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“怪物”伯爵は愛妻家♡ 〜嘘がつけない人造花嫁は、拗らせ夫とクセ強使い魔に甘やかされすぎて危険です〜  作者: 藤崎まみ
第2章 怪物屋敷で家族ごっこ

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ベルフェリアとヴィクターの関係は、劇的な変化はなかった。

しかし、どこか二人の間を取り巻く空気は少しだけ柔らかくなっていた。


夜寝る前の話は前世あるあるから、ベルフェリアの好きだった映画や本などの話になった。たまにネタが思いつかない日は、日本の昔話を聞かせたりしていた。


ヴィクターもそれにつられて、この世界の童話を聞かせたり、お互いの話を、寝る前だけでなく日中でもするようになっていた。



「え、この世界……っていうか、ここの国って結構危ないんですか?」

「危ないと言われると難しいが、ベルフェリアの前世のとは違って、国同士の領土争いが耐えないな。

……興味があるなら、国際新聞も読むか?」

「えと、一応見たいです」



……情勢がそんなに荒れているなんて知らなかった。


完全に理解するには、地理の勉強からしなければと思いながら、戦争があちらこちらで起きていると聞いて驚いていた。

ベルフェリアは現代の平和ボケの頭を殴られたような気持ちになっていた。


アイゴールが食後のコーヒーをベルフェリアに入れながら、補足する。



「ご安心ください。我がブランケンシュタイン家は国の北東に位置しまして、隣接する国とは高い山が隔てており、火の手はもっと南の遠い国境付近です」

「そうなんですね……。もう少し勉強しないと」

「戦争に直接加担する仕事ではないが、魔法騎士団に運用する魔術を開発しているんだ。そろそろ長期休暇が終わるから、日中は仕事をすることになる。

…アイゴール、少しずつベルフェリアに教えてやってくれ」



まずはベルフェリアの精神の安定を優先するため、生活を整えられるように休みを取っていたヴィクター。

……実は決してサボりまくって遊び呆けていたわけではなかった。


ベルフェリアが目を見開き、大袈裟に驚く。



「えっ!休暇!?……ヴィー様、仕事あったんですか!?」

「私は()()()じゃない」

「花嫁作って、デレデレして、温泉掘って、カメラに、卓球に、温泉でしっぽり。……ニートと言われても仕方ないですわ」



メアリーがヴィクターの最近の行動を指折り数えて言葉にする内容に、アイゴールがプッと吹き出す。


……アイゴール、またウケてる。


ベルフェリアは、ヴィクターをからかう内容の時だけ、アイゴールが笑いのツボが浅いことに気付きはじめていた。


死んだ魚のような目で声を出して笑う姿は、より不気味だった。しかしベルフェリアはその光景に慣れてしまって、むしろ微笑ましい気持ちになっていた。



「全くお前たちは、主人を敬う気持ちは少しくらい持ったらどうだ」

「ならば、そう“契約”なさればよろしかったのに」

「我々は、ヴィクター様の身の回りお世話しか承っておりせんので。……ニートな怪物伯爵、はははっ」

「アイゴール!笑うんじゃない!」



憤慨しながら研究室に向かうヴィクターを、目で追うベルフェリア。


屋敷の中で、ベルフェリアの使う現世の言葉がじわじわ浸透していることにむず痒くなる。


同時に、ヴィクターを怒らせてしまったかとソワソワしていた。



「怒らせちゃったかな…」

「大丈夫ですよ。

それに、ベルフェリア様の研究をされる前は、確かに天才魔術師でしたけど、人間の生活レベルは最低でしたわ」

「ええ。ヴィクター様が研究集中すれば、二徹が当たり前。食事は後回しで最悪ポーション。湯あみなど一週間に一度、それも無理やりさせるほどでした」

「……それって早死にしませんか…?」



ヴィクターの以前の生活を聞いて、ドン引きのベルフェリア。


加えて、何年も屋敷に引きこもりで他者との関わりは、強引に門を叩く友人のヘンリーのみだった。

使い魔たちはむしろ仕事が無さすぎて、せっせと使われない屋敷内を清掃をするしかなかった。


……通りでこの屋敷は、生活感はないのに清潔に保たれていたんだ。


今では、ベルフェリアと寝室を共にするため毎日睡眠を取り、食事を一緒にしたいというベルフェリアのオネダリに合わせて三食食べるようになった。

好意が空回りして掘った温泉に、ヴィクターも気に入ってほぼ毎日入浴していた。


生活感の欠片もなかったブランケンシュタイン家は、ベルフェリアの目覚めによって確実に活気づいていたのだった。



「ヴィー様が健康的になったならいいんですけど、メアリーさんたちのお仕事は増やしてますね……」

「まぁ、ベルフェリア様はヴィクター様よりずっと手がかからないですわ。お手伝いまでしてくださってますし」

「…あ、そうだ!ジャスティンさんと、今日はお布団干すんでした」



残っていたコーヒーを飲み干し、二階へ向かうベルフェリア。


もう先にジャスティンが、窓から顔を出して窓の外に手すりのようにつけられた竿に、布団を干しているところだった。



「ベル様〜!おはようございますぅ」

「お手伝い間に合ってよかった…!

