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この世界の軍事会議の重鎮とも言われているプレトリウス卿から、“じーじ”呼びを許されたベルフェリア。
彼女なりに彼のことを事前に調べたところ、かなりの危険人物とされていて、貴族の中でも畏怖される存在だと認識していた。
もちろん、それはこの世界の常識であり、正しかったが目の前の彼は見るからにベルフェリアにデレデレしていた。
ーーそう。まるで、初孫に初めて会った祖父のように。
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用意した部屋に案内し、暫く歓談し、ベルフェリアの前世の話になり、ヴィクターが掻い摘んで説明する。
「そうか、ベルフェリアは異世界からきた魂か。
それは面白い。興味深い巡り合わせだ」
「ええ、彼女から聞く話はどれも新鮮で、かなり文明が発達した世界のようです。例えば……」
ベルフェリアはヴィクターのプレトリウス卿への態度が、目上の人への敬意が含まれていることに気付き、珍しい姿につい目が行ってしまう。
……ヴィー様の敬語、なんか新鮮だな。
自分の前世の話に華を咲かせているというのに、想定していたより当たりの柔らかい客人に、ベルフェリアはすっかり油断していた。
ヴィクターの新たな一面に、ふっと表情を緩める。
プレトリウス卿は、ヴィクターの話に真摯に耳を傾けつつも、ベルフェリアの様子を見て、ゆっくり目を細める。
「伯爵、いやヴィクターと呼ぼうか。良くぞ、ベルフェリアの体を完成させたな。君の才能には脱帽だ」
「ありがとうございます。プレトリウス卿からの検体の提供がなければ、成し遂げられませんでした。こちらこそ、お礼を言わせていただきたい」
「はっはっはっ」
すっかり和気あいあいとした雰囲気だが、時の魔術師と闇の魔術師の非公開の面会は、傍から見ればかなり危険だった。
何故なら二人で手を取り合って協力すれば、人造人間が造られるということを証明したのだ。
王都に屋敷を構えるプレトリウス卿に、滅多に姿を表せないヴィクターがベルフェリアを連れてうろつけばあっという間に噂になってしまう。
外聞を一切気にしないヴィクターと立場の違うプレトリウス卿はそれを避けたかったのかもしれない。
ーー余計な口を挟まれベルフェリアが国に囲われないようにするために。
そんな国をも揺るがしかねない、世紀の大研究の成果であるベルフェリアは、おっとりのほほんと平和ボケしている。
「あの、そもそも人造人間の研究をされていたのは、プレトリウス卿なんですか?」
「あぁ、そうとも。実はかなり内密にこっそり研究を行っていたんだ。……なんだ、卿などと他人行儀な。じーじと呼んでごらん」
「あっ……!え、えと、なんだか恐れ多くて……」
表情も声色も柔らかい印象しか受けないが、彼の背後に控えている部下二人の圧に下を向くベルフェリア。
じーっと彼女に向けられる不躾な視線は、値踏みのような珍しいものを見るようなものだった。
ヴィクターが、そんなベルフェリアを安心させるように肩を抱く。
「ヴィー様……」
「卿が許してくださっているんだ。呼んで差し上げるといい」
「そうとも。後ろの二人は気にしなくていい」
「はぁ、では。……おじい様…?」
ベルフェリアの前世に、祖父母の存在はなかったので照れくささと違和感に、モジモジと口にするベルフェリア。
その様子にプレトリウス卿は、殊更機嫌をよくし、花が咲いたかのように、にこにこと表情を緩ませる。
「はっはっはっ!血を分けた子というのは、可愛いものだな。……どうだ、ベルフェリア。異世界で困っていることはないか?」
「ヴィクター様に良くして頂いてます」
「そうか。……なんなら、おじい様が隣国の一つや二つ落としてやるぞ」
「……え?ふふっ、冗談もお上手なんですね」
まるで好きなお菓子を買ってあげようと小さな子どもを甘やかすように、サラッと危ないことを口にするプレトリウス卿。
ベルフェリアは冗談だと思って、笑って流す。
その場にいた彼女以外の全員が、同じことを思っていた。
……今の発言、本気だと。
ベルフェリアが首を縦に振れば、本気で軍に働きかけるだろうと全員が確信していた。
さすがのヴィクターも苦笑を浮かべ、口を開く。
「卿がまだまだお元気そうで、何よりです。
……ベルフェリアの衣食住は、なるべく整えるように優先しています」
「強いていえば…。お米をいつか食べたいですね!今ヴィクター様が調整してくれてて、楽しみにしてます」
「米か…。確か南東の国の一部で主食とされているんだったな。他にも似たような文化もあるだろう」
異世界とはいえ、パラレルワールドのように似たような文化の国もあるのかと興味深そうにするプレトリウス卿。
ヴィクターから、屋敷に温泉を作って入浴習慣ができたなど話していたのを思い出す。
「入浴習慣があるんだったな。温泉源を掘り当てるとは、若い者にしては思い切りが良くて、結構。
……カール、ルードヴィッヒ。十日で米を流通させろ」
「はっ!」
「お任せ下さい」
ベルフェリアは、ぱちくりと瞬きをする。
……あれ、今なんて…?
ヴィクターが何ヶ月もかけている米の流通を、二つ返事で了承した卿の部下二人。
「え、えーと、今そこの国と戦争中だと聞いていたような……?」
「ベルフェリアは国の情勢を気にしているのか。感心感心。なぁに、直ぐに腹いっぱいの米を食べさせてあげよう」
「あ、ありがとうございます。おじい様……」
……だからどうやって?
と首を傾げつつ、お礼を言って頭を下げるベルフェリア。
ヴィクターは、無意識に部下二人を睨みつけてしまう。
執事のルードヴィッヒは変わらず無表情だったが、カールはフフンとヴィクターを鼻で笑うように挑戦的な視線を送った。
やり方さえ選ばなければ、米の流通などどうにでもなると言わんばかりの雰囲気に、定石通りの方法でゆっくりルートを確保しようとしていたヴィクターは悔しさを滲ませる。
……ベルの要望は、全て私が叶えたかったのに。
そんなヴィクターに視線をやるプレトリウス卿は、一瞬だけニヤリと笑った。
バチバチと男達が視線で静かな戦いを繰り広げる中、全く気づかないベルフェリアは、恐る恐る口を開いた。
「あ、あの。もし良かったら相談したいことがあるんです」
「勿論、何でも聞いてごらん」
プレトリウス卿は、ゆっくりと指を組んで可愛い愛娘の言葉に耳を傾けるのだった。
お読み頂きありがとうございます。
ベル「噂と違っていい人だなぁ、皆に脅かされてたのかな」
卿「孫カワユス〜」
(((噂通りの人だよ!)))




