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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第7章 ヘクセレイギルト
64/65

第63話 道中での出来事

大変、長らくお待たせて、申し訳ありません。

何とか文章を上げて、稚拙ながらも何とか形にしました。

 様子がおかしい2人に反応したのは、アランであった。


 「2人は知り合いなのか?」


 真田は気まずそうにして無言になり、シンプソンは不快を隠そうとはしなかった。

 2人の反応は別々だが、お互い出来れば出会いたくは無かったという気持ちは一致しているように見える。

 ゆっくりと口を開いたシンプソンは、言葉にするのも嫌そうな表情で。


 「知り合いじゃなくて、単に前に合っているだけ。しかもこいつは、私が難無く倒せる格下の相手に、突然横槍を入れて倒したわ。そして何を思ったのか私に対して、勝手にやった事だから気にする事は無い、と。格好つけて去っていったのよ。どんな格好ずけよ、自分が物語の主人公とでも錯覚したのかしらと思ったわ」


 アランは本当かどうか確認するように、真田の方へと向いた。

 真田は反応する事すら憂鬱そうな表情で、躊躇いつつもこくりと頷いた。


 「あの時は同業者の馬鹿な行為を止める為に、()むに()まれずという側面が大きかったんですよ。それが彼女にとって余計な事だったらしく、朝の時も怒られてしまって」


 「馬鹿な行為とは、どういう意味だ」


 真田は多少の躊躇いを感じながらも。


 「私も最初から見ていた訳では無いので、詳しくは分かりませんが。同業者が故意か偶然か知りませんが彼女に接触して、それで腕が折れたから治療費を置いて行けと、難癖付けたようで。それをおかしいと彼女が反論したのです。後は売り言葉に買い言葉。徐々にエスカレートしていき、彼女が相手を馬鹿にした発言をしたのです。それに怒って剣を抜こうしたのです。流石にこれ以上は、冗談では済まないと思い私が割って入ったのです。後は聞いての通りで」


 「それは割って入らないといけないな。寧ろ、そのまま見て見ぬふりしていたら、俺は怒っていたかもな。すまない、シンプソンさん。同業者が馬鹿な事をしたようで」


 「構いませんよ。あの時は急いでいたのを邪魔をされて、少々取り乱しましたが。本来の冒険者というものは、ああいうものです。ですので、朝の事は私の未熟さゆえの出来事。反省する事はあっても、相手を非難する事は無いのです」


 取り敢えず解決出来たようなので、アランは安堵の声を上げた。

 しかし、朝の出来事を知っている真田は、違う意味で聞いていた。

 一見すれば、自らの行いを反省し寛大な心を持って相手を許すという旨の発言だ。

 だが、朝の時に彼女はこう云った。

 冒険者というものは馬鹿なのか、馬鹿だから冒険者をしているのか、と。それに冒険者というものは、乱暴者だと。

 それは学の無い者でも力さえあれば、冒険者というものは務まる。だから野蛮な行為をしても、仕方がない事だと意味し。英知を極めようとする自分たち魔術師には、足下にすら及ばないという意味になる。

 反省するどころか、完全に上から目線の発言である。

 また面倒な事が起きそうだなと、真田は人知れずに溜め息を吐いた。

 エルウッドも同じようで、明らかに苦慮をしている複雑な表情をしている。

 

 「まぁ、問題が解決して何よりだわ。‥‥‥ここで合同任務についての説明をしてもいいですが、それだと他の人達に迷惑をかけるだけだから。2階の空いている部屋に行きましょうか」


 エルウッドはスタスタと年齢を感じさせない程の速さで、目的の部屋へと向かった。

 シンプソンは少し不満げはあるようだが、後を付いていくようだ。

 真田もアランと共に付いて行くのだが、ある違和感に気付いた。

 食堂に居る他の魔術師たちからの視線が、野次馬のようにただ好奇心丸出しの視線では無く。死を迎える重病患者のような哀れみを孕んだ視線を向けているのだ。

 真田は内心不思議に思いながらも、エルウッド達の後を歩くのだった。



 「この部屋で今回の合同任務について、説明いたします」


 真田たちが案内されたのは、十人位が一度に座れる木製の長机と10個の椅子が置いてあるシンプルな部屋であった。

 此処に来るまでに部屋の使用許可の事務手続きをエルウッドが取っていないので、如何やら事前に使用許諾をとっていたらしい。

 エルウッドが椅子に座ると、シンプソンと真田たちは反対側の椅子に座った。シンプソンとは1つ間を空けての事だ。

 シンプソンは何かを探すかのように、キョロキョロと視線をせわしなく動かしていた。


 「あの、ギルト長はどうされたのですか。秘書の方からギルト長に食堂で待っているように言われていて、先程は居なかったのでてっきりこの部屋に居ると思いましたが」


 「‥‥‥ギルト長は緊急な案件が発生しましたので、処理をしている最中です。詳細は控えますが、学園の重要事項と言っておきます。ですので、ギルト長から詳細を聞いた私が任務について説明致します」


 真田は嘘は言っていないなと、内心付け加えた。


 「今回、貴方達にして貰う合同任務は輸送任務となっています」


 「輸送任務ですか。初めてだから、楽しみだな」


 アランの何気ない呟きに、シンプソンは気楽でいいなとぼそりと呟いた。


 「準備が出来次第、貴方達3人はラカという都市に赴いて貰います。到着したら、ラカ支部のマグリ支部長にギルト長の署名入りの紙を渡し、目的の荷物を受け取りエルウッドギルト長の許に持って来て貰うという輸送任務となっています。それは宜しいのですね」

 

 アランは少し緊張した面持ちで、胸中の疑問を吐露した。


 「あの。その受け取るという荷物は、どんな物でしょうか」


 「受け取る荷物に関しての情報開示は、私には許可されていません。これはヘクセレイギルトの機密に関わる事で、部外者は勿論の事。構成員であるシンプソンにすら、何も言えないとなっています」


 「それを如何にか教えて貰えませんか。荷物がどんな物か分からなければ、此方としても守りようが無いです」


 「懸念は分かります。敵襲の際に輸送の荷物が分からなければ、行動の優先順位が定まらないと知っています。‥‥‥でも、先程言いましたように。荷物に関するあらゆる情報を言う訳にいきません。そこは機密情報と諦めて下さい」


 あらゆる攻撃を跳ね返す盾のように、あまりの毅然としたエルウッドの態度である。

 取り付く島もない事に、真田は二の句を言えずにいた。


 「何か他の質問はあるかしら」


 シンプソンは困惑を浮かべながら、ゆっくりと手を上げた。


 「輸送任務について疑問はありますが、達成時の褒賞金が提示されていません。これは、無料で任務を行えという事ですか」


 「いえ、ギルト所属の人間を動かしますので、ギルト長は無償でさせる事は無いようです」


 エルウッドは制服のポケットから、折り畳まれた2枚の紙を取り出した。

 それを広げて、真田たちに見せるかのようにして広げた。


 「今回の任務の重要性をギルト長は重く見ておりまして、1人300万フラルを褒賞金として、用意しているそうです」


 普段はただランク上位の依頼書を眺める事でしか認識できない、高額な褒賞金に真田たちは心の底から驚いた。

 当然ながら成功時の褒賞金が高いというのは、それだけ依頼が危険であり高度な知識や技術を要求される。まずもって、真田たちのランクでは、目にする事が出来ない高額な褒賞金。アラン達の生活水準ならば、多少贅沢をしても何の問題も無い金額だ。

