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人ならざる者の英雄譚  作者: 白夜@紅羽
10/32

9.虚無感と結果

お読み下さり、ありがとうございます!

「行くぞ!」


目の前には怒り狂った熊。右手にはいつもの石がある。

熊が右腕を大振りに、でも豪速で振るってくる。僕は敢えて重心を左に傾ける。そのまま駆け出す。

その直後、背中を右腕が掠めた。鮮血を上げる僕の背中、掠るだけでコレなんだ、直撃はしてはならない。

そのまま振り向きもせず僕は全力疾走をする。逃げて逃げて逃げまくる。

両刃剣を取りに行く為に。

後ろから最大級の怒号が聞こえてくる。


「グルゥギャアァァァァァ」


森全体が震えている。


―――――――――――――――――――


見つけた。目の前の茂みには両刃剣。

多分今の僕なら、扱えるはずだ。剣の柄を両手で覆うように掴む。足に力を入れ、持ち上げる...。


試しに振ってみるも、何とか振れる。でも剣筋はとてもゆったりとしたものだ。敵に当たる前に、避けられてしまうかもしれない。牽制程度にしか活用が無いかも......。


―――ノシノシ、ガサガサ、ノシノシ


「グゥゥルゥアァァァァ」


……来た!

大丈夫、いける、勝つぞ!あれ?ハクモフどこ行ったんだろ?

なんて、考えたのがいけなかった。


―――ザクッ、ブシャァー


僕は布切れの様に中を舞っていた。熊は身体の前に左腕を添えて、タックルしてきた。

「自己再生」により痛みは引いたが、恐怖だけはずっと僕の体全体に渦巻いている。


「ハァハァ、まだまだぁぁぁ!」


コッチが吼えたのに呼応するように、両腕を左右から挟み込むように、熊が攻撃してきた。屈むようにして、腕の下ギリギリを這うように走る。目前に熊の大きな腹が見えた。筋肉が引き締まった、いい腹筋だ。そして筋肉と筋肉の合間に、縦に剣を突き入れる。流石にコレで失敗をする訳は無かった。

先っぽ、ほんの少し、7cmぐらいだろうか。突き刺さった瞬間......剣が消失した。


―――カランコロン


後方で、剣が地に落ちる音が聞こえる。

熊の足が僕の腕をへし折っているのが、視界の隅に見える。

バウンドしながら後ろに転がる僕が見たのは、振り下ろされた熊の両腕だった。


『危機予測が発動しました。スキル保持者に動く気配が見当たりません。残り0.3秒で被弾します。スキル保持者の感情より生きたいという意志を感じ取りました。被弾まで残り0.06秒。

スキルにより、自動回避行動を発動します…………発動しました。回避に成功しました。』




意識を手放そうとした次の瞬間、僕は熊の後ろに立っていた。訳が分からない、1つ分かるのは、生きているということぐらいだ。

熊の両手は、地面に埋まっている。というか熊は突然消えた僕を探すか、手を抜くか、どちらにしようか。と、戸惑っているように見える。

折れ曲がっていたはずの両腕は「自己再生」により、完全回復している。

この好機を逃すわけには行かない、僕は熊の背中に向けて走り出す。僕の背丈の3倍以上はある背中。でも、蹲るような体制の熊は良い飛台になってくれるだろう。背中に足をかけ、踏み込む。


僕は中を舞っている。後ろには僕を見つけ、怒り狂う熊。着地地点のすぐ近くには、両刃剣が落ちている。

着地した瞬間、手を伸ばし両刃剣を掴みながら後ろを振り向く。そしてまた、駆け出す。熊の首に向かって。

まだ、腕を抜けていない熊の体が迫る。

両刃剣の柄を握り直しながら、縦に構える。走りながら左足に力を入れ、急停止。止め切れない勢いそのままに、剣を水平に打ち出す。

全力スイングを首に直撃させることに成功した。喜びのあまり、ほんの少し力が弱まってしまった、意識が別の方へと逸れてしまった。だから僕は気づけない、抜け出た両の手が握り締め合うように、一塊となって、後ろから迫ってきていたことに。


―――ブオンッ


気づいた時にはもう遅かった。咄嗟に剣から手を離し、バランスを崩した僕に迫る。


『危機予測が発動しました。被弾まで0.1秒。直ぐに自動回避行動を発動します、発動しました。

回避行動を選別します。





選別中






回避行動がありません。

魔石を護る形へと強制的に移行します。

守備行動を発動します。発動しました。被弾まで残り0.0005秒






魔石を守る事に成功しました。

身体に負担を掛け過ぎたために、自己再生に支障をきたす恐れがあります。』



――――グチャアッ



僕は地に横たわっていた。幸いな事に、熊は首に刺さった剣を取ろうとして、意識がこちらに向いていないことだろうか。でも油断したら殺られるだろうな。確実に。

今の僕の現状は酷い有様だ。なんとか命を保てているのは「危機予測」と「自己再生」のお陰だろう。危機予測により、長老の魔石が破損することは無かった。

自己再生により、今体全体が淡い光に包み込まれている。だが、いつもの様に瞬時に回復することはない。傷が大き過ぎるからだろうか?