シーツは洗ってくれたんですね。わたしもやります」

「助かりますですぅぅ」



高い木に囲まれた屋敷は、太陽の光が届きにくく寝具を干すには日当たりの良い二階の手すりがうってつけだった。


最後のシーツを洗濯バサミで止めようと手を伸ばすベルフェリア。

すると突然、強い突風が吹きつける。

シーツの中に風が入り込み、ブワッと舞い上がってしまう。



「おわぁぁぁぁ!なななな、なんとぉぉぉ…!」

「わ、風つよ…!」



せっかくジャスティンが洗ったシーツが飛んでいかないように、ギュッと握るベルフェリア。グンと強く引っ張られて体が前のめりになる。


ーズルッー



「はぇ…?」

「ベル様ぁぁぁぁ…!?」



あると思った所に手すりがなく、掴み損ねた左腕は宙をかく。窓枠から体が乗り出し、二階の窓からそのまま中庭へ、落ちていく。


……うそ、落ちる……!


ベルフェリアは体に感じた浮遊感に恐怖で目をぎゅっと瞑る。



「ベルフェリア様…!!」

「……あ、アガサさん…?」



しっかり警戒を怠っていなかったアガサによって、ベルフェリアの体は抱えられ、地面にゆっくり降ろされた。

勿論、体に傷ひとつなく、一緒に落ちたシーツも無事だった。



「大丈夫ですか?」

「……う、うん。び、びっくりしたぁ…」



まさか二階の窓から落ちるなんて、思ってもみなかったベルフェリア。

バクバクと弾む心臓が、落ちた恐怖を思い出させる。


ードクンッー


ードクン、ドクンッー


ベルフェリアが自分の心臓の音が、どんどん大きくなるのを感じたその時。



「え……?なに、これ…!」

「これは…!」



ぶわぁぁぁ、とベルフェリアの体から立ちのぼる魔力に、反応するアガサ。


ベルフェリアは不思議と気分が高揚するのを感じた。

ふわふわと体が軽く、酒を飲んで酔っ払ったような、生暖かいシャワーを浴びてるような感覚になっていた。


騒ぎに気づいたアイゴールが駆けつけ、遠くから声を荒らげる。



「魔力暴走です!下手したら命に関わります…!」

「え!?し、死ぬってこと!?どうしたらいいの?!」

「落ち着きましょう、ベルフェリア様。

魔力は生命エネルギーのようなものです。今、体から暴走して吹き出てる状態です」



血液で言えば、大量出血にならば死に至る。

そんな状態だと言われ、興奮状態のベルフェリアはパニックを起こす。



「こ、こわいこわい…!なんか体から出てるぅ…!」

「体に押し込めるようなイメージで!」

「いやいや、体にまとわりつかせるような!」


「焦らせないでくださいませ!!」



感覚派の野生動物であるアイゴールやアガサがなんとか魔力を体に押し込めるように指示を出す。

それを見た、遅れて駆けつけたメアリーが頼りにならない男たちを怒鳴りつける。



「メアリーさぁん…!」

「ベルフェリア様…、まずは呼吸を整えましょう」



ベルフェリアは涙目だった。

人によって魔力を扱う感覚は違い、メアリーはどう説明しようか迷っていた。


頭を抱えて俯くベルフェリアは、恐怖と高揚感に息苦しくてたまらなかった。


……助けて、誰か。()()()()


パニックの中で頭に浮かんだ、前世の母がここに存在したとしても、少女に見向きもしなかっただろう。


ーー前世で死んだあと、誰も気にもとめなかったかもしれない。


ヒヤッと心が冷えて、どこか冷静に思った。


今ベルフェリアを囲み、心配そうにしている使用人たちは、ベルフェリアにとって()()よりもかけがえのないものに思えた。


……わたしが欲しかったのは、これだったのかな。

死に目を惜しんで貰えるような人間になりたかった。


そして浮かぶヴィクターの顔。



「死にたくな、……ヴィーさまぁ…!!」


「……ベルフェリア、大丈夫だ」



音もなく現れたヴィクターの腕に抱かれた時、ベルフェリアは確実に親愛とは違う気持ちが生まれていた。



……来てくれた。





お読み頂きありがとうございます!


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