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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第7章 ヘクセレイギルト
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第64話 道中での出来事2

遅くなり申し訳ございません。短いですが、出来ましたのでアップしました。

 (‥‥‥シンプソンが仲間殺し。いったいどういう事なの!!!???)


 嵐のような激しい戸惑いと混乱で、アランは身体がぐらつくかのような錯覚を覚えた。

 アランはシンプソンの事はいけ好かない奴で、出来れば二度とチームを組みたいとは思わないと。だけれども、最低限の分別はついている奴だと無意識に思っていた。

 そうでなければ他人同士でチームを組む事なんて、出来ないと知っているからだ。

 アランの混乱を余所に、男性は不快なものを吐き捨てるかのような口調で。


 「この女は一度組んだチームのメンバー内の不和を増長させ、チームメンバー同士で疑心暗鬼を生じさせる。そうなれば、チームとしての連携や動きは最悪なモノだ。その状態では勝てていた筈の魔物にも負け、結果としてこの女以外のメンバーは死亡か怪我で引退だ。そんな事が何回もあったと聞く。それから事情を知る奴は、この女の事を『仲間殺し』と呼ぶようになったんだよ」


 直ぐ近くで大砲を撃たれたかのよう衝撃に、誰も言葉を発する事が出来なかった。

 通り過ぎていく冷たい風の音や弾ける焚き火の音が、虚しく響くばかりだ。


 「どういった事情で、この女と組んでいるのかは知らないが。俺は今すぐ、解散する事をお勧めする。お前達2人はチームだろう。ここでコイツの所為で、仲違いをしてチームを解散したら、悔やんでも悔やみきれないだろ」


 呪詛のような言葉がアラン達の耳に、ガムのようにへばり付く。

 アランとしては今すぐにでも、シンプソンとは別れたいのだが。真田の事情を知っているので、それが出来ないというもどかしい状況となっているのだ。

 少し時間が経ち、幾分か冷静になったアランは、ようやく疑問が解消した。

 そもそも前提がおかしかったのだ。

 何故シンプソンは1人だったのだろか。


 (サナダのような高い実力を有しているのなら、単独で行動するのも頷ける。実際にチームを組まずに、1人で活動している冒険者もいると聞いた事がある。でも、あいつはどう見てもそうは見えないな)


 アランは人1人の力はたかが知れている。だからこそ、荒事を生業としている冒険者と魔術師は、自らの能力に見合った人物を勧誘し、互いの目的の為にチームとして日々の仕事に明け暮れる。


 (だから、あいつは1人で行動していたのか。例えオークを一撃で真っ二つにするような強力な魔術工芸品(アーティファクト)を所有していたとしても、仲間殺しをするような人間と、組みたいと思う人なんて居ないだろう)


 シンプソを見るアランの瞳には先程までの怒りは無く、蔑視の色合いが強くなっていた。

 チームを組む上で必要最低限であり、絶対の掟を犯している。

 それだけでも、アランにとって軽蔑する理由には十分過ぎる理由だ。

 アラン達を包む雰囲気は、呼吸をするたびに肺が傷つくかのような澱んだものだ。

 男が更に言い続けようとしたが、遮るように真田が口を開いた。


 「それは変じゃないですか」


 「‥‥‥何だと?」


 男の表情に不快そうに眉間に皺が寄り、真田を見る目が険しくなった。

 まさか反論されるとは毛頭にも考えていなかったのだ。

 アランやシンプソンは驚いた表情で見ていた。

 真田は周囲に気にする事は無いような、日常会話をするような気軽さで。


 「確かに貴方が言うように、シンプソンさんがチームの不和を招いたのは確かでしょう」


 「そうだろ。だから‥‥‥」


 「だからと言って、全滅した責任をシンプソンさんに押し付けるのは、違うと思います。チームとは各自が役割分担を行い、1つの生き物として行動するから、その強みを発揮します。だとしたらチームでの行動は、多少なりとも他のメンバーにも責任が発生します。少なくともチーム内で不和が強まっているのなら、リーダーは依頼の遂行を一旦中断し、話し合いの場を設けるべきです。互いの立場を明確にして、依頼を遂行出来るか出来ないかを判断するべきでした。それを怠り、依頼達成を強行して大怪我を負ったのならば、シンプソンさんが悪いとしても、リーダーが負うべき責任大きいでしょう」


