2・恋日和
空一面に青色のペンキをこぼしてしまったような天気のある日、学校へ行くと、担任の大渕先生が「転校生を紹介します」と、教壇に立ちながら薄くなった頭部をポリポリと掻いて言った。
教室のドアから現れた小柄な女子生徒は、まるでどこかのアイドルグループからやってきたような可愛らしい透明感のある美女だった。
「はじめまして。染谷春奈と言います」
彼女の口から発せられた言葉は緊張のためか少し震えていたが、とても綺麗で落ち着く声だった。
「はじめまして。僕、太田太郎と言います」
僕は、シンと静まり返っていた教室の中で、無意識に声を出してしまっていた。転校生の染谷春奈があまりにも美しかったから、夢見心地で思わず返事をしてしまったのだ。
僕のその声は、その場にいたクラスメイトたち全員の耳にまで届いてしまったらしい。クラスメイトたちの口から、次々に笑いが漏れていた。大渕先生も、度の強いメガネの奥で目を丸くさせながら僕のことを見つめてくる。だけど僕は、そんなことはまるで気にしていなかった。
どうやら僕は、そのとき一瞬で恋に落ちてしまったようなのだ。染谷春奈の容姿端麗な姿にこの心が一撃されてしまったのだ。
きっと、僕の前の席に座っていた上窪に、この感情も読みとられてしまったのだろう。上窪はこちらを振り向きながら、意味ありげな目で笑っている。
たぶん今の僕の目は、ピンク色にでもなっているのだろう。だから上窪は簡単に僕の心に気づいてしまったのだ。ピンクは恋をしているときの象徴みたいな色だと僕は思っているから。
けれど、上窪にそのことを訊いてみたら、「いや」と首を横に振られた。
「太郎。お前の目は今、ただのピンク色じゃないぞ。ピンク色の上に、ハート型になっている」
上窪は周りに聞こえないよう小声で、僕にそう教えてくれた。
「えぇーと、じゃあ、太田太郎君の横の空いている席……窓際から二番目の一番奥の席に座ってくれる?」
大渕先生は、転入してきた染谷春奈に向かってそう言った。
染谷春奈の席は、何と窓際に座っている僕の真横の席だった。ち、近いじゃないか……。
「よろしくね」
教壇の方からこちらに向かって歩いてきた染谷春奈は、僕のそばに立つとそう言って微笑んでいた。
あ、あ、あ、あ……。僕の心はドキドキと大きな音を立ててうるさかった。




