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サディスティックダンジョン〜洞窟がS?  作者: 知恵梟
奈落の洞窟篇

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3-6『嵐の前の静けさ』

◇◆◇◇◆◇


 洞窟の地面にワッツの鞄から取り出した敷物を敷いて、対面に座りながら、俺はこの世界に来てからのことを、できる限りワッツに打ち明けた。

 なぜか、オリビアやシア、ミアの名前が出るたびに、俺との関係を詳しく聞かれたが、同じ内容を三回ほど説明して、やっと納得してくれた。そもそも詳しく説明できるほど知らないのだけど。


「すまない」

「え? なにがですか?」


 ひと通り聞いて落ち着いてくれたワッツに、改めて謝罪する。


「騙して巻き込んでしまったこと。それと、蟻に襲われる原因となったこと。ワッツの故郷を滅ぼしてしまったこと……とにかく全て──」

「あたしの故郷は邪教の奴らに滅ぼされたんです。エガさんではありません!」


 ワッツは語気を強めて否定した。


「意識もなく操られていただけなのですから、エガさんを恨むことはありません。恨むならやはり邪教の奴らです」


 ワッツは自分の言葉に頷きながら、にこりと笑って話し続けた。


「蟻だってそうです。この世界で行商なんてしているんですから、自己防衛だって自己責任。護衛もつけずに出歩いていたあたしの責任です」

「いやしかし──」


「それに、蟻に捕まっていたあたしを助け出してくれたじゃないですか。普通は見捨てますよ?」


 ワッツはくるりと後ろ向きになったかと思うと、ポスッと俺の膝に乗って、背中を預けてもたれかかってきた。


「もうダメだと思っていたのに、気がついたらエガさんの顔があって、あたしの胸はその時からドキドキしっぱなしです」


 表情は見えないが、ワッツの耳が赤くなっている。


「あと、エガさんが何かを隠していたのは知っていましたし、言うほど騙されてはいないです。エガさん、顔に出ますから、行商人には向いていませんね」


 クスクスと笑ってから、こちらに振り向き、満面の笑みで俺を見上げる。


「あの、ノムって聖騎士に襲われた時も。あたしはエガさんから受けた恩を返せたと思っていたんです。でも、やっぱり怖くて……」

「すまな──」


 ワッツが謝ろうとする俺の口を人差し指で止める。


「だから、エガさんが戻ってきてくれて、あたしをまた助けてくれたとき、決めたんです。もう、これから何があっても、あたしは勝手にエガさんの味方です」


 ワッツが俺の肩に頭を寄せて目を瞑る。


「ワッツ……」

「──ウォホン!」

 

 シアがわざとらしい咳払いをする。

 俺とワッツは驚き、ビクッと体を震わせて、飛び上がるように離れる。


「悪いわね。続きはまた今度にしてちょうだい」


 腕を組みながら、後ろに掠奪蟻を引き連れている。


「シア、その蟻はどうしたんだ?」

「前に言ったでしょ? 奴隷狩りして労働力を手に入れたのよ。何匹かは街の近くにも潜ませていたの。役に立ったでしょ?」


 たしかに街から逃げ出す時もお世話になりましたが……。


「現状をまとめておきましょう。時間はそれほど残ってないと思うわ。あなたも、手を貸してくれるのよね?」


 ワッツは力強く頷く。


「ここを攻めてくる可能性のある敵は三勢力。一つ目はオリビアとその人形たち。二つ目はロアと邪教。ただし、ロアは生死不明。そして三つ目はノムと聖騎士よ」

「聖騎士? もう戦力は残ってないんじゃなかった?」


 あの街に残っているのは、ノムと数名だけのはずじゃなかったか


「タカヤの街に新たな聖騎士隊が向かっているわ。おそらく聖教会本部から派遣されているみたい」


 シアは掠奪蟻を方々の街道にも潜ませて、通行人の情報を探っているそうだ。

 知らない間に、シアの能力が飛躍していることに驚く。他にも何か新しいことができるようになってそうだな。


「この聖騎士たちの目的は不明だけど、どちらにしても、ノムに操られてエガを狙ってくるでしょうね」


 背中がゾクっと震える。捕まったら何をされるんだろう。


「そして、オリビアはその機会を必ず利用してくるはず。どんな奴らを連れてくるかは知らないけど、おそらく聖騎士に対応している隙をついてくるわ」


 どいつもこいつも、嫌なことばかり仕掛けてくるな。事前連絡無しの訪問とか迷惑この上ない。


「……オリビアの連れてきそうなやつで、シアの仲間になってくれそうな奴はいないのか?」

「……いないわ。私の知る迷宮核(ダンジョン・コア)は私を含めて五体だけ」


 自分たち以降の人形については、その素性まで知らされていないらしい。


「一番目は、かなり昔に邪教へ侵入させたら壊れたと言って怒っていたわ。二番目は……この前来た時のオリビアの体よ。コリーも、もういない。残りは私とミアだけよ」


 寂しげな表情を見せるシアだが、でも今、サラッと大事なこと言わなかった?