 その事実にアラン達は否応が無く、依頼に対する意気込みが高まっていた。

 しかし真田だけが、重要な選択肢を迫られているかのような難しい顔をしていた。今回の件の原因でもあるがゆえに、どうしても額面通りに受け取れないのだ。


 「集合は出来るだけ早くが良いと思いますし、準備を考えて明後日の夜明けとします。場所は南門になっておりますが、よろしいですね」


 アラン達は了解したとばかりに、一斉にしっかりと頷いた。


 「後の細かい所は、当人同士の話し合いでお願いします。私は他の業務がありますので、先に退室します。終わったら、他の職員に言わずに勝手に帰っても良いように言っておきます」

 

 エルウッドはそういうと、わき目も降らずに部屋を出て行った。

 部屋に残されたのは、依頼を何ととしても完遂させると意気込む、アランとシンプソンの2人と、もう一仕事が残っているなと、人知れず溜め息を吐く真田が残された。



 帝国の何処かの街にある、とある宿屋がある。

 そこ自体は何か料理が美味しいという訳では無く、珍しい酒が揃っているという訳でも無い。ごく普通の何の特色も無い一般的な宿屋である。

 その一室に10人近くの男達が、在室している。

 真田が泊まっている部屋よりも倍近く広いが、流石に大の大人が10人も居れば手狭に感じてしまう。

 一部屋に10人が集まるのも、一見不自然さを感じるが。男達は話しているので、交流を深めているように見え、何処にも不自然を感じられる要素は見当たらない。

 だが。

 男達の目が異様なまでに険しく。そして、冷たいのだ。

 人を人と思わないかのような、目の前の障害を淡々とゴミのように処理をするかのような。見た者の背筋に冷たい水が流れるかのような錯覚を覚えさせてしまう。

 どう見ても堅気の人間では無い。服装は真田たちが着ているものと、さほど変わらないという事が、さらに違和感を感じさせる。

 男達の1人が他の会話を中断させて、こう切り出した。


 「さて、計画の決行の日が刻々と近付いている。事前に言ったように、今回は今までの任務に比べて、格段に難易度が高い。何せ帝国の重要施設がある街だ。騎士団の他にギルトの奴らまで、警備についている話だ。同様の計画の為に、今まで多くの人間を投入したが、悉く失敗した」


 聞いていた男達は、特に表情を変える事は無かった。

 淡々と事実を事実として受け入れるかのような。今、目の前で仲間が1人殺されても感情が1mmたりとも動かないような、人間味の無い様子だ。


 「行商人に変装するとは言え、一気に大勢で入ると怪しまれる可能性がある。その為、街に入る際には時間差を置いて入るとする。また街に入ったとしても、時間差を置いて集合場所に集合する事になる。それは理解しているな」


 聞いていた男達が一斉に静かに頷くのを見て、更に続けた。


 「これからは俺達は顔も見た事の無い、赤の他人同士になる。各々は事前に決めたルートに沿って行動し、街に入り期日以内に集合場所に集結する事。‥‥‥では、街で会おう」


 その言葉を皮切りに男達は、立ち上がり其々の部屋へと戻っていった。

 最後の男が出て行き、部屋は睡眠へと誘うような静寂に包まれた。

 1人となった男は、獣のかのような獰猛な笑みを浮かべ、誰かに聞かせる訳でも無いのにポツリと呟いた。


 「さて。事態がどう動くか、楽しみだな」


 マントを羽織るアランは寒さを我慢しながら、同じようにマントを羽織っている真田は涼しい顔で帝都の南門の近くで、待ち人を今かと待っている。

 夜明け前とあって南門は、周囲の建物と同様に薄い黒に塗りが潰され閑散とし、大通りを我が物顔で駆ける冷たい風がより一層に寒々しく感じる。

 すると。


 「如何やら来られたようですね」


 気付いた真田と同じ方向に、アランも視線を向けた。

 其処には同行者であるシンプソンとヘクセレイギルトの長であるエルウッドが、真田たちの方へと歩いていた。

 シンプソンは昨日と変わらない出で立ちで、茶色のフード付きマントを羽織っている。マントの背中の部分が少し盛り上がっているのは、今回の旅に必要な物資を入れているリュックを背負っているのだろう。

 付き添いで来たエルウッドはやはりというべきか、ギルト職員の姿となっていた。


 「おはようございます、シンプソンさん。今日から宜しくお願いします」


 「‥‥‥ああ、おはよう。仕方が無しに今日から一緒に行動するけど、私の足を引っ張るような真似だけはしないでね。私は馬鹿は嫌いだけど、足手まといはもっと嫌いだから。道中でお荷物になるようだったら、私単独で動くつもりだから」


 冷たい朝に相応しいかのような突き放す口調だ。

 通常運転だなと何処か安心した思いで、二の句を告げようとすると。


 「そう言っている奴が、結局は足手まといになるよな。それで窮地になったら、恥も外見も無く助けを求めるんだよな。そうならないように、努力をして欲しいもんだな」


 アランには珍しく嫌みたらしくに、粘着質かのような口調であった。

 シンプソンは気にしていないように振る舞っているが、2人の間の雰囲気は徐々に険しくなっていくのは気の所為では無いだろう。

 真田は2人の険悪な様子に、肩を落とす。

 互いの簡単な自己紹介の後の話し合いの後から、こうなのだ。

 話し合いでは、今回の旅で使用する薪やテントと云った道具類、食事の材料の買い出し担当、誰を合同チームのリーダーとするのか等々の細々とした事項を決める予定であった。

 しかし、話し合いは物別れという形で終了したのだ。

 シンプソンが会話の節々に、小馬鹿にするような言葉を入れるからだ。

 話し合いの中でも何度も続くようなので、アランはそれとなく注意した。

 だが、それが拙かった。

 注意された事が気に食わなかったのか、シンプソンの矛先は冒険者全体からアラン個人へのシフトチェンジした。

 最初は取るに足らない事を言っていたが、アランは聞こえてない振りをして話し合いを進めていた。シンプソンは効果が無いと判断すると、矛先を変える事にした。

 見た事も無いアランの父母に、その悪意を向ける事にした。

 アランは前騎士団長である亡父を何よりも敬愛し、失意の中で失った母との思い出を何よりも大切にしている。

 結果的にシンプソンの思惑通りになった。しかしそれは、より悪化した方向でだ。

 言った瞬間、アランは真田が1度も見た事の無いような殺意に満ちた表情となり、声を荒れ狂う嵐のよう激しく罵った。

 もし途中で真田が止めに入らなければ、持っていた剣で斬り殺したかもしれないような、そんな緊迫した様子であった。

 暴れるアランを強引に連れ帰りながら、真田は数日分の自分の食料だけを用意してくれと。必要最低限の物資の用意するようにと伝えて、応接室を後にした。

 真田は道中での気苦労が倍増の確定事項の将来に、悲観し内心溜め息を吐いた。

 やり取りを微笑ましそうに見ていたエルウッドは、真田だけに聞こえるように。


 「大変だと思うけど、道中は退屈になる事は無いと思うわ」

 

