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その悩み、筋トレで解決できます!〜俺のジムに変人しか来ないんだが〜  作者: プロテイン長田


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第4話「年をとっても筋トレは宝」

「お、きたきた」


 オープン初日を間近に控える頃、高橋はある器具の搬入を受け入れていた。


「おぉ、流石に新品は綺麗だな」


 運び込まれたのは“シーテッドレッグプレス”のマシン。しかも新品。


 正規の代理店から購入したので、搬入から設置まで見事に全てやってくれた。高橋たちはその様子を眺めるだけ。


 その搬入の様子をトムさんが寂しそうに見ている。


(この人はなんで搬入がある日を知ってるんだ……? )


「ウーン……マシンナラ、マズハ「チェストプレス」トカ、「ラットプル」トカジャナイノ?」


「あぁ、いや……確かにマシン買うならそうなんだけど――」


 高橋がこのマシンを買った理由は、先日の笹原陽子との会話が気になっていたせいだ。


 陽子は祖母もジムに入会させた。それは恐らく……。


「お、ちょうどいいところに」


 そんな時、ジムに現れたのは、笹原陽子と――


「なんじゃ、あんまり内装はいじっとらんのだな」


「ウメさん、お久しぶりです」


 この建物の大家、陽子の祖母、笹原ウメだ。


◇◇◇◇◇◇


「高橋さん、これは……」


 高橋は、二人が来るや否や、届いたシーテッドレッグプレスを紹介した。


「……陽子さん」


「……えっ?あ、あぁ……はい」


 突然名前を呼ばれて驚く陽子。しかし、祖母と一緒にいるので“笹原さん”だとどっちかわからないためだと気づきすぐに落ち着く。


「ウメさんも入会してもらったのって、運動機能が心配だから、ですよね」


「…………はい」


「なんじゃ陽子!ワシはまだまだ現役じゃぞ!」


 ウメは杖を高々と掲げた。


「はい。それは賃貸契約でお伺いしたときにわかりました」


「……なんじゃ、ワシのことそんな目で見とったのか」


「ちょ、ちょっとそれはどう言う意味かわかりませんが」


 なぜか恥ずかしそうにするウメをいなし、高橋は続ける。


「だからこそ、このマシンなんです」


 バシンとマシンを叩いた。


「このシーテッドレッグプレスは、生活の基準である、“脚力”を鍛えます」


 トムさんが深く頷いた。


「そ、そして! それは立つ、歩く、階段の昇降、などなど、全ての運動機能を向上させます」


 トムさんが拍手し始めた。


「だからこそ、これをウメさんにお試しいただきたいのです!」


「ちょ、ちょと待ってください!」


 陽子が叫んだ。


「これ、買ったんですか? 新しく……?」


「…………あ」


「随分……綺麗ですけど、まさか――」


 冷や汗を流す高橋。


「私、言いましたよね? 当分出費は抑えるようにって――」


「いくら、残ってるんですか?」


 何も言い返せない私に、陽子は資金状況の開示を要求するのだった。


◇◇◇◇◇◇


「これで、いいかの?」


 陽子に資金状況を根掘り葉掘り聞かれた後、ついにウメさんにレッグプレスを試してもらう時が来た。


(ウメさんはまだ腰が曲がりきってない。だからこそ、この水平型レッグプレスにしたんだ。腰が悪いならあまりお勧めできないが――)


