2話 友達として仲良くしよう1〜お昼休みの質問責め〜
幼いころの大切な思い出。淡い初恋。
そんな相手と再会したら、同性だった。今の時代、女同士もありかもしれない。でも、異性として想っていた真冬には、そういうわけにもいかない。
「湊ちゃんは実は女の子で、水津さんで。水津さんが湊ちゃんで……」
水津さんは、女の子の友達として仲良くできそうだと思った。湊ちゃんと似ているとは感じていたけれど、まさか本人だったなんて。
真冬はこの事実をどう受け止めたらいいのかわからない。その日は感情を処理するので精いっぱいで、授業も休み時間も下校時も上の空だった。
混乱していようが朝はくる。そして登校時間もやってくる。
「湊ちゃんは女の子……。なら友達として仲良くなろう!」
真冬は決心した。上手くやれるかはわからないけれど、学校に行けば湊と顔をあわせるのだ。湊ちゃん=水津さん、と気がつくまでは女子同士として仲良くしていた。それでいけばいい。
湊は今日学校であったことを思い返す。幼いころ遊んだ友達の「まふゆ」が高校で出会った雪真冬だった。男の子だと思われていたらしい。仕方ないか、あのころはどう見ても男の子だった。見た目も言動も。
だけど初恋の人になってたなんて思いもしなかった。
幼いころの真冬もとても可愛らしかった。長くて綺麗な髪に白い肌。お人形のようだった。外遊びなんかやらなそうな見た目なのに虫取りも木登りもいっしょにやった。
いかにも女の子らしい雰囲気なのに、男の子が好む遊びを楽しそうにやっていた。それが意外で『かわいくて女の子らしいのに意外』とかなんとか言った気がする。
真冬は、衝撃の事実が発覚した翌日、湊と顔をあわせた。に今までどおりの挨拶をしたーーつもりだった。
「す、水津さん、オハヨウ!」
全然今までどおりじゃない。どう見ても、不自然だ。意識していることが、まるわかりだ。
「おはよー、真冬。昔みたいに、湊でいいよ」
対する湊は昨日までと変わらない。湊にとっても驚くことはあったはずだが、衝撃のレベルが違うのだろうか。
「オハヨウ湊ちゃん!!」
これもなんだか不自然な言い方になった。女子同士として仲良く、昨日まではできていたことなのに、難易度がはね上がってしまった。
「真冬、昨日のこと気にしてる? リラックスリラックス~」
「大丈夫! 気にしてないよ! リラックスしてるよ!!」
意識しまくっている真冬に対して、湊はときどきツッコミを入れながら自然に接していた。
二人のことは、クラスメイトにも知れ渡っていた。そんなわけで、今日はクラスメイトの何人かが、チラチラと二人を見ている。
真冬のことをいいなと思っていた男子だったり、噂好きの女子だったりする。二人と仲良くしている他の子だって、この話が気になっている。
お昼の時間、いつもどおりに集まったときに当然のように二人の馴れ初め(?)の話になった。
「小さいころ、夏になるとおじいちゃんおばあちゃんの家に行ってたんだ。その近くに真冬の家があったの」
「山奥で、他に年の近い子いなかったから、二人で遊ぶようになって」
二人は、昔を思い出しながら説明していく。真冬は動揺していても話すのは嫌ではなさそうだ。話すことで気持ちを整理したいのかもしれない。
「もしかして、一目惚れとか?」
お弁当仲間の一人が目をキラキラさせて聞いてくる。それに対して、真冬は照れているのか、顔を少し赤くしながら答えた。
「いっしょに遊べるお友達ができて嬉しかっただけだよ。最初は……」
「最初は……」を聞いて、お弁当仲間たちは盛り上がる。
「水津さんはどう思ってたの?」
「真冬が、虫取りや木登りに付き合ってくれるとは思わなかったよ。お人形さんみたいだったし、おままごととか、そういうのが好きそうだなって」
湊の答えは、どこかずれていた。みんなが聞きたいのは、そういうことではない。恋とか初恋とか、淡い思いとか、そういう方面の話だ。
「あたしは、女同士と思って遊んでたしなあ」
「だから昨日のことは驚いたよ」、と続けて言った。動揺しまくりの真冬に比べると、かなり軽く見える。湊の反応はみんなの期待に沿わなかったため、話題は自然と真冬の方へ向かった。
「友達から初恋かあ。いいね、かわいい」
「どんなところにキュンとしたの?」
質問が集中してテンパる真冬だが、律儀に答えようとする。湊のどこを好きになったかなんて、思い出そうとしなくても、しっかり覚えている。
「元気いっぱいだけど、乱暴じゃなくて。遊んでて楽しかったし、優しかった。転んだときに、絆創膏貼ってくれて……。あと『真冬はかわいい』って言ってくれた。手をつないだとき、ドキドキした」
「それで好きになっちゃったんだ。雪さん、かわいい」
「仲良しの男子にそれやられたら、私も好きになるかも」
「あたし女だよ」
真冬の答えを聞いて盛り上がるお弁当仲間たちに訂正をいれる湊。その一言がきっかけで、みんなが湊を見る。
「男の子みたいな自覚あったのに、それ考えなかったの、水津さんは」
「考えなかったよ、こどもだったし。あと、みんなも湊でいいよ」
湊としては男の子みたいな言動をしていたけれど、女同士だと思って接していた。優しいと真冬は言ったけど、怪我した子に手当てするのは普通だろう。かわいいと言ったのも、素直に感じたことを言葉にしただけだ。
「水津さ……湊ちゃん、罪な人だ」
周りはウンウンとうなずいている。だが湊は、なんで? という顔をしている。
「怪我した友達に手当てするの普通じゃない? ホコリ払って、絆創膏貼っただけだよ」
やっぱりわかっていない。その様子を見て真冬以外の子たちがムキになってきた。
「小学生男子なんて好きな子にいじわるしちゃうもんだよ」
「好きなら優しくすればいいじゃん」
正論である。だが、みんながそうできるわけではない。むしろ少数派ではないか。
「女の子にかわいいって言えるのも貴重」
「だって真冬、かわいいし」
「ほら! そういうの」
女子複数による湊への女心&幼い少年の説明は、あまり上手くいかなかったようだ。逆に説明していた側が何かを察している。
「これが真冬ちゃんに刺さったんだね……」
わかった、という雰囲気の女子たち。
「刺さった? 何が?」
まったく、わかっていない湊。
「……」
顔を真っ赤にしてうつむく真冬。
こんな調子でおしゃべりしていたら、昼休みはあっという間に終わってしまった。
真冬の目標「湊ちゃんと女の子同士として仲良くする」一日目。やっぱり難しかった。
真冬自身のこともあるが、周囲にも知られている。いろいろ聞かれて話すのは嫌ではなかったのだけど、湊ちゃんの(男の子だと思っていたころの)良さを再認識したら、意識するどころではなかった。
湊がまったく気にしていなそうなのが救いだが。
真冬は帰り道、ガラガラの電車の中で、顔に手を当ててみる。
「手、冷たくて気持ちいいなあ」
一日熱かった顔を自分の手で、冷やしてみたのだった。
熱さが引いたところで「明日からまたがんばろう!」と気合いを入れ直す。
無策では今日の二の舞になるだけだ。何か考えねば。少し考えたあと、真冬は言った。
「ママに相談してみよう」