 「それはそうですが、それは別の方向性で退屈を紛らわしてほしいです。この状態が続けば、ラカに着く前に精神的にまいって、倒れちゃいますよ」


 「これも経験の内よ。若い時に色々な経験をしていれば、後々に生かす事が出来るわ。今回のラカへの事もそう。あの街は良質な鉱石が取れる山が近くにあり、腕の良い職人たちが多く住んでいるわ。上手く繋がりが出来れば、冒険者生活に大きな助けになるわ」


 「それはなんとなくわかりますが」


 「冗談はそこそこにして、若い身で借金漬けの生活は嫌でしょ。あの魔石を壊して於いて、ただ保管場所から取りに行くだけで借金は帳消しなのだから。此方としては破格の条件を提示しているつもりよ。少しは我慢しなさい」


 それが決め手であった。

 精霊救出という緊急時とは言え、重要な品物を壊してしまったという負い目がある真田は、これ以上は何も言えず、全ての感情を消し去ったかのように無表情となった。

 若干、大根役者かのような棒読みになりながら。


 「シンプソンさん、そろそろラカの街に出発いたしましょう。今回は遠出という事で馬車を調達してきました」


 真田が示すかのように叩いたのは、大型の馬車である。

 帝都を行き交う他の馬車のように日差しと埃避けに布の(ほろ)を半円形に張る(ほろ)馬車(ばしゃ)では無く。電車の車両に屋根を付けたかのような車体である。

 馬車としては2頭4輪馬車のコーチという形になる。

 馬車の大きささは、平均的な馬車よりも1回り大きい。見た目は木目を基調とした落ち着いた雰囲気であり、左右其々に縦長の窓ガラスが5個ずつ均等に填められている。

 馬車の車輪は真田の胸の高さまである。車輪を均等に分けるかのようなスポークは、木目調で車輪の強度と耐久性を向上させるかのように6本の古代より使われているソリッドタイプ。車輪の外周を覆うように、黒色のタイヤが填められている。タイヤは舗装されてないオフロードに強い左右非対称のブロック型パターン。地面と接触するトレッド部は長方形の塊が波状になるように、加工されている。タイヤの溝はまだ深く、新品同様のように見える。

 馬車を牽引するのは重量が400kgを超える中間種の白と黒の馬2頭。競馬場で走るサラブレッドよりも足回りが少しがっしりとしている。

 その2頭の馬には其々、頭、首、胴体にかけて、使用年月を物語るかのような古めかしい色あせた茶色の革の紐、ハーネスで固定されている。また複数の馬で馬車を牽引するので、其々が独自の動きをしないように、ハーネスが使用されている。御者の意思を馬に伝える為の両側が丸い(くつわ)、首、胴体、腰で馬と馬が革で繋がっている。そのハーネスのタイプは、大型馬車を牽引しやすいように、馬の首で牽引する首曳きであった。

 シンプソンは興味津々と云ったようで、馬車を見回しながら。


 「馬車で移動は楽でいいけど豪勢ね。今回の褒賞金の額が大きいから、浮かれているのかしら」

 

 「さあどうですかね。費用を安く抑えられる所を知っていますので、そんなに問題は無いですよ」


 「まあ、私に金額の請求が及ばないのなら何でもいいわ。‥‥‥ところで、この馬車は何処から入ればいいのかしら」


 真田は馬車の後部に回ると、備え付けの6個のL字型の棚受けを垂直に動かし、折り畳み式の踏み板2枚を展開した。

 シンプソンが踏み板で上がろうとすると、補助をするように真田は手を近づけた。

 レディーファーストでは無いが、慣れて無い人を助けてやろうとの親切心での事だ。

 だが、シンプソンには無用だったらしく。まるで何も無いかのように無視して、馬車の荷台へと上って行った。

 真田の手は虚しく風を切るだけだったが、その手に優しくそっと置く手があった。

 アランの手であった。

 無視された真田が可哀想だと思ったらしく、エスコートを頼むように真田の手に置いたのだ。

 少し硬いけれども女性的な柔らかさがあり、若干体温が上がった黒と銀の指輪を填めたアランの手を持って、真田は上がるのを手伝った。

 少し頬を紅潮させるアランは礼を言って、荷台へと入って行った。

 内部は広々として人の移動が支障に来さないように作られ、前後で荷物と座席が完全に分かれている。壁に掛けられている左右の複数のランプの暖かい光が、温かい雰囲気を作り出し、此処が馬車の中で無いかのように錯覚させる。アランが居る荷台後部には、大人1人が余裕で入る程の木目調の大きな長方形の箱、箪笥、天上棚が左右に置かれ。箱と箪笥の上には旅に必要な食材、調理道具、テント、薪が出し入れがし易いように置かれている。

 荷台前部に目を向けると、対面式のソファとテーブルが設置されている。

 対面式のソファは大人が3~4人腰かけられるほどの大きさ。落ち着いた印象を出す薄茶色の布地で、腰を痛めないように適度なスプリングと綿が敷き詰められている。木目調のテーブルはソファよりも少し高くて同じ位の長さ。縦に線が走っている以外は新品同様かと見間違うほど、表面は傷一つついてはいない。左右にある複数の窓は、外を見るのには申し分の無い大きさであり、其処にガラスが無いかのように思わせる程の透明度だ。

 知っている馬車の内装とは大きくかけ離れている事に、アランは驚きを隠そうとはしなかった。


 「これは‥‥‥凄いな。大体この大きさの馬車の中は何も無く、荷物と一緒に人が床に座るの当たり前なのだが。これはもう馬車じゃなくて、1つの部屋だな」


 若干興奮気味なアランは、テーブルや座席を感触を確かめるように入念に触っていた。

 踏み台を下ろした真田は、馬を操る御者席に登り。


 「好きな所に座って下さい。準備が終わり次第、馬車は出発をしますので」


 アランは御者席に近い位置に、シンプソンは対角線となるように腰を下ろした。

 其々、視界に入らないように敢えて視線を外しているようにしている

 真田は御者席に座ると、使い古された茶色の皮の手綱を握り締め。感触を探るかのように馬車の外壁を触っているエルウッドに向かって。


 「では職員さん、ラカの街へと行ってきます。エルウッドギルト長にお伝え下さい」


 「ええ、いってらっしゃい。目的の鉱石を受け取る為の証明書は、シンプソンに渡してあるからくれぐれも無くさないように、お願いします」


 「それは勿論の事。今回の件は重要性が高いですから、細心の注意を払うのは当たり前ですので」


 出発のサインとばかりに手綱を波打つように動かし、馬の臀部に手綱を当てた。

 中間種の2頭の馬は静かに前脚を動かし、ゆっくりと移動を始めた。

 周囲には馬の蹄を保護する蹄鉄が石畳の道に当たり、甲高い音が拡散している。

 次第に遠ざかって行く馬車をエルウッドは、若干の心配を抱きながら見ていた。

 だから、馬車の屋根の頭頂部にある透明な球体に気付く事は無かった。


 真田がこの世界で購入した、フィルド帝国全国版は都市の位置は大まかにしか書かれていないが、それでもラカへの道は限り無く遠い。

 真田は周辺の地理に明るくないので、アランの助言で取り敢えず、中継都市であるネクトという街に向かう事となった。

 御者席に座る真田の目の前には、前回同様になだらかな丘が続く丘陵地帯が広がっている。波のように起伏した緑と灰色の丘が、何処までも続くかのような光景は、旅立つ者の好奇心を湧き立たせている。

