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「わっ!ペンギン小さくなった…!」
「精霊は体の大きさを変えることもできるんだ。持続性はあまりないが。……後回しにしていたが、ベルフェリアにも魔術を教えないといけないな」
目の前で展開される魔術に目を白黒させるベルフェリアを見て、小さくため息をついたヴィクター。
勝手知ったる屋敷の中に、ずんずんとヘンリーが入ってきた。
「なんだ、ここにいたのか。出迎えろよ〜。一応客人だぞ」
「……いつも研究室に勝手に入ってくるような奴を出迎える必要はないだろう」
「まぁ、いいや。嫁さん、だよな?初めまして、俺はヘンリー・クラーヴァル。ヘンリーでいい」
「は、はい。ベルフェリア・オニキス・シェイド・ブランケンシュタインです」
急にベルフェリアに向き直ったかと思えば、手を差し出され、慌てて握手に応える。
国の使者が来た時の、同じ轍は踏まないぞと、最低限名前だけ覚えていたベルフェリア。
……あんなに練習したのに、返事どもっちゃった。
まさか巨大ペンギンに乗って空から落ちてくるなんて思わなかったため、ベルフェリアはとても動揺していた。
「名前なげーな。ベルでいい?」
「え!……は、はい。お好きにどうぞ」
「気安いな、もっと距離感を取れ。あと名前は完璧だ」
ヴィクターが二人が握った手をゆっくり離させ、ベルフェリアの手を握って握り込む。
ベルフェリアは、自分の名前を一番に聞いた時ヘンリーと同じ感想を口にしてしまったことを思い出して目を逸らした。
すかさずアイゴールがヘンリーをソファに座るように促す。
おもてなしに浮き足立つアイゴールは、死んだ魚のような目でにっこりと口角をあげている。
「お久しぶりです、ヘンリー様。立ち話もなんですから、こちらへ」
「アイゴール!相変わらず目が死んでるな!うわっ!メアリー!お前気配もう少し出せよ!!」
「あら、失礼しました。癖ですの」
ウェルカムドリンクにレモン水を出すメアリーがいつも通り音もなく現れ、ビクッと驚いたあとケラケラと陽気に笑うヘンリー。
国の使者とは、正反対に使用人とも明るく会話をする客人に、ベルフェリアはキョトンとしていた。
「よし、早速乾杯しようぜ!たっぷり酒持ってきたからな!」
「この家に飲酒する人間はいないぞ」
「はぁー?祝い事には酒だろ?」
えー、としょげた顔をしながらも、アガサが運び入れたワインや洋酒の入った木箱に目をやるヘンリー。
「ま、いっか。全部俺が飲む!」
「ヘンリー、お前が飲みたくて持ってきたんだろう。結婚祝いの品じゃなかったのか」
「ノンアルもあるって」
呆れた顔でヴィクターが酒飲みヘンリーを白い目で見ると、屋敷の外でジャスティンとアガサが騒いでいるのが聞こえた。
「ぎょぇぇぇぇ!つつかれる!なんでぇぇぇ!やめてくださぃぃぃ」
「ブアァァァァ!」
「ペップス!こら、ジャスティンから離れるんだ」
荷物を片付けるのを手伝おうとしたジャスティンを追いかけ回し、ツンツンと突く皇帝ペンギンのペップス。
チョロチョロとジャスティンが動き回るせいで、動きが読みづらく、アガサが助けるのに手こずっていた。
「ペンギンって、あんなトランペットを盛大に吹いた音みたいな声で鳴くんですね……」
「ジャスティン、やけに懐かれているんですよ。滞在中のペップスのお世話は彼女に任せましょうか」
斜め上の感想を持つベルフェリアに、のんびり応えるメアリーだった。
***
食堂に移動し、アガサが作ってくれた豪華な昼食に舌鼓を打ちながら、話に花を咲かせていた。
「ヴィクター、よかったな!
嫁さん探すのに成功したって聞いて早すぎてびっくりしたわ」
「いや、2年もかかってしまった」
「充分だろ。お前がやるっていうなら、やるだろうとは思ってたけど」
「……ああ。賛辞は受けよう。ありがとう」
厳密にはヴィクターは花嫁を“造った”のだが、ヘンリーは“探す”と表現した。
まるで運命の出会いをしたかのような言い方にベルフェリアは少し引っかかっていた。
……明るい人だけど、案外ロマンチックな人なのかな。
軽口を叩く飄々とした様子のヘンリーの意外な一面に、ベルフェリアはかなり失礼なことを考えていた。
「ヘンリーの血液の提供のおかげで、ベルフェリアの体ができたと言っても過言では無い。つまりお前は無理やり定義するなら、ベルフェリアの“父親”というわけだ」
「え、俺こんなでかい娘いんの?やばいな、ウケる」
……感想、軽…。
自分の血が流れる人間がいると聞いて、ケラケラと笑うヘンリーにベルフェリアは驚いていた。
たまらず、おずおずと口を開く。
「……あの、ヘンリーさん。
なぜ血液の提供を承諾したんですか?知らないところで自分の血の流れる人間がいるの、怖くないですか?」
「んー、悪ぃ。頭悪いから、そんな先のこと考えてなかったわ。でも確かに嫁さんからしたら嫌かな、今度話しておくよ」
あっけらかんとした返答に、ぽかんとするベルフェリア。
そんなベルフェリアの様子を見てヘンリーは、優しく笑う。
「だって、俺が嫁さん貰えたのはヴィクターのおかげなとこもあるし。今度は俺が協力しないわけにはいかないだろ?」
「……確かに私が伯爵の座を得たのも、このヘンリーがしつこく研究室に通いつめ、“魂の契約”の魔術を完成させろと煩かったのがきっかけだ」
「しつこくって、ひでぇなぁ」
ベルフェリアは、ヴィクターの横顔がうんざりした表情なのに、どこか声色が懐かしさを滲ませているように感じていた。
……ヴィー様、ヘンリーさんのこと本当に好ましく思ってるんだ。
いつぞやに会った、国からの使者カスパルとの対応と全く違うヴィクターの態度。
“父親”であるヘンリーが彼にとって、唯一の心許せる相手だということに気づいていた。
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