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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第6章 外の世界へ
56/65

第55話 チームとして初めての仕事

今回は長いです。

 まだ空が黒く染められている頃。

 真田が借りている部屋では灯が射していない真っ暗ではあるが、アウクシリアに内蔵されているディスプレイの光によって隅の方では淡く照らされていた。そこではデジタル式時計のタイマーが静かに時を刻んでいた。

 幾ばくかの時間が経ち、ディスプレイのデジタル式時計がAM6:00:00と表示された瞬間。

 スピーカーから、ピピッ!!と、目覚まし用の無機質な電子音が鳴った。

 すると近くで寝ていた真田は、バネが弾かれたかような勢いで意識を覚醒させると、透明な緑のディスプレイの停止ボタンを押した。

 そして無機質な電子音は、鳴りを潜ませるかのように音が消えた。

 起きた真田は羽織っていたマントとアウクシリアを亜空間に収納すると、少し残る眠気と筋肉の緊張を飛ばすかのように手足と背筋を伸ばした。


 「(ああ、やっぱり身体が強張っているな。やっぱりちゃんと横になって眠ら無かった所為だろうな)」


 真田はその原因を作った張本人がいるベットへと視線を移した。

 そこには寝ているアランが居た。アランが寝返るたびにベットから軋む音が聞こえていた。

 チームでの規約についての話し合いでの疲れと、依頼をこなしての疲れとが相まって、寝ぼけて自分の寝床では無い真田のベットで寝てしまったのだ。

 借り主である真田が床で寝て、先日からチームメイトとなったアランがベットで寝ているという不思議な現象が起きているが、起こすのが面倒臭い真田はそのままにしていたのだ。

 真田は何だかなと諦めと困惑が入り交じった視線で見ていたが、それも直ぐに霧散させ朝の日課であるランニングをしようと窓を開けた。

 流れてくる冬特有の突き刺すかのような冷気が、真田の意識を更なる覚醒へと導いていた。

 真田は窓の枠に足をかけるとように窓の外に出て、音も無く石畳の地面へと着地をした。

 今までならそのまま出発なのだが、部屋ではアランが寝ているので亜空間から約3mの直槍を取り出し、外気が入って来ないように窓を閉めていた。


 「(何でこんな事をしているんだろうな。勝手に寝ているアランが風邪をひいても自業自得なのに)」


 真田は胸中に(わだかま)りを抱きながらも、隙間が無いように窓を閉めた。

窓が閉まっている事を確認し直槍を収納すると、真田は宿の屋根へと飛び上がった。

 屋根へと着地した真田の眼前には、何も変哲の無い街の光景が何時も通りの静まり返っているのが見えた。

 真田はそれらを少し寂しそうな目で見ていたが、瞬きした時には切り替えたかのように元の無機質な目で見ていた。

 真田は何時ものように目にも止まらぬ速さで屋根の上を駆けて行った。


 地平線から太陽が顔を出した頃、朝のランニングを終えた真田は近くの井戸の水でタオルを冷やしていた。

 水の本来の冷たさと外気の冷たさが相まって、手が(かじか)んで中々思うように絞れなかったが何とか根性を出して振り絞った。

 完全に水気が抜けきる一歩手前のタオルを持って、真田は2階の自身の部屋の窓を見ていた。


 「(流石に今日は寒いから、部屋の中で身体を拭くとするか。‥‥‥体温を下げるような真似はしたくないけど、掻いた汗は少しでも拭いておかないと汗疹の原因になるから綺麗にしないとな。あれって結構痒(かゆ)いんだもんな)」


 前に汗を掻いたまま放置して、酷い(かゆ)みに襲われた真田としては看過できなかった。

 かと言って一段と冷え込む野外で上半身裸になる勇気の無い真田は、部屋で身体を拭こうと宿屋に入って行った。

 途中、真田たち宿泊者の朝食の用意をしている宿の看板娘のアンナと一言二言言葉を交わして、2階にある自室へと入って行った。

 部屋に入った真田はベットの方へと見ると、頭を載せていた筈の枕を抱いて赤ん坊のように無防備なあどけない寝顔で寝ているアランが居た。

 年頃の少女が自分のベットで寝ているというそれなりにドギマギとする光景なのだが、無意識に半開きになっている口元からは涎が垂れているので、相殺どころか真田は百年の恋が冷めるかのようにげんなりとしていた。

 真田は下で朝食の準備がされていたのでそろそろ起こさないといけない思い、カドモニアの森防衛戦の時にアシュリーにしたように、呼吸器である口と鼻を塞いだ。ベットを占領された恨みで割と強めに。