右腕は肩から先が消えている。肩口に淡い光が灯り、ゆっくりと再生している。

左腕は残っている。しかし、掌だけが存在していない。コチラはすんなり回復できそうだ。

腰から下が、一番酷く、何も残っていない。多分、再生完了まで30秒ほど必要だろう。

というか、どうすれば、どうやって回避したらこんな怪我を負うのだろうか?ふしぎでならない。……お、右腕が完全回復している。




「グギャアアァァァァ!!!!」


首に刺さっていたはずの剣は、半ばからポッキリと折られていた。先っぽの方は、熊に埋め込まれたままだ。

ああ、コッチにゆっくりと、でも大股で近付いてくる。なんでこんなに冷静なんだろうか、僕自身が1番恐ろしい。

本当に絶体絶命のピンチだー。等と考えていたら、熊の目の前に小さな白い物体が躍り出た。ハクモフが急に現れた。僕は咄嗟に「危ない」と、叫ぼうとしたが、ハクモフの方が早かった。




「このデカ物があああ!お前なんかに俺様は捕まえられねぇよ!悔しかったら追いかけて来てみやがれ!

アーハッハッハッハッ!」


熊には多分「キュッキュッ」の連続音しか聞こえていないだろう。でも馬鹿にされているというのは感じ取れたらしく、ハクモフに向けて両腕を突き出す。

ハクモフは難無く避け、逃げ出した。熊も負けじと強烈な連打を浴びせる。






そして僕の身体が回復しても尚、ハクモフと熊の肉弾戦は続いている。熊には僕との闘いの影響が、少なからずあるようで、段々と攻撃にキレが無くなっていっている。

それを見逃さないハクモフは、熊の隙を突き股下を潜り抜ける。

熊は逃がすまいと、慌てて方向転換しようとした時、盛大に転んだ。


―――ドスンッ…………。


熊の横転により生じた衝撃音だけが、夜の森の静けさの中に響いている。


―――――――――――――――――――


最後は凄く呆気ないものだった。

ハクモフはあの後、直ぐに異空間へと戻って行った。

僕は熊に近づいてみるも瀕死に近い状態にあった。放置しても死ぬだろうということが直感的に分かった。それになにより、今の僕にはちゃんとした攻撃手段が残っていない。両刃剣は、半分熊の首の中、半分何処に落ちている。という状態なのだ。


疲れていた僕はそのまま棲家に戻る事にする。


次の日、熊の死体が無くなっているだなんて、予想できる訳が無かった。


―――――――――――――――――――


棲家に帰還した僕は、出迎えに応える気力すらなく、寝床に辿り着く前に意識を失った。

夜、脳内に響く声によって目を覚ました。


『レベルアップしました。』

『レベルアップしました。』

『レベルアップしました。』

『レベルアップしました。』

『レベルアップしました。』

『レベルアップしました。』

『レベルアップしました。』

『スキル、剣の心得Lv2を手に入れました。』

『称号、森の覇者を手に入れました。』


大量のレベルアップコールにより、熊の死を改めて感じ取った。


『従者がレベルアップしました。』


ハクモフもレベルアップしたようだ。


『名前:ゼロム

種族:ハイホブゴブリン

従者:ハクモフ

レベル:17

HP:25/25

MP:20/20

攻撃力:30/30

防御力:18/18

筋力:18/18

体力:10

敏捷:8

魔攻:7

魔防:3

運:11

・スキル

鑑定眼Lv2 言語理解

全魔法習得(使用可能です、使用しますか?Y/N)

殴りの心得Lv7 召喚魔法Lv1 従者強化 憤怒

痛覚遮断Lv2 自己再生LvMAX 危機予測Lv3

剣の心得Lv2(剣を扱うときに、攻撃力に少々補正が係る)

・称号

魔神の加護を受けし者

長老の知恵を受け継ぎし者

森の覇者(各地方に存在する魔の森の主を、1体殺した事により得た。魔の森にいる間、全ステータス値に+3がつく)』

あと少しで森での活動は終わりにします!

森の後は魔人との交流をテーマにしたものを考えています

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