 次の街へと続く多少の凹凸がある石畳の街道、ポリピア街道の上を馬車を走らせる真田は、手綱の感触を確かめるように少し力を込めて握っている。


 (久しぶりに馬車を操作するが、方法はなんだかんだで忘れてないな。最初は上手く操作できるか不安だったが、取越し苦労だったな。このまま順調にラカの街へと行けるといいだが)


 まだ見ぬラカへと思いを馳せ、何事も無く今回の案件が終わる事を願った。だがそれと同時に無理だろうなとも思っている。

 真田が軽く現実逃避しかけていると。


 「サナダ、この馬車は凄く良い馬車だよな。俺は馬車での移動というものは、お尻と腰の痛さを我慢するものだと思っていた。だが、まだ出発して間もないが、お尻と腰に痛みが無いに等しいな。何回か馬車に乗る機会があったが、こんな事は初めてだ」


 過去に何度も痛い思いしたらしく、アランは少し興奮気味に言った。

 やはり馬車の辛い思いというものは、人々の共通認識らしく。それを窓から外の景色を見て聞いていない振りをしながらも、聞いていたシンプソンも内心アランに同意をしていた。

 真田は前方から視線を逸らそうとはしないが、少し嬉しそうに声を弾ませてながら。


 「そこまで喜んでくれたなら、色々と交渉をした甲斐があります。安く馬車を借りられたのは、馬車の揺れの小ささにありますから」


 「どういう事だ、サナダ。揺れが小さいのと馬車を安く借りれたのと、どういった関係があるんだ」


 「この馬車は地面からの衝撃を小さく抑える、サスペンションという部品を取り付けた馬車です。しかし、試作品のテストがまだ不十分で長期間使用しても壊れずに上手く作動するか、まだ不透明なのです。‥‥‥偶然にも今回ラカの街まで行きますから、長距離の作動テストを私が代わりにするので、馬車を安く借りられたのです」


 そうなのかと、アランは納得する一方で。


 「ところでサナダ、この試作品が壊れた時はどうするんだ? 借りている状態なのだから、直さなければいけないのだろう。物を直すなんて、俺は到底無理だぞ。お前は出来るのか」


 「修理は簡単のなら出来ますが、本格的なものは無理ですね。その為の設備や材料が無いですから。その代わりに、予備のサスペンションを貰い、製作者から設置の仕方を習って来ています。ですので、旅の途中で部品が壊れても大丈夫ですよ」


 「それなら安心して、馬車に乗っていられるな。‥‥‥振動もあんまり来なくて、腰を痛めない。こんな良い馬車が、借り物であるの事が唯一の難点だな。‥‥‥そうだ、サナダ。今回の依頼が終わったら、この馬車を買い取らないか。今回の依頼が終われば、高額な褒賞金が手に入るだろう。今は徒歩での近場の依頼ばかりだが、いずれは馬車が必要なまでの遠方での依頼も熟していく事になる。悪い話では無いと思うが、お前はどう思う」


 馬車が余程気に入ったのか、アランは嬉しそうに声を弾ませいた。

 サスペンションは自転車、車等、車輪を使用する車両に必ず装着されている。その有無は、車体や乗員に多大な影響を与える。それは、地面から車輪を通じて伝わる衝撃を吸収し、操縦安定性の向上を旨とする装置であるからだ。

 サスペンションが無い状態でも、平地なら問題は無い。しかし、舗装されていない悪路ではどうだろうか。衝撃を吸収する装置が無い状態では地面の凸凹の衝撃が、直接的に馬車に伝わってしまう。そうなれば、長時間の乗車は乗員の腰を痛める事になるのは火を見るより明らかだ。そうなってしまえば、人類は車という選択肢を除外し、全く別の輸送手段を見出すかもしれない。

 そう考えると、サスペンションは車輪駆動の乗り物の発展に、大きく貢献しているとも云えるかもしれない。


 「確かにチームの運用を長期的に考えると、馬車は必要ですね」


 「そうだろ。なら、チームの共有資金で‥‥‥」


 真田は嬉しそうに少し興奮しているアランの言葉を遮るかのようにして。


 「でも、雨風を凌げる保管場所が無いです。宿住まいの私達には馬車を保管するような場所が無いですから、今のままで購入すれば大変な事になります。今はお金を貯めて、何処かの倉庫を借りれるようになってから、馬車を購入したいですね」


 「そっ、それもそうだな。よくよく考えれば、いやあ、この馬車があまりにもいいから、他の人に買われる前に何とか手にしたいと思ってな」


 「分かりますよ。目の前に良い物がありますと、ついつい手にしたくなりますから」


 そうだろぉ、と。微妙に気の抜けた言葉を受けつつ、真田は馬車を軽快に走らせている。


 そろそろ地平線から昇っていた太陽が真上に来そうな頃、森の中にある道を移動している。街と街を繋ぐ主要街道らしく、馬車が余裕で通れる道幅があり、馬車や旅人と何度かすれ違った。

 昼食は何にしようかとぼんやりと考えていた真田は、馬車を牽引する2頭の馬が何の前触れも無く歩みを止めた事に、疑問が重く圧し掛かる。

 しかしそれは、直ぐに払拭される事になる。何せ馬達が足を止めた理由を、真田も視界に捉えたのだから。

 緑の巨体が何者も通さないかのようにして、道を塞いでいたのだ。

 少し遅れてアランが前のめりのような形で、目を皿のようにして驚きを隠さずに。


 「オ、オークだと」


 豚の頭部を持つ、大型の人型の魔物。大柄のプロレスラーをさらに一回り大きくしたかのようながっしりとした体格。耳は横に少し長く、目は血のように赤く光り、時たま呼吸する時に見える歯は鋸のように尖っている。片手には刃が多少なりとも欠けているが、大型の動物を一刀両断するには十分な大型の斧を持ち。動きやすさを重視しているのか、急所を守るだけの鈍く光る鎧と腰巻を身に纏う。

 それが1体。あらゆるモノを通さないかのように、壁のように立っている。


 「アランさん、オークとの戦いの経験は?」


 「1,2回かある程度だな。力が強い上に身体が頑丈だもんな。だから、オークと遭遇した時は、他の魔

物の時よりも気合入れて戦うぜ。下手をしたら、こっちが負けてしまうからな」


 「そうですか。‥‥‥シンプソンさん、戦闘が始まりますから協力を宜しくお願いします」


 「たかがオーク1体、2人で倒せないとは情けない。今は私のような優秀な人材が同行しているからいいものを、次回からはどうするつもり。お守り役の人間を雇うつもりなら、もう一回赤ん坊からやり直した方が身の為だわ」


 馬車を降りたシンプソンは、自信に満ち溢れた表情でオークと対峙する。それは自分が敗北する事など髪の毛一本分も信じていないようだ。

 オークも同様であるようだ。

 オークにとってはシンプソンは鹿のようなひ弱な小柄な動物にしか見えない。

 少し食べる所が少なそうに見えるが、後方に見える馬2頭を加えた昼食になる事に否応無く興奮状態になっていく。

 両者の興奮を冷ますかのような寒い風が吹く中、先に動いたのはシンプソンであった。

 シンプソンはロープに隠していた一冊の本を取り出した。

 大きさでいえば一般的な学術書よりも少し大きく、百科事典のよう厚く、ずっしりとした重さが見て取れる。表紙は栗よりも少し濃い色合いである栗皮色。金糸によって幾何学模様と花が、絶妙な配置で刺繍されている。本のカバーがずれないようになのか、要所要所に最低限の金属が打ち込まれている。

