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何日かすると、一通の手紙が届いた。
相手は例の友人ヘンリー・クラーヴァルからで、三日後に屋敷来るという知らせだった。
ヴィクターが予想していた通り、数年に一度こうして一方的に送り付けては無理やり顔を見に来る悪友だった。
「ベルフェリアと入籍したことだけは、報告の手紙を送っていたんだ」
「ヘンリー様の結婚式報告の手紙に、ヴィクター様は随分恨めしそうにしていましたから…」
ヘンリーは長年の恋を実らせた相手と、結婚してまだ数年しか経っていないホヤホヤの新婚だった。
こんな偏屈なヴィクターに会いに来るなんて、なんてマメな男だとアイゴールは感心していた。
「てっきり、家庭を持たれたからには、訪れが無くなるものとばかり思っていました。ヘンリー様はお優しいですね」
「何を大袈裟な。……来るなと言っても来るし、来いと言っても来るだろう、あいつは」
「ヴィクター様は、ヘンリー様の奥方に気を使って呼ばないでしょう?」
「……ふん」
ベルフェリアは、おもてなし大好きなアイゴールがソワソワ嬉しそうなのは何となく理解できた。
しかし、ヴィクターもどこか嬉しそうにしているのを感じて、驚いていた。
……仲がいいんだなぁ。人嫌いのヴィー様が、会うのを嬉しがる相手はどんな人だろう。
もしかしたら自分と血が同じというのを聞いて、ソワソワするベルフェリア。
「えっと、騎士?様ですよね。……あれ、騎士って何を守ってるんでしたっけ」
「そうか、ベルフェリアの前世には騎士はいないか」
「世界史でちらっと騎士団みたいなのはあったけど、ほとんどフィクションの中でしか聞いたことないです」
ベルフェリアの頭の中にはお姫様を助ける騎士のイメージが膨らんでいた。
「騎士と言っても、格差はあるんだ。
土地を与えられた領主のような格の高い者もいるし、国に使えて武力を当てにされている叩き上げの騎士もいる。……ヘンリーは後者だ」
ヘンリーは元は中流家庭の平民上がりだった。
ヴィクターの開発した使い魔との魂の契約によって、攻撃魔法を操る彼は、国に仕える騎士となった。
そこで戦果をあげた彼は、褒美として意中の貴族令嬢を嫁にもらっていた。
「そういえば、戦争真っ最中の軍事国家でしたね……。じゃあ軍人さん?みたいな方なんでしょうか」
ベルフェリアの中には筋肉隆々の体育会系の男性を想像していた。ヴィクターがとにかく騒々しいと表現していたのもあったからだ。
……ちょっと苦手なタイプかもしれない。
「肩書きはそうなんだが、ヘンリーはベルフェリアの言葉で言うと……」
「“底抜けの陽キャ”……と言った感じでしょうかね」
「アイゴール、話に入ってくるな!」
引きこもりで根暗のヴィクターと真逆ではないかと驚くベルフェリア。
……どうしよう。陽キャも苦手だ。
ベルフェリアは中学と高校のクラスに数人はいた、常に何が面白いのか中身のない話に笑い合う、ギャーギャーとうるさい“陽キャ男子”を思い出していた。
ベルフェリアはヴィクターのことを人嫌いなんて思っていたが、これじゃ自分も似たようなものだと感じていた。
外部との関わりがほぼ無いブランケンシュタイン家でベルフェリアが精神的に安定していたのは、ヴィクターと性格があっていたと言わざるを得なかった。
***
「お見えになりましたよ」
「え?」
アガサが厨房から顔を出し、一言告げた数秒後。
ーひゅーん、ドスンッ!ー
約束の昼前、中庭に着地音が響いた。
驚き窓の外に目をやり、立ち上がるベルフェリアだったが、ヴィクターも他の使用人たちもいつもの事だとのんびりしている。
窓の外を覗き込んで、より驚く羽目になった。
「え……でっかいペンギン?!」
体長3メートルはあるだろう大きな皇帝ペンギンが、砂埃をあげながら中庭でお腹を地面に擦りつけている。
体に何か荷物が括り付けられていて、人影も見えた。
「ヘンリーの使い魔、精霊のペップスだ」
「ペップス!?……い、今上から落ちてきましたよ…?」
「ペンギンは飛べない鳥だから、驚くのも無理はない。ヘンリーは風魔術が得意なんだ」
飛べないとか飛べるの前に大きすぎるうえに、精霊ってなんだと、動揺を隠せないベルフェリア。
ヴィクターは、まるでジャスティンのようにキョロキョロと二度見三度見を繰り返すベルフェリアを落ち着けようと背中を擦る。
「おーい!ヴィクター!
結婚祝い持ってきたぞー!ででこーい!
……お、アガサじゃん。デカくなったなー、お前」
「まったく…着いて5秒で騒々しいやつだな」
うんざり顔でヴィクターが無視する。
先に出迎えに行ったアガサが、ペンギンにくくり付けられていた荷物を解いて手伝っている。
ヘンリーという男の大きな声だけが、室内にいても聞こえていた。
立ち上がったペンギンのお腹を撫でる、黄色寄りの金髪を短く刈り込んだ笑顔の眩しい細身の男性。
ニコニコと人当たりの眩しい笑顔とともに、屋敷の方を向いて大きく手を振っている。
……私の思い描いていた騎士様と違う!!
姫と騎士のラブロマンスを思い浮かべていて、すっかり明るい性格の美男子か、筋肉隆々のムキムキの男性を想像していたベルフェリア。
じーっとヘンリーを見つめるベルフェリアをヴィクターが観察しているが、ベルフェリアは気が付かなかった。
つまり、肩書き的にベルフェリアの“父親”との対面であった。
……流石にお父さんは無理あるかも。若すぎる。
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3章開幕です!