「はい。そこに足を置いて、足を伸ばすと、座面が動きますよ」


「お、おお!これは面白いのぉ」


 まずは加重せずに、初期負荷だけで動作を覚えてもらう。座面を持って補助もつけた。


「足は伸ばし切らずに、膝は曲がったままで切り返しましょう。そう……ゆっくり」


 ウメさんは高橋の想像以上に動けるようだった。


 加重なしならそこそこ回数ができそうだ。


「まさかこの歳になって筋トレをすることになるとはのぉ……!」


 その様子を陽子はじっくり観察していた。


 おばあちゃんっ子の陽子にとって、ウメはいつまでも健康でいてほしい大切な家族の一人。


 そんな祖母をこの男に任せていいのか、まだ一抹の不安があったのだ。


「ダイジョウブデスヨ。ヨーコサン」


「……え?」


「ミスタータカハシハ、プロダカラネ」


「ど、どういうことですか?」


「ミレバワカルヨ。カレノマッスル……」


「……いやあの本当に」


「オーウ!オキャクサンダネ!シゴトシゴト!」


 陽子が振り返ると、ジムの外にウメがトレーニングしている様子を興味深そうに見ている高齢者の姿が。


「ヨウコソ!“タカハシジム”、ケンガクシテッテヨ〜」


「あらあら!私たちでもできるかしら」


「モチロン!ミスタータカハシ、トッテモヤサシイ!」


 その見学者を皮切りに、どんどんと通りすがりの人たちを見学者として招き入れるトムさん。


「あ、あれ?これ……どうすればいいのかしら」


 陽子は混乱した。


 見学者はいつの間にか十人を超えている。


「な、なんだか見られるのは恥ずかしいね」


 祖母が、そのトレーニングを大勢に見守られている。この状況は一体――


「ヨーコサン!イチメイ、ゴニュウカイテツヅキ!」


「……へ?」


 トムさんが叫ぶ。


「いやぁ、わたしもそろそろ運動習慣を見直さないと老後が怖いからね。あれ、ウメさんだろ? 元々元気な人だとは思ってたけど、あの人も始めるんじゃ、呑気にしてられんからなぁ」


「は、はい……わかりました。こちらに――」


 奇妙なことに、陽子は何度か訪問しているせいで入会手続きの方法はわかっている。


 先日作らせた規約も、目を通しているので説明できた。


「はい……はい。これで、終わりですね。お支払いは月末払いで……はい。そうですね」

 

 その後も、新規入会の列は絶えない。


(私、なんで働いてるのかしら)


 陽子は訝しんだ。


 だが、受け入れざるを得ない。こうして新規入会者を増やさなければ、このジムは立ち所に潰れてしまうかもしれないのだ。


 新たな店が速攻で潰れたとあっては、この商店街はさらに魅力を損なうだろう。


「ふう! いい汗かいたわい」


「今日はこの辺にしておきましょうか」


 一通り捌いた後、ちょうどキリよく二人のトレーニングもひと段落ついたらしい。


「あの、私、ここの従業員じゃないんですけど」


「あ、ああ! すみませんトレーニングに夢中で……」


 必死に謝る高橋。


「なんじゃ陽子、水臭いのぉ。軌道に乗るまで手伝ってやったらいいじゃろうが」


「お、おばあちゃん!?」


「どれ、みせてみぃ」


 ウメさんは今日集まった新規入会者を確認する。


「ひいふうみい……うむ、まあまあじゃな」


「え、え〜っと……何が――」


「陽子、うちの手伝いはいいから、この店を手伝っとれ」


「え!?でもおばあちゃん――」


「いいからいいから! これも商店街のためじゃ」


「え、えぇ……?」


「ちょ、ちょっと待ってください!うち、従業員を雇うお金なんて――」


「それなら、籍でもいれて生計を一緒にでもすれば良かろう!!」


「「え!?」」


「冗談じゃ!!カ〜カッカッカ! 若いのぉ!」


 そう高笑いをしながらウメさんはジムを後にした。


「も、もうおばあちゃん……! ご、ごめんなさい! あのひと、ああいうところあって……」


「いえいえ……むしろ働かせちゃってすみませんでした」


「……あ」


 お互いに謝りあった二人は、あることに気づいた。


「おばあちゃん」「ウメさん」



「「杖、忘れていってる」」



 腰は曲がっていなくとも、足腰の不安からかいつも杖をついて歩いていたウメさん。


「……いやいや! そんなすぐに効果は出ないですからね! これは一種の思い込み――」


「フフ……わかってますよ」


 陽子は笑った。


「…………!」


 その笑顔を見て、高橋はあることに気づいた。


(そうだ……これが、これが俺のやりたかったことの一つ)


(ジムを開いて……会員の悩みに寄り添いたい)


(……うまく、できるか心配だったが――)


「また、お願いしますね」


 杖を回収して、陽子はジムを後にする。


 その後ろ姿を、高橋は目で追っていた。


「ステキナ、ヒトデスネェ〜」


「トムさん……」


 そんな様子をトムさんは満足そうに見ていた。


「あ、トムさんも呼び込みありがとうございました」


「イイヨ!ソノカワリ、キョウモウチデイッパイタベテ!」


 ……今日はステーキパーティーだな!


 今日はスタンダード会員がどっと増えた。


 悪くない滑り出しである。


◇◇◇◇◇◇


 高橋とトムさんがジムの戸締りをして食事に向かった後……。


「ここが、新しくできたジム……!」


 一人の女性が、その前でビラを握りしめていた。


「ここなら……変われるかな――」


 新たな風が、タカハシジムに吹く予感……!

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