 「何を言っている。それを誘発させたのは、シンプソンだろ。その所為で俺の知り合いが引退にまで追い込まれた。あいつさえ居なければ、被害に遭ったチームは依頼を達成する事が出来、解散する事は無かった。現にお前らだって、シンプソンの所為で野外にも拘らず、言い争いをしていたじゃないかっ」


 「確かにその通りで、周囲の事も考えずに2人は言い争いをしていました。ですけれども、それがどうしたのですか? 人間生きていれば、何度でも言い争いをします。仲の良い人間同士でもしてしまうのですから。そんな当たり前の事です。貴方が言っている事は、ただ単に負けた言い訳をシンプソンさんに押し付けているだけです」


 物静かな様子だが凛としてハッキリとした口調に、男は悔しそうに顔を歪めていた。

 男の目には真田がぶれて見ていた。

 髪の色が見た事の無いだけで、見た目は何処にでも居るような自分よりも1回り年下の少年でしか無い。

 なのに。

 数々の修羅場を潜り抜けた、老練な存在に見えつつあるのだ。

 そんな認識のズレが、言いようの無い苛立ちを生み出している。


 「いいか、俺は忠告をしてやっているのだぞ。この女には注意しろと。こいつは故意に俺達の感情を逆撫でにして、チームを壊滅にしようとしている。それを表すかのように、そいつだって喧嘩寸前にまでだったじゃないか!!!」


 「喧嘩ぐらいしますよ、元気な証拠で良いじゃないですか。言っておきますが、私達は荒事を生業としているのですよ。それぐらいの体力と気力を持って貰わなければ、困りますよ」


 お互い平行線のままで、どれだけの時間を使ったとしても交わる事が、感じ取れた。

 アランは兎も角、シンプソンすらもサナダの方を向いて、驚いている。

 当然の反応だ。

 今日の今までの体験から考えても、男が真田に言った事が正しい。チームの円滑な動きをするのなら、その障害物を取り除く事が1番効率的だ。

 でも真田はそれをしようとしない。

 シンプソンからあれだけ馬鹿にした筈なのに、真田は立場が不利になるのにも拘らず、庇い立てている。

 たった数秒が数分にも感じさせるほどの重苦しい沈黙を、男は舌打ちで打ち切った。


 「お前がそう言う態度なら、俺はこれ以上何も言ねえ。お前の好きにしな。お前が庇う、この女にチームを破壊されて、魔物に食われて死んでしまいな。‥‥‥そして、死んでいく中で、俺の忠告に素直に従っておくべきだったと、後悔しな!!!」


 男は捨て台詞のように言うと、野営の準備をしていた仲間達の方へと向かった。

 アランは何を言ったらいいのか分からず、無言となってしまい。静寂が聞こえるばかりだ。

 真田は誰に聞こえないような小さく呟いた。


 「後悔なんぞ。何とも思わないほどしているわ」


 真田たちは全ての作業を終え、後は火の番と寝るのに別れるだけとなった。


 「取り敢えず、今日の火の番は私がしておきます。後で、お二人にこれを渡しておきます」


 真田が見せたのは、亀の甲羅を2枚合わせた氷のように冷たい銀色の容器だ。表面には凹凸の蛇腹模様が施されており、また先端には容器から漏れないように、白い蓋にはコの字の取っ手が付いていた。それと、真田は何度も触っていたと思わせるかのような手触りの良い灰色の袋を渡した。

 アランは不思議そうな顔をして、何度も袋を触っていた。


 「これは何だ、サナダ?」


 「これは湯たんぽですね、その袋の中に金属の容器に入っていて、その中にお湯を入れて身体が冷えないようにする暖房器具です。馬車の中は吹き曝しの状態ですから、寝ている時に風邪をひかないようにと思い、出してきました」

 

 湯たんぽの蓋を外した真田は黒の手袋を装着し、金属のケトルからお湯を湯たんぽに注いだ。


 「ユタンポ? ‥‥‥‥‥‥へぇ、お前の国にも同じようなものがあったのか。俺も家に居た頃も、今日のような寒い日はスシューダにお湯を入れ、更に極小さい火属性の魔石を入れて一晩を明かしたな」


 「‥‥‥‥‥‥あ、ああ。前に言っていた、‥‥‥採掘関係の知り合いの方から売り物にならないものを特別に融通して貰ったという話ですね。特別寒い日だけという限られていたという話ですが、とても羨ましい限りです。私が渡した物も一晩中もちますから、性能面では心配しなくてもいいですよ」


