8.逃避行の果てに
本日2話目です
逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。
どれほど走ったのかわからない。でもまだ追いかけてくる、怒りの咆哮をあげながら迫ってくる。早く、早く!もっと早く走らないと、捕まる。ハクモフは異空間へと送った。あとは僕が逃げ切るだけなのに、段々足に力が入らなくなってくる。
恐い、恐くないわけがない。
ぎらつく紅い眼を左右に振り回し、身体の倍以上もある腕を2本、我武者羅に振り回している。鬱蒼と生い茂る木々を触れただけで木っ端微塵にしてしまう2本の腕。走るスピードも僕より、ほんの少し早い。
アレに少しでも近付いたら、一瞬で逝ってしまう。
行く宛なんて無い、でも生き残る為に逃げないと。逃げ切らないといけない。
「グララアァァァァ」
え?
視界が暗転する。
目を覚ますと、熊はいなかった。ついでに右腕もなかった。背中にはヌメッとした感触。下を見ると左足が180度曲がっている。
右足に力を込めて立ち上がろうとするも、バランスが取れない上に、疲れが激しい為、何も出来ず、そのまま背中から血の海にドボン。さっきから何度も何度もやったことだ。もう動けないのかな、そんな言葉が頭の中で反響する。止まることは無い、どんどん大きな声となって響くその言葉。
――――ガサガサ
「い、居たんだな!」
夢だろうか、懐かしの声と共に、懐かしの姿が目の前に現れた。
なんでだろう、目の前のゴブリンは泣いている。涙が沢山、僕の身体に当たり跳ねていく。でも不思議な事に感覚がない。
そして僕は冷たくなっていく。闇に飲まれ消えていく意識。僕はわかった。ああ、第2の人生の終焉の時だと。
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〜マサオ〜
目の前にはゼロム様の体が横たわっているんだな。見つけた瞬間、オイラは涙を流していたんだな。皆に早く知らせないといけないんだな。
「い、いたんだな!」
オイラはそう叫ぶしか出来なかったんだな。
何故なら、目の前のゼロム様の体が段々と白くなっているからだ。前にも似た光景を見た事があるんだな。
アレは初めての狩りの時だったんだな。そう仲間達が忌まわしき人間に殺されていったときなんだな。そしてゼロム様に救われた、オイラの大事な大事な日なんだな。
人間に殺された後、まだ息をしていた仲間がいたんだな、でもやがて息をしなくなったんだな。他の仲間達はソイツをゴミを見るような目で見ていたんだな。
「うっ、ゼロム様ぁぁぁぁぁ」
気づいた時には叫んでいたんだな。
大事な人が死ぬのが嫌だったんだな。ううん、1番の理由はアイツの様にゴミを見るような目でゼロム様を、見られたくなかったんだな。泣き疲れたオイラはそのまま深い眠りに落ちたんだな。
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〜長老〜
見つかったという報告と共に運ばれて来た、白いゴブリンを見たのは、夕暮れ時だったのじゃ。
―――白きゴブリンを見たらすぐに燃やすか、跡形もなく潰すこと。そうしなければ魔神に使役されし、腐敗したゴブリンが姿を現すだろう―――
ワシの集落に語り継がれてきた言葉。生まれて数100年。今目の前には白きゴブリン、いや白くなってしまったゼロムがいる。ワシの命でもし、この者が救われるならば、やってみる価値はあるかもしれんのぅ。
そう思いワシは準備を始めたのじゃ。
―――しかし、魔神に使役されないゴブリンがいたという。いや、正確には、白きゴブリンに新しき魔石を埋め組むことにより、英雄と呼ばれる白きゴブリンが誕生したという―――
語り継がれてきた言葉の続き、もしコレが本当ならば、真の英雄がこの集落を救ってくれるじゃろう。
「もう、思い残す事は無いのじゃ」
そして、ワシは胸に腕を押し込み、魔石を掴む。意識が薄れる中で最後の力を振り絞り、魔石をゼロムの......胸に乗せ...r............。
―――――――――――――――――――
〜メロア〜
私は生まれてから、まだ1ヵ月も経っていない。なのに1度死にかけていた。あの時の事は思い出すだけでも、体の震えが止まらなくなってしまう。
でも、そんな時はアイツの側で寝るんだ。そうしたらいつしか震えが止まっている。
私はアイツに感謝しているんだ、それと同時に尊敬をしている。私の命を救ってくれた英雄様。
はあ、そう思ってるのに実際話そうとすると、緊張しちゃって。思ってもないことを口走っちゃう。でもアイツはそれでも私に優しくしてくれる。
「大変だぁぁぁぁぁ!」
大人達が騒がしくなってきた。私は一旦、料理の手を止めて、話を聞きに行こうと思った。
この時、話なんて聞かなければよかった。
「どうかしたんですか?」
「メロアか。た、大変なんだ!ぜ、ぜ、ぜろ!」
「おい、落ち着いて喋ろよ。そんなんじゃ、俺達も分からねぇだろ?」
「あ、ああ。す、すまない。すぅーはぁー、ゼロム様が...。」
「英雄様が?」「ゼロム様がまた人間を殺してくれたのか!?」「おお、宴か?」
「......白いゴブリンになられた。」
「え?」「は?」「何かの聞き間違いか?」
「おいおい、んな冗談笑えねぇっての」
「本当だ!捜索隊のアカシからの情報だ」
皆、なにを慌てているのだろうか?
