3話 友達として仲良くしよう2〜ママに相談してみた〜
恋話もできる仲良し母娘。真冬も母親とはそんな関係になれそうなくらい仲がいい。
恋話ではない――はずだけど完全に違うとも言いきれない悩みができてしまった。初恋の人に再会したら女の子だった、という珍しい悩みが。
「高校で仲良くなった子、『湊ちゃん』だったの?」
真冬ママも『湊ちゃん』は知っている。幼かった真冬が、いっしょに遊んだことを楽しそうに話していたのだ。虫をとったり、木登りをしたりしたそうだ。真冬はいわゆる『女の子らしい』子だ。そのような遊びに付き合うというのはもしかして――と微笑ましく見ていた。
「よかったじゃない。真冬、湊ちゃん大好きだったでしょ」
「よかったけど、好きだけど、そうじゃなくて」
真冬は昨日起きたことを説明した。起きたことといっても、自分が盛大に勘違いをしていたことがわかっただけなのだけど。
「湊ちゃん、女の子だったのねえ。元気いっぱいだったし、ママも男の子だと思ってたわ」
さて、ようやく本題に入る。湊ちゃんだと知らなかったとき、水津さんと女の子同士として仲良くできそうだった。それが湊ちゃんだったとしても、女の子同士の友達として仲良くしたい。
「でも、なんだか意識しちゃってできないの」
顔を赤らめ、うつむく真冬。我が娘ながら可愛いなあ、と思う真冬ママ。さて、その可愛い娘の相談に乗らねば。
「真冬は何を意識しちゃってるのかな?」
「ええと、湊ちゃんは女の子で、でも湊ちゃんで、私が好きな湊ちゃんは男の子だと思ってた湊ちゃんで……」
「湊ちゃん、今も素敵?」
「うん!!」
「いいじゃない。女の子同士もありかもよ」
「そうじゃなくて!」
頬をふくらませる真冬に、真冬ママは「ごめんごめん」と謝る。
「真冬は、だーい好きな湊ちゃんと再会しました。そうしたら女の子でびっくりしました」
「うん」
「それが昨日でしょ。いきなり自然に女友達、なんて難しいよ」
それで悩んでるの、と言いたそうな真冬。
「女の子男の子とか考えないで、『水津湊ちゃん』と向き合ってみたら?」
今日の真冬は、湊ちゃんは女の子、女友達、と自分に言い聞かせていた。それでも、昔の思い出やら想いやらが込み上げてきて空回りしていた。
今の湊ちゃんと、きちんと向き合えていなかったのかもしれない。
「うん、明日からはそうしてみる」
真冬が母親に悩み相談をしていたころ、湊も今日のことを思い返していた。
お昼休みのお弁当仲間たちの質問責めにより、真冬にどう思われていたか、だいたいわかった。
高校で出会った雪真冬は、落ち着いた美人という印象だった。でも、小さいころの友達だとわかってからの真冬は、動揺しまくりで余裕がない。
朝の挨拶から意識しまくりだし、質問責めのときは顔を赤くして、なんだか落ち着かないし。
「あれはかわいいなあ。恋する女の子って感じ」
その相手が、性別を勘違いされていた自分だとは。クラスの男子を敵に回していないだろうか。
小さいころの印象に近いのは、昨日今日の余裕がない真冬だ。小さいころは普通に遊んでいただけで、顔を赤らめたりしていたわけではないけれど。
いや、似たような表情を一度だけ見た記憶がある。
「みなとちゃん、あのね……」
何かを打ち明けられた気がする。なんと言われたのだったか。愛の告白ではなかったと思う。……まあ、そのうち思い出すだろう。
それより、明日の真冬は少しは落ち着いているといいな。
「湊ちゃん、おはよう」
翌朝、真冬は普通に挨拶できた。ほんの少し考え方を変えただけなのに、思いのほか効果があった。
「おはよう、真冬。今日は緊張してないね」
「うん、ちょっと落ち着いたかな」
昨日とは違う意味で、照れくさそうに笑う真冬。
いろいろ鈍そうな湊にもわかるくらいには、昨日と違っていた。
「ちょっと落ち着いた真冬も、かわいいよ」
「湊ちゃん、そういうところだよ」