 アランは物凄く不思議そうな顔で見ていた。何故、言っていない筈の事を部外者である真田が知っているか見当がつかなかったからだ。

 アランから湯たんぽを入れる袋を受け取った真田は、捲し立てるかのように更に続けた。


 「取り敢えず、明日も早いですから。もう寝ましょう。座っていた椅子を寝床にしました。寝やすいように、マッ‥‥‥簡易布団を敷きました。これで幾分か寝やすくなると思いますから」


 「そ、そうか。ありがとうな」


 馬車に移動したアランは、マットにうつ伏せになりクッション性を全身で堪能していた。

 すると、いきなりピタッと止まってしまった。


 「なんか滞在している宿屋の布団よりも、野営に使う簡易布団の方が良いという事実に、ちょっとなんか悲しくなってきた」


 「ああ、そうですね」


 何となくアランが言っている事に、真田は共感を覚えずにはいられなかった。

 少し値が張るものならば、人間工学や睡眠の質等、多くの臨床実験のデータを基にして作られているので、人体に最適格な道具となる。

 真田が出したマットと宿屋にある布団では、文明の進み具合が違うのでそもそも比べても致し方無い。


 「依頼を達成していき、お金に余裕が出来たら。これよりもいい布団で寝てやるぞ」


 「それは早く達成したいですね。いつまでも宿屋の布団では、寝るのが大変ですから」


 真田は馬車から降りて、アランと楽しそうに今後の展望を話し合った。


 「では、今日は言い出した自分が焚き火の番をしましす。明日はアランさん、明後日はシンプソンさんとお願いします」


 「へぇーい」


 アランは湯たんぽを抱えるように横になり、布を覆い被さり睡魔が誘う世界に到ることになった。

 やる気の無い返事を背に受け、真田はしょうがないなと焚き火へと動いた。


 (‥‥‥‥‥‥‥‥‥暇だなぁ)

 

 シンプソン用の湯たんぽのお湯が出来るまで真田は、シンプソンと共に火の番をする事となった。


 (本を読む為のLED式のランプはあるんだが、目の前にシンプソンが居るから、安易に使う訳にもいかないんだよな。LRDランプで、疑念を持たれている筈なのに。どう考えても製本技術が違う本を出したら、疑念が確信に変わるからな。どうしたものかね)


 真田は今後の行動をどうするべきか、思考実験を繰り返した。

 パチパチッ!!と、焚き火が柔らかい音を立てて燃えていると、今まで黙っていたシンプソンが口を開いた。


 「何でさっきは、私の事を庇ったのよ」


 真田は一瞬何の事を言っているのだろうと、戸惑ったが。すぐに先程の事だと思いだした。


 「あの男の話に乗って、預かっている物を奪い私を追い出せばチームの雰囲気も元に戻るわ。現に、お前の相棒とは険悪な状況になっている。このまま放置すれば、チームが解散する可能性だってあるわ。折角の私を追放するチャンスを逃したのに。‥‥‥それともなに、目的の為に少しでも私の心証を良くしようと思ったわけ?」


 真田はしょうがないなと、口元を小さく歪めて。


 「シンプソンさんはそうしてほしいのですか。私は一向に構いませんが」


 「‥‥‥‥‥‥私は真面目に聞いているのよ」


 シンプソンのジト目の迫力に気圧されて、真田は失礼と小声で謝罪し。


 「先程言った通りですよ。チームで行動しているのに、何かあったら1人に責任を押し付けるなんて、余程の事では無い限り考えられませんよ。逆にそんな甘い考えだったから、チームが壊滅状態にまで追い込まれたじゃないんですかね」


 「理解出来るわ、自分の力量不足を他人に転嫁する事は良くある事。‥‥‥でも、それはごく有り触れた一般論に過ぎないわ。私が聞きたいのは、自分を不利になるのが分かっているのに、私の事を庇った理由よ」