 シンプソンは表情を崩さないままに、水面に足を付けるかのような静かな口調で。


 「我が忠勇なる騎士、ウルフィン。その姿を我が前に現せ」


 その瞬間、シンプソンの足元に魔法陣が出現した。

 出現した魔法陣の影響か、シンプソンの目の前の空間がように揺らぎ始めた。それに加え、揺らぎの中に黒い何かが微かに見え始めていた。

 揺らぎが大きくなればなる程、黒い何かはその輪郭を段々とはっきりとさせている。

 そして。

 揺らぎが最大限にまで大きくなった途端、パンパンに膨らんだ風船が破裂したかのように一気に消え去った。

 その代わりに、揺らぎの中で形成していた黒い何かが形を成して、その姿を真田たちにまざまざと見せつけている。

 それは、吸い込まれるかのような漆黒のフルプレートであった。

 大男が装備するような壁のような全身鎧。鎧自体には装飾は殆ど無く、猛獣を模った兜と両肩や申し訳程度の金の装飾しか無い。人々に見せるような類のものでは無く、実戦を想定した作りのようだ。

 黒のフルプレートから発せられる見る者を立ち止まらせてしまような異様な雰囲気もあるが、それ以上に同時に出てきた剣も耳目を集める。

 とにかく大きいのだ。黒のフルプレートと同程度の大きさだ。

 新品同様に輝く剣自体は何処にでもあるような両刃の剣だが、刀身はシンプソンの身長よりも高く、横幅もシンプソンが余裕で隠れてしまう程だ。

 最早、剣という分類では無く鈍器として数えられそうだ。戦いの際には大きく分厚く、重すぎて大雑把すぎのように見える。


 「へぇ、あいつは人形使い(ラプゥペェマスター)なんだ」


 アランは少し感心したような言い方だった。

 人形使い。

 普通の魔術師が単身で戦うのに対して、人形使い(ラプゥペェマスター)は魔石や操者の魔力を元にして動く、人型の魔術工芸品(アーティファクト)を動かして戦う魔術者にあたる。

 真田がカドモニアの森で出会ったゴーレムも、捜索隊の中に人形使い(ラプゥペェマスター)が居た事になる。

 先程まで自信満々だったオークは、突然現れた脅威に目に見えて戸惑いを見せている。

 シンプソンは益々己の勝利を確信した表情で、声高に勝利宣言するかのように。


 「行きなさい、ウルフィン。我を遮る愚か者を撃滅しなさい!!」


 それが実行のキーだったのか、何も映さない虚空だったウルフィンの目の部分が、不気味に赤く光った。

 中に人が入っているかのような滑らかな動きで、逆手で中央部が少し膨らんでいる柄を握り、重さを感じさせないような軽快さで巨大な剣を持ち上げた。

 巨大な剣を少し傾けウルフィンは、オークに向かって歩き出した。

 ガチャガチャと金属同士がぶつかり合う音を立てて、ただただ歩いているだけでしかない。

 しかし。

 ひとたび間合いに入ったその瞬間。巨大な剣によって、絶命するのではないかと疑念を持たせるほどに殺気立っているように感じられる。

 戸惑いを見せていたオークは、戸惑いを覆い隠すように激昂へと状態を変えた。

 そして向かって来るウルフィンへと、斧を高々と振り上げ猛然と迫って来た。その姿は分厚い壁が迫ってくるようで、それだけでも恐怖を感じずにいられない。

 見ていたシンプソンはたじろぐどころか、ニヤリと残虐性が伴った笑みを薄らと浮かべた。

 オークが勢いを斧にのせて、ウルフィンに風を切るような速さで振り下ろした。

 目の前の状況の悪さに、馬車から見ているアランは驚愕の表情としているが、真田は観察するように見ている。

 そして2人同時に、心の底から思った。

 終わった、と。

 それを表すかのようにウルフィンの巨大な剣が、振り下ろされる斧よりも段違いの速さで一閃を描いた。

 数瞬の静寂の後、オークの得物である斧が両腕ごと地に落ちた。

 その衝撃により、ゴト!!と。鈍い音を立てて、刺身のように綺麗に斜めに切断され二つに分かれた。

 オークは最初は信じられない様子で見ていたが、切断された両腕からの焼けるような激痛に現実だと強制的に認識した。同時に、余りの痛みに声ならぬ声を上げ、膝を地面につかせた。

 両腕の切断面からは、大量の緑色の液体が垂れ落ち、地面を緑色に染めていく。

 機械的で何の感情も映しださない赤い瞳で、絶望にうちひしがれるオークを捉えたウルフィンは巨大な剣を高々と振り上げた。その姿は、中世ヨーロッパで多くの罪人の首を()ねる死刑執行人のようだ。

 一切の躊躇いも感じさせない動作で、凶悪な剣を一気に振り下ろした。


 真っ二つになったオークを森へと投棄しながら。


 「凄い物を持ってますね、オークをこのように真っ二つとは。確かにあれを使えば、街で絡んで来た冒険者は相手になりませんね」


 「当たり前よ、あんな集団でしか物事を対処出来ない奴等では、私達の相手にすらなれないわ。でも言っておくけど、この程度で評価して貰ったら迷惑だわ。私はもっと凄い人を知っているのだから、もっともっと修行して高みを目指していくわ」


 シンプソンの脳裏には、ある出来事が浮かび上がった。

 それは自分が新人の頃に、些細なミスにより魔物の群れに囲まれてしまった。何とか脱出しようと試みるが、ジリ貧になってしまい窮地に立たされてしまった。

 死を覚悟した時に見た、何体もの魔術人形を芸術的なまでの鮮やかさを持って操り、魔物の群れを一瞬にして、骸に変えた事を。

 

 「それは凄い人が居るのですね。私ももっと鍛錬を積まないといけませんから、耳が痛い限りですよ。今まで倒した敵よりも上位の敵を倒せる自信は無いです。相手をするという事を考えただけで、憂鬱を通り越して死んでしまいたいぐらいですよ」