湊の本気なのか冗談なのかわからない台詞にも対応できている。でも、これでめでたしめでたし、とはならない。
「真冬ちゃん、急にどうしたの?」
「昨日と全然ちがう!」
何度も言うが、二人の仲はクラスメイトにも知られている。昨日の昼休みの質問責めだってそうだ。湊はともかく、真冬の落ち着きぶりにはみな驚いている。昨日、一昨日はいっぱいいっぱいだったのに。
「時間がたったから落ち着いただけ」
「いっぱいいっぱいな真冬ちゃん、かわいかったのに」
湊とのことがあるまで、真冬は少し近寄りがたいところがあった。美人で落ち着いていて、本当に同い年の子なのかと。
驚いたり赤くなったりしているのを見て、親近感がわいたクラスメイトも多かったようだ。お弁当仲間以外も話に加わっている。
「真冬は今日もかわいいよ?」
「水津さん、そういうとこ!」
一斉にツッコミが入る。湊はわかっていないようだ。
「どういうとこ?」
「真冬ちゃんが、クラクラきちゃうんだよ」
「もはや口説いてるね」
「口説いてないよ。女子同士でかわいいとか、普通にいうでしょ?」
女子同士、相手を褒め合うのは普通だ。ファッション、メイク、持ち物……その褒め言葉に、“かわいい“が使われることも普通だが。
「初恋奪った相手だよ! 真冬ちゃんの心臓がもたないよ」
昨日、一昨日の真冬の動揺ぶりはまだ記憶に新しい。真冬本人よりもまわりが気を使っている。
真冬の急な変化が受け入れられないのか、恋愛脳になっているのか、わかっていて面白そうな方向にのっているのか。
「みんな、大げさだよ。私は大丈夫だから」
「真冬ちゃん、無理しないでいいんだよ?」
一人が言うと、「うんうん」と周りの女子も同意する。
真冬は、湊への気持ちとか、勘違いとか、いろいろ知られてしまったことは気にしていなかった。でも、自分の中の気持ちを整理しただけでは、だめそうな気がしてきた。周りが盛り上がってしまっている。せめて、情報はアップデートして欲しい。
「でも、かわいいって言われてどう?」
「それは、嬉しいけど……」
「「ほらやっぱり!!」」
嬉しいけど、昨日や一昨日みたいにどうしようもなくなっているわけではない。多分。
それを察したのかどうかはわからないけれど、湊が言った。
「嬉しいなら問題ないじゃん」
察して助け船を出したわけではなかった。火に油を注いでしまうような発言だった。
盛り上がる周囲と、わかっていない湊を見ながら、湊ちゃんは結構天然なんだ、と思う真冬だった。
これは、湊を『水津湊ちゃん』として、見られるようになってきたのかもしれない。
担任の先生の到着で、真冬と湊の周辺にできていた集まりは解散になった。
授業中、前の席の湊の背中を見ながら、真冬は考える。
(少し考え方を変えただけで、こんなに変わるんだ)
湊が女の子だったことについて、完全に吹っ切れたわけではない。でも、前進できた。
(湊ちゃん、天然なんだなあ。かわいい)
湊ちゃんは、優しくて、一緒にいると楽しくて……かわいい。思い出の『湊ちゃん』以外の面も、見られるようになってきた。
真冬の心の整理は順調だ。
(あとは、みんなが落ち着いてくれればいいんだけど)
もとはといえば、真冬がリアクション大きめに反応してしまったせいなのだが。過去は変えられないので、先をなんとかするしかない。
心の整理ができてきた真冬の前の席で、湊は過去のことを考えていた。
(真冬に何か打ち明けられた覚えがあるんだけど、なんだったっけ)
昨夜思い出したことだ。真冬が今日になって、ずいぶん落ち着いた。そのおかげで、ちょっとした日かかりが気になってきたのだ。
(真冬に聞いたら何かわかるかも)
でも、みんなのいるところだと何か言われそうだ。真冬と二人きりになったら、聞いてみよう。
湊はそう決めたものの、その機会がやって来るまでには、少し間が空いてしまうのだった。




