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サディスティックダンジョン〜洞窟がS?  作者: 知恵梟
奈落の洞窟篇

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1-3『聖騎士シアとの会話』

◇◆◇◇◆◇


 障壁内に侵入していた黒い蟲は、全て燃えて灰となり、ヒビの隙間を埋めて固まった。

 蟲たちを焼き尽くした黄金色の火の粉は、消えずに目の前をユラユラ揺蕩っている。


『外の身体はもう手遅れだなぁ。まぁ、兎にも角にも、こちらはひと段落ね』


 シアの言葉が頭の中に直接響いてくる。言葉だけでなく、彼女が抱いている安堵と怒りのような感情まで感じられる。なんだこれ?


『さて、今のうちに話を聞かせてもらうよ』


 俺は何も知りません。任意聴取ならお断りです。視界の端でキラキラされていると、偏頭痛の前兆のようで吐き気がする。吹き消して良いですか?


『ちょっと待ちなさいよ。助けてあげたのにヒドイわね。私個人はあなたと敵対する気はないから安心してほしいな。ただ、お互い協力できることはあると思う。だから話をしたいだけ』


 助けられてません。無関係な俺が巻き込まれているだけです。荒事は他所でやってくれ。そもそも、姿も見えない声だけのやつに何ができる?

 

『あなたが無関係なわけないでしょ。この場はあなたを中心に動いているわ』


 シアの苛立ちが伝わってくる。

 自分でも子供っぽいと思うような態度で拒絶しているのは、こちらが思うことにシアに伝わっているのを感じるからだろう。

 お互い様なのかもしれないけど、気分は良くない。


『まぁ、今はお互いの境界線が曖昧になってるから、思ったことはだいたい筒抜けね。私は別に構わないけど、感情も不安定になるから、このままだと話しにくいのは確かね』


 火の粉が集まり、人の形を作っていく。アニメで見たことがある、女の子の変身シーンのようだ。しばらくすると、目の前に手のひらサイズのシアが浮かんでいた。


「これで話しやすくなったかしら? 結界で私とあなたを区切ってみたの。簡易なものだから、さっきよりも少しだけ強く思えば伝わるわ。ついでに仮初だけど魔素で人形を作ってみたわ」


 声が頭の奥で響くような感覚がなくなり、音として認識できるようになった。さっきよりは落ち着いて話を聞けるかもしれない。


「私はシア。サクヤ教会所属の聖騎士です。あなたは……エガスィーラ、でしたか?」


 どこかの世界の邪神様みたいな名前だな……エガと呼んでくれればいい。


「では、エガ。あなた、いつから記憶がありますか? 現状は理解できていますか?」


 ……正直、分からない。自宅にいたはずだ。いろいろあって、目が覚めたら、あんたらが争ってたんだ。


「なるほど。では、私の分かる範囲であなたの置かれた状況を説明しましょう」


 コホンと咳払いを一つして、シアが語り始めた。


「あなたは一年ほど前に、魔神復活を目論む邪教の集団に召喚された、異世界の彷徨える魂です!」


 ビシッと俺を指差す。

 彷徨える魂……? つまり、俺は死んでいたのか?


 まぁ、何となくその可能性はあるだろうとは思っていたけど、言葉にされると動揺する。義父と争って階段から落ちたからだろうか? ろくに食べていなかったから、身体も弱っていたし、打ち所が悪かったのかもしれない。


「この世界に召喚された貴方は、邪教の神官ロアと共に十二の村と二つの街を滅ぼして、王国から第一級の討伐対象に認定されました」


 それは、なんとなくだが思い出せる。

 軽く手で払うだけで吹き飛んでいった騎士や兵隊たちの姿が脳裏をよぎる。


「そして、私たち……と言うよりも外にいるオリビアは、強大な魔力の塊であるあなたを手に入れようと、四時間ほど前にここ、邪教徒たちの隠れ家である奈落の洞窟を襲いました」


 俺なんかを手に入れて、何をする気だ?


「今のあなたは無尽蔵とも呼べる魔力の塊で、制御できる災害のような状態です。その力を転用できれば、貧しい小国を世界有数の大国にすることも、個人をほぼ不老不死にすることも、可能かもしれませんね」


 何その夢のエネルギー。いわゆる転生特典なのかな? 自由になればオレツエーがやりたい放題だ。

 

「ロアの目的は、おそらく、あなたにより多くの魂を束ねて、神話に語られる邪神を顕現させること。またはその力で自らが神になること、ね」


 より多くの……何を束ねる?