 「呆れて物が言えないわ。お前が何で冒険者をしているのが、私には不思議でならない。オークよりも強い相手と遭遇したら、どう対処するのよ」


 「走ってか馬車にでも乗って逃げます。死んでしまえば、それまでですが。生きてさえいれば、次に倒せる可能性は出て来ますから」


 「ふぅん。突撃するだけの冒険者にしては、考えるだけの頭はあるのね。良い事だわ。でも、そんなに逃げてばかりでは強くなれないわ。頑張りなさい」


 言うだけ言うと、シンプソンは馬車に乗り座っていた座席に戻った。

 真田はオークの亡骸を片づけを終え、何か言いたげなアランを(なだ)め御者席に座り。


 「さて、思いもよらない邪魔が入りましたが。予定通り次の街へと向かいますか」


 手綱を捌き、馬車を次の街へと進める。

 その姿を見つめる複数の強い視線が、森から注がれている。


 太陽が再び地平線に隠れようとしている最中。視界に広がる街道と長閑(のどか)な丘陵地帯は夕日の色、橙色に染め上がり、人々に間も無く訪れる黒の世界を予告している。

 真田が空中にかを翳すと、1つの半透明の薄緑色のディスプレイが目の前に投影された。

 ディスプレイにある1つの項目欄を軽く触れると、デジタル式表記の時計が様々な情報と共に、映し出された。グリニッジ標準時ではあるが、日没の時刻を表示していた。

 取り敢えずどうするか、一旦馬車を止めアラン達に声を掛けた。


 「アランさん、そろそろ夜になりますがどうしますか。ここら辺に停めて、野営の準備でもしますか」


 「そうした方が良いかもしれないし。しない方がいいかも知れないな。どうするべきなのだろうな」


 なんとも歯切れの悪い言い方に真田は、思わず振り返った。

 視線の先には地図と思わしき紙と睨めっこしているアランが居た。


 「この先のネクトの街があるんだ。そこは帝都とを結ぶ中継都市として発展している、中規模位の都市だ。先程過ぎた村や周囲の地形から見れば、もう少しでつくと思うのだが、街の門が閉まるまでに着くか微妙だな」


 「急げば間に合うのではないのですか、そのネクトという街には」


 「だと思うぞ。‥‥‥しかし、このままもう野営の準備に入った方が良いかもしれないな」


 アランは不確定要素が多く占める先行きに、一抹の不安を漏らした。やはり時間が経てば経つほど、光源の確保が難しくなるからだろう。

 懐中電灯や電池式のランプのような、手軽に光を発生させる機器を所有していれば、何の問題が無いのだが。アランはそんな文明の利器を所有しておらず、持っている真田は出す気すらない。


 「アランさん、門が閉まるのがだいたいどれぐらいかは分かりますか」


 「多少の誤差はあるが、日没の筈だ。街に来る商人や旅人は日没までに、街に入るようにするからな。後は日が暮れて、夜に活発になる魔物達の侵入を防がなければならない」


 迷う真田は視線を今まさに地平線に沈み込もうとしている、淡い暮れの夕日に視線を移した。

 夕日は外円の下の部分が地平線に差し掛かっており、自分1人が孤独であるかのように錯覚させる夜が、もう間も無くである事を示している

 真田は時間が無いと微妙な焦りを感じつつも、黙っているシンプソンに声を掛けた。


 「シンプソンさんは、どう考えますか。急いで街に行くか、それとも野営の準備に取り掛かりますか」


 シンプソンは何拍かの沈黙を用い。


 「そうね。身体が安静に休める場所があるのなら、其処にした方が良いわね。休息はきちんと取らないと、後々に影響が来るわ。まだまだ、ラカへの道は長いのだから」


 予想だにしない返答に、アランは目の前で大声を出されたかのような表情となった。

 アランとしては、『そんな事も決められないのぉ。冒険者なのに決定力も無いなんて、いったい今までどんな任務をしてきたの。どうせお使いなんかでしょぉ。いっその事、新人からやりなおしたらどうなの』と。嫌みたらしく嘲笑うかのような言葉が帰って来ると信じて疑わなかったのだ。

 アランの様子に気付いたシンプソンは、少し呆れ果てている。


 「そんなに私が賛成した事が、不思議なの? 呆れてものが言えないわ。確かにお前達と会話をする訳が無いけど、それは低俗で低能な会話だけ。エルウッドギルト長から言われてだけで、本当は嫌々だけど。私とお前達は一緒に行動している訳だから、全体の行動に関する事柄だけは話してあげるわ。そのぐらいなら、お前達冒険者でも理解出来るでしょ」


 「貴様っ」


 あまりの物の言いようにアランは詰め寄ろうとするが、真田からの鋭い制止の声が飛んきて、渋々ながらも席に座り。シンプソンは何ともないように取り繕っているが、口元がほんの少し、嬉しそうに歪んでいる。

 真田は2人は水と油の関係では無いと思いながらも、修復するまでに自分の胃に穴が開かないように祈りつつ。

 

 「行動方針が決まった事ですから、ラシェルに急ぎましょうか。急いでいったのに、門の近くで野宿する事になりますから」


 「それは避けたいわね。暗くなってからの、野営の準備なんて大変以外には無いのだから」


 行動方針について、必要最低限な会話を交わしているだけなのだが。アランは2人を、少しつまらなさそうな表情になった。

 真田はアランの様子に気付く事無く、握っている手綱を更に強く握りしめ、


 「では2人共、気をつけて下さい。今から街に向かって急いで行きますので、椅子から転げ落ちないようにお願いします」


 カーブの多い道路でのバスのアナウンスかのように告げる。

 聞いていたシンプソンは、馬鹿にするように薄く笑った。


 (乗っている人間が椅子から落ちる程、この馬車が速く走れる訳が無いじゃない。見た事の無い椅子の座り心地には驚いたけど、ただそれだけよ。そもそも、馬を速く走らせるなら、人を乗せる荷台が邪魔ものだもの。こんな大きい荷台を繫げたまま、速く走らせようするなんて馬鹿のする事よ)


 それが常識だ。

 馬を速く走らせる為には、負担が無い事に越した事は無い。

 それは競馬が一番分かり易い。

 競馬は馬を全力疾走させ、その順位を競う。

 その為、馬本来の速さを出させる為に、騎乗する騎手は厳しい体重制限を行っている。例えば、52kgの騎手が騎乗したら鐙と合わせると、合計の重量が馬への負担になる。しかしこれが、3kgの鐙と合わせて55kgの騎手と比較すると、その分の重さがハンデとなる。

 大差で決着がつくレースならば問題は無いが、鼻先での僅差でのレースではそのほんの些細なハンデが影響をしてくる。

 名騎手と呼ばれる人達は50kg近くの体重を維持し、騎手に細身の人達が多いのもその為だ。

 そのように馬を速く走られる為には、負担が軽いほど良い。

 ましてや、荷台や手綱のような大きい負担を載せたまま、高速で走らせるのは無理がありすぎる。

 それは常識であり、正論である。

 だが。

 シンプソンは見落としをしている。

 自らが座っている椅子を見た事の無いものだと認識した。

 その時点で、疑うべきだった。

 この馬車が己の常識、更には人間の常識が通じないものではないかと。

 真田は強く握りしめている手綱を、騎手の鞭のように2頭の馬の臀部に叩き付けた。

 馬達は了解とばかりに鳴き声を上げ、蹄で石畳を強く踏みしめ。

 そして、一気に駆け出した。

 馬車はF1のスタートかのような駆け出しで、そのままコースを走るかのような速さで、石畳の街道を疾走している。

 それは馬の速度では到底出せない異様なまでの速さだ。

 馬の最高速度は時速60~70kmに達し、一般自動車並みの速度を発揮する。しかし、この馬車はその最高速度を軽々と超えている。速度を計る計測器を使用してないので、正確に把握出来ないが。最低でも3倍以上の速さで、街道を疾走している。

