32、開店中〜愚痴後輩〜
この作品はフィクションです。
「先輩の召し使いに成り下がった覚えはないんですけどね…。」
開口一番。今日の後輩くんは、いきなりの愚痴スタートだった。
「抽象的な注文だけでも難題だったのに、いきなりシール剥がし液買ってこいって。今日もまた面倒なことを。」
「ちょっと。今日も、ってどういう意味よ。まるで私が、毎日毎日何かしらのトラブルを起こしてるみたいじゃない。私は日々平和に妄想しながら店番してるだけよ。」
「そう言うならいい加減ゴミ箱くらい買ってください。」
「そこ関係ないじゃない。それに、あなたに言われた通り、食べ物のゴミはビニール袋に入れてるわよ?」
「そのビニール袋が散乱しちゃってたら意味がないんですよ。」
ため息の後輩くんがシールを剥がす。今、後輩くんは、レンタル品と書かれたシールを、自分が買ってきたシール剥がし液で、丁寧に剥がしている真っ最中だった。
「思い付きでこういうことしないでくださいね。レンタル制度を導入するなら、それ相応のシステム構築が必要なんですから。」
「そこは信用と信頼でどうとでもなるわよ。」
「本気で言っているなら経営者失格です。」
「私は経営者じゃないわよ。妄想世界の主。」
「はいはい。」
つっこむ気にもならなかったのか、再びシール剥がしを始めた後輩くん。むぅ、なんか寂しいぞ。
「…で?」
「ん?」
「なんでいきなりレンタルをしてみよう、なんて考えたんですか?お客さんがお金を持ってない子供だったとか?」
「違うわよ〜。ったくもぉ、仕方ないわね。ちゃんと説明してあげるわ。本当、しっかりした子だったんだから。」
「…言いたくて仕方がないって顔してますね。」
相変わらず呆れ顔の後輩くんに、私は、今日の店での一部始終を身ぶり手振りを交えながら説明したのだった。
「……………。」
「と、いうことがあったわけよ。いや〜、若いうちからあれだけしっかりと目標を定められるって、すごいわね〜。」
「……………あの。」
「何?」
「率直な感想を述べてもいいですか?」
「いいわよ?」
「…それ、褒められる考え方ですか?」
……………。
……………え?
「え………?」
「…いや、そんなに意外なことは言っていないつもりですが…。」
「いやいや、意外も意外、超意外で…。え、なんで?どこが?」
「いや、どこがって………。先輩の話を要約すると、自分の苦手分野を避けて避けて、たどり着いたのが作家だったから、作家になりたい、って、ことなんですよね?」
「そうよ?」
「…いや、それは…、」