 シンプソンは疑り深そうに目を細めて見ていた。

 シンプソンとは今回だけ、一時的に行動を共にしているだけ。今回の案件が終われば、再び互いが群衆の中に埋没するだけの薄い関係だ。

 だから、シンプソンは理解出来なかった。

 一時的に行動を共にしているだけの自分よりも、相棒として行動を共にしている人間に寄り添う言動をする方が、自然であり当然と考えているからだ。

 なのに。

 相棒からの信頼をいとも簡単に捨てるような真似をしている、真田の言動がシンプソンにとって不可解でしか無いからだ。

 真田は、カタカタッ!!と。ケトルからの合図を聞いて、お湯を湯たんぽの中に注ぎ込み。


 「そうですね、庇った事に理由があるとしたら。‥‥‥そうした方が、面白そうだったからですかね」


 「‥‥‥面白そうだったから?」


 シンプソンは理解しようと、反芻するが出来なかった。

 単語としての意味は充分に理解出来るのだが、何故この場面に於いてその単語を出すのか、真田の真意が到底理解出来なかったのだ。

 蓋を閉め湯たんぽを袋の中に入れた真田は、自虐するかのように小さく口元を動かし。


 「未熟者である私には、未来がどうなるかは全く見当がつきません。シンプソンさんを庇う事によって、悪い結果が(もたら)されるかもしれませんし、良い結果が(もたら)されるかもしれません。そんな近い将来すら分からないのであれば、自分にとって面白い選択肢を選んだ方が、幾分か人生が豊かになると思うのですよ」


 「冒険者らしい短絡的で、危険な仕事をしているのに底が浅い考えだこと。よくもまあ、今まで生きて来られたわね」


 「自分でもそう思いますよ。生き残れたのは、(ひとえ)に運が良かったからですかね」


 シンプソンは気楽そうに笑っている真田を、大丈夫かと疑念の目で見ていた。

 真田の態度があまりにも呑気すぎる所為だ。とても荒事を生業としている人間の態度では無いのだ。

 常に気を張っている事は不可能に近いぐらいは、シンプソンも知っている。

 だからと言って、今の真田のように家に居るかのような気の抜きようは、信じられないのだ。自身の実力に油断をし、引退に追い込まれる程の大怪我を負ったという話は、飽きるほど聞いている。

 シンプソンはこのままでいいのかと不安を感じざるを得なかった。

 それから少し時間が経過した頃。


 「‥‥‥そろそろ、寝るわ」


 真田から湯たんぽを渡されたシンプソンはそう静かに呟き、馬車の方へと向かった。

 真田は弱くなった焚き火に薪を放り込み。


 「君を信じた理由が他にあるならば。‥‥‥そうだな、君の瞳が綺麗だからかな」


 何の前触れもなく突拍子も無い言葉にシンプソンは、思わず足を止めた。脳が理解を拒み、拒否反応を起こしたかのような混乱が、シンプソンの足を止めさせてしまったのだ。

 真田は振り返る事無く、薪を放り込み焚き火の火力を強くしていった。


 「君を知っている人間が言うように仲間殺しという不義をしている割には、君の瞳は綺麗だ。私が前に居た国には、目は口程に物を言うという言葉がある。目は言葉と同程度に人物を表すという意味だ。私はこの言葉を聞いた時、納得した。不義をしていれば、瞳の輝きは失われ目はくすんでしまう。そんな人間達を多く見て来た。‥‥‥でも、君は違った」


 口調が変わっている事に気付ておらずシンプソンは振り返る事無くそのまま聞き続けた。


 「君の瞳は多少の曇りはあるが、それは誤差の範囲だ。人である以上多少は出てしまう。だがそれは、仲間殺しの不義をしていると云われれば違う。心の底から不義を行っている者の瞳は、価値を失った宝石のようなものだ。だから私は、君が仲間殺しをしていないと考えるだが、御不満ですかな」


 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥何その気持ち悪い、軽薄な言葉は。私を口説いているつもりなの、馬鹿じゃないの? 時と場合を考えて下さい。言っておくけど、私はお前のような馬鹿な冒険者とお付き合いするなんて、天と地がひっくり返ってもあり得ませんから、そのつもりで」


 吐き捨てるシンプソンは、視線を動かす事無く馬車へ戻って行った。

 ふられてしまったなと苦笑いをする真田の顔を、焚き火は何事も無かったかのように照らす。


 これはの夢の中であり、過ぎ去りし幻影。

 触れれば泡のように他愛もなく消え去り、どんな鋭利な刃物よりも傷つけ。悲劇と喜劇が紙一重で交差しあい、如何なるものにも後悔と歓喜に満たされる場所。

 自分の鼓動が聞こえそうな静寂に包まれ、窓は無く中央に木製の机と2つの椅子、入り口近くに1人用の机と椅子の部屋。そんな警察の取調室かのような部屋に、少し幼いシンプソンは1人ポツンと緊張と不安が入り混じった面持ちで座っていた。

 自分の心音しか聞こえず囚人のように周囲から隔離されたかのような状況に今から来るであろう人物との待ち受けている事案が、待つ事すら苦痛を覚えシンプソンの精神を(よど)んだものとしている。