 気になる言い方をする。詳しく聞いた方が良いだろうかと迷っている間も、シアは淡々と話し続けた。


「私が所属していた聖教会も魂の救済と邪神復活阻止を名目に参戦しましたが、あっさりとあなたに返り討ちにされました」


 意識も記憶もない間のことなんか、責任持てない。俺を討伐に来たなら、討たれる覚悟くらい持っていたはずだろうし、ロアとかいう危険人物を野放しにしていたこの世界が悪い。


「……あなたが今、ロアの支配から解放されているのは、聖女だった妹がその身を代償に、あなたとロアの繋がりを封印しているからです」


封印? 動けないのもそのせいなのか?


「あなたの動きを止めるような大封印なんて、教会総出で儀式をしたとしても、何日かかるやら」


 聖女が封じることができたのは、外部との繋がりだけで、俺の意思で動くことは止められていないらしい。


「今のあなたに肉体はなくて、ほぼ魔力の塊なのよ。普通の人間なら、よほど魔力操作に長けていなければ動かせませんよ」


 ないものを動かそうとしても、動くわけがないのか……。でも、視界は動かせているのだから、何かきっかけがあれば体も動かせる、はず。

 ん? でも、あれ? 脳もないのに、俺の記憶や意思はどこから来てるんだ?


「先ほどのロアが放った黒い蟲たちは、物質はもちろん障壁、封印の基の魔素すら貪る餓鬼の大群。押し寄せてきた時に、封印に僅かな綻びができたのが見えたので、私は肉体を破棄してあなたの魂に合流させてもらいました」


 合流……ってなんだろう。

 いや、それよりも封印されて意思を取り戻せたと言ってたけど、その封印って簡単に壊れてしまうのか? そうだとすると……。


「封印が解かれたら、また、ロアに意思を奪われて、操られ続ける未来が待っているでしょうね」


 あぁ、やっぱり。それは……遠慮したい。

 全滅させたと言う聖騎士隊はともかく、妹さんのことは謝ろう。


「まぁ、彼女を封印の生贄(サクリファイス)に選んだのはオリビアです。オリビアに造られた私たちは、彼女の決定には逆らえませんでした」


 造られた? 逆らえなかったということは、今は違うのか?

 

「普段は人として生活していますが、私たちはもともと小さな迷宮核(ダンジョン・コア)です。オリビアの作った人形(ホムンクルス)に宿らされて、彼女の駒か肉体のストックとして使われる存在です」


 ダンジョン・コア? ホムンクルス?

 聞き慣れない単語や新しい疑問がどんどん増えていくけど、お構いなしにシアは話し続ける。


「聖教会があなたの討伐に動くよう働きかけたのは私と妹。人としての生活はとても楽しかったけど……命令に背くことはできない。境遇はあなたと似ているかしら」


 造られた人形でも意思を持ち、記憶を持てば情も湧くのだと、眉を寄せながら歪な笑顔を見せるシアの言葉には、きっと嘘はないと思う。

 本来であれば、オリビアの肉体が衰えたり傷ついたりした時に、彼女たちの誰かと肉体を入れ替えるそうだ。その際にコアも自我も吸収されてお終い。


「身体は塵にされたけど、存在の消滅は免れたうえに、オリビアとの繋がりが切れたのは僥倖ね。もう、意思に反して命令に従うなんてまっぴらよ」


 封印の隙間に入れたことで、命令に抗うことができる。妹に感謝しなきゃと、彼女は目を瞑って祈った。

 それにしても、身体が塵になってるのに僥倖とは、ポジティブにもほどがある。よほどオリビアから解放されたかったのか。


「障壁の外の様子から、さすがに彼女も私が生きているとは思わないでしょ」


 障壁の外は未だ真っ黒で何も見えない。そもそも、オリビアたちだって生きているのだろうか?


「生きてるわ。だから、バレないうちに彼女を始末してしまいたいの」


 理解が追いついていない部分はまだまだあるけど、ここまで話を聞く限りでは、シアは信用しても良いのかもしれない──。


「さて、ここからは提案と交渉。力を合わせて──」


 シアがくるりと背中を向けてしまったので、表情はよく見えなかったが、おそらく笑っていた。

 

「あの二人に生まれたことを後悔するような責苦を与えてやりましょう! 苦痛に歪む顔と泣き叫ぶ声を飽きるまで堪能して、これまでの悪行に報いを与えなければ! 何より私の気が済まない!」


 あー、性格Sな方はちょっと遠慮したい。

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