 『一番目は邪教へ侵入』させていた?

 意外なところでオリビアと邪教は繋がりがあったんだな。ノムがオリビアのことを知っていたのは、そこも関係してる? まあ、今は関係ないか。


 それより、あの巫女はオリビアの作った人形だった方が重要か。腹に穴が空いてたのに、ピンピンしていたのは、作り物の体だったからなのか?


「なあ、シア。あの巫女姿のオリビアは、どう見ても致命傷なのに動いていたけど、倒すことはできるのか?」


 シアは少しだけ考える素振りを見せた。


「彼女は体のどこかに、核となる自分を持っているはず。それを別の人形の迷宮核に寄生させて、乗っ取ってるんだと思う。それを壊せれば……」


 なるほど。前回、ミアにオリビアの首を持って逃げられた時、そこに核があると思って追いかけたわけか。

 つまり、あの時点でオリビアは、大魔霊の体にシアの記憶があることを確信していたのだろう。さすが魔女。騙し合いでは敵わないなと、ついつい感心してしまう。


「ただ、オリビアの人形たちは国内にバラバラに散らばってるはず。距離や時間を考えると、間に合うのは、おそらく一体か二体。それまでにこちらも準備しましょう」

「具体的には?」


 シアは蟻たちに向き直り、何かを指示した。蟻たちは何も言わずにどこかへ向かっていく。


「今はまだ、ここに迷宮を作るわけにはいかない。だから、蟻たちに洞窟の形を作り変えさせて、迎え撃つわ。あと、落とし穴ね」


 そういえば以前に話していたな。迷宮を機能させるのには時間がかかるから、迷宮の管理者として俺を雇いたいと。


「あと、少し試したいことがあるから、エガはちょっと手伝って欲しい」


 シアにしては珍しい言い方をする。


「あたしにも、何か手伝えることはありますか?」


 ワッツが手を挙げて主張してくる。本当なら避難させた方が良いのだろう。安全な場所で待機していて欲しい気持ちもある。しかし、目の届かないところでノムに襲われないとも限らない……。


「あるわよ。やり手の行商人であるあなたには、簡単なことよ」


 シアがニヤリと笑っている。それを見たワッツは少し後退りした。

 何をさせる気だろう。


「ちょっとお金貸してくれない?」

 

 よりにもよってカツアゲか?


◇◆◇


 タカヤの街の教会に残っていた聖騎士は三人。一人は見習いで、二人は老齢だ。そこに五十人の聖騎士が新たに派遣されてきた。

 ホセリエル司教は彼らの前に立ち、大きく息を吐いた。

 隣のノムは壮観な聖騎士たちの整列を見て満面の笑みを浮かべている。憧れだろうか?


 立ち並ぶ聖騎士たちの前に、一人の女性が進み出た。彼女がこの聖騎士たちの代表だろうか。ブロンドの美しい髪を、後頭部の高い位置で一つに結んで垂らしている。


「ホリエル大司教の導きにより馳せ参じました。此度の聖伐隊の主翼を担うユーリ・ジャンヌ・フープーと申します。これより聖騎士隊五十名がホセリエル司教の指揮下に入ります」


 ユーリと名乗るその聖騎士は、腰に刺していた聖剣を抜き、持ち手をホセリエルに向けて膝をつく。

 ホセリエルが聖剣を受け取り、ユーリの肩に刃を軽く当てる。


「この戦いに於いて、この刃が汝らの体に触れる最後の刃とならん。桜花の導きがあらんことを」


 ホセリエルがユーリに聖剣を返す。


「この聖剣にかけて、解放と自由を……」


 ホセリエルの隣でその様子を見ていたノムは、落胆を露わにしていた。


「なんだ。どれだけ凄い聖剣が来るのか期待してたのになぁ……」


 ホセリエルの耳にノムの小さな独り言が届いた。


「これ、ノムくん。今は儀式中なのだから、慎みなさい」

「あー、もういいから。あとは僕がやっときますから、ホセリエル様は部屋でお茶でも飲んでゆっくりしててください」


 ノムに肩をポンポンと叩かれて、ホセリエルはホッとする。やはり自分には争い事は向いていないようだ。始まる前からこのように緊張し切っていては、皆の足を引っ張るだろう。


「そうだな。ノムくんの言うとおりかもなぁ」


「あー、みなさん。ホセリエル様はご高齢のため、これからは僕が指揮を取ります」


 後ろでノムくんが聖騎士に向けて堂々と話し始める。なんと立派に成長したものかと、親心のような温かい気持ちで聞きながら、そのまま自分の部屋に向かうことにした。

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