番外編1 女子高生なら気にすること
女子四人が休み時間におしゃべりしているだけの話。
一年二組の教室。一時間目と二時間目の間の短い休み時間に、早弁をしている生徒が何人かいる。
運動部の男子が多いが、女子もいる。バレー部の湊である。友人の一人である吉乃が、意味ありげな視線を向けながら言う。
「湊ちゃん、毎日この時間におにぎり食べるよね」
「だってお腹空くんだもん」
湊のお昼ご飯は、たいてい購買で買ってきたパンだ。それは、持ってきたおにぎりを昼休み前に食べてしまうからである。
「それで太らないの羨ましい!」
なんだか、差し迫った様子である。
「もしかして、吉乃ちゃんダイエットしてる?」
そう真冬が聞く。ここ数日、吉乃のお弁当が小さいし、お菓子も食べていない。
「してる。ちょっと太った……」
「全然太ってないよ。ダイエットなんかしなくていいよ」
「湊ちゃん、無責任な男子みたいなこと言わないで」
周りからみて、全然太っていなくても体重や体型を気にするのが女子である。数日前に体重計に乗ったら、不本意な数字になったらしい。
「湊ちゃん、それだけ食べてなんで太らないの?」
「動いてるから。部活あるし、自転車通学だし」
とてもわかりやすい回答だった。ただし、真似するのは難しい。
湊は毎日練習のあるバレー部。吉乃は週一で活動する茶道部だ。通学は電車である。
「贅肉じゃなくて、筋肉になってるんだ……」
体重は減らしたい。でも、鍛えてムキムキになりたいわけじゃない、そんな女心。
湊は別に、ムキムキではないが、スポーツをやっているので引き締まった体つきである。そして、女子としては背が高い。170弱だろうか。
「あたしより、真冬の方が参考になるんじゃない?」
おにぎりを食べ終わった湊が言う。運動部の自分がやっているメニューを、吉乃に提示する気はないようだ。
真冬は、吉乃と同じ茶道部だ。身長は真冬の方が吉乃より少し高く、ほっそりしている。湊よりは近いだろう。
「真冬ちゃん、何かやってる?」
「ダイエットはしてないけど……モモの散歩かな? 拒否柴発動されると抱っこするし。あと休みの日は、畑手伝ったりしてるよ」
「拒否柴?」
「散歩から帰りたくない、ここにいたい、とかで動かなくなっちゃうの」
モモは真冬の家で飼っている黒柴の名前である。柴犬の体重は、10キロ前後。それを抱っこして歩く。カロリーを消費しそうだ。
そして畑仕事。具体的に何をやるかはわからない。でも重労働っぽい。……それで、なぜ可憐な外見をしているのだろう。ある意味、湊より参考にならない。
「うち、犬も何も飼ってないしなあ……」
畑仕事には触れないことにした。
湊、真冬は参考にならなかった。それなら、もう一人にも聞いてみる。なぜか大人しくしている奏音だ。
「奏音は? 細いっていうか、小さいっていうか、軽いよね?」
奏音は小柄だ。私服のとき、小学生に間違われたこともあるくらい。ダイエット中の吉乃からみたら、軽そうなのはとても羨ましい。
「吉乃ん、贅沢言うもんじゃないですよう」
「贅沢? 何が?」
「吉乃んの、増えた体重は、女子の唯一おにくがついていいとこに、ついてますう」
奏音は、じとっとした目で、吉乃の胸元を見ながら言った。
冬服のブレザーは、それなりに厚みがあるためわかりにくかった。でも夏服のブラウスになった今ならわかる。
「あー、うん……ちょっと、羨ましい」
「でかいよね」
真冬と湊の反応である。二人は、まあ、平均的だ。
「……これも肉だし、体重だし。胸ばっか見られるのイヤなんだってば!」
「巨乳ギャルで茶道部で数学得意って、属性盛りすぎですよお! その恥ずかしそうに、胸隠すとこ、なんかえっちですう!」
全体的に小さい奏音にとっては、羨ましい。体重が少しくらい多くても。ちょっとではなく、かなり羨ましい。
「これのせいで、服とか着られないのあるんだよ?」
「小さくて着られないより、マシですよう!」
胸囲のせいで、普通体型にあわせてデザインされた服が入らない。入っても似合わない吉乃。
体が小さいせいで、同世代の流行ファッションができない奏音。
「隣の芝生は青い、っていうのかな?」
「背ちっちゃくても、胸でっかくてもスポーツには向かなそうだなあ」
湊は、体を動かすことが基準になっている。ショートヘアなのも、それが理由だそうだ。毎月カットにいくのは面倒だと言いつつ、キープしている。そのため、二人が相手を羨ましがっているのは、完全に他人事である。
「今日の吉乃ちゃん、いつもと違うよね。いっぱいいっぱいっていうか」
吉乃は、このメンバーの中では冷静な方である。いってみればツッコミ役。奏音は、こんなものだ。
「だね。っていうか、この話そろそろやめたほうがいいね」
と、湊が違う方向を見ながら言う。
「男子、興味ないふりしてるけど。めっちゃ聞いてる」
数日後、吉乃の食事量は元に戻っていた。
周りから見て、太ったようには見えない。やっぱり、胸についているのではないだろうか。