 最初は気持ち良さそうに寝ていたが、呼吸器から酸素が供給されないとの異常事態に脳が警告を発したのか、逃れようと眉を顰めた顔がもぞもぞと動いた。

 しかし起きる気配が無かったので、真田は鼻と口を塞いだままだった。

 体内の酸素濃度の低下が一定ラインを超えたみたいで、もう我慢が出来ないと痙攣するかのように手足がバタバタと動き、瞼が矢のような速さで限界まで開かれた。

 真田はアランの碧の瞳を確認すると、呼吸器を塞いでいた手を退かした。

 呼吸困難状態だったアランは、不足していた酸素を体内に供給しようと激しい運動後のように肩で何度も息をしていた。

 体内の酸素濃度が通常状態にまでなり落ち着いたアランは、顔を真っ赤にして原因を作った張本人にである真田をまるで親の仇を見るかのような目で見ていた。

 

 「お前、なんて事をするんだよ。私を殺す気なの!?」


 怒鳴るかのように叫ぶアランを尻目に真田はシレッとした顔で。


 「勝手に人のベットを占領するからですよ。これでも優しい方ですよ。頭を踏まれたり蹴られたりされてないだけマシだと思って下さい」


 「はっ? 何言っているんだ。此処は私の部屋で、私のベットで私が寝ているのが何が悪いと言うのよ」


 ここは自身の部屋だと思っているアランは眉を顰めた。

 真田は些か呆れた口調で。


 「だったら何故、この部屋にはアランさんの私物が無いのですか」


 「えっ!?」


 怪訝な顔のアランは部屋の中を見渡した。


 「‥‥‥‥‥‥あっ!」


 ようやくアランは此処が自身が借りている部屋では無い事に気付いた。

 自室と同じ木の部屋だが、本来あるべき壁に立て掛けていた筈の鎧一式や剣、机の上の長い髪を研ぐ木製の櫛などの私物が一切見当たらない事に。


 「(や、やっぱり。此処は私の部屋ではないというの!? ‥‥‥という事は私は真田と一夜を共にしたという事なの!?)」


 仲間とはいえ初めて男性の部屋で泊まった事にアランは激しく動揺していた。

 アランには果たさなければいけない目的があるので、街で見かける女性達のように恋愛はしないように決めていたが、まさかチームメイトとチーム結成その日にそれをすっ飛ばすかのような行為をするとは夢にも思わなかった。

 完全なアランの勘違いなのだが、初めて父親以外の男性と同室なった事への動揺からそこまでの考えが及ばなかったのだ。

 真田は昨晩の事を思い出しながら、疲れた様子で。


 「昨晩は大変だったんだぞ。寝ぼけた君が私のベットに入ってそのまま寝てしまったんだからな。何度も起こそうとしたが君が頑として起きようとしないから、私は床で眠る羽目になったんだよな。その所為か知らないけど、昨日からの疲れが全く取れなかったんだよな」


 アランは真田の言葉に疑問に思ったのか、驚いた顔で真田を見た。


 「ちょっと待ってくれサナダ。お前の言葉通りなら私とお前は一つのベットで寝た訳では無く、別々に寝たという訳?」


 「当たり前ですよ。何で一緒に寝なきゃならないのですか、おかしいでしょ。それにそのベットは1人で寝るように設計されていますから、2人で寝たら窮屈でしょ」


 真田は突き付けるようにアランが座っているベットを指した。

 真田の言う通りでツキノクマの部屋のベットは、1人が横になったら殆どの面積を占めており、余人が入る余地が無いほどの狭さだ。


 「じゃあ、寝ている私に一切触れて無いと?」


 「触れたのは最初に起こそうとした時に肩を揺さ振った時と起こそうとして口と鼻を塞いだ時ぐらいです。言っておきますが、私は無闇に人に触れるという変な趣味は持ち合わせていないのですの」


 「そ、そうよね。普通はそうよね。‥‥‥ごめんね、有らぬ疑いをかけて」


 アランは自身が抱いていた状況になっていなかった事に安堵した。これで冒険者を続けられると、心の底からそう感じた。

 しかしほんの微量。部屋の片隅に集まる埃のような容量で、残念と思った事に気付く事は無かった。

 アランが理解出来ない言葉を話しているかのように思っている真田は、いまいちピン来ていない表情で。

 

 「何はともあれ、起きたのなら早めに男装した方がいいのでは? ゆっくりしすぎて朝食が遅くなり、不審に思ったアンナさんが見に来るという可能性も、無きにしも非ずですから」

 

 「そうね。私はさっさと自分の部屋へと戻るわ」


 そう言うとアランはベットから立ち上がり、廊下に誰も居ないことを確認すると自分の部屋へ戻っていった。

 真田はドアが閉まった瞬間、地獄の底に届くかのような重い溜め息を吐いた。


 「何で俺は朝からこんなに疲れているのだろう」


 誰も答えぬ問いかけが、虚しく部屋に響いていた。



 1階へと下りた真田は何時もの朝食、ライ麦パンとちょっと塩を多めのジャガイモのスープを、味わうというよりもエネルギーを摂取するとかのように機械的に食べていた。

 真田はスープに浸けて少し柔らかくなったライ麦パンの欠片を口に運び、もそもそと口を動かし喉に流し込んだ。


 「(やはり旅の資金と同時に農園を設営出来るだけの資金を調達した方がいいかもな。資金が集まったら、何処かあまり人の居ない所で農園を開いて、野菜や肉を品種改良して行くのもいいよな)」


