

「何?」

・・・

恐ぇよ・・・

笑顔で喉元に短剣突きつけんじゃねぇ。




晩飯の時、アニタにも事情を説明して、水の都エストアーハへの出発は二日後になった。

いつもの如く、また旅行に行くの?だの、私も行くだの、話しは進み難かったが。


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