「あの、白いゴブリンってなんですか?ゼロムに何かあったんですか!?」
「白いゴブリンというのは、魔石が枯れたゴブリンの事だ。」
「えっと...?」
「だから!ゼロム様は、ゼロム様は死んだんだよ!」
……え?英雄様が、死んだ?
胸が苦しくなって、締め付けられる様に痛みが強くなって。呼吸が段々と荒くなっていく。そして最後には私は、意識を失っていた。
―――――――――――――――――――
〜アカシ〜
「今こそ、我等の力を示す時!ゼロムという若造が生まれ、人間を殺した時から我等の野望に支障が生じてしまった!
皆のもの!今こそ、今こそ我等が真の力を集落の奴等に見せつけようぞ!」
「「「「オオォォォォッ!」」」」
「我等こそが最強の種族なり!
人間には負けん、最強の種族なり!
我等こそが真の英雄なり!」
「「「「オオォォォォッ!」」」」
「偽の英雄が死んだ今こそ、我等の野望を進める時だ!
いざ、出陣なり!」
「「「「ウオオォォォッッ!」」」」
俺様が、このアカシ様が、狂熊を殺し、そして真の英雄となってやる!
―――――――――――――――――――
〜ハクモフ〜
気づいた時には異空間の家の中にいた。さっきまでゼロムと一緒に走っていたはずだ。俺は足でまといになってしまったんだろうか。次に会ったときに謝ろう。もっと速く走れるように頑張ろう。
少し寝よう。
……なんだ?異空間全体が震えている。と、思った次の瞬間、異空間が崩壊を始めた。俺は駆け出すしかなかった。足元すらも崩れていくのだから。
あれから、息が切れても走り続けた。いつの間にか、崩壊は止まっていた。空には真っ暗な空間。足元も底が見えない真っ暗な空間が広がっていた。
……寂しい。そう思ったら、身体が暖かい光に包まれた。ゼロムが召喚してくれたんだ!
次の瞬間、目にしたのは奇妙な白いゴブリンだった。
―――――――――――――――――――
切り裂かれる。また切り裂かれる。
目の前には熊の両手が佇んでいる。そしてまた迫ってくる。また切り裂かれた。
痛みがそのまま感じられる、意識を手放そうとしても、痛みが体全体を駆け巡り意識が戻ってくる。また切り裂かれる。
もう何回目だろう、体は動かせない。というか、体の感覚が感じられない。なのに「ザクッ」ほらまた、切り裂かれた。
痛みだけは感じてしまう。ああ、痛い。痛すぎる。また、また、また、切り裂かれる。精神が狂いそうだ。逃げる気にすらなれない。
切り裂かれる、切り裂かれる、切り裂かれる、切り裂かr…………。
『新たな魔石を手に入れました。』
『身体の修復に成功しました。』
『身体の色素修復に失敗しました。』
『スキル、痛覚遮断を手に入れました。』
『スキル、自己再生LvMAXを手に入れました。』
『スキル、危機予測を手に入れました。』
『称号、長老の知恵を受け継ぎし者を手に入れました。』
そして、僕は目を覚ました。
「ゼ、ゼロム様が目を覚ましたよ!」
「え!?」「おお、本当だ!」「奇跡だ!」
騒がしい。いつもの3ゴブ以外にも大人達が集まっているようだ。
「僕はいったい?」
「し、し、死んでたんだよぉぉぉ!」
「は?」
その後、倒れた後からのことを説明された。僕は死んでいたようだ。
そして...。長老の命と引換に生き返った。
「誰か!誰かいないのかああぁぁぁぁ!?」
入口の方から叫び声が聞こえてくる。すぐ後に、こちらへと走って来る足音が聞こえる。
「ハアハア、皆ここにいたのか!