 食事をしながら真田は将来の展望について、あれこれと考えていた。

 間も無く朝食が終わる頃、真田はアランが2階から下りてくるのが見えた。

 朝、真田に見せたように胸部は大きく突き出されておらず、心臓を守る胸当てはスッと真田と同じように垂直になっていた。

 アランは今、真田と会いましたと言わんばかりに装い。


 「おっ、おはようサナダ。お前は何時も早いな」


 「おはようございます、アランさん。出来るなら何時までも寝ておきたいのですが、貧乏暇なしと言いますか」


 状況の可笑しさを必死に堪えながら、真田は挨拶を返した。

 アランは真田の対面に座ると、給仕係のアンナが真田と同じライ麦パンとジャガイモのスープを持って来た。

 アランはアンナに礼を言うと、目を閉じて両手を組んだ。

 静かに呟くように、そして祈りを捧げる対象に聞こえるようにはっきりと。


 「主神アイテール様。貴方様の加護で今日もこのように食事が出来ました。感謝いたします。アーソン」


 食前の祈りを終えると、アランは何時ものようにライ麦パンを千切りジャガイモのスープに浸して、口に運んだ。

 真田は最後の一切れを食べると、アランにこう切り出した。


 「リーダー、この後はどうしますか」


 アランは口に残っていたパンを呑み込むと。


 「取り敢えず、アヴェドギルトに行こう。そこでチーム結成の手続きをし受理されたら、そのまま依頼を受けよう」


 「依頼ですか。チームでするとなると、高額な褒賞金が多い討伐依頼が中心となるですかねぇ」


 「そうだな。お前も知っていると思うが、どうやら今年は魔物の当たり年らしい。昨日、クエストボードを見たら魔物の討伐や調査の依頼書が数多く張られていたぞ」


 「それはそれは、仕事が困らないようで助かりますな」


 「不謹慎だが、それに関しては同意だ。俺達のような新人には、帝都や大都市周辺での騎士団の影響下の地域での魔物討伐が殆どだと思うが。知名度も信頼度も無い俺達が駆け上がっていくには多くの依頼をこなしていくしかないからな」


 真田とアランがどのような依頼をしようかと話し合っていると、給仕が一通り落ち着いたアンナが近付いて来た。


 「あら、アランさん達、チームを組んだのですか?」


 「ええ。今後の事を考えてチームを組んだ方がいいと思いまして、アンジェラスというチームを発足させました」


 「そうなのですか。‥‥‥リーダーは誰がするのですか」


 「チームを組もうと言い出した俺が、する事になりましたよ」


 小さく手を挙げるアランを見て、アンナは安堵の表情を浮かべた。


 「良かった。アランさんがリーダーで、これなら大丈夫ですね」

 

 「何が大丈夫なのですか」


 勝手に安心するアンナが訳が分からずアランは首を傾げた。


 「アランさんがいいと思うのなら、大丈夫なのだと思いますけど。本当に大丈夫なのですか、チームメイトがサナダさんで」


 真田の実力の一端を知るアランにとって、その疑問は予想外だった。


 「だってですね。同じチームのサナダさんは新人のランクアハトで、アランさんはランクゼクスじゃないですか。これが魔物討伐をしていたら問題は無いのですが、やっていた依頼は雑用ばかりと聞きます。そんな人がいきなり魔物討伐の依頼を受けて大丈夫なのかなと思うのです」


 「それは大丈夫ですよ。サナダは俺より強いですから。例え俺が死ぬような場所であっても、サナダは平然としていますから。‥‥‥何せ迫り来る数十体のミノタウロスの討伐を単独で成し遂げた男だからな」


 アランは言いきるようにはっきりと言い放った。

 アランの脳裏には今でもはっきりと、思い描けるほど鮮明に残っていた。

 広々とした草原を我が物顔で突撃して来るミノタウロスの大群、逃げ出したとしても誰も非難する事が出来ない程の絶望的な状況の中、たった1人で向かって行った真田の後ろ姿を。