 それ故に周囲には蹄が石畳に当たる音が、2重奏で大きく響き渡る。

 石畳を粉砕するかのように、馬達は自らの脚の力強さを示している。だが、通った後の石畳には多少の傷はあるものの、目立った傷痕は見受けられない。

 それに加え2頭の馬の動きが、恐ろしいまでにスムーズだ。

 自分達に絡み付いている手綱や最大の邪魔である荷台の所為で、2頭同時に上手く速く走れる訳が無い。

 観光地用の馬車のように訓練をすれば、そ多少なりとも解消されるかもしれない。しかしそれでも、高速で移動する事はほぼ不可能に近い。

 けれども、この馬車は人間が両足を使って歩くかのように、自然な動作で疾走しているのだ。

 それはまるで。

 馬車全体が1つの生命体であるかのように。


 しかし、世界は時に厳しい現実を見せつける。

 門前に到着したのだが、門は侵入者を拒むかのように固く閉じられているのだ。


 「参りましたね。まだ日没前なのに、門は完全に閉じられていますね」


 「恐らく、もう出入りが無いと考えて閉めたんだろ。全く、何で門を閉めるのが日没なのか知らない訳無いだろう。完全に職務怠慢モノだぞ」


 近付いて来たアランは不満げにそう語る。

 しかし、幾ら悪態を吐いたとしても門が開く様子は無い。


 「陽が沈んでいきますから、今日は此処で野営をしますか」

 

 「そうだな」


 アランは御者席から地面に降りると、真田は振り返った。


 「そう云う訳ですから、シンプソンさんも野営の準備の手伝いをお願いします」


 「なに馬鹿な事を言っているの、私は慣れ合いをするつもりなんて無いわ。野営をしたければ自分達でしなさい、私は私で野営の準備をするから」


 シンプソンは立ち上がり、荷物から野営に必要な道具一式を取ると馬車から降りた。

 そして自分用の野営に取り掛かった。

 慣れているというのはあながち嘘では無く、慣れた動作で進めている。

 感心した様子の真田は負けてられないと、楽しそうにして野営と夕食に必要な道具一式を荷物から取り出し、アランの下へと向かった。


 「アランさん、今回はシスーネとポルルを使った簡単鍋料理、シスーネとポルルの重ね鍋を作りたいと思います」


 「シスーネとポルルのカサネナベ。なんだそれは?」


 焚き火の準備を終えたアランは、首をかしげる。

 真田が持っているのは白菜のような形をして紫色のシスーネ1つと。ポルルという豚肉だ。いつか日本で食べた事のある料理を再現しようと、帝都で購入した物だ。


 「シスーネとポルルの肩の切り身を交互に重ね、それを一定間隔で切り揃え、鍋に縦に敷き詰めて煮る料理ですよ。この前店で買った、焼いた小麦粉にバターを塗って、それを重ねていくお菓子のミルフィあるじゃないですか。これはミルフィのシスーネとポルル版と考えて下さい。切って煮込むだけの簡単な料理ですから、何を作るか困ったら重宝しますね」


 「ふぅん、そうなのか。‥‥‥カサネナベだったな。それ自体の調理は簡単そうだから、初めて聞く料理だけど、俺でも作れそうだな」


 「でしたら、私は寝る準備をしますから。宜しくお願いします」


 「おう、任せておけ」


 アランはある決意を持って、そう力強く発した。



 真田は馬達を繋いでいたハーネスを慣れた手付きで外し、軽く首を2度叩いた。


 「今日一日お疲れさん。短い時間だけど、周囲を走ってもいいぞ」


 理解したのか低い鳴き声を上げ、2頭共は馬車から離れ自由気ままに周囲を駆けている。

 包丁で切っていたアランは手を止め、走っている馬達を見て。


 「サナダ、馬達を自由に走らせて大丈夫なのか。街の近くだから魔物は近付いて来るとは思わないが、それでも絶対とは言い切れない。もし襲われて馬達が怪我をしたら、今後の日程が大きく狂う事になるぞ」


 アランの懸念に一考するどころか、ハーネスを片付けている真田は可笑しそうに口元を大きく歪めた。


 「アランさんの不安も分かりますが、心配は無いですよ。足が速いですから大抵の魔物からは逃げれますし、近くで走るように言っていますから大丈夫ですよ」


 「そうか。お前がそこまで言うのなら、大丈夫なのだろうな」


 走る馬達を見ながら、苦笑いする真田は独り言のように呟き。


 「‥‥‥地上の竜種が襲って来ても、返り討ちにするような奴らだ。心配するだけでも無駄と思うがな」


 「うん? 何か言ったか、サナダ」


 「いえ、なにも。寝床の準備をしてきます」


 真田は何とも無いように装い、荷台へと入って行った。


 真田は屈むとテーブルの裏にあるストッパーである木の棒を左右両方動かし、立て掛けるように持ち上げた。すると、テーブルが間仕切りのようになり、ソファーからはお互いが見えないようになった。

 間仕切りが動かないように、ドア固定に使用されるマグネット式ストッパーがカチッと音と共に下部で作動した。

 間仕切りが動かない事を確認した真田は、ソファーへと移動した。

 真田はソファの端で屈むと、不自然な半月の窪みに手を掛けた。そして、そのまま間仕切りの方へと力を加えた。

 多少の抵抗を感じたが、問題無くソファーは間仕切りへと近付いた。それと同時に、背凭れの部分がソファの動きと連動した。

 すると、ある位置まで行くとソファはカチッと音と同時に、動かなくなった。

 3~4人は腰かけられるソファーは、1人が寝るのには十分な広さのベットと化した。

 真田は上手く作動した事に満足気になっている。


 (馬車は面積が限られているから、いかにコンパクトに纏められるかが肝心なんだよな。きちんと身体を休められるように、テーブルを間仕切りにして、ソファーベットに変更して正解だったな)


 真田はもう片方のソファーベッドも同様に動かした。

 続いて馬車後部に行き、自分の腰の高さほどの箪笥の一番下の引き出しを開け、中に手を入れた。

 中を掻き混ぜるかのように腕を動かすと、目当ての物があったのか持ち上げるのように腕を動かした。

 引き出しの中から出てきたのは、厚さが数cmの黒の布に包まれたソファーベッド大のスポンジと白の円柱形の枕だ。真田はそれを2枚ずつ出した。

 どう見ても箪笥の大きさと取り出した物の大きさと容量が合わない。


 (最初は飾り程度で棚を作ったが、結果的には正解だったな。それに加えて棚の引き出しと亜空間を直接繫げたのも良かったな。何時ものように亜空間から直接取り出す事も出来るが、それだと味気が無い感じをあったからな)


 真田は自身の選択に満足気になり、少し軽やかな足取りでソファーベッドの上に高反発のスポンジを置いた。

 周りに不自然なものが無いか確認していると。


 「おーい、サナダ。夕食は言われた通りに進めたんだが、これで大丈夫か確認してくれぇ」


 「今、行きまぁす!!」


 アランに任せていた夕食の進捗状況の確認に、真田は馬車を降りた。


 真田は鍋が自分が思っている通りになっている事を確認すると、馬車から取り出した約10ℓの半透明のタンクから鍋と3ℓ入りの銀色のケトルに直接に水を入れた。

 そして、鶏がらを固めたキューブを2個をアランに渡し。


 「鍋が煮立ったら、このキューブを入れて再び煮込んでください」


 「おう、分かった」


 真田は馬車内部でのやり残した作業に戻ろうとしたが、ある事に気付き周囲を見渡した。


 「あれ、シンプソンさんは? 馬車から降りてから、見て無いですけど」


 真田が言うように、シンプソンは一向に姿を見せようとはしない。

 アランはジェットコースターのように一気に不機嫌になり。

 