た、大変なんだよ!」
「ん?お前どこに行ってんだよ」「そういえば、アカシもいないな」「さっき外に行くの見たぜ」「で、そんなに焦ってどうしたんだよ」
「あ、ああ。熊が、熊がやってきた」
「「「「「「ハア?」」」」」」
大変なことになった。
・アカシが100のゴブリンを引き連れ、狂熊討伐へ向かった
・熊に出会った瞬間、先頭にいたアカシが弾け飛んだ
・統率者を失ったゴブリン達は、我先にと逃げ出し熊に殺られていった
・なんとか棲家まで帰ってこれたが、熊は直ぐそこまで追ってきている
此処で熊を倒さなければ、どちらにせよ僕達は死ぬことになる。
「うそだろ...?」「アカシの野郎、何勝手なことしてくれてんだ!」「ああ、もう終わりだ」
どんどんムードが悪くなって行く。このままじゃダメだ。
恐い、怖い、嫌だ、行きたくない、逃げ出したい。そんな感情が頭の中に溢れ出してくる。でも、今の状況をどうにか出来るのは僕しかいないんだから...!
「ぼk「お、オイラがい、行くんだな!」が.........は?」
「「「「「お前じゃ無理だ!」」」」」
「で、でも!英雄様は目を覚ましたばかりなんだ!お、オイラが少しでも時間を稼ぐんだ!」
「やっぱり勇気あるな!でも、大丈夫だよ。僕は行ける、大丈夫だよ」
「む、無理しちゃ駄目なんだな!」
ありがとう。でも本当に大丈夫なんだ。
「行ってくる」
僕はそのまま、皆が何かを言っているのを無視して。入口へと向かう。
戦いの前にステータスを確認しておこう。
『名前:ゼロム
種族:ハイホブゴブリン
従者:ハクモフ
レベル:10
HP:15/15
MP:10/10
攻撃力:15
防御力:10
筋力:10
体力:10
敏捷:8
魔攻:7
魔防:3
運:11
・スキル
鑑定眼Lv2
言語理解
全魔法習得(Lv15まで使用不可能)
殴りの心得Lv7
召喚魔法
従者強化
憤怒
痛覚遮断(レベルアップ毎に痛覚を9%遮断する)
自己再生LvMAX(魔石が破壊されない限り、受けた傷全てを瞬時に再生する)
危機予測(魔石への直接ダメージもしくは一瞬でHPを0にする行動に対して、軌道を予測する。回避行動を判断し、行動を促す)
・称号
魔神の加護を受けし者
長老の知恵を受け継ぎし者(長老の魔石を吸収したことにより得た。長老のステータス値と知識を全て、そのまま受け継ぐ)』
あとは、ハクモフを召喚しようかな。
「(召喚:ハクモフ!)」
「うお〜!ゼロムゥゥ!」
「ウゲッ!?」
な、なんだ急にタックルしてくるなんて。てか、コイツ泣いてる...?はぁ、しょうがないなあ
「今から激しい戦いなんだから、少しだけだぞ?」
「おう!」
視線を入口へと向ける。夜の森、木々を薙ぎ倒し、迫ってくる存在。
昼まではアイツが捕食者だった。でも今は違う。僕が捕食者だ。そして
「お前が非食者だ!」
「グラァッ、グオオォォォォッ」
頑張った、僕書き切った!
朝見たらブクマ2件になっていて、嬉しかったです、はい笑
こんな作品を見て下さっている皆さん、本当にありがとうございます!