 そして同時にある思いも抱いていた。

 それは自分が理想とする、か弱き民の為に苦難に立ち向かう騎士の姿そのものではないかと。

 アランが胸に温かいものを感じながら、その光景を噛みしめていると、笑い声で我に返った。

 驚くアランが見ると、アンナがお腹を抱えて大声で笑っていた。

 何事かと他の宿泊者がキョトンした顔でアンナを見ているが、それに気付かないまま笑っていた。

 宿屋中に響き渡っていた笑い声は、笑い疲れたのか次第に収まっていった。

 アンナは可笑しすぎて、目に少しの涙を溜め。


 「真面目なアランさんも冗談も言うのですね。でも冗談ならもう少しユーモアを入れた方がいいと思いますよ。それだったら多くの人に聞いて貰えると思いますから」


 苦笑交じりのアンナは真田の空いた皿を持って、洗い場へと持っていた。

 確かにランクアハトの新人がミノタウロスの大群を単独で討伐したという話を、見てもいないのに信じれと言うのも無理な話だった。

 アランはあんな事を言われているぞと真田に鋭い視線を向けるが、真田はあんなものですよと肩を竦めるばかりだった。


 腰に帯刀している真田は座っていた席に、まだ腕を組んで座っていた。

 そろそろ行かないとメアリーとの待ち合わせに遅れるのだが、待ち人が来ない真田としては出発出来ないでいた。


 「(ったく、アランの奴。何が一緒に行こうだ、子供じゃあるまいし。そんなに俺の事が信頼できないと言うのか)」


 真田は自身の苛立ちを少しでも紛らわすかのように、右人差し指を小刻みに動かしていた。

 真田は朝食を終え、一足先にギルト本部へとメアリーとの待ち合わせ場所を経由していこうとしたが、アランが急に一緒に行こうと言い出したのだ。

 真田はそれぐらい別々に行こうと提案したが、頑としてアランに聞き入られず、一緒に行く事になったのだ。


 「(彼奴が女だと知っているから、口を滑らさないように監視がしやすい所に居りたいというのは解るが。何時までもこのままじゃいけないだろう)」


 真田はどうなってしまうのだろうと将来を不安視して、肩を落とした。

 落ち込んでいる真田の耳にバタンと扉が閉められて音が届き、階段の方へと視線を向けると、アランが降りてくるのが見えた。

 アランは朝に着けていた胸当て以外に腰に愛剣を帯刀し、膝や肘の関節部、脛や手甲を保護し動きを阻害しない最低限の防具、所々に傷が走っている鉄製の軽装備をしていた。

 アランは下に居た真田を申し訳無さそうな表情で。


 「すまんすまん、待たせたな。準備が出来たから行こうか」


 「はいよ」


 待たされた真田はせめてこれぐらいはと、ぶっきらぼうに返事をした。

 きょとんとしたアランは首を傾げながらも、自分の部屋の鍵を受付に居るアンナに何時ものように渡した。


 「お仕事頑張って下さいね」


 「ああ、ありがとう。頑張って魔物を狩って来ますよ!!」


 アランは威勢良く返事をし、真田は軽く頭を下げて外に出て行った。



 真田はアランと共にメアリーとの待ち合わせ場所に向かっていた。

歩いているとアランが何かを思い出し。

 

 「そう言えばサナダ、お前は何でメアリーちゃんと一緒に行き帰りをしているんだ。仲が良い事は知っていたが、そこまで仲が良いとは思ってなかったぞ」


 「ああ、あれですか。うぅん」


 事が事だけに真田はそれ以上何も言えずに、唸るばかりだった。


 「何だよ。他人に言わないように箝口令が下るような出来事だったのか、お前とメアリーちゃんとの行き帰りは」


 「そう言う訳では無いのですが。あれはメアリーさんにとって良い思い出は無いので、あまり他人に言うのは憚れるのですよ。聞いてもあまり楽しい事では無いので、聞かない方がいいですよ」


 「お前がそこまで言うのなら、聞かない事にしよう。俺も聞いて友人との関係を壊したくないからな」


 「その方向で宜しくお願いします。‥‥‥あっ、メアリーさんだ」


 真田につられるようにアランは前を見ると、ギルトの制服を着たメアリーが立っていた。

 (しき)りに髪の毛を整えるように触ったり、制服に皺が無い確認したりしていた。

 何だか今から意中の男性と出かけるような雰囲気を醸し出しているように、アランは見えていた。

 真田は待ち合わせしていた友人に会ったかのような気軽さで。


 「メアリーさぁぁん」


 「あっ、サナダ‥‥‥」


 真田の姿を捉えたメアリーは思わぬ人物、アランの姿を見て固まってしまった。

 前に少しいざこざがあってギクシャクしていたが、それも解消され再び2人での行き帰りが出来ると楽しみにしていたのだが、まさかアランが一緒に来るとは夢にも思っていなかった。

 アランは真田と一緒に行くと言い出した以上、離れる訳にもいかないのでメアリーに申し訳無さそうな顔をしていた。

 真田はメアリーとアランの様子が変だなと思い、両者間に漂う変な雰囲気を壊すように。


 「メアリーさん。アランさんと来たのは、私とチームを組む事になったからのですよ。それでギルト本部でチームの申請をしようと、一緒に来たのです。急だったとはいえ、事前に言えずに申し訳ない」


 「あっ、チームの申請でしたか。受付に結成の申請の書類がありますから、その紙に書いていただいたらチームについての各注意事項をお伝えしますね」


 「そうですか、助かります」


 メアリーは湧き上がった疑問をぶつけるように吐露した。


 「それにしてもサナダさんがチームを組むなんて驚きですね。ずっと雑用みたいな依頼をこなしていくものだとばかり考えていました。しかもアランさんと組むなんて。前々からお話はあったのですか。2人とも見ていましたけど、そんな素振りは見えなかったですけど」