 「知らんな。何処か遠くの地で行き倒れているんじゃないか」


 真田は苦笑いを浮かべつつ、周囲の気配を探った。

 すると、案外すぐ近くに居る事に気付いた。

 真田は気配がした場所に行くと、シンプソンは隠れるようにして馬車の車輪に背中を預け、ぼんやりと空を見上げて座っていた。


 「シンプソンさん、其方に居たのですか。もうすぐ夕食が出来ますので、此方に来てください」


 しかしシンプソンからの反応は無く、空をぼんやりと見上げたままだ。

 真田は聞こえなかったのかと、首を傾げつつ。


 「あのぉ、もうすぐ夕食が出来ますので、此方に来てください」


 先程よりも少し声音を大きくしたのだが、シンプソンからの反応が帰っては来ない。

 真田は更に声を大きくして。


 「シンプソンさん、夕食が!!」


 「うるさいわね。そんなに大声で言わなくても聞こえているわよ!!」


 怒鳴り声かのような大声でシンプソンは、真田の言葉を遮った。

 真田は驚きと呆れを半々に持ちつつ。


 「聞こえているなら、返事ぐらいして下さいよ。取り敢えず、夕食が間も無く出来ますので、此方に来てください」


 「要らない。自分の食べる物ぐらい、自分で用意出来るわ。‥‥‥ていうか、先程言ったわよね、私はお前達と慣れ合いをするつもりは無いと。自分の事は自分ですると。覚えておきなさい」


 「聞いていますし、理解もしています。でも、聞き入れるとは一言も言っていませんよ」


 「なっ‥‥‥」


 「シンプソンさんの分を鍋に残しておきますので、お腹が空いたら食べてに来て下さい」


 真田は返答も聞かずに、馬車へと入って行っていき。シンプソンは呆れ果てて口が半開きになり、そのまま固まったままだ。


「もういいですね」


 夜の帳が下り静かな中に、カタカタと鳴らしていた透明な鍋蓋を真田が取ると、白い蒸気と共に食欲をそそる美味しそうな匂いが鍋周辺に広がった。

 鍋の中では油でコーティングされたシスーネとポルルが、照明のランタンのLEDに照らされて見る者の食欲を増すかのように光っている。

 真田はトングで青の平皿に数枚に交互に重なったシスーネとポルルを盛り付け、アランに渡した。

 更に。

 真田は自身の分では無く、もう一人の夕食用に更に盛り付けて、渡した。


 「はい、シンプソンさん。どうぞ」


 シンプソンは黙って受け取った。

 夕食が珍しいのか、持っているフォークを動かさずに、観察するかのように皿をじっと見ていた。

 そして、恐る恐るとしたゆっくりな動作で、フォークを使ってシスーネとポルルを口の中に運び。何度も口を動かして飲み込んだ。

 奇妙な静けさの後。


 「まっ、冒険者にしては考えた方じゃないの。味付けもそれなりにしているようだから、普段はともかく緊急時には良いかも知れないわね」


 「いやぁ。自分もそれなりには数を熟してきて、それなりには自信があったのですが。料理の道も険しく、自分もまだまだだと痛感しますね」


 「それでも今まで冒険者達が作ってきた中では、美味い方だと思うから。自身は持って良いと思うわよ」


 「そうですか、ありがとうございます。お湯もありますから、冷えた身体を温めて下さい」


 真田は青のコップにケトルからお湯を注ぎ、シンプソンに渡した。

 ボタンの掛け違いかのようなチグハグさが滲み出ているが、焚き火の効力もあってか一定の穏やかさが周囲を包んでいる。

 そんな中にあっても、1人だけ氷点下のような冷たい目で見ている者が居る。

 アランだった。

 夕食に一切手を付ける事をせずに、真田とシンプソンのやり取りを無機質な目で見ていた。


 「‥‥‥で。何でお前は自然に俺達と一緒に夕食を食べているんだ、シンプソン。俺の記憶が正しければ、自分勝手にするから構うなと云った筈だと思うのだが」


 「文句を言うのなら、相方の方に言いなさい。準備をすると云って、何も準備をしてないでしょ。あれだけ自分で強く云ったのに、約束すら守れ無いんじゃ、冒険者以前として人間性に問題を感じるわ」


 「それはお前が準備の分担を決める話し合いを滅茶苦茶にした所為だろ。お前が余計な事を言わずに話し合いに応じれば、このような事態は起きて無い。自分の責任を他人に押し付けるのは止めろ!!」


 「責任を押し付けているのは、そっちの方でしょ。例え口約束でも、約束に違いは無いわ。その約束を果たそうとせずに、一方的に非難するのが冒険者なの?」


 数瞬、間を置いたシンプソンは何かに気付いた様子になり。


 「ああ、こんな子供でも分かるような事も分からないから、冒険者をしているのでしたね。次からは気に留めておきから、許してちょうだいね」

 

 それは人を不快にさせるのには十分すぎた。

 それ故に、アランは自分の中で何かが、引き千切れる音が確実なまでに聞こえた。

 ゾンビのようなゆったりとした緩慢な動きで立ち上がり、剣の柄に手を置いた。

 凶行待ったなしの状態に真田は目を皿にして、慌てて柄の先を手の平で押さえようとしたが。


 「街の近くとは云え、大声で言い争いするとは。呑気で良いもんだな」


 3人は声がした方を一斉に視線を向けた。

 其処にはおぼろげながらも焚き火によって、5人の姿が映り上がっていた。

 全員、防寒なのかマントを羽織っている。多少の差異はあるが、皆しっかりとした体格をしており、冒険者の類と見受けられる。

 その中の一人が、フードを取った。

 短く刈り上げた金髪で、綺麗に整えた顎鬚が印象的な男性であった。


 「お前達、ここは壁に守られている街じゃないんだぞ。街の近くとは云え、魔物達が何時襲って来ても、おかしくは無い外だ。常に緊張感を持って、野営をするべきだろ。お前達は、そんな事も知らない子供じゃないだろう」


 アランの溜まっていた怒りは、穴が開いた風船のように萎んでいき。シンプソンは不満そうにして視線を外していた。

 男は呆れたように少し嘆息をして。


 「それに大声で言い争いをすれば、騒ぎを聞きつけた良からぬモノが近付き、余計なトラブルを招く事に‥‥‥」


 男は何かに気付いたのか、言葉を失ったかのような驚きを見せた。

 数瞬の後、納得いったかのように何度も頷き。口元をニヤリと大きく歪めた。


 「いやぁ、すまない。先程の俺の言葉は訂正する。君達が言い争いになっても、無理は無いな。俺でも言い争いをしないようにするのは無理だわ」


 男の視線は絡み付くかのようなじっとりとし、とても人を見ているような物では無い。

 何か別の生き物として見ているようだ。


 「何せ、此処にはお前が居るんだからな」


 その先には、不満げそうにしているシンプソンが居た。


 「なぁ、仲間殺しのヴィオーラ=シンプソン」


まだまだ話は続きますので、定期的に出せるように頑張ります。

今後ともご贔屓の方を宜しくお願い致します。

誤字脱字がありましたら、御指摘の方を宜しくお願い致します。

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