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王都の会場で行われる、貴族の集まる定期ダンスパーティーに出席するとヴィクターがプレトリウス卿に返事をしてしまった。
そのため、ベルフェリアはダンスの猛特訓をし、使用人たちは着ていく衣装の準備や護衛の支度、移動の準備に追われていた。
ダンスパーティーと言っても、主催は王族が行う公的な社交の場だった。
年の終わりに貴族への労いを兼ね、その年活躍した者や著しい功績をあげたものに表彰するのがメインで、比較的儀式の少ないダンスパーティーだ。
デビュタントの前の年に娘を連れてきたり、地方貴族の顔合わせに使ったりなど、全体の参加者の趣旨は様々である。
簡単なワルツからステップを練習するベルフェリア。
「1、2、3…、1、2、3…、わっまた間違えた」
「拍子に合わせてステップを変えるだけだから、そこまで難しくは無いよ。ゆっくりやろう」
「……夏の盆踊りみたいに、見本の先生が近くで踊ってたりしないんですか?」
「ははっ、近いくらいダンス好きの夫婦やカップルはいるとは思うが。輪になって踊らないから見えないだろうな」
そうかぁ、とがっかりするベルフェリア。
日本の夏祭りの盆踊り会場には、行ったことはなかったがたまたまアパートのベランダから会場が見え、遅くまで踊る人々を見ていたのを思い出すベルフェリア。
「……ヴィー様、どうして急に舞踏会に行く気になったんですか?」
「私がベルフェリアを外に連れ出してやれなかったからな。プレトリウス卿に怒られたんだ」
「おじい様に……。やっぱり外に出なさすぎですよね」
プレトリウス卿へ敬意を態度で表していたヴィクターを思い出し、立場も年齢も上の人に助言されたとあれば、ベルフェリアは納得だった。
ベルフェリアも未知の世界へ出ていくのが少し怖くて渋っていたこともあり、ヴィクターだけが怒られてしまったことに罪悪感を抱く。
そして、なによりヴィクターが屋敷から出るのを嫌がっているのも知っていた。
「私がちゃんと断ればよかったですね……」
「いや、彼が正しい。君にもっと外の世界を見せてやるべきだった」
「時に正論とは痛いものですわね」
舞踏会に興味あるなんで言わきゃ良かったと、必死になってダンスの練習やマナーを学んでいるベルフェリア。
それに付き合っているヴィクターを見て、メアリーは頬に手を当てて苦笑する。
ついでに2人のダンスレッスン中の写真撮影も欠かさない。
「でも、最初のお出かけが貴族の偉い人達が沢山集まる場所だなんて……」
「ベル、君には可能性がある。
私がその選択肢を狭めるわけにはいかない」
「もしかして、時魔法のことですか?」
ベルフェリアも少しずつ魔術を勉強していて、確かに自分の使える時魔法が珍しいものだと知った。
しかし、それは体に備わった副産物のようなもので、実力ではない。
そしてその稀有な能力は、使う人間の頭脳や明晰、そして本人の努力と研鑽が必要だと身に染みていた。
例えば、ヴィクターやヘンリーのように、持って生まれた才能がありながらも、自在に魔術を使う人達は毎日努力し続けている。
時魔法は能力がありさえすれば、すんなりと自在に扱える代物ではなかったのだ。
ベルフェリアは、平均より多めの魔力量と体に流れる血の継承によって何とか使える形になっただけで、まだまだ時魔法が使える、なんて胸を張って言えるような代物ではなかった。
……異世界転生なんだから、少しくらいチートつけてくれてもいいのに。
ベルフェリアの時魔法はなかなか上達しなかった。
「わたしの時魔法は、【時戻し】【時送り】は草花や小さなものしかできないです。
割れたコップは元の姿を知らないと戻せないなんて、……これじゃ欠陥魔法です」
「火魔法や水魔法といった自然力を借りる方が、融通は聞くのは確かだな。私の闇魔法もほとんどこの影に頼っている。
だから時魔法が最難関だとも言われているんだ」
「……なるほど」
「プレトリウス卿を見本に考えない方が懸命だ。彼はこの国の宝だからな」
ヴィクターがプレトリウス卿を尊敬する理由は、彼の知識の量や魔術技術全てを評価した上でのものだとベルフェリアは感じ取っていた。
……そんなすごい人が後ろ盾になってくれるんだ。
公的な貴族社会の場にでるのが、自分のような中途半端な人間でいいんだろうかと、プレッシャーを感じていた。
そしてヴィクターの隣に立つ存在として、相応しくありたいとも思っていた。
「プレトリウス卿がベルフェリアに期待しているのは、時魔法の方だけではないと思う。
現に彼の跡継ぎが時の魔術師として受け継いでいる」
「……その方がありがたいです。わたしはとてもじゃないですけど、国家魔術師なんてなれないですよ」
「そう卑屈になることもない。
ベルには前世の記憶がある。もし君が望むなら、この国を変えていけるだろう」
ベルフェリアは、ヴィクターの言葉にぱちくりと瞬きする。
そして何を言っているんだとばかりに、ヴィクターの腕を叩く。
「わたしの何となく話した記憶の内容を、形にしていってくれているのはヴィー様じゃないですか」
「……選り好みをしているのは、確かにヴィクターさまですわね」
ヴィクターやメアリー、そしてプレトリウス卿たちのように感じる違和感はベルフェリアは感じていなかった。
魔法や魔術があるこの世界で、現代の技術が必要ない物もいくつかあるはず。そして便利な物というのは使い方を間違えれば、時代が違えば諍いの種になることもわかっていた。
「ヴィー様が選んで、この屋敷に合うものだけ使ってくれればいいんです」
「……ベル」
「ごめんなさい、ヴィー様。有名になりたいとか、世界を変えたいとかそんな大それた願望ないんです」
向上心のない嫁だと失望されてしまうだろうか。
そこへアガサが根を詰めて練習する二人に、あっという間流通の始まった米で作ったおにぎりを持ってきてくれた。
「ダンスの練習は上手くいっていますか?」
「わ、おにぎり!」
「炊きたてご飯で、塩むすびを作ってみました」
ベルフェリアはこういった素朴な現代の面影を感じることだけで十分幸せを感じていたのだった。
最終章です!
よろしくお願いします。




