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ベルフェリアがカメラを手にして数日。
ベルフェリアの趣味に、メアリーとジャスティンに頼んで、日々の暮らしを撮影することが加わった。
アガサの作ったアートのようなデザートや美味しいご飯と一緒に撮影して貰ったり、ヴィクターとのツーショットだったり。
はたまた、ジャスティンの粗相の瞬間の激写などだった。……もちろんメアリーの独断撮影である。
溜まった写真を、寝る前に寝室で見返すベルフェリア。
その日も温泉に浸かって温まった体は、ほこほこしていた。
「また写真を見ているのか。余程気に入ったようだな」
「はい!……まさか卓球台まで作るとは思いませんでした」
「温泉施設には卓球がセオリーなんだろう?
……アイゴールとメアリーの一騎打ちはなかなか見ものだったな」
温泉あるあるの補足で、旅館やホテルには卓球台があって遊べる、とポロッと口にしたベルフェリア。
『それは楽しそうですね。再現できませんか?』
ぜひやってみたいと声上げたのは、死んだ魚のような目を輝かせた執事のアイゴールだった。
本人が所望しただけあって、少し説明しただけですぐにコツを掴み、回転サーブを繰り出すまでになった。
タブレットの写真は、回転サーブを食らって打ち返せず怒るヴィクターとドヤ顔のアイゴールが映し出されていた。
ベルフェリアはその時のことを思い出して自然と笑みを浮かべる。
ヴィクターがベッドの隅に座るベルフェリアの隣に腰掛けながら、一緒に画面を覗き込む。
「……あいつは忖度を知らないんだ」
「ヴィー様は、手加減された方が怒りそうですけど」
「む。
……ジャスティンは試合にならなくて、点数係になっていたな」
「ふふ、アガサさんもピンポン玉をいくつもダメにして怒られてましたね」
次々に写真をめくっていくベルフェリア。
ジャスティンは一度もラケットに球が当たることはなく、落ち込みながら点数表示を抱えているところ。
アガサはつい力が入りすぎて、ピンポン玉を床にめり込ませて、焦っているところ。
メアリーは流石、前世うさぎ。ステップが軽やかでアイゴールとの試合は白熱した戦いとなった。
撮影者がジャスティンのため、かなりブレているが、逆に激しい戦いだったことを感じさせるいい写真となっていた。
そして、可笑しくてたまらなくて、手を口に当てて楽しそうに笑うベルフェリアの写真が残されていた。
……前世で、こんな風に笑ったことがあっただろうか。
「……いい写真だな。これもジャスティンか。
…ベルフェリア?どうした」
「わたし、……こんなに楽しい日々が送れるなんて思っていなくて」
「クセの強い使い魔ばかりだが、そう言ってもらえてよかった」
「与えてもらってばかりで、罰が当たらないかなって怖いくらい」
ベルフェリアがまるで宝物を抱えるように、タブレットを胸に抱く。ブランケンシュタインの屋敷の生活は、何不自由なく過ごせ、物と情に溢れた温かい場所となっていた。
それはベルフェリアが、心の底から望む“家族”のようだった。
「どうしたら、ヴィー様と夫婦らしくなれますか…?」
傍にいてくれればいい、そう言われているベルフェリアだったが、毎晩こうして面と向かって話をすると、一字一句逃さず、しっかり聞いてくれるヴィクター。
胸の奥で確実に、彼への思いが育っていく自分に気が付いていた。
……でもこの気持ちが、夫婦として相手に向ける感情なのか、安心感を与えてくれる保護者に甘えるような気持ちなのか分からなかった。
そしてヴィクターは夫として見ることを自分に望んでいるのも、痛いほどわかっていた。
「ベルフェリア」
「…はい」
「私はもう夫婦だと思っている。君がまだ違うと思っているから、その質問が出るんだろう」
「え!……そ、そうかもしれません。ご、ごめんなさい」
ガン、と図星をつかれてショックを受けるベルフェリアに、対して気にした様子もなくニヤリと笑うヴィクター。
彼からしてみれば、夫婦になりたいとベルフェリアが考えてくれただけで嬉しかった。
「ならばスキンシップを取るようにしようか。
愛情ホルモン、オキシトキシンが出て刺激になるそうだ。例えば……寝る前のハグはどうかな?」
「ん、それくらいなら」
ギュッと包まるように優しく両腕に抱き込まれ、おずおずと背中に手を伸ばすベルフェリア。
体に触れるとお互いの体温が伝わって、ヴィクターの香りが強くなる。なぜかこの温かさをずっと前から知っていたような気持ちになった。
そっと目を閉じると、ヴィクターの胸元に顔を擦り寄せる。
すると、バクバクと自分の鼓動よりも早いくらいの心臓の音が聞こえていた。
「…んぇ?ヴィー様、心臓大丈夫ですか!?」
「不整脈じゃない。……好きな人に触れたら、緊張くらいするものだろう?」
「えぇっ…!?」
てっきりいつも通り涼しい顔をしていたヴィクターが、まさかハグで動揺しているなんて思っても見なかったベルフェリアは驚きを隠せない。
同時に、胸の奥がくすぐったくなるのを感じていた。
……なんでもできちゃう、マッドサイエンティストだと思ってたけど、可愛いところもあるんだぁ。
興味深そうにじっと見上げてくるベルフェリアから、少しだけ照れるように目線を外すヴィクター。
ベルフェリアはそっと彼の肩に両手を置いて、グッと自分の体を伸ばす。
ーちゅっ…ー
頬に贈ったキスは、親愛のキスか。お礼のキスか。
それとも……。
「いつもありがとう、ヴィー様」
「………生殺しか?」
「あら、シャッターチャンスですわ」
バッチリのほっぺにチューの瞬間をを撮影したメアリーだった。
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