8
「アイゴール、メアリー!お前らも全然手加減しないな!」
「騎士様は実力社会でしょう?」
「泣き言をいうなんて情けないですわ」
すっかり卓球大会になり、周りが騒がしい中、ヴィクターはそれどころではない。
ベルフェリアのいつもと違う様子に、怪訝な顔をしていた。
「ベルフェリア。どうしたんだ。ヘンリーに構っていたから、気に触ったか?」
「い、いいえ。全く、そんなことはないです。……えっと、みんなに二人の馴れ初めとか色々聞いて」
「国立学校での話か。……どうしてそれが、私の顔を見てそんなに赤面する理由になるんだ?」
ヴィクターは彼女の腰を掴む腕は決して離さず、目を逸らす彼女の頬にそっと触れ、親指の腹でゆっくり撫でる。
……彼女の心臓の音が聞こえてきそうだ。
バクバクと高鳴る心音が荒ぶっていることを感じ取りつつ、ヴィクターはじっと見つめる。
ヴィクターは、ベルフェリアが自分の感情が分からないと悩んでいたことを思い出す。
……ヘンリーに付き纏われた話を聞いただけで、何がどうなってたか全く分からないが、何か彼女の中で変化が起きている。それも、どうやら良い方向に。
ヴィクターは口元を緩めた。
「……ベル」
「は、はい……?」
耳元で囁くと、おずおずと顔を上げたベルフェリアとヴィクターの目が合う。じんわり瞳が潤むのを見て、ヴィクターは口元が緩む。
……この反応で、恋愛感情じゃないなんていうつもりだろうか。
「私もそう呼んでも?ヘンリーにはすぐ許可を出していたじゃないか」
「……恥ずかしいから、ダメです」
「ふむ。もっと詳しく理由を教えてくれ、ベル」
常に彼女を観察し続けているヴィクターは、ベルフェリアの否定の言葉が、言葉通りの嫌悪感でないことに気づいていた。
ジャスティンとヘンリーに呼ばれてもなんとも感じないのに、胸の奥が毛羽立つ感覚にベルフェリアはソワソワしていた。
ベルフェリアは、今までずっとヴィクターが求めていた『理想の花嫁』はこの用意された身体の方で、自分はオマケだと思っていた。
先程聞かされたメアリーと、初めて会った時にヘンリーが最初に言っていたセリフを思い出す。
『“ビビッと”来るそうですわ』
『嫁さん探すのに成功したって聞いて早すぎてびっくりしたわ』
ーーもしかして、ヴィクターの“理想の花嫁”とはこの体ではなく、自分の魂の方だったのではないか。
求めているのは体ではないと、ヴィクターから何度も言われていたのに、全く信じられなかったベルフェリア。
今まで体を求めるヴィクターを拒否しながら、自分を想う愛情は欲しいなんて、虫が良すぎるのは分かっているのに。
……それでも安心したい自分がいた。
「……ヴィー様は、どうしてわたしを選んだんですか?」
「話していなかったか…?黄泉の国で彷徨う、何万、何億の魂の中から君を見つけたんだ」
「何億って、そんなどうやって……」
まるでラブソングの歌詞のようなことを本当にやって見せたヴィクターは、じっとベルフェリアの瞳を覗き込む。
「選び方はヘンリーから知っていたし、使い魔たちでも何度か感じていたからな」
「魂を見るとわかるんですか……?」
「分かるさ。……“ビビッときた”魂は君だけだ」
ベルフェリアは目が離せなかった。
ぶわっと涙が滲んで、ヴィクターの真っ赤な瞳がぼやけて見えなくなる。
「てっきり……わたしはこの体のおまけなんだって、思っ…!」
たまたま、条件に合う魂だったから、運が良かっただけだと思っていた。
ポロリとこぼれ落ちる涙を、ヴィクターが指で拭いとっていく。
「心外だな、会った時にも言っただろう?……君を待ちわびたと」
「ヴィー様、あの……。…んっ」
おでこがコツンとぶつかって、愛おしげに両手でベルフェリアの頬を優しく掴み、顔を近付けるヴィクター。
怪しい動きに、バクバクと心臓が跳ねるベルフェリアだが、今回はもう拒まなかった。
ちゅっと、唇が重なってゆっくり離れた。
「もう我慢できなかった。嫌か?」
「……いやじゃ、ないです」
「そうか。……なら、もう一度」
再び近付くヴィクターだったが、ベルフェリアを見ると不自然に表情がカチンと固まっていた。
「ベル?」
「……心臓が、口から飛び出そう。このまま死ぬかも」
「まったく。ベルは手がかかるな」
唇を許されただけでも、大きな前進かとヴィクターはベルフェリアを抱き寄せる。
何度も伝えてきたつもりだっだが、ベルフェリアへの想いの深さがやっとしっかり伝わったような満足感に満たされたヴィクター。
これ以上は、時間をかけようと小さくため息をつきながらも喜びで表情は緩んでいた。
甘い空気に包まれる二人にヘンリーが大声をあげる。
「おい!ヴィクターとベル!そんなとこでイチャつくなよ」
「……夫婦なんだから構わないだろう。邪魔をするな、今、良いところなんだ」
「そ、そろそろ、夕食にしましょう!……ね、お腹も空きましたし!」
見られていたことに気付いたベルフェリアが恥ずかしさで限界になり、赤くなった顔を必死に手で仰ぎながら提案する。
「ふふ、ファーストキス激写ですわ」
勿論、メアリーはシャッターチャンスを逃さず、しっかり写真撮影を完遂させていた。
本日は早めの投稿です。
お読み頂きありがとうございます。
甘々加速!




