63、現実3~そして真実を求めて~
この作品はフィクションです。
なにやら唐突なことを言い出した。まぁ、私としては、常に目の届くところに居てくれた方が安心だから、問題はないのだけど…
「どうしたの?急に。同行するって言っても、結構たくさん歩くわよ?もう歩くのは大丈夫なの?」
「…はい。多分…。足が危ないと思ったら、無理について行ったりはしません。ご迷惑はお掛けしません。だから…、」
「う~ん…。でも、なんで急にそんなこと思ったの?」
「…そのクジラ。」
「これが、どうかした?」
「…ちょっと、形は違うんですが、似てるんです。私の記憶の中の一つ。雑貨屋さんをやっていたっていう記憶の中に、そんなようなクジラが出てくるんです。」
「こんな変なのが?」
また嘘をつく私。知っているくせに。
「はい…。だから、もしかしたら、ここに、何か、手がかりがあるんじゃないか、って…。」
「本当の記憶を見つける手がかり?」
「はい。」
残念だが、ないだろう。あれは、植え付けられた記憶なんだから。私たちのせいで。
「だから、お願いします。どんな小さな手掛かりでもいいから、見つけたいんです。」
真剣そのもの。
それが全て、私の心の痛みになる。
この痛みを消す方法は、あるのだろうか。
あるとすれば、
「…わかった。一緒に行きましょう。」
「!。は、はい!ありがとうございます。」
彼女の望みを叶えてあげること。それくらいしか、今の私には、思いつかない。
「でも、本当、無理はしないでよ。無理してるって感じたら、強引にでも置いてくからね。」
「は、はい。勿論です。」
「よし。」
ぽん、と。
彼女の肩を叩く。
「じゃ、明日から一緒に行きましょう。」
「え?今日は、もう行かないんですか?」
「うん。私が疲れたから。」
「…そ、そうですか。」
「あはは、まぁまぁ、そんなに焦らなくても大丈夫よ。急がば回れ。急いては事を仕損じる。よ。」
「でも…、お姉さん、誰かから逃げてるんじゃ、なかったんでしたっけ…。」
「それはそれ。これはこれよ。」
「はぁ…。」
罪滅ぼしになど、ならないだろう。ただの、自己満足に過ぎないことなど、重々承知。
それでも、やらずにはいられないんだ。
彼女の、真っ直ぐ過ぎる瞳を見ていると。
そう、思ってしまうんだ。
そして物語は、
彼女の記憶の真実をたどる旅へと続く。
「ノミクジラはサイズ不明」終わり
「………っていうね。」
次回に続く。