 「ちょっとお金が欲しくなりましてね。受ける依頼の方向性を変えようかなと思っていた時に、アランさんからチームを結成しないかと話が来まして、それに乗っかろうとおもいまして。何せ急な事でしたから。何せアランさんからチームを組もうと言われたのは昨日の晩でしたから、メアリーさんが気付かなかったのも無理はありませんし」


 「昨日の晩ですか。それはまた急な事ですね」


 真田は余計な感情を込めずに、事務的な口調で。


 「それでですね。チームを組む事となって、依頼も今までのような雑用では無く討伐系になり、今までのように帝都に居られる訳でも無くなったので」


 聞いていたアランは自分が言い出した事とはいえ、非常に気まずい顔になった。


 「このように一緒に行き帰りをするのは、今回で最後となります」


 「‥‥‥そうですか。今まで私の我儘に付き合っていただいて、ありがとうございます。あれから時間が経ち大丈夫だったのですが、サナダさんとのお話が楽しかったので、ずるずると今日まで続いてしまったのです。申し訳ないです」


 メアリーはそう申し訳無さそうにして軽く頭を下げた。

 あまりにもあっさりとした遣り取りにアランは、こけそうになった。


 「(えっ、なんでそうなるの!? なんかこう。悲劇を生みだしかねない雰囲気になるんじゃないの、この場合は)」


 自身の予想とは大きく懸け離れた事態になっている事に、アランは戸惑いを隠せないでいた。

 悲劇を望んでいる訳では無いのだが、気を遣っていた自分が何だか空振りしたようなもやもやと消化不良をアランは起こしていた。

 真田はそんなアランを気にする事無く。


 「じゃあ、ギルトに行きましょうか。早く行かないと遅刻してしまいます」


 「それは早く行かないとですね。遅刻はお給料の査定に響きますから」


 意外な所から給与システムの一端を知った真田は何時ものようにメアリーと共に、ギルトがある西大通りへと向かった。

 その後に続くアランは歩きながら楽しそうに真田と話すメアリーを見て、自分の思い違いだったのかと結論を付けた。


 数十分後。

 ギルトに到着した真田とアランは職員であるメアリーと別れ、クエストボードを見ていた。

 クエストボードには今の現状を映し出しているかのように、魔物討伐と調査、商団の護衛、荷物の運搬等々、多種多様な依頼が多く張り出されていた。

 まだ朝が早い所為なのか、クエストボードの前には数人の冒険者が居るだけだった。

 アランは視線で穴を開けるかのような真剣な眼差しで、自身のクラスゼクスの欄の依頼書を見ていた。

 真田はそれを何処か呆れた様子で見ていた。


 「そんな食い入るように見らなくても、大丈夫でしょ。依頼書は逃げていきませんし、今は人が少ないから取られる事も無いですから」


 「チームアンジェラスとして初めての依頼だ。これを完璧にこなして、駆け上がるための足掛かりとしたい。かと言って安全過ぎる依頼もしても、何も弾まないがな」


 「それは解りますが、少し肩の力を抜きましょ。その余計な力が視野を狭くし太刀筋を鈍らせますよ」


 真田が忠告は初めての事に興奮気味のアランには届いていなかった。

 真田はどうしたものかと困った顔で見ていると。


 「サナダさん。用意が出来ましたので、受付にどうぞ」


 事務室から出てきたメアリーの手には1枚の紙があった。


 「そうですか、ありがとうございます。‥‥‥アランさん、チーム結成の申請をしましょ」


 「ああ、分かった。」


 ようやくアランは依頼書から目を離し、メアリーの所へと移動した。


 「では、この紙に必要事項をお書きください」

 

 そう差し出されたのは、冒険者登録をした時の紙と同じような紙だった。違うとすれば余白が多い事ぐらいだった。

 メアリーはまず一番上の欄を指し示し


 「では1番上にはチーム名を書いてください。次にリーダー、代表者の方の名前をその下に。それが終わりましたら、メンバーの方の名前の記入をお願い致します」


 「分かった」


 黒のインクが付いた羽ペンを手に取ると、アランは氷の上を滑るように滑らかに羽ペンを走らせた。

 メアリーの指示通りに1番上にチーム名のアンジェラスを。その下に自身の名を書いた。

 最大の空白部分にチームメンバーに真田の名前を書こうとしたが、羽ペンが走る事無く止まったままだ。

 真田が不思議そうに見ていると、アランが振り返り。


 「サナダ。お前の名前は何だっけ?」


 「ええっ、今更それは無いでしょアランさん!? チームを組もうと誘って何も言わずに書き始めたから、知っているばかりだと思っていたのに!!」


 「仕方が無いだろ。何時もサナダサナダと言っていたから、名前を覚えなくても良かったんだよ。第一、お前が俺に下の名前を言ったのは初めて会った時と、初心者講習の時ぐらいだっただろ。そんな2回位で名前覚えられるわけないだろぉ!!」


