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サディスティックダンジョン〜洞窟がS?  作者: 知恵梟
奈落の洞窟篇

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4-7『桜花と徒桜』

◇◆◇◇◆◇


 目を開けても、世界は真っ暗だった。

 いや、見えているはずなのに、理解ができない。認識できない。

 俺はここで何をしているのだろう?


 クカカカと気味の悪い笑い声が聞こえる。

 いや、これは俺が笑っているのだ。


 そうだ。あの時、ロアが黒い煙に包まれて、突然ロアの声が頭に響くようになった。

 そして、シアたちを攻撃してしまった。

 少しずつ意識が遠のいて、まるで白昼夢を見ているようだ。


 シアが俺を睨んでいる。怒っているのかな。それはそうか。シアを、ミアも傷つけてしまっているのだから。

 なんとか動きを止めたいけど、止められない。破壊衝動に、嗜虐心に、この世の全てに対する嫌悪感に抗えない。


 なぜ勝手にこんな世界へ連れてきた。なぜ俺の自由を奪う。なぜ利用しようとする。嫌だ。嫌いだ。ロアも、オリビアも、シアも、ミアも、義父も、母も、父も……王族も、教会も、同志も、神も、みんなみんな……。

 なぜ認めない。力ずくで認めさせてやろう!

 なぜひれ伏さない。引きずり倒してしまえ!

 なぜ否定する。身の程を知るが良い!


 さっきから嫌なことばかり考えてしまう。嫌なものを壊せることが嬉しい?


 口元が歪な笑顔を作る。


 俺を利用しようとした奴らに復讐して、何が悪いんだ? 自業自得だ。奴らに罪悪感なんてない。なら、俺にも必要か?


 これからは、俺が好きなようにさせてもらおう。誰でもいい。まずは、この苛立ちを目の前の人間を甚振って抑えなければ。それで、少しは溜飲も下がるだろう。

 しかし、優しい俺は慈悲を与えてやることも吝かではない。


 だから──


「『さて、両手両足を捥いで飼ってやろうか、供物として我が魂の一部に加わるか、どちらか選ばせてやろう』」


 シアを舐めるような目で見る。


「あなたとなんて、どちらもごめんよ……」


 シアが静かに、歌いはじめた。懐かしく、どこかで聞いたことのある詩を口ずさむ。


「……人身御供(サクリファイス)?」


 ユーリが亡者に抑え込まれた体勢のまま、顔を上げて呟く。


「ロア、あなたを、追放するわ」


 シアの体から溢れた光に照らされて、周りにいた亡者たちが灰のように崩れていく。

 同時にシアの体も煌めく光の粒子となって、俺の体を包み込んできた。


「『何をする!』」


 纏わりつく粒子を振り払う。しかし、触れもしない。痛みもない。少しだけ心地の良い温もりがある。


 止めろ。これは嫌だ! また眠らせる気か?


「『やめろおおぉぉぉぉぉ!!!』」


 大魔霊の咆哮が洞窟全体を震わせて、崩落や地割れを引き起こす。ミアやユーリが瓦礫に埋もれていった。

 俺の視界もだんだんと暗く、見えなくなっていった。


………

……

…


『……エガ、あなた何をしているの?』


 暗闇の中、シアの声が頭に響く。


 あぁ、シアか。

 なんだか、すごく嫌な夢を見ていたみたいだ。でも、まだすごく眠たいんだ。悪いけど、少し寝かせてくれ……。

 

『起きなさい! エガ!」


 シアの声が頭に響く。


『眠れば良いではないか。無理に起きる必要などない。あとで起こしてやろう……』


 力強く優しい誰かの声が、囁く。


 あぁ、ありがとう……。そうさせてもらうよ。


『ダメよ! 起きなさい!』


 シアは相変わらず厳しいなぁ。あとで、ちゃんと起きるって……。

 片目を開けると、目の前に桜花の聖細剣の切先が見えた。


 ……おい、何するんだよ、危ないじゃないか。


『エガ、あなた現状を理解できてる? しっかり目を開けなさい!』


 無茶を言うなよ。瞼がとても重たいんだ。右目なんてピクリとも開かない。


『片目でもいいから! このままじゃロアに全て奪われるわ!』


 渋々と、左目を開ける。


 聖細剣の刃に、俺の姿が反射している。

 俺の顔に、ニヤニヤと不気味に笑うロアの顔が重なっていた。


 う、うわっ!


『ククク、意識が戻ったか。しかし、もう遅いわ』


 ロア? お前、俺の中にいるのか? 出ていけ!


『喚くな。往生際のわるい奴め。ふん。まさかワシ以外にも、自ら魂を食わせていた奴がおったとは……』


 シアの魂? 確かに合流したことある。


『しかも、人身御供(サクリファイス)だと? 聖女の祈願魔法とは。それで自らを保っているのか。おもしろい。しかし、長くは持たんぞ?』


 シア、どこにいる?

 どうしたら良い?

 ……シア?


『ククク、もう意識も消えかかっとるんじゃないか? 小僧にわざわざ別れを告げにきたか……』


 そんな! シア起きてくれ! 俺を起こしにきたんじゃないのか? お前が消えてどうする!


『……うる、さい!』


 目の前に浮いていた聖細剣が、一閃して俺の左腕を斬り落とした。


『グアッ!』

 ──イッッだい!

