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雪女ですが、初恋の人に再会したら女の子でした  作者: 卯月つぎ


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1話 再会といくつかの衝撃

「水津さんが湊ちゃん?」

 色白で艶やかな黒髪の少女が言った。

「うん。雪さんが真冬だったんだね。やっぱ美人になってる」

 ショートヘアで活発そうな少女がそう返事をした。

 二人は思いがけない再会をしたばかりだった。だが真冬には喜びより大きな衝撃があった。


「湊ちゃん……女の子だったんだ……」

「もしかして男だと思ってた? 昔は『オレ』って言ったり男みたいな格好してたっけ」

 数年振りに再会した知り合いは女の子だった。ずっと男の子だと思ってたのに。


「思ってたよ! なんなら初恋の人だったよ」

 なかなかの衝撃発言である。この会話をしたのは二人の所属する一年二組の教室であり、クラスメイトも普通にいるときの出来事であった。


 ◆◆◆


  春先、新たな環境で友人を作ろうとする学生たち。まずは席の近い人に声をかける。どこの学校でも見られる光景だろう。

 郊外のとある高校の一年二組でも、同様の光景が見られた。


「あたし水津湊すいづ みなと、よろしくね!」

 湊は後ろの席の女子に声をかける。色白でかなりの美人だった。なんだか見たことある気がする。どこかのアイドルにでも似ているのだろうか。


「私は雪真冬すずき まふゆ、よろしく」

 前の席の女子に声をかけられ、真冬は返事をする。湊――覚えのある名前だ。しかし真冬が知っている湊は男の子だ。男女どちらでもある名前だし偶然だろう。高校で『湊ちゃん』と再会できたなら、嬉しかったのだけれど。


 こうして真冬と湊はいっしょに行動するようになった。タイプの違う二人だったが意外と気が合うようで、入学直後のとりあえずつるむ相手で終わることはなさそうだ。


 二人はお互いだけが友人というわけではない。他のクラスメイトとも仲良くしている。まだ最初なので、今後はわからないけど。


「雪さんのお弁当、おいしそー」

「パンも美味しそうだね。今度買ってみようかな」


 真冬と湊、その他数人の女子で集まってのお昼ごはん。何故か女子は集まって、みんなでいっせいに食べはじめる。この女子たちもその例にもれなかった。


「それってもしかして手作り?」

「うん、朝早くて大変。でもお料理好きだから」

「うわーえらーい。料理、家庭科でしかやらないや」


 見た目が清楚系の真冬はイメージに違わず家庭的なようだ。褒めている湊はそもそも料理に興味がないらしい。二人とも、見た目どおりの性格をしているようだった。


 時間がたって放課後になり、真冬は授業が終わると帰路についた。家が遠いので部活をする気はない。


「雪さんひとり?いっしょに帰ろ」


 湊ではなく、いっしょにお昼を食べていたうちの一人だ。湊や他の子たちは、部活見学にいくと言っていた。


「雪さん色白だよね、いいなあ。『すずき』より『ゆき』って感じ」

「ありがとう。それで雪女なんて言われたこともあったなあ」

「雪女って美人の妖怪とかでしょ。褒めてるじゃん」


 なんて他愛ない会話をしていると駅に着いた。彼女の家は反対方向だということなので、ここでお別れになった。 

 真冬は一人、二両編成のスカスカの電車に乗り込んだ。


 一方、湊はバレー部の見学に来ていた。中学でやっていたので高校でも、と思ったが、他の競技もいいかもしれない。体を動かすこと全般が好きなのだ。他の運動部も、のぞいて見ようか。

 見学していると、同じクラスの女子がいたので軽く話しかけた。その子は雪真冬と同じ中学だったそうで、自然と真冬の話になった。


「雪さん、美人でしょ。モテモテでいろんな人に告られまくって」

「だろうねー」

「告った中にはイケメン男子もいたのに振られてて」

「もったいない」

「本命がいるんだろうって噂になったけど誰だかわかんなかったんだよね」


 友人の噂話、悪口ではないけど湊は少しモヤモヤした。幼いころに比べると女子らしくはなってきているけど、女子にありがちな性質は、少し苦手なところがある。そのせいか少し相槌が適当になっている。


「振られた男子や僻んだ女子が雪女って言ってたなあ」


 雪女っていうのは人間を氷漬けにしたりする妖怪だっけ。でも美人のイメージがある。悪口としては微妙だなあ。振られて心が凍りついたのだろうか。

 この会話から「雪女」ということばがなんだかひっかかりはじめた。妖怪が出てくるようなゲームや漫画に、特別興味はないのだけど。まあ気にしても仕方がないと部活見学を続けた湊だった。


 一人電車に乗って窓の外を眺める真冬。

 水津さん、湊ちゃんに似てるなあ。名前が同じなだけじゃない、顔立ちとか雰囲気とか。きょうだいかも、と思うくらいには似ている。でもきょうだいなら同じ名前ってことはないよね。親戚ならあり得るかな。明日、聞いてみようかな。

 真冬の冷たい指先に少し力が入った。


 部活見学を終えて帰路についた湊。

 何部に入ろう。やっぱりバレーかな。でもダンス部とかも楽しそう。そういえば、雪さんは部活やらないのかな。料理部とか、良さそう。

 初めて声かけたときも思ったけど、雪さん誰かに似てる気がするんだよね。あだ名は雪女だっけ。それも何かひっかかるんだよなあ。


「まふゆー、これ見て!」

「すごい! クワガタだ」

「まふゆは虫、へいきなんだ」

「うん。このへん、いっぱいいるもん」

「かわいくて女の子らしいのに、意外だなー」


 真冬が湊ちゃんと遊んだのは夏だった。同世代が少ないところで育った貴重な友達、そして……。


 翌日、真冬は昨日思いついたことを湊に聞いてみることにした。勘違いだったら少し恥ずかしいけれど、話題のひとつにはなるだろう。


「ねえ、水津さんって同い年で同じ名前の男の子の親戚、いたりする?」

「え? いないけど。どうして?」


 勘違いだった。話題のひとつになってしまった。

 真冬は昔遊んだ『湊ちゃん』について話した。幼いころに遊んだ友達であったこと。近所の老夫婦の孫で、夏休みの間だけ会えたこと。


「雰囲気似てるから親戚かなって思って」


 照れのせいか、真冬の顔がいくらか赤い。

 湊は少し考えてからこう言った。


「それ、あたしだ」


 ◆◆◆


「水津さんが湊ちゃん?」

 真冬が言った。

「うん。雪さんが真冬だったんだね。やっぱ美人になってる」

 湊がそう返事をした。


「湊ちゃん……女の子だったんだ……」

「もしかして男だと思ってた? 昔は『オレ』って言ったり男みたいな格好してたっけ」


 湊ちゃんだったら嬉しいと思っていた水津さんは、やはり湊ちゃんだった。実は女の子だったけれど。


「思ってたよ! なんなら初恋の人だったよ」


 衝撃のあまり、周りにも聞こえる声量で言ってしまう真冬。

 それを聞いた湊とクラスメイトたちも驚いた。


「え? あたしそんなにカッコよかった?」

「うん!!」


 力強くうなずく真冬。


「雪さん、女の子が好きなの?」

「そういう話じゃなくない?」


 誤解したり、しなかったりするクラスメイトたち。

 真冬と湊の友人関係は、少し複雑なものになってしまったようだ。

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