 座ってから数分か数時間か、緊張のあまりシンプソンの体内時計は正常に動かず、部屋に入ってきてからどれ位経ったのか分からずにいると。


 「遅くなって済まないな、シンプソン。ちょっと他の事案について纏めるのに時間が掛かってな」


 そう入って来たのは、ヘクセレイギルトの制服を着た男性と筆記用具と紙の束を持った女性職員の2人であった。

 男性はシンプソンの前に静かにゆっくりと座り、女性は入り口付近の机の椅子に座り、紙にいつでも書けるように用意を始めた。


 「さて、シンプソン」


 男性の落ち着いた優しそうな口調ながらも、シンプソンは一瞬ビクッ!!と震えた。


 「今から、君の指導役であったアディソンと同行していたアヴェドギルトのチームがゴブリンの群れによって壊滅した事案についての聞き取りを行う。本来であれば、壊滅したぐらいで聞き取りを行う事は無いのだが。亡くなったアディソンや同行していたチームはギルト内でも実力者達だ。間違っても、ゴブリン相手に劣る事は無い」


 シンプソンの顔色が目に見えるぐらいにまで悪くなっていく。触れたくない傷口を無遠慮にまで抉られたかのようなものだった。

 男性は特に表情を変えることなく。


 「これから君が答える言葉は、公式記録としてヘクセレイギルトに残る事になる。今回起きてしまった事案についての各ギルト長や関係部署への報告書にまとめる際に、参考資料と使用する事になる。虚偽の答弁をすると、罰則を受ける事になる。最悪、魔術を2度と発動出来なくなることになるから。そのつもりで嘘偽りなく、私の質問に答えてほしい」


 「‥‥‥わかりました」


 シンプソンの表情がより一層、緊張の度合いが増してきている。


 「君には辛い思いをさせるが、今後2度と同じような事態を起こさせない為にも必要な事なのを理解してほしい。‥‥‥では君たちが帝都を出発した経緯を、最初から聞かせて貰おう」


 「はい。私達は帝都を朝方、目的地であるゴブリンの巣に向かって出発して‥‥‥」


 シンプソンは覚えている限りの事を、時系列順に話し始めた。


 シンプソンが話し始めて数時間後。

 男性は一区切りを入れるかのように、息を吐いた。


 「‥‥‥君が云うには、依頼通りに森の奥でゴブリンの群れを発見したが、それが予想以上の規模で今の人数では到底討伐が出来ないと判断。せめておおよその数を把握しよう隠れていたが、逆にゴブリンに発見され囲まれた。何とか群れを突破し、牽制をしつつ退却を図るも、予想外のゴブリンの猛攻に断念。このままではゴブリンを街に連れて行ってしまう事になるので、君が魔術工芸品(アーティファクト)を使って街に居る仲間に増援を頼むようにと言われ、何とかその場から離脱したという訳か」


 部屋を満たす闇夜のように暗く圧縮されているかのように重たい雰囲気が、そのまま口を閉ざさせるためのストッパーかのように、シンプソンは(うつむ)くばかりだ。

 何も答えず黙っているシンプソンの態度に、男性は何も言わずにじっとシンプソンを見つめている。

 押し潰されそうで苦しい雰囲気へのせめての抵抗かのように、シンプソンは糸のようなか細い声で。


 「‥‥‥はい」


 「そうか」


 男性がそう短く呟くと、何かを考えているのか目を瞑り、再び部屋は身動(みじろ)ぎ1つでもはっきりと聞こえるかのような静寂に包まれた。

 短いようで長いような時計が無いこの部屋では確認出来ない程の時間が経過すると、静寂を破ったのは思案から戻った男性だった。


 「シンプソン。今回は両ギルトに被害が出ているので、アヴェドギルトのチームの唯一の生還者にも聞き取りを取っているんだ」


 シンプソンの小さい肩が、大きくビクッ!!と動いた。


 「チームに所属している男性1人だが。大きな怪我はしていたが、話す程度には支障無かったので今回の件について聞き取りを行ったんだ。内容は君とほぼ変わりがないのだが、ある1ヶ所だけが違ったんだ」


