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ベルフェリアの影から、音もなくヌルリと飛び出してきたヴィクター。闇魔法の高等魔術『影移動』だった。
そのまま後ろから、強くベルフェリアを抱きしめた。
ひゅっとベルフェリアが息を詰まらせる。
下を俯くベルフェリアの顔をゆっくり起こして、呼吸をしやすくするヴィクター。
ベルフェリアの体から立ちのぼる魔力は、全く威力が衰えない。
「ベルフェリア。ゆっくり息を吸おう」
「ヴィー、さまぁ、…で、できな」
恐怖と興奮から、はっはっと呼吸が浅くなるベルフェリア。
「できるさ。ほら吐いて」
ぶわっとベルフェリアを覆い尽くすヴィクターの膨大な魔力。物理的にベルフェリアの魔力ごと押し戻す。
ゆっくりベルフェリアの体に魔力が回り始め、次第に呼吸が整っていくベルフェリア。体に回ったヴィクターの腕にギュッとしがみつきながら、必死に深呼吸を繰り返す。
数分ほどかけて、ベルフェリアの体の周りにゆっくりゆっくり魔力が循環しだし、みるみる整っていく。
……やっぱりこの暖かい感じ。わたし、知ってる。
ベルフェリアは、体に纏うヴィクターの魔力の感覚に、どこか覚えがあった。
アイゴールとアガサかほっと安堵で胸を撫で下ろす。
「お、収まったようですね」
「よかった。
それにしてもベルフェリア様の魔力もなかなかの量で。
……あの量を暴走させると、一般人は危ないのでは?」
「全く。ヴィクター様が早く魔力の勉強をさせないからですわ」
メアリーが文句言う。
二人の周りでうるさい使い魔たちに、ヴィクターは小さくため息をつく。
ベルフェリアは息も絶え絶えに脱力しており、ヴィクターに体をもたれかかりながら、その場にへたり込む。
メアリーが冷や汗でびっしょりのベルフェリアの体をタオルで拭いていく。
「……も、もう死なない?」
「死なせるわけないだろう。驚いた弾みで魔力の循環が狂っただけだ。
今のその感覚を忘れないようにしよう。無意識にできていたんだから、すぐにできるようになる」
「…あ、あのヴィー様。
わたしやっぱり、ヴィー様の魔力?覚えがあります。もしかして…」
今までもヴィクターに触れる度感じていた、懐かしさがありつつ、包み込まれるような安心感。
まるでずっと前から知っているような気持ちになっていた。
……それを体が覚えていた。
ベルフェリアの体は大人として造るために、幼い頃から成長と共に少しずつ自分の魔力に慣れるという、習慣を身につけることはできなかった。
そこで水槽の中のベルフェリアの体に、持ち合わせた魔力が暴発しないよう、体の成長する過程でヴィクターが自分の魔力で覆い、押し留め、循環を促していた。
……膨大な魔力を持つヴィクターだからなせる技だった。
魂が入り意識さえあれば、すぐにコツが掴めるだろうとヴィクターは思っていたし、実際ベルフェリアの魂が宿ると自然と魔力は回っていた。
「ああ。ベルフェリアが目を覚ますまで、定期的に魔力で覆い尽くしていた。……肉体の記憶か、興味深いな」
どこか嬉しそうにするヴィクターとは裏腹に、ベルフェリアは絶望していた。
それはまるで、生みの親の母親の体温に安心する子どものようではないかとベルフェリアは感じた。
……目が覚めてすぐ、ヴィクターに触られて心地よかったことを思い出す。
『あったかい…。もう少しこのままでもいいですか?』
『あぁ。…寒いか?』
『いいえ。なんだかあなたの手、ホッとします』
ベルフェリアは胸の奥に感じた、ヴィクターへの感情がなんなのか分からなくなっていた。
……もしかしたら、体が覚えた安心感が彼への想いを錯覚しているだけなのかも。
このままずっと、大きな力に包み込まれるような愛情に溺れていていいんだろうか。
ベルフェリアはモヤモヤした気持ちを感じながら、必死で自分の魔力の循環を体に覚えさせていた。
「ベル様ぁ!!
本当に本当にぃ、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ」
綺麗な流れるようなスライディング土下座を繰り出したジャスティンが、ベルフェリアの前に現れる。
ヴィクターはジャスティンを高圧的に見下ろし、右手で魔術を展開する。
「ジャスティン。
あれほど危険な目に合わせるなと言ったはずだ!」
「はい、ごめんなさい…」
「ヴィー様!わたしが勝手に落ちて、びっくりしただけですから」
怪我もありません、と続けるベルフェリアに眉間にシワを寄せるヴィクター。
ふと、一瞬ベルフェリアの表情が暗いことに気が付いたヴィクターだったが、魔力の暴走で疲れが出たんだと判断した。
「……ベルフェリアがそう言うなら、罰は一晩で許す」
ーバシュッー
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!クビ!クビ切られたァァァ!」
「ひぃ!ジャスティンさん!?……ヴィー様!!」
「だめだ、有言実行だ。反省したら、明日の朝くっ付けてやる」
ヴィクターが右手を振るのと同時に、スパッとジャスティンの首と胴体が分かれ、ジャスティンとベルフェリアが叫び声をあげる。
……やっぱり、物騒!!!
その晩、ジャスティンの生首は言いつけを守らなかった罰として、屋敷の廊下に吊られることとなった。
「明日の朝、絶対下ろしてくださいね…!
えーん、ジャスティンさんごめんなさい、わたしのせいで」
「いいんですぅぅ、お怪我がなくて何よりですぅぅ。反省しますぅぅぅ!
……なんか、なんか回ってますぅぅ!お助けぇぇぇ」
「うるさい生首だな。黙ればそのうち止まるだろう」
首だけでベルフェリアの言葉に頷いたジャスティンは、反動で吊った縄が揺れてくるくる回っていく。
ギャーギャーうるさいジャスティンと、心配で顔を青くするベルフェリア。
「まあ、なんてシュールな光景……。嫌いじゃないですわ」
「メアリーさんの、鬼畜ぅぅぅ!!」
屋敷の玄関ホールに、ジャスティンの叫び声が響いたのだった。
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次回で2章完結です!
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