『我慢しなさい。私も痛いわ。それに、寝てたわけじゃない。硬すぎる鎧を剥がしてたのよ。全ては無理でも、一部なら私でも制御できるわね』


 そこを斬るのよ、とシアの考えが伝わってきた。


『バカな。自ら死ぬ気か? なぜ聖剣が勝手に動く?』

『知っているでしょ。聖剣の迷宮核はまだ生きているのよ。エガをこの体に移す時、どうも、ちょっと、混ざっちゃったみたい』


 混ざっちゃったって、そんなに簡単に混ざるものなの?


『それに、死ぬ気はないわ。桜花の聖細剣は癒しの能力を持っている。エガの魔力と合わせれば……ほら、見なさい』


 斬れてなくなった左腕の先が、モコモコと生えていく。何これ、気持ち悪い。


『……エガ、私はこれから鎧を剥がすことだけに集中するわ。話すことはできない。だから、あなたは……』


 何もするな、か?


『バカなこと言ってないで! ここからは、自分で考えて、答えを見つけて、なんとかしなさい!』


 千尋の谷どころか、奈落に落とされた気分だ。


『グズグズしてたら、また取り込まれるわよ。その時は、きっと私も。だから、ちょっとは格好良いところ見せてみなさい!』


 そう言って、シアは沈黙した。

 なんとか、と言われても、俺は左目しか動かせない……ん?


 左腕が動く。生え変わったからか?


『……貴様ら、正気か?』


 俺は左手を伸ばして、聖細剣を掴む。


 我慢くらべか……。正気じゃ無理だろうな……。でも、やるしかないんだろ?


 俺は左足を刺す。


『グゥ』

 ギァァガぁ、グァううう。


 あまりの激痛に、俺は足から剣を引き抜く。すると、傷口がスーッと消えていった。


 あっ、切り落とさないとダメなやつ?

 やばい、無理だ。これは無理だ。無理だよ。ムリだ──あぁぁアァァァァァァ!


『ぐぁ!』

 ァァァ、イダい、痛い、痛い、痛い!


 左足が斬れてバランスを崩して倒れる。モコモコと足が生えていくのを感じる。


 つ、次は……。次、は?

 次は……もう無理だ。


『……ククク、お主、分かっておるのか?』


 何が、だよ?


『どんなに強力な回復能力を持っていても、その前に、死んだら意味がなかろう?』


 分かってるよ。


『もし、腕や足を斬り落とせても、最後は首か? 落とせるのか?』


 ……あ。無理。シア、これ無理だ。

 首を落とさないと、ロアを切り離せない。


「──エガさん! 無事ですか? ここで何が!」


 ワッツの声がした。そんな、なんでここにいる? 幻覚か?


『供物が自ら現れるとは……』


 な! バカ、やめろ。


『こっちだ、助けてくれ』

「エガさん!」


 ワッツが駆け寄ってくる。

 右腕がワッツの首を掴む。


「か、はッ……エガ、さん?」


 放せお前ぇ!

 右腕を斬り落とす。


『グヌぅ。食事の邪魔をするな!』


 ズダン!っと右足がワッツを蹴り飛ばす。

 ワッツは壁に叩きつけられて倒れた。こちらを見る顔が恐怖で震えている。


「……エガ、さん、じゃない?」


 そうだ、逃げろ!


「……いえ、エガさんですね。あたしは大丈夫です。エガさん、何かあったんですね。あたしに何かお手伝い、できますか?」


 ワッツは、よろよろと立ち上がり、一歩一歩、こちらに向かってくる。


『ククク、なかなかうまそうではないか! この体で初めての食事だ。味わおうではないか』


 黙れ!

 考えろ! 思い出せ! シアはなんて言っていた? 答えを見つけろだ。なんとかする方法はある!


 視界の端で、地面に刺さっている徒桜の聖剣が淡く光った気がした。……あれだ!


 俺は片足でそちらに向かおうとするが、うまくいかず、倒れる。手を伸ばしても届かない。

 右足も斬らないと……。


 そう思っていたら、ワッツが足を引き摺りながら走っていく。


「アレですね! お任せください!」

『させるか! 亡者の行進(デスパレード)!』


 地面が漆黒の沼へと変わり、数多の亡者が這い出てきて、ワッツの足を掴む。


 ──ザンッという音がして、地面の影からミアが現れて、亡者の腕を斬り落とす。


 ミアがワッツを見て、コクンと頷く。

 足止めをする。そう聞こえた、気がした。

 ワッツも頷き、聖剣まで走った。


 地面から聖剣を抜いて、振り返る。しかし、俺との間には無数の亡者の群れがいて、ワッツでは近寄れない。


「……貸しなさい」


 ガラガラと、瓦礫の下からユーリが這い出てくる。両足が潰れて立てないようだ。

 ユーリはワッツから聖剣を受け取ると、横薙ぎに振り抜いた。見えない斬撃が亡者を一閃し、キラキラと灰に変えていく。


「一般の方にお任せするのは心苦しいのですが、届けてくれますか?」


 ワッツに聖剣を託す。


「承りました!」


 ワッツが俺に向かって走り出す。


『今更そんなナマクラで何ができる!』


 ロアも気付いてるだろう。声に焦りがある。

 徒桜の聖剣は使い手の魔力を超える力は斬れない。だから、ユーリに俺とロアを切り離すことはできなかった。


 でも、俺が俺を斬ることはできる。

 自信はなかったが、ロアの焦りを感じることができるなら正しいだろう。


 ワッツが俺に聖剣を差し出す。

 これで終わらせる!


『近寄るな! 憤懣の炎《インディグネィション・ファイア》ぁ!』


 一瞬の静寂が辺りを包んだ……。

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