10.ゴブリンと狂熊
狂熊は森の主である。
ゴンドメルラ大陸の東の森。シグルン森の主である。
シグルン森、最強の存在はもう居ない。この手で......ハクモフが倒したのだから。そして死体が残っている。ハズだった...。
「おかしい。死に際は見ていないが、確かに僕にはレベルアップコールが来ていた」
「俺にも来たぞ!」
『名前:ハクモフ
種族:森ウサギ
レベル:6
攻撃:13
防御:17
筋力:14
敏捷:27』
「あれ?強過ぎじゃない?」
「おい、どうしたんだ!おーい!」
気を取り直して、考えようじゃないか。
予測される熊の死体が消えた理由は3つ
・最後の気力を振り絞り何処かへと消えた
・炎猿によって巣へ連れられ喰われた
・何らかの理由で消失した
どの選択肢も否定出来ない。はぁ、全くもってわからない。
因みに炎猿というのは、この森に住む第5の魔獣であり、いつも四六時中身体の一部から火を吹き出す奴等だ。その昔、200年程前だろうか、に炎猿がゴブリン達の棲家を襲い、相討ちになったものの多くのゴブリンを道連れにしたらしい。長老の記憶と知識から抜粋してきた。いい機会だからこの世界について知る範囲で説明しよう。
・ゴンドメルラ大陸や他の大陸によって作られている。大陸と海は7:3らしい。
・その中でもゴンドメルラ大陸には東西南北に魔の森がある。その周辺には人間達の集落が存在している。大陸の中心部には、魔人と人間達の都が存在している。
・他の大陸には獣人や竜人族が住んでいる。
知っている情報はコレくらいだろうか?
魔獣の中でも霊獣と呼ばれる存在は、人間達に崇められている。逆に、ゴブリンロードと言われる、ゴブリンの最終形態やコボルトロード、オーガロードと言われる魔獣達は人間の畏怖の存在になっている。
話を戻そう。此処で消滅してしまったのなら諦めるしかないが、他の二択ならば何か探す手掛かりが残っているはずなのだ。まずはソレを探し出すことにしよう。
―――――――――――――――――――
「あった」
そこは闘った場所から少し離れた所だった。木々が薙ぎ倒されて、大量の血がベッタリ地面を覆っていた。ソレがずっと南の方へと続いている。熊は何処に向かったのだろうか。行ってみよう。
…………疲れた。何時間歩いただろうか。ていうか、魔の森広過ぎるっ!
まだまだ、続いている。
―――ガサガサ、ガサガサ
ふと、右の茂みから音がした。
「ギャオ」
聞こえた瞬間、その場を飛び去り構える。狂熊よりは小さいだろうか?手が茂みから出てくる。いつでも逃げられるように構えて………………え?
「ガウ?」
可愛い熊が、テクテクと歩いてくる。そして目の前で、ペタッと座り込む。
茶色い毛皮を身にまとい、つぶらな黒い瞳を持ち、柔らかそうなプニプニ出来そうな掌があり、丸い耳がペコペコと前後に揺れている可愛い熊が座っている。
「ぎゃああぅ」
足に抱きついてきた......!?あああ!可愛いい痛いぃぃぃ!?
「お、おい!ちょっ、ま、まじ、やめて、痛いからあぁぁぁあ」
「パパ?」
「……え?」
「ぎゅう〜!」
か、可愛い。
この子は守らなければいけない!
「お名前はなんて言うのかな?」
「ないよ?パパがつけてよ!ぎゅう〜!」
「無いのか〜、僕がつけていいのかな?」
「うん!パパが良いの!」
あれ?てか、なんでパパ?
それにコレってなんか、ハクモフみたいな.........。
「パパァ!はやくぅ!」
「あ、ああ」
まあ、いっか。
うーん、多分、狂熊の子供なんだよな...。狂乱っぷりが狂人だったから、この子も多分そうなるんだよな。だったら、キッチーとかか?いやでも似合わないな。うーん。
「まだぁ〜?」
「よ、よし、君はバークだよ!」
「バーク?僕の名前?」
「うん、そうだよ。バーサーカーのバークだよ?」
「バーサーカーってなぁに?」
「な、なんだろうね?アハハハ」
ふぅ、帰りたい。
あ、バークの身体が光を放ち始めた。
『新たな従者を手に入れました。』
『従者強化がレベルアップしました。』
『称号、従者の主を手に入れました。』
「パパァァァァ!変な声が頭に響くよぉぉ?」
「大丈夫だよ」
ハクモフのようにせつめいしましたよ、はい。もうね、バークが理解できるようにね。長かった、疲れたよ。
「バーク?僕がなんでパパなのかな?」
「えっとねぇ、ママの匂いがしたの!
あとね、あとね!ママがね言ってたんだよ!昨日ね、ママがね「ママの匂いが付いてる人がパパなんだよ」って!でもねぇ、ママね、おネンネしてから起きてこなくなっちゃってね、それでね、それでね!僕、お腹空いちゃったから、お家からでてきたんだぁ。そしたらね、パパがいたの!えへへへぇ」
そのままバークは僕に抱きついてくる。あの狂熊は僕が殺してしまった。僕はこの子を育てなければならない。
「(召喚:ハクモフ!)」
「ん?よお、急にどうしたん?」
「ほら、バーク、お兄ちゃんだよ?」
「んにゃ?にーに?ぎゅう〜!」
「お、おい!なんだこいつ!?ゼロム!?」
「新しい従者のバークだ。そして俺の子でハクモフの弟だよ」
「にーに!よろしくね!」
「お、おう!任せとけ!」
「そういえば、ハクモフはどうしてバークと話せるんだ?」
「ああ、さっきな『スキル、言語理解』を手に入れたんだよ」
「ああー!それ僕もあるよぉ?えへへへ」
どういうことだ?意味がわからん。でもまぁ、みんなで話せるようになったしいいのかな?
「よし、帰ろっか!」
「おう」「うん!」
僕達は棲家へ帰ることにした。
―――――――――――――――――――
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!」
「だ、だれかあぁぁぁ」「い、嫌っあああ」
「じ、ジヌぅぅ、だずげでぇ」
声のする方に走って行くとそこは、阿鼻叫喚の状況に陥っていた。炎猿が複数の人間達に対して攻撃している。
ある者は、炎猿の猛攻に耐え。
ある者は、炎猿に攻撃を加え。
ある者は、炎猿に灼かれ。
ある者は、炎猿に貪り喰われ。
そんな地獄絵図のような光景がそんざいしていた。
人間の中に黒い羽根を生やし、煌びやかな服に身を包んだ少女がいる。他の人間達はその少女を護るように戦っている。いや、これは戦いではない、炎猿による一方的な虐殺だ。
僕はこの場から立ち去ろうと、ハクモフ達を胸の中に帰還させた瞬間、僕を爆風が包み込んだ。不意をつかれた。
視界の端に捉えたのは、狂熊並の大きさで、体全体を焔に身を包んだ炎猿だった。
そのまま視界はブラックアウトする。




