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“怪物”伯爵は愛妻家♡ 〜嘘がつけない人造花嫁は、拗らせ夫とクセ強使い魔に甘やかされすぎて危険です〜  作者: 藤崎まみ
第1章 造られた夫婦、始まりの一歩

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ヴィクターは、朝一番に“花嫁”の機嫌を損ねたうえ、平手打ちを食らったことにショックを受けていた。


昨日はチラチラと自分を見てくれていたベルフェリアが、朝食中は目すら合わせてくれなかった。


…女心とは難しいものだ。


そう思案しながら、ウロウロと屋敷を歩き回るベルフェリアの()にマーカーをつけてストーキングしていた。


アイゴールが研究室のベルフェリアの体が眠っていた水槽やらなんやらを片付けながら、ソファの上で寛ぎながらベルフェリアの動きを把握するヴィクターに声をかける。



「……ヴィクター様。

悪いと思われるならば、きちんと謝って一緒に屋敷を回られてはどうですか?

……お仕事には身が入らないようですし」



闇の魔術師として国に仕えるヴィクターは、“花嫁”を造り上げることを優先して仕事を疎かにしていた。


しかも、この人造人間の研究自体も国に許可は取っているが、実験をした際には報告書を義務付けられているはずだった。


机の上の報告書は導入部分から筆が止まって、放置されていた。



「彼女が何が嫌で手を振りあげたのか分からないんだ。

理由も理解していないのに、ただ謝られてもうっとおしいだけだろう。……それに視線をそらされるのは嫌だ」

「やれやれ……困りましたね」



やたら早口でボソボソと心情を吐露するヴィクターは、ベルフェリアが何故あれほど怒ったか理解できなかった。

配慮して部屋の外では待っていたし、ベルフェリアの体調の確認をしただけなのに、と本気で思っていた。


元狼であるアイゴールですら、使い魔として仕えるために様々な人間の常識を身につけたが、排泄の確認をされるなど女性からしたら嫌だろうと、すぐ理解できた。


…ましてやそれが“夫”となる立場の相手では特に。



「ベルフェリア様は研究対象や愛玩人形のおつもりですか?」

「……“花嫁”に決まっているだろう。

何を馬鹿なことを言っている」

「ヴィクター様のしていることは、管理や世話のようです。自立した人間として関わるべきでは?」


「…む。ベルフェリアは甘いものが好きなのか。

アイゴール!砂糖や小麦など菓子作りに必要なものを買っておいてくれ」



同じ使い魔であるアガサから会話を盗聴したのだろう、ベルフェリアとの会話に全集中するヴィクターは、アイゴールの助言など全く聞いていなかった。


盛大にため息をつくアイゴールは、首を横に振るしかなかった。



「……アガサにやたら食の好みを聞き出させようとしているのは何故です?」

「言うだろう、“胃袋を掴め”と!」

「……男性の場合でしょう。そもそもアガサへの評価では?」

「お前たちの仕事ぶりは、所有者の私への評価だ。そうだろう?」



かなり遠回りなアプローチをかけようとしているヴィクターに、アイゴールはガッカリした顔を隠さなかった。


ヴィクターが魔力を使い、ベルフェリアの影から見える視界を映し出す。本格的に監視をする姿は、無我夢中といえるように見えた。


アイゴールもつい目を向ける。


メイドのジャスティンへ自ら声をかけたベルフェリアからは、相手が人形で使い魔である自分たち使用人への恐怖や拒絶反応がないことに安堵していた。


…ベルフェリア様からすれば、自分も同じ吹き込まれた魂と変わらないと思われているかもしれない。


アイゴールは、昔の記憶を思い出す。

それはヴィクターの元婚約者候補の女の蔑むような眼差しだった。


『野生動物の魂ですって!?穢らわしい…!』


一緒に思い出されたのは、キンキンと耳障りな高い声と強い香水と化粧品の臭い。

ドロリと黒いモヤになってアイゴールのからっぽの腹の中が冷えてくる。


ふと、我に返るとヴィクターがソファから体を乗り出していた。



「なっ…!何!?」

「ヴィクター様?ジャスティンがまた何か粗相でも?」

「あ、愛称を許されている!!何故ジャスティンからなんだ!()()()私からだろう…!」

「……ご自分でヴィクターと呼べと言っていたではありませんか」



むぐぐ、と悔しがるヴィクターに呆れ返るアイゴール。


もう放っておいていいと判断し、片付けを再開しようとすると、窓ガラスを通り抜けて一羽の鳩が部屋に入ってきた。


ークルッポー!ー

鳴いた鳩は、くるりと縦に一回転して瞬時に封筒に変化する。

金色の光が舞う、それは国からの連絡の証だった。


さっと手に取って開封すると、ヴィクター宛のそれは昨晩の研究による結果を早く報告しろという催促と使者を送るという内容だった。



「これは…!ヴィクター様!

遊んでいる場合ではありません!夕刻に国の使者が来るそうです…!」

「まぁ、昨夜の魔術は闇魔法を大分酷使した、無理矢理発動させたものだったからな。もしかしたらどこかで余波があったかもしれん」



しれっと、いいのけるヴィクターには全く反省の色がなく、屋敷に他人が来ると聞いて嫌そうに眉間に皺を寄せる。


早く報告書を書かせるべくヴィクターを引っ張って研究机に座らせたアイゴール。

頭の中では、使者へのおもてなしやら部屋の準備やらで大忙しだった。



***



ジャスティンとメアリーと一緒に洗濯物を干したあと、駆け寄ってきたアイゴールに来客の予定があると伝えられ、二人が慌てて動き出す。


メアリーに昼食の後、着替えようと言われソワソワするベルフェリア。どうやら屋敷に来るのはやんごとない相手のようだった。


そういえば、ヴィクターは伯爵家だと言っていた。

ベルフェリアには、貴族といわれて思いつくのは“悪役令嬢”しか思いつかなかった。


……この世界の貴族ってどんな仕事をしているんだろう。


確か闇の魔術師として名を馳せていると聞いていた。


数年足らずで人造人間を造り上げ、現に自分の魂はこの体に宿っていて自由自在に動かせる。



「……もしかして、わたしって。かなり異質な存在だったりする…?」



ベルフェリアは居心地の悪さを感じていた。



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