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「ルードヴィッヒ、カール。そろそろお暇しようか」
「「はっ」」
騒然とする若者たちに満足そうに、立ち上がり声をかけるプレトリウス。
部下二人が帰る支度を始める。
アイゴールがいち早く反応し、慌てて下がっていたジャスティンに向かってお土産を持ってくるように声をかける。
その様子に我に返ったベルフェリアが居住まいを直す。
ヴィクターも続けて、彼に向き直る。
「プレトリウス卿、この度はご面会ありがとうございました」
「産まれた娘の顔を見に来ただけだ。例には及ばん。
……ベルフェリア、王都で会えることを楽しみにしているよ」
「は、はい。今日は、本当にありがとうございました」
ベルフェリアが足を折って挨拶すると、ゆっくり近付いてきて大きな手がポンっと頭に乗せられた。
ほっこり暖かい体温と節くれだった老人特有の手に、胸の中がじんわり温まるような感情を抱く。
そっと顔をあげると、卿から送られる眼差しはやはりどこか柔らかく、慈愛に満ちていてベルフェリアは不思議だった。
……もしかしたら、おじい様こそ、私のこの体に愛着があるのかもしれない。
ヴィクターからの好意をずっと体ありきだと疑っていた彼女だからこそわかったのだろう。
プレトリウス卿から贈られるものは、血を分けた娘にこそ向けられる、無条件に愛されるような視線だった。
この眼差しが、ずっと欲しかったベルフェリア。
しかし今は、ヴィクターから同じものを受け取らなかったことを安堵する自分がいた。
「し、失礼しますぅぅぅ…!お、お土産ですぅぅ」
「……あっ。やってしまいましたわ」
部屋に入ってきたジャスティンが、両手にお土産を包んだ荷物を抱えながら、緊張してガチガチで中に入ってくる。
するとジャスティンは、思いっきり魔力操作を誤り、瞳に埋め込んだ小型カメラを起動していた。
ーーつまりいつもの連写である。
その行動にすぐ反応したのは、部下のカール。
ズイっと大きな体でジャスティンを威嚇し、魔力を展開する。
「あぁん?……何してくれてんだ、このチビ助」
「ごごご、ごめんなさぃぃぃ」
彼は主にプレトリウス卿の護衛も兼ねており、不躾に使われた魔力にご立腹だった。
サッとジャスティン腕から荷物を受け取るメアリーが、ルードヴィッヒに手渡す。
「大変申し訳ありません。この通り、魔導小型カメラで他意はございませんわ。しかし、無断で撮影するなんて言語道断。お詫び致します」
「……そのサイズは軍事用だったと思いますが」
無礼な行為を受けて空気をピリッとさせるルードヴィッヒに、メアリーは表情を変えずに、瞳を見せながらただ謝る。
アイゴールが一瞬の間に、ベルフェリアのタブレットを手にして持ってくる。
どうやらこんなこともあるかと近くに置いていたようだ。
ベルフェリアがそっとプレトリウス卿に近寄り、謝罪する。
「おじい様、不快な気持ちにさせて申し訳ございません」
「……小型カメラか。ベルフェリアはどんな風に使っているのかな?」
「日々の小さな思い出を残したくて、なんでもない一面を撮影してます」
そっとタブレットをつけて、ジャスティンがひたすら送ってくる凄むカールのドアップをスクロールして、先程撮ったベルフェリアとプレトリウスの写真を開く。
プレトリウス卿は、ジャスティンの連射の盗撮行動にヴィクターが何故調整をかけないのか疑問を感じていたが、写真を実際に見て目を見開く。
少し背景が多いが、愛娘とのスキシンシップを取ったツーショットの、奇跡の一枚に胸を高鳴らす。
「おぉ…!なかなかいい腕だ。
なるほど、写真とは考えたな。……もう少し撮ってお土産に頂こうか」
「はい!おじい様、浴衣姿とてもお似合いです。
……メアリーさん」
「はい、かしこまりました」
「プレトリウス卿……!」
記念撮影にはメアリーの方が撮影技術が高く、そっと合図すると撮影会が始まった。
楽しみだした主の姿に、ルードヴィッヒは苦笑しつつも見守るしかない。
ヴィクターが写真を印刷したいと何度も言うベルフェリアの為に、用意していた転写魔法で焼き増しする。
プレトリウス卿が浴衣から貴族衣へ身支度を整えている間に、アイゴールがアルバムにファイリングしてプレゼントに贈ると、とてつもなく喜ばれたのだった。
***
しかし、ヴィクターはジャスティンの粗相を許さない。
「ジャスティン。後で首吊りだ」
「ひぇぇぇぇ、ごめんなさぃぃぃ」
「は?首吊り……?」
ースパッー
いい音を奏で、廊下に吊るされるジャスティンを見て、オラオラとジャスティンを責め立てていたはずのカールは、ヴィクターの罰にドン引きだった。
***
「ヴィクター」
「……はい」
「もし彼女を不幸にさせてみろ、いつでも迎えに来る」
「心しておきます」
ベルフェリアが即時に作られたアルバムにはしゃいでいる隙に、ヴィクターに釘を刺すプレトリウス卿。
眼光鋭く、感情の消えた一瞬の表情から彼が心の底から忠告していると読み取れた。
ヴィクターの背筋にゾクッとしたものが走るが、男として、夫として表情に出すことなく憮然として返答を返したのだった。
「世話になったな、また会おう」
「はい、お元気で」
来た時と同じように、玄関のドアをバタンと閉めると、魔力が展開され一瞬で転移していった。
カールとルードヴィッヒは最後まで天井に吊るされた生首のジャスティンに釘付けだった。
「ひぇぇぇぇぇ、ごめんなさぁぁぁぁい、まわるぅぅぅぅ!」
4章、完結です!
次回から最終章に入ります。




