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ベルフェリアは隣の部屋で待機しながら、オロオロするメイドのジャスティンに慰められていた。
薄いグレーのドレスは、ハイウエストでスタイルをよく見せ、華奢なベルフェリアの肩が惜しげも無く露出されたデザインだった。コルセットで寄せられた胸の谷間が、綺麗なデコルテをより美しく見せていた。
「最初から部屋に居させてくれればいいのに…!
歩き方とか挨拶とか何も分からないんですよ?!」
「だ、だいじょぶです!ベル様は、まだ産まれて2日目なんですから、皆さん分かってますよ…!」
「な、名前ももう忘れちゃった…!」
ベルフェリアなんちゃらかんちゃら、ブランケンシュタインとしか覚えていないベルフェリア。
ヴィクターがいいと言うから覚えなかったことを後悔していた。
…あの人は、甘やかして人をダメにするタイプの男だ!
慣れないドレスは、お姫様になったかのようでとてもときめいていたか、コルセットはきついしふわっとしたドレスを綺麗に見せるために、靴のヒールは5センチはあった。
「な、なにか飲まれますか?」
「コルセットがきつくて…飲めなさそう」
「そ、そうですか…!ひぇ!」
ーガンッー
「今すごい音したけど、大丈夫?」
「だ、だいじょぶです!以前、腕がもげた時に比べたら、全然ですぅ…!」
音を立ててローテーブルに足を打ち付けて足元で震えているジャスティン。
焦るベルフェリアだったが、自分よりも動揺するジャスティンを見ていたらなんだか急に心が落ち着いていた。
「ジャスティンさん。呼ばれたら、転ばないように手を握っててくれませんか?」
「ももももちろんです!お任せ下さい…!」
「ベルフェリア様。お待たせしました
……なぜジャスティンの足がねじれているのです?」
ジャスティンの左足がぐるんと回転して踵が前になっていた。
「…ひぇぇぇ、またヴィクター様に怒られるぅぅぅ!」
***
ベルフェリアはなんとかメイドたちに手を借りず、ゆっくりゆっくり応接室へと踏み入れた。
先程会ったヴィクターの正装が、不覚にもかっこよくてじっと見てしまう。漆黒のスーツに、暗めのグレーの刺繍の入ったシャツとネクタイ。
全身黒だったが、長い前髪を全てあげて後ろに流した眼帯姿はかなりイケメンだった。
ちらっと対面のソファに座る、見知らぬ男性が客人であることは明白だった。彼は何故かとても顔色が悪い。
緊張した面持ちでベルフェリアがそっと口を開く。
「…えと。ベルフェリア、です」
「……ぁっ!か、カスパル・エルンストと申します」
「ほら、不必要に見るな。
さっさと個人登録とやらを済ませろ。
……ベルフェリア、こっちにおいで」
お辞儀をしたかったが、不慣れなドレス姿に立って歩いてるだけで精一杯だった。
カスパルもヴィクターからの威圧の魔力で顔色が悪く、なんとか名乗るしか出来なかった。
腹の底から絞り出すような不機嫌な声とは打って変わって、優しくベルフェリアを呼ぶヴィクター。
座りたかったベルフェリアは真っ直ぐヴィクターの元へと歩く。
カスパルが持参した羊皮紙を広げつつ、“例の花嫁”が見た目は普通の麗しいご令嬢にしか見えないことに内心驚いていた。
…普通の女性を造り出すために、偉業を行ったのか。
ヴィクター・ブランケンシュタイン。天才の考えることは全く理解できない。
羊皮紙には、簡易式の魔力登録の魔法陣と魔石が嵌められていた。
「こちらに魔力を通していただき、個人登録をして頂きたいです」
「えっ!」
「え?」
「わたしって魔法使えるんですか…!?」
つい驚いて声を上げてしまったベルフェリア。
慌てて本音が飛び出してしまって手で口を押さえ、ヴィクターを見る。
ベルフェリアの編み込まれた髪を撫でるヴィクターが、彼女から目を離さずに口を開く。
「まぁ、論理上は可能なはずだ。
ただベルフェリアはまだこの世界で2日目だ。すぐに魔力を出せというのも酷な話だろう」
「そ、そうですね。
すみません、見た目が思っていた以上に貴族のご令嬢でしたので…!」
それっぽく振る舞えたことにホッとするベルフェリア。ただ、魔法が使えるかもしれないと聞いて驚いていた。
「ベルフェリア。君の前にいた世界は魔法は一切なかったのか?」
「えと、はい。科学?というのが発達していました」
「それは興味深いな。今度話を聞かせてくれ」
「……知識はないので、何も原理とかは分からないですよ」
「……恐縮ですが、この水晶を握って頂けますか?」
今そんな話をするマイペースな二人に、カスパルは恐る恐る個人登録を進めようとする。
ベルフェリアがそっと両手で水晶を握ると、ピカっと光って登録が終わる。
カスパルはなんとか任務の全てを終わらせられたことにホッとしていた。
「以上で、登録は完了です。ご協力ありがとうございました」
「はぁ。思ったより簡単なんですね」
ベルフェリアが水晶をカスパルに手渡した瞬間。
ーピリッー
静電気のような物が水晶から発した。