 「逆ギレ!? 自分から誘っておいてチームメイトの名前忘れたのが恥ずかしいからって、それを誤魔化す為に怒らなくてもいいでしょうがぁぁぁ!!」


 ギャアギャアと騒ぐ馬鹿2人を周囲は迷惑そうな目で見ていた。

 まだ本格的に忙しくなる時間帯の前なので、それ程迷惑は被ってはいないがそれでも眠いのを押して、淡々と業務をこなしている職員には辛いものがあった。

 そろそろ馬鹿2人が、お互いの胸の掴み合いになりそうなまでにヒートアップしかけていた。

 その時だった。

 バァァン!!と、全ての者に平等に重く圧し掛かる低い音が、1階全ての響き渡った。

 周囲の人々は音の発信源を目を見開いて黙って見ていた。あれほど騒いでいた馬鹿2人も水を差されたかのように静かになっていた。

 周囲の人々の視線の先には、メアリーがいた。

 姿こそ机に頭を突っ伏して平伏しているように見えるが、今はそれが逆に恐ろしかった。

 真田の見間違いで無ければ、メアリーの後ろには罪人を焼く地獄の業火が揺らめているように見えた。

 メアリーは地獄の底に響くかのような極めて低い声で。


 「周りの方が迷惑していますので、お静かにお願いします」


 「「はい、すみませんでしたぁ!!」」


 と、馬鹿2人はまるで示し合わせたかのような同時に身体を畳むかのように深々と頭を下げた。

 そして生まれたての小鹿のように委縮しているアランは真田から名前を聞き、最大の空白部分に『タクト=サナダ』と名前を書き、メアリーに提出した。


 「チーム名はアンジェラス、鐘の音ですか。可愛いらしいチーム名ですね。最初に聞いた時はてっきり過去の偉人の方の名前や勇敢さや強さを表したようなチーム名だと思っていました」


 アランは曖昧な笑みを浮かべ、言い出した真田を睨み付けた。

 真田は自分は知りませんよと他人事のようにランクゼクスの依頼書を見ていた。


 「ではチームアンジェラスのリーダーであるアランさん。チームでの依頼の注意点を言いますので、聞き逃さないようにお願いします」


 「はい、お願いします」


 アランは聞き洩らさないようにメアリーに意識を向けた。


 「チームでの依頼は構成人数の半数以上のランクを行って下さい。例えリーダーがランクフィーアであったとしても、半分以上の方がランクゼクスならば、ランクゼクスの依頼を行って下さい。ですが逆の場合も大丈夫です。もし構成の半分以上の方のランクがフィーアであれば、フィーアの依頼を行えます。ポイントは通常通りに加算されます」


 「俺達の場合ならサナダはまだランクアハトだが、もう1人である俺がランクゼクスだからランクゼクスの依頼書をしてもいい訳だな」


 「はい、そうなります。‥‥‥もし、不正が発覚すればギルトから厳重注意をし、それが何度も行われるような悪質の場合は、ギルトの権限でチームを強制解散させますのでご注意下さい」


 「分かった」


 アランが合いの手のように了承の意を伝えた。


 「依頼を受ける際は必ずリーダーの方がするようにしてください。リーダーはチームの代表者です。代表者の方が居ない時に依頼を申請しようとしても、ギルトは例外なく一切受理する事はありませんので、お気を付けください。またそれは指名依頼も同様です。契約を交わす時も代表者が居らず、名前が記載されていない依頼書は無効となりますのでご注意ください」


 「チームで依頼をするにはリーダーである俺の名前が必要なのだな。分かった」


 アランは理解出来たと何度も頷いていた。


 「チームでの注意点の説明は終わりましたので、何か依頼を為されますか」


 「そうだな。‥‥‥何か良さげな依頼を探します」


 アランはサナダが見ているランクゼクスの欄に戻った。


 「サナダ、何か良い依頼はあったか」


 「そうですね。だいたいは似たり寄ったりな依頼ばかりです。帝都近郊で魔物討伐の依頼なら人型のゴブリン、オーク。動物系なら狼のネーロウルフ、蜘蛛のシェロブ、蜂のキリングビーといったところですかね」


 「定番と言えば定番だな。俺も1体だけなら何度か討伐した事がある魔物達ばかりだな。さて、どの依頼をしようか」


 アランが依頼書を注視していると、真田が面倒臭そうな顔で。


 「もう褒賞金が高いオーク討伐でいいんじゃないですか。南の森で暴れているオーク討伐で3体で90万フラル。中々いいと思いますよ。‥‥‥どうせある程度の数の依頼を(こな)して行くのですから」


 「そういう問題じゃないんだ。これはチームアンジェラスとしての記念すべき初依頼なんだ。この依頼の成否によって、このチームの将来が決まってしまうと言っても過言じゃない。だからこそ慎重に選ばなければならないんだ」


