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ヴィクターの愛飲する炭酸ドリンクで乾杯し、食事が始まった。
「この炭酸水はいいな。喉越しの刺激が爽快だ」
「是非、お土産にお持ちください。よろしければ作り方をお教えします。ベルフェリアの相談や米のお礼です」
「なに、容易いことだ。……ベルフェリア、考え事かな?」
「あ、ご、ごめんなさい。……魔力があるから、魔法が使えるかもって言われて、浮かれていた自分が少し恥ずかしくて」
魔力量が人並みよりも多いと言われてから、早く自分も魔法を使ってみたくてたまらなかったベルフェリア。
天才魔術師であるヴィクターとプレトリウス卿から教えてもらえば、何とかなると思っていた。
『魔法使い』ではなく魔術師と称される職業の二人は、かなり知能が高くかなり賢い。
つまり魔術師とは、知識と経験や論理を組み立て扱うことのできる専門職だった。
実際に練習しようとしても、ポテンシャルはあるが、ベルフェリアには知識が足りなく、上手く使えるものではなかった。
異世界転生によくありがちな“チート”な能力を見せつけられる!なんて少し期待していた自分が恥ずかしかった。
「はっはっはっ!大人として生まれてしまった弊害だな。本来なら幼少の時から、生活しながら少しずつ知識を蓄えていくものだ」
「……前世の記憶と混同して、中々頭に入っていかない常識も確かにあるとは、自覚してます」
「そこまで悲観することはない。まだ若いのだから、何にだってなれるさ」
「はい、努力します」
特に目指すものがないといえばないベルフェリア。
ただヴィクターの伯爵夫人としてこれから生きていくならば、最低限の知識や技術を身につける必要があるとは考えていた。
ヴィクターは二人の会話を聞いて、腹の中が落ち着かない気持ちになっていた。
……ベルフェリアが何にだってなれる?馬鹿馬鹿しい。
彼女は自分の妻で、この先もずっとこの屋敷で生きていく。それだけで充分だと本気で思っていた。
ただ前世の記憶を駆使して、この国の生活を良くし社会に認められたいと願うなら、ヴィクターが止められる理由などないということも理解していた。
しかも遺伝的な特徴の多い、時魔法の才能があるなら、ベルフェリアの存在を欲しがる人間がいるだろうということも。
ーーそれでも彼女が願う、“自分も魔法が使ってみたい”という素朴で純粋な想いをヴィクターは叶えてあげたかった。
ベルフェリアをじっと見つめるヴィクターに気づいた彼女は首を傾げる。
「ヴィー様……?」
「……私が思うに、ベルはやはり前世の記憶の中で使っていたもので、上手く作用するものがいいと思う。生活でよく使っていた道具はないだろうか」
「んー、そうですね。たくさん便利なものはあったんですけど。電子機器とかは特に構造も原理もわからないのに、使い方は身についてるというかんじで」
「……ほう?どんなものがあるのかな」
興味深そうなプレトリウス卿に、ベルフェリアは、スマホやパソコン、インターネットの話をする。
意外にも、給仕していたルードヴィッヒが興味深そうに口を挟む。
「失礼、そのスマホやパソコンというのは、誰でも使えたんですか?」
「パソコンは仕事や専門的に使われていました。
スマホは一人一台は普及していて、日常生活で使っていました。通話や手紙のようなメッセージを送れるんです。写真を撮ったり、全世界に発信もできました」
「いやはや、実に興味深い」
ルードヴィッヒは、温泉や卓球台などよりも先に再現するべきものがあるだろうと、ヴィクターの考えに不満そうにしていた。
インターネットでベルフェリアが、世界との関わりを拡げようとするヴィクターの気持ちを理解していたアイゴールは余計なことを言うなと殺気を飛ばす。
ピリつく視線に、ドキリとするルードヴィッヒにプレトリウス卿が口を挟む。
「ルードヴィッヒ、控えなさい」
「……はっ」
「すまないね、若いものは好奇心旺盛で欲深いものだ」
「?いいえ。とても便利なものだったので、気になりますよね」
それに気づかないベルフェリアはのほほんと返す。
ヴィクターは、部下を庇うプレトリウス卿に自分の想いを見透かされてるよう感じて居心地が悪くなっていた。
「あとはテレビとか……。あっ!リモコン!」
「……何がいいものを思いついたようだな。食事の後にやってみようか」
先程の時魔法が、まるでビデオを巻き戻すかのように時の流れを動かしていたのを思い出すベルフェリア。
……もしかしたら、上手く魔法が発動するかもしれない。
期待に胸をときめかせながら、メインのリガトーニのパスタが提供され、スパイシーな香りに目を輝かせるベルフェリア。
プレトリウス卿もきらりと目を輝かせ、料理を口に運ぶ。
ヴィクターもつられて口へ運び、そっと水へ手を伸ばした。
そこへアガサが一歩前に出て、説明をする。
「以前、異世界で、辛味のレベルを変えて提供する店があると、ベルフェリア様に聞きまして実践してみました。
ヴィクター様は普通、ベルフェリア様は3辛、プレトリウス卿には5辛でございます」
「わ!やってみてくれたんですね!3辛は3倍辛いんです」
「はっはっはっ面白いな。今度行きつけの店でもやらせてみようか」
「……ごほっ、普通でも十分辛いが?」
ベルフェリアがたまにとても辛いものを食べたがることを知っていたヴィクターだったが、自分の3倍の辛さと聞いて眉間に皺を寄せる。
メアリーが無言でミルクをヴィクターに差し出す。
カールがプレトリウス卿の横に、デスソースをそっと置く。
「辛さが物足りないようでしたら、こちらを」
「実は私は大の辛党でね。行儀は悪いが、美味しい料理には欠かせないんだ。……うん、素晴らしい」
「味変ですね!少し頂いてもいいですか?」
「あぁ、もちろん」
ほんの少しだけだけお皿に出してそっとつけて食べるベルフェリア。
「辛ーい!おいしー!」
「はっはっは!そうか、ベルフェリアも辛いものが好きか」
無邪気にはしゃぐベルフェリアと少し悔しそうなアガサ。
得意げな部下のカールと呆れた顔でそれを見るルードヴィッヒ。
プレトリウス卿は嬉しそうに笑いながらも、どこか目元が潤んでいた。
首にかけていたロケットペンダントを、グッとシワシワの骨ばった手で握りしめたのだった。
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