 それはシンプソンにとって、信じられないものだった。


 「君はいつの間にか、ゴブリンに発見されて囲まれたと言ったが。生存者の彼の証言では、君が騒いだからゴブリンに発見されたと言っているんだ」


 シンプソンは驚きを通り越して、思考の空白が生まれた。

 理解が出来ないのだ。未知の言語のような根本的な事では無く、単語1つ1つは理解出来るのだが、話として並べられた時の内容があまりにも理解不可能なものだからだ。

 生存者と自分が見た光景や経験は同じだ。

 あの時の森の緑の匂いの濃さ。ゴブリンの醜悪な表情と不快な鳴き声。囲まれた時の絶望感などを一緒に味わっている。

 それはシンプソンにとって疑いの無い事なのに、現実は一方の証言と内容が違っている。

 不可解極まる事態、シンプソンにとって理解出来ないのだ。

 血相をかえてシンプソンは、


 「私は何もやってないし、ちゃんと先輩の言う事を聞いて静かにしていた。だけどゴブリンにいつの間にか背後に回りこまれ、窮地に追い込まれた。見つかったのは、決して私の所為なんかじゃない!!!」


 叫びのかのような大声に、聞いている男性は眉一つ動かさずに静かに聞いていた。

 男性はシンプソンを落ち着かせるかのように静かに口を開いた。


 「それは今後の君達への聞き取り次第だな。それによって今回の騒動の結論を出していく。一応私は立場上、中立を保って職務を行うのでどちらか片方の意見だけを取り込む事は無いと信じてほしい。‥‥‥此処で言うべきでは無いと思うが、君のギルト内での立場は危うくなっていると考えた方が良いぞ」


 「何でですか、何も悪い事はしてないというのに」


 「ギルト内でも屈指の実力者であるアディソンが、やられるはずの無いゴブリンに殺されたんだ。有り得ない事が起きたのだから、他に原因があると考えるのが順当だろう。そこに新人として入った君だ。君がアディソンの足を引っ張ったから、今回の事態が起きたんじゃないかとギルト内では噂が囁かれている。その噂を肯定するかのように、君は普段から我儘を言ってアディソンを困らせていたんじゃないかな」


 「‥‥‥‥‥‥た、確かに普段はアディソン先輩を困らせていたけど、戦いの場では先輩の指示に従っていた。しかもその噂はそんなの証拠も無い、只の噂話です。信じる方がどうかしてます!」


 「そう只の噂話だ。だけれども、人は確証があったとしても自分が信じたい方を選んでしまう生き物だ。私はこの職務をしていると、それが身に染みて実感出来る」


 断言するかのような男性の言葉に、シンプソンは言葉を失い茫然とするばかりだ。

 シンプソンにとって大きな痛手しかない。指導役を失ったばかりか、ギルト内の立場が失う寸前までに来ている。何の伝手もないシンプソンにとっては、生き死にの問題となってくるからだ。

 男性は茫然とするシンプソンに。


 「取り敢えず、今日の聞き取りはここまでだ。近日中に改めて聞き取りを行うから、ギルトの許可無しに外出する事は禁止されている。だから自室で大人しく待っているようにな。自室に戻り身体を休めるんだ」


 シンプソンは音も無く静かに立ち上がると、足首に鉄球がつけられているかのような重い足取りでその場から立ち去った。


 シンプソンはヘクセレイギルトが運営管理している寮にある自室に着くと、簡易ランプもつけずに衣服がしわくちゃになる事も気にせずにベットに仰向けに倒れこんだ。

 男性から齎された情報にシンプソンは、フリーズを起こしているパソコンかのように固まり口を半開きにして、今の精神状態を表すかのような真っ暗な天井を見上げるばかりだ。


 (何故。何故なの。何故こうなってしまったの。私は何も悪い事をしていないのに。‥‥‥私は先輩の言いつけを守っていただけなのに)


 シンプソンの思考は、疑問に埋め尽くされていた。それは永遠に答えが出る事の無い坩堝に陥り、生産性の無い同じ事を繰り返すばかりだ。

 例え、少し考えがズレたとしても思考の根本が一緒なので、どうやったとしても結果は同じところに行きついてしまう。

 ただただ時間を無意味に消費するだけでしかない。

 このような状態なのだから、シンプソンはどうやって自室に戻ってきたのか覚えてはいない。

それはある意味、幸運だったのかもしれない。

 ただでさえ聞き取りで精神状態が弱っているのに、ギルトに居る人間達から、侮蔑と嘲笑の色合いが濃い視線で見られていた。

 もし周囲からの隠そうともしない負の感情を受ければ、どうなっていたかは語るまでもないだろう。


誤字脱字がありましたら、ご報告を宜しくお願い致します。


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