 何か強い拘りを持っているのか、アランは頑として真田の提案を受け入れる事は無かった。

 アランはまるで人生を左右しかけない重大な選択を迫られているかのような真剣な表情で、依頼書を見比べていた。

 真田は益々面倒臭そうな顔になり。


 「君は何かあるたびに記念日を作っていく女性か。そしてそれを覚えておかなければいけない男性の苦労を少しは考えてみろ」


 「‥‥‥? 何言っているんだ、お前は」


 意味が分からないときょとんとしているアランだが、ある依頼書が目につくと表情を変えた。


 「‥‥‥ゴブリンの討伐か」


 アランは忌々しそうにそう呟いた。

 ゴブリン。

 身体の割には頭部が大きく目は橙色で歯と耳は尖っており、成体でも大人の胸の高さまでしかない人型の魔物。

 他の魔物に比べて単純な腕力では非力なので、比較的に狩り易い魔物として有名だ。魔物討伐依頼が比較的に少ない、新人であるランクアハトの依頼でも入っているぐらいだ。

 弱肉強食の自然界では絶対的に不利な生物なのだが、その非力さを補うだけの繁殖力と知性を有していた。

 ゴブリンは基本的に出産と成長までが異常に早く、受精卵から胎児となるまで1ヵ月位。それに加え多産であり1度に3,4匹が生まれ、その後の成長が非常に早く、2,3ヶ月ほどでほぼ成体と同じ高さになる。

 1度潰した筈のコロニーが何時の間にか、元のより大規模のものへとなっていた事案もあった。

 アランは目についたゴブリン討伐の依頼書を手に取ると、受付のメアリーに提出した。


 「ええっと。依頼の内容はノーウェイの森の南部の奥地でゴブリン14体での小規模集落を発見。これを殲滅されたし。褒賞金10万フラル。期限は次のドルティ曜日まで。‥‥‥でいいのですか」


 「ああ。ゴブリンの集落の大まかな場所は何処だ」


 メアリーはゴブリンの小規模集落に関する案件の紙を取り出し。


 「情報によりますと、南門から南東の方角にあるようですね。多少のズレがあると思うのでご留意ください」


 「了解。南東の方角だな」


 「達成条件は通常の討伐依頼と同様で、ギルトにゴブリン14体と判別出来る物をギルトに持って来て下さい。左右片方の腕か足を14本を揃えて、識別所へと持って来て下さい。もし1本でも足りなかったら、達成と見做しませんのでご注意下さい」


 「分かっているよ、メアリーちゃん」


 アランは何時ものように返事をし、真田はうんうんと納得したかのように頷いていた。


 「では、サナダさんアランさん。ご自身のギルトカードの提出をお願いします」

 

 真田とアランは、其々の入れ物からギルトカードをメアリーの前に置いた。

 メアリーは其々のギルトカードを見ながら、羽ペンで必要事項を紙に記入していった。

 魔術によって持ち主しか触れられないようになっているので、カードと紙の位置に気を付けながら書いていた。

 事務作業を終えるとメアリーは顔を上げて。


 「終わりましたので、カードはもう大丈夫です」


 真田とアランは其々のギルトカードを取り、普段収納している袋に依頼書と共に入れた。


 「はい。これでゴブリンの小規模集落に関する依頼は、チームアンジェラスに委託されました。‥‥‥アランさん達には意味を為さないと思いますが、道中何が起きるか分かりませんので、油断為されないようにしてください」


 「おう、戦果を期待していてくれ、メアリーちゃん」


 そう自信満々に答えるアランは軽く片手を上げて、玄関へと向かった。

 頭を軽く下げた真田もアランの後に続いた。

 メアリーはそんな2人を寂しげな瞳でじっと見ていた。


 西と南の大通りを通り、真田たちは南門にいた。

 そこには農作物が育たない冬に出稼ぎに来た地方の農民、地方の民芸品や特産品を仕入れてきた商人の馬車、遊興から帰ってきた貴族の馬車が並んでいた。

 手配書の人間では無いのか、違法な道具や薬物が紛れ込んでいないか騎士達が1人1人、1台ずつ立ち入って検査をしていた。

 当然、そこでも力関係ははっきりしており。

 貴族の馬車は碌に検査をされる事無く、ほぼ素通りの状態で優先的に門を通過していた。

 門に詰める騎士から目視での簡単な検査を受け、真田たちは門を通過していた。

 真田の斜め前を歩くアランは何故か、騎士達の様子を厳しい目で見ていた。

 それは騎士達の働きを監視しているように見えた。


 「アランさん、どうしたのですか」


 「あっ、いや、何でも無いぞ。何でも無い」


 アランは騎士達の事は何も気にしていませんとアピールするかのように、ただ前方だけを見据えるようにした。

 真田はアランの行動に一抹の疑問を感じたが、今は依頼に集中せねばと頭の片隅に追いやった。

 南門を潜ると眼前に北風によって短い草が(なび)いているエーベネ草原が広がり、その奥にはノーウェイの森を構成する木々の頂点が見えていた。


 「凄く久しぶりに外に出た気がするな。初心者講習の時以来ですかな」


 「俺は依頼の時にしょっちゅう外に出ているから、そんな感覚は起きないな。お前、どんだけ外に出てないんだよ」


 「基本的には、帝都内で終わるような依頼ばかりを受けていましたから」

 

