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ベルフェリアは、なかなか魔力が上手く発動させられないことをプレトリウス卿に相談することにした。
上手く言い表せない状態を、ヴィクターが専門的に補足する。
「なるほど。大方、使おうとしている魔法の相性が悪いのと、発動の論理的思考が足りていないのだろうな」
「具体的なイメージですか……?わたしのイメージだと、魔法使いは杖を使うんですが」
ベルフェリアの魔法使いのイメージを伝える。
シンデレラに魔法をかけ歌って踊って、ドレスアップさせたり、動物を変身させるなどの物語の場面だった。
「そして、箒で空を飛ぶんです」
「はっはっはっ!実にファンタジーだな。
だが実際に魔力を込めて使う際には、もっと仕組みを理解して想像できるものが好ましいな。
前世では魔法がなかったのだから、杖を使っても魔力を乗せることは難しいだろう」
「うーん、そうですか……」
ベルフェリアは、イメージ出来る代わりのものが思い付かず、自分は魔法は使えないのだろうかと、しょんぼり肩を落とす。
「そう悲観することもない。あと観察するに、ベルフェリアの魔力の系統はとても私に似ている」
「えっ!」
「ヴィクターが遺伝的だというのが、正しく濃厚だろう。時を操る魔法から練習するといい。
……よく見ていなさい」
プレトリウス卿が、骨ばった手を机の中心に置かれていた花瓶の生花に手をかざす。
ブワッと魔力が練られ、生花は時間を逆行するかのように花弁がしぼみ始め、固く閉じた蕾に戻る。
「わぁ…!!」
「はっはっはっ。……ほら、もう一度」
目の前で見る【時戻し】の魔法に、ファンタジーさにときめいて目を輝かすベルフェリア。
反応に良くしたプレトリウス卿は、今度は【時送り】を使う。
みるみる蕾が開いて、活き活きと花を咲かせた。
そして、花弁がパラリと机に落ちたかと思うと一瞬で枯れて、色がくすんで茶色く朽ちていく。
ベルフェリアは、その光景に背筋がゾッとするのを感じた。
「……すごい、魔法ですね」
「そうだな。この魔法は使い方を間違えれば危険なものだ。だが、魔法は全てそうだということを頭に入れておく必要がある」
「……はい」
まるで、学校の先生に、ただ使ってみたいからではダメだと諭されたように感じて、ゆっくり首を縦に振る。
その様子を横で見ていたヴィクターは、そっとベルフェリアの肩を抱く。
「プレトリウス卿、ベルフェリアは大丈夫です。
……それに、私がずっと傍に居ます」
「……ヴィー様」
「持て余すようなら、私が保護者になって面倒を見てもいいんだが?」
二人がバチバチと視線の火花を散らす様子に、やっと気付いたベルフェリア。
ヴィクターはまだしも、会って数時間も経っていないプレトリウス卿がベルフェリアを預かろうとする理由がわからなかった。
そこへアイゴールが恭しくお辞儀をして間に入る。
並の精神力では中々できない芸当だったが、本人の脳内はおもてなしでいっぱいだった。
「歓談中失礼致します。お食事の用意が出来ましたので、準備させて頂きます」
そこへ割ってはいったのは、プレトリウス卿の執事ルードヴィッヒ。
「お手伝い致しましょう」
「いえいえ。私たち使い魔は食事をとりませんので、ルードヴィッヒ様もご一緒に座られてはいかがですか?」
「……そんなおこがましい真似が出来るわけがないでしょう」
アイゴールの手から奪い取るように、カトラリーをプレトリウス卿の前に丁寧に並べていくルードヴィッヒ。
それは残念、と言わんばかりに不気味に笑うアイゴールを、彼はどちらかと言うと苦手そうにしていた。
アイゴールは、プレトリウス卿に対してもいつも通りだった。
また、メアリーも通常運転で気配なく現れ、枯れくちた机の上の花を下げようとすると、部下のカールが驚き一瞬ビクッと体を震わせる。
「…っ!……少々、失礼します」
嫌そうな顔をしたカールが、一度お辞儀をして部屋を出ていく。
メアリーの気配のなさに、すっかり慣れてしまっていたベルフェリアは気にした様子もなく、そっとメアリーに目配せして、呼び寄せ耳打ちする。
「……あとで練習したいので、そのお花取っておいてください」
「はい、承知致しました」
使用人たちが無駄のない動きで、昼食の準備を進める間、ベルフェリアは必死に、具体的なイメージ方法を考えていた。
***
一方、厨房ではアガサがせっせと昼食の仕上げを行っていた。
辛党のゲストのために、前菜は唐辛子を練りこんだスパイシーサラミと鴨のレバーペーストのサラダ。たっぷりの唐辛子を効かせたエビのアヒージョを用意。
ふわふわの自家製パンにはハーブが練り込まれている。
スープはビシソワーズに青唐辛子を乗せ、メインのパスタはリガトーニを使ったトマトベースの激辛ソースと唐辛子を混ぜて熟成させた豚肉を使った特別品だった。
ゲストが高齢なため、量より味で勝負したいアガサは、好みの辛めに仕上げたものの、流石に刺激物すぎるかと悩んでいた。
「ベルフェリア様に聞いたあれを使おう」
そこへ、部下のカールが厨房のドアを乱暴に開け入ってくる。
「おい、鳥頭野郎。どうした今回は裏でいい子ちゃんかよ!
あ?……なんか体でかくなってねぇか?くっそ、卑怯だろ!」
「カール様。お久しぶりです。ベルフェリア様の警備も兼ねることになりましたので。
……前回は見下ろされていましたが、今は私の方が大きいようで」
わざとグッと近づいて額を押し付け合うように、威圧しあう二人。
ベルフェリアを体の中に収納し保護するためのシェルター代わりを、二つ返事で引き受けたアガサだったが。
まさかいけ好かないカールを見下ろせるという副産物にニコニコとご機嫌だった。
「どうせ味見もろくにしていない鳥野郎の分際で、プレトリウス様に変なものを食べさせるなよ!貸せ!味見てやる!」
メインの激辛豚肉のトマトソースを、返事を待たずにスプーンですくって味見するカール。
アガサはじろりとカールを睨みつける。
カールはプレトリウス卿の手足として動く力仕事を主に任されており、料理の事など何も知識はないが主人の好みは良く把握していた。
「……肉の雑味が辛さを邪魔してんな。もっと唐辛子いれろ」
「それは雑味ではなくコクと深みです。ベルフェリア様は辛いものも好まれますが、これ以上はやりすぎです」
「ふん!!だから、こうして見に来たんだろう。今回はこちらで追加スパイスを用意した。卓上に置かせてもらう」
ポケットから出した瓶の中身はドロっと赤いソースで、どこから見ても辛そうなデスソースだった。
アガサは白い目でカールを睨みつける。
「またデザートにもかける気ですか。……ほとんど味覚音痴でしょう」
「なんだと……!!」
「こらこら、アガサ。何を遊んでいるんです?前菜から運びますよ」
「カール。人の作ったものにケチをつけるなと言っているでしょう」
中々来ない料理を取りに来たアイゴールとルードヴィッヒが厨房を除くと、今にも取っ組み合いが始まりそうな二人を止めに入るのだった。
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