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しばらく針のむしろのような視線がベルフェリアに向けられ、必死でお腹に力を入れて背筋を伸ばす。
気合いを入れつつも震えてしまう指先を、ぎゅっと両手を揃えて握りしめていると、そっとヴィクターに上から握られた。
「ベルフェリア。大丈夫だ、私がいる」
「……はい」
「プレトリウス卿に挨拶もできたし、雰囲気を味わったら帰ってもいい」
ヴィクターの眼差しは力強いが、優しく握られる彼の手は冷たく、微かに震えていた。
それは彼もこの場に緊張をしていることの証明だったが、ベルフェリアは何故か安心感を抱いていた。
……怖いのは自分だけじゃない。
状況は変わらないのに、二人でいれば大丈夫だと思えた。
来場者が増えていくに連れて、ヴィクターとベルフェリアの周りを遠巻きにする人垣ができていた。
この場にいる人々は、天才の闇の魔術師であるヴィクターと影響力のあるプレトリウス卿がタッグを組んだ“人造人間”の存在に慄いていた。
しかし、人間を作り上げたという異形に恐怖を感じながらも、最先端の魔術研究の成果を一目見ようと群がっていた。
「(なんでも、プレトリウス卿が進めていた人造人間の研究をブランケンシュタイン伯爵に寄贈したそうだ)」
「(闇の魔術で黄泉の世界に干渉したと聞いている)」
「(……死人の魂を宿した女性ということ?)」
このダンスパーティーの趣旨は、最新の技術や成果を見る場だったため、好奇心旺盛な彼らの関心を引くのは無理もない事だった。
しかし、闇の魔術で身体から魂を抜き取る魔術を使うヴィクターと戦況を一声で変えられるプレトリウス卿。
二人に気軽に声をかけられる者はそうそういない。
ーー1人の男を除いて。
「ちょっと、失礼。レディ、前をすみません」
群がる人々を掻き分けるように現れたのは、騎士の軍服と勲章のメダルをいくつも付けた、ヴィクターの友人のヘンリー・クラーヴァルだった。
彼は、瞳は爛々と輝かせ、とても嬉しそうに意気揚々と声をかける。
ヴィクターはその姿を見て、不快そうに眉をひそめた。
「ヴィクター!いやぁ、驚いた!
本当にお前とシャンデリアの下で、会える日が来るなんて思わなかった!
これは明日は嵐だな、二日酔いしても仕事も休み決定だ!」
「……ヘンリー。君はもう少し周りを見たらどうなんだ」
ヴィクターとヘンリーの風変わりな交友関係は、貴族社会でもそこそこ有名だった。
平民出身の成り上がり騎士の実力は疑うまでもなく、ダンスパーティーにすら招待されるほどの地位にいるのは確かだった。
学生時代をよく知るものはまだしも、公的の場に出てこないヴィクターにどう接しているのかとジロジロと余計好奇な目で見られる羽目になった。
プレトリウス卿は、一人で現れたヘンリーに目を向ける。
スッと騎士の構えをとったヘンリー。
ある意味で指揮官の一人である卿に忠誠を表していた。
「お会いできて光栄です、プレトリウス卿」
「……クラーヴァルか、先の戦果は見事だった。
この国に君のような気持ちのいい動きをするものは貴重だ」
ピリリと背筋がひりつくような圧をかけ、ゆっくりとした口調で返事をするプレトリウス卿。
先程までベルフェリアに向けていた柔らかな瞳はなりを潜め、まるで優秀な駒を見るかのように固く、ヘンリーに挨拶をする。
ベルフェリアは、人前に立っても相変わらず大きな声と陽気な空気を放つヘンリーに感心していた。
……ヘンリーさん、パーティーでも、おじい様の前でも、いつも通りなんだ。
戦果を挙げたヘンリーの登場に、より一層危険度と関心が高まった空間になり、周りからの視線は増すばかり。
しかし、どこか内輪の空気になりつつありベルフェリアはやっと呼吸がしやすくなっていた。
「こんばんは、ヘンリーさん」
「ベルフェリア、今夜はより綺麗だな!」
「ヘンリー、奥方はどうした。ダンスパーティーに連れなしか?」
ヘンリーがよくぞ聞いたとばかりに、ヴィクターの肩を無理やり抱き込む。
「実は、子どもが出来たんだ!二人に会わせたかったけど、今夜は家に置いてきた」
「わぁ…!おめでとうございます!」
歓声を上げるベルフェリアと、口角をあげるプレトリウス卿。新しい命の知らせにほっこりとした笑みを浮かべる。
ヴィクターはハッとしたように、ぼんやりとヘンリーを見つめる。
「そうか、それは…。おめでとう、ヘンリー」
「おう!ありがとうな。今度妻から二人に手紙を出すって言ってた」
友人が父親になると聞いて、感慨深い気持ちになっていたヴィクター。
ベルフェリアは、プレトリウス卿とヘンリーの組み合わせに少し面白く感じていた。
……やっぱり、二人が“両親”っていうのは無理がありすぎるなぁ。
「ベル?どうした」
「ううん、なんでもないんです」
ベルフェリアがつい笑いを堪えていると、ヴィクターが不思議そうに顔を覗き込む。
雰囲気がいい二人をみてヘンリーもほっと安堵していた。
彼なりに人前を嫌うヴィクターを心配していた。
***
暫くすると、王族が登壇し軽く挨拶が行われた。
ベルフェリア達に注目していた貴族たちも次第に散っていった。
盛大な拍手とともに始まった弦楽器の生演奏に、華やかなダンスパーティーが開幕したのだった。
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