ピカッ、ゴロゴロと雷の音が聞こえ外が暗くなる。まるで夜が急に来たようだった。
「んぇ…?」
一瞬の出来事。
ベルフェリアが瞬きをした瞬間、狭い箱の中のような所に入っていた。
『……ヒィィィ!ご、誤解です!私は何もしていません!』
『今、一瞬。他者の魔力がベルフェリアに届いた』
「ちょ、ちょっと何ここどこ…!?」
目の前の壁の奥からくぐもった、カスパルとヴィクターの声が聞こえた。ベルフェリアが突然のことに狼狽えているとコンコン、と壁がノックされた。
「ベルフェリア様、アガサです。そこは私の体の中でございます」
「あ、アガサ…?」
「この中が屋敷の中で一番安全です。少し狭いですが今暫くお待ち下さい」
直接語りかけるように料理担当のアガサの声が聞こえ、ホッとするベルフェリア。
先程の一瞬の間に、ベルフェリアに届いた不審な魔力を感じたヴィクターと使い魔たちは戦闘態勢に入っていた。
アイゴールとメアリーが武装しカスパルを押さえつけ、アガサがベルフェリアを保護。ヴィクターが魔力を練り始め、ジャスティンが不審な魔力を鑑定していた。
アガサは元々門番のような役割をしていた身軽に動く細身の人形だったが、“花嫁”を迎えるにあたってボディガードができるようにヴィクターの手によって体を改造されていた。
熊のように大きな体の中はベルフェリアがすっぽり入れるスペースがあり、そこにはどんな魔法も跳ね返す頑丈な魔法陣が刻み込まれていた。
『ジャスティン、解析はできたか』
『はぃぃ!ヴィクター様、“プレトリウス卿”の縁のある魔法使いの魔力ですぅ』
『……そうか。彼の挨拶か。やりかねないな。
おい、解除だ』
パカッと開いたアガサのエプロンの下からベルフェリアが顔を出す。
そっと室内を見渡すと、槍や仕込みナイフといった刃物を何食わぬ顔で懐にしまったアイゴールとメアリーが、跪くカスパルの横に控えていた。
…ジャスティンは、しきりにぶつけて捻れた左足を隠そうとしていた。
「……な、何なんだ、一体」
「失礼しました。てっきり敵襲かと、失礼な勘違いを」
ーこの屋敷は物騒過ぎる!!!ー
アイゴールに体を起こされるカスパルは、顔色が悪いのを通り過ぎて、顔面蒼白で真っ白になっていた。
もう少しで首を跳ねられそうになっていたのだから、無理もないことだった。
「ベルフェリア。手荒にしてすまない」
「いいえ、どこも痛くもなんともありません」
「さぁ、もう用はないはずだ。お帰りいただこうか」
「……ヴィクター様。謝りましたか?」
ベルフェリアは、自分がここに来たせいで、この世界の何処かで誰かが傷付いたり、困ったことになっているのは気分が悪かった。
先程謝らないと、言っていたヴィクターのことが気になっていた。
「……謝罪を求められてはいない」
「でもわたしのせいで、被害が出たんですよね?
謝りましょう」
「エルンストとやら。私の謝罪が必要か?」
「ヒッ!え!?…あぁ、昨晩の被害報告は、黄昏時に発生したレイスに驚いて逃げる際に、軽傷を負ったのが数件ほどです。…謝罪があれば報告はします」
カスパルは、“魂の干渉実験”を何度も行われてしまえば余波がでるだろうが、今回の一回くらいの被害で偏屈伯爵が謝罪などするとは思えず、それよりも人造人間の作成を二度としないように伝えろと言われていた。
ヴィクターからすれば、新月の夜にレイスが発生しそうな場所でたむろする人間の気が知れなかったし、謝罪しろと言われても鼻で笑うつもりだった。
しかしベルフェリアが求めるならば話は違った。
「ベルフェリア。謝ったら、愛称で呼んでくれるか?」
「……ヴィー様。謝ってください」
「すまなかった。近くの住民には影響が出るだろうと伝えていたが、距離が足りなかった。以後気をつけよう」
「……伝えましょう」
カスパルは、謝っているのに満面の笑みのヴィクターに何か言いたげな顔をする。しかし、もう精神的に参っていてそれ以外何も言えなかった。
…“花嫁”に自ら尻に敷かれにいっている。そう報告をした方が良さそうだ。
「外は随分荒れた天気ですね。
カスパル様、夕食は召し上がられますか?」
ウキウキとおもてなしをしようと、にっこり不気味に笑うアイゴールのダメ押しの悪魔のような提案。
カスパルはブンブンと全力で否定して、豪雨の中ズブ濡れになりながらも足早にブランケンシュタインの屋敷を後にしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
可哀想なモブ、カスパルくん。
書いていてとても愉快でした(笑)
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よろしくお願いします。
完結作品です↓
優しい世界甘々、体格差カップルのお話。
【完結】『魔力アレルギー』の病弱令嬢は『魔力なし』の辺境伯爵に、心も体も健やかに愛し抜かれました
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