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ヴィクターが倒れたあと、それはもう大慌てだったベルフェリア。
表情になかなか感情を出さない人だとは思っていたが、限界になるまで無理をしていたことに驚きを隠せなかった。
脱力して重たいヴィクターの体を必死で抱き支えるベルフェリア。
狼狽える彼女に手を貸してくれたのは、プレトリウス卿の執事のルードヴィッヒだった。
すぐにあの宙を浮く老人椅子を持ってきてくれ、ヴィクターを乗せて帰還用の転移部屋へと運んでくれた。
その姿を見たプレトリウス卿が、帰り際にベルフェリアに耳打ちする。
「ベルフェリア。なにか困ったことがあれば、すぐに連絡しておいで。時計をクルッと3回まわしてごらん」
「おじい様。助けていただいて、ありがとうございました」
「また会おう」
ベルフェリアの手のひらに懐中時計を押し付けるように持たせたプレトリウス卿は、ゆっくりと手を振って見送ったのだった。
ヘンリーは既に飲んだくれていて、騒動には全く気づいていなかった。
***
ブランケンシュタインの屋敷に戻った二人に、驚いた使用人たちが駆け寄る。
まだ予定時間より早い帰還に、すぐさま反応し玄関に集まっていた。
「ヴィクター様…!なんと無様な格好でお戻りに……」
「アイゴールさん!ヴィー様、すごい熱なんです…!」
「ベルフェリア様、お帰りなさいませ。ヴィクター様なら大丈夫ですわ」
アイゴールがヴィクターの顔を覗き込みながら、安否を確認して無事と判断すると悪態をつき、焦るベルフェリアをメアリーが安心させる。
「寝室に寝かせてきます」
「ひぇぇぇ、こ、氷持ってきますぅぅぅう」
ヒョイっとヴィクターを抱えて寝室へ運ぶアガサ。
その後ろで、氷を取りに走り去るジャスティンがズッコケるのが見えた。
ベルフェリアを落ち着かせるメアリーだが、喧騒が大好きな彼女はとても楽しそうにしている。
「日々の引きこもりが祟ったんですわ。これを機に少しずつ外に出ないと行けませんわね」
「ベルフェリア様、徹夜で倒れるなど日常茶飯事でしたし、なんの問題もありませんよ」
「……そう。皆が慣れていてよかったです」
嬉しそうなメアリーと死んだ魚のような目でニヤリと気味悪く笑うアイゴールは、いつも通りだった。
……楽しかったけど、やっぱりみんなの居る屋敷の方が落ち着くなぁ。
「ただいま、戻りました」
「えぇ、おかえりなさいませ」
「着替えながら、パーティの話を聞かせて頂きたいですわ」
ほっと安堵のため息をつき、初めての『ただいま』を経験したベルフェリアは少しだけ頬を染めて照れくさそうに、メアリーと自室へと向かったのだった。
***
ヴィクターは、熱が下がったと思えばぶり返し、結局三日間も寝込む羽目になった。
何とか解熱したものの、鉛のように重い体を気だるげにソファに座って自室で体を休める彼は、自己嫌悪に陥ってメンタル的にも参っていた。
……何がベルフェリアの望みを叶えたい、だ。
たった一晩のダンスパーティーでぶっ倒れて、意識を失い介抱され、三日も寝込むなんて無様過ぎた。
ーコンコンッー
ウジウジと落ち込み、なかなか部屋から出てこないヴィクターを心配して、ベルフェリアが自室のドアをノックする。
「ヴィー様、お加減いかがですか?」
「……あぁ、大分いいよ。気分が最悪なだけだ」
「ふふ、ダメそうですね?ハーブティを入れてもらったんです。わたしも一緒にお世話した茶葉なんですって」
ニコニコと機嫌よく入ってきたベルフェリアは、パーティを乗り越えたので普段通りの気楽な軽いワンピースを身につけていた。
ソファに深くもたれかかって足を伸ばしていたヴィクターは、ゆっくりと起き上がる。
ローテーブルにお茶セットを置いたベルフェリアが、ゆっくりティーカップにお茶を注ぐのをぼんやりと見つめる。
「……ベル、君はパーティーは楽しかったか?」
「えぇ、絵本の中の世界を体験した気がします。ほら、“シンデレラ”っぽいおとぎ話みたいでした」
「そうか。……君が行きたいなら、また来年も行こうか」
それまでに少しずつ体を慣らさなければと遠い目をするヴィクター。
そんな彼にベルフェリアはゆっくり首を振る。
「いいえ、もう舞踏会は辞めにしましょう」
「夢だったんだろう?……倒れてしまったから、私とはもう行きたくないのか」
少し自嘲気味に苦笑するヴィクターをじっと見詰めるベルフェリア。
そしてそっとヴィクターに手を重ねたと思えば、ゆっくりと顔を近付け、こつんとおでこを突き合わせる。
ふわっと香る彼女の甘い香りが鼻をくすぐり、ヴィクターは無意識に顔をあげる。
ちゅっ、と軽く唇が重なった。
「……いつも、わたしに合わせてくれて、ありがとうございます」
「……君からのキスは、初めて貰った気がする」
「へへ、めちゃくちゃ恥ずかしいです。……っん!」
ゆっくりとベルフェリアの体に回した腕と、後頭部に添えた手で逃がさないようにしながら唇に食らいつく。
……てっきり、幻滅されたか、怒らせてしまったとばかり思っていた。
ゆっくり堪能した彼女の唇をゆっくり離すと、ベルフェリアの瞳が潤んで揺れる。
「……ベル。本当にすまなかった」
ベルフェリアは肩で息をしながら、必死で呼吸を整えようとするが、返事もできないままヴィクターに縋り付かれるように強く抱きしめられた。
「……君の望みをずっと叶えたい。
だから、私と一緒に生きていって欲しい」
「……ヴィー様」
それはヴィクターの心の底からの懇願だった。
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