 「それじゃあ、森は殆ど初めてだと言うのか。‥‥‥俺は何度か森に出入りした事があるから、ある程度の土地勘はあるつもりだから俺から離れるなよ」


 「頼りにしてますよ、アランさん」


 真田に頼られた事が嬉しかったのか、アランは見るからに上機嫌になった。


 「さぁ、行こうか。森の奥に巣を作るゴブリンの所へ!!」


 明らかに浮かれているアランは意気揚々とノーウェイの森の南東へと足を向けた。

 真田は大丈夫かと疑念を持ちながらアランの後について行った。


 数時間後、真田は緑の絨毯かと思わせる生い茂る常緑樹の木々の下をアランの後について行っていた。

 誘導するかのように先を行くアランは周囲を警戒しながらも、盛り上がった樹の根に足を取られる事なく、慣れた様子で森の奥へと進んで行っていた。

 やはり冒険者と言うべきか、見渡しがいい草原は上機嫌だったが森に入った途端、キッと緊張の糸を張り険しい目となった。

 一方の真田は呑気そのものだった。

 目は天井のように広がる常緑樹の葉を観光地に来た観光客のようで、耳は時折流れてくる風に煽られた葉同士が擦れあう音を聞いていた。

 完全に散歩に来たような雰囲気を醸し出しており、もしアランが居なければ鼻歌でも歌っていたかもしれなかった。

 それから数時間後。

 森の奥地を黙って歩く真田は、広げた間合いに何かが引っ掛かったのを感じ取った。

 森の中で歩いたので、冬眠や餌を探し回っている動物か魔物が引っ掛かるのはあったが、今回のはそう言う類のものでは無いとはっきりと感じ取れた。

 真田は自身が感じた異変を先に行くアランに報告した。


 「アランさん。彼方の方で7体の気配が集まっています」


 「それは本当か」


 厳しい表情で真田が指した方を見るが、アランの目には木々が邪魔して大きく光が地面に降り注いでいるとしか確認が取れなかった。


 「サナダ、本当にあっちにゴブリンが居るのか」


 「ゴブリンかどうかは分かりませんが、こんな森の奥地で生物が7体が固まって

いるのは不自然です。移動しているならまだしも、その場に留まっていますから確認に行った方がいいのでは」


 「‥‥‥そうだな。他に当てがある訳でも無いし、確認するだけでもした方がいいな」


 方針が決まった真田とアランは、真田が指し示した方向へと向かった。

 相手に気取られないように静かに且つ迅速に。

 真田とアランはゴブリンのと思われる小規模集落に到着した。

 といっても馬鹿正直に集落に居る訳では無く、十数m離れた木の影から集落を覗うように見ていた。

 集落といっても人間が立てるブロックのような木の家では無く、野性味あふれる木と葉っぱで作った半径数mの三角錐のテントのような物が6個あるぐらいだ。

 その家らしき入口は全て向かい合っており、その中心には焼け焦げた太い枝が落ちていて、獲物を焼く時は個別では無く共同作業でしているのだと窺い知れた。

 

 「あれです。アランさん」


 アランは真田が指し示した方向には、高さ数十cmの緑色の物体が5つ確認できた。

 5つの物体は真田たちには理解出来ない言語で、円になって話し合っているのが見えた。

 アランは逸る気持ちを抑えながら、真田だけに聞こえる小声で。


 「あれはゴブリン。やったなサナダ。あれは目的地のゴブリンの小規模集落に間違いないみたいだぞ」


 「ええ。存外に早く発見できて幸運ですね」


 5体のゴブリンが着ているのは、腰に麻のような物で編んだ腰巻きを巻いているだけで、防寒着のような物は見えなかった。

 それぞれの近くには石の斧、奪ったのか拾ったのか定かでは無い刃毀れしている鉄製の短い剣と槍と手斧が置いてあった。

 間合いを広げている真田は集落の様子を観察しながら。


 「アランさん、どうしますか。あいつらは私達に気付いていないみたいなので、今なら簡単に襲撃をかける事が出来ますが、どうですか?」


 「それは早計だろ。襲撃をする前にテントの中を探りたい。外に出て居る奴等の他にテントの中で休憩していて、襲撃中にテントの中から背後を襲われたらかなわない。そこら辺はどうなんだ。何か解るか」


 アランは初心者講習の時に背後から襲われた事もあって、襲撃する事に慎重となっていた。

 真田は集落にあるテントの一番大きいのに指しながら。


 「あのテントに2つの気配がある以外は、外に出ている5体のゴブリンで全部ですね」


 「合計で7匹、目標の半分が集落に居る訳か。他の半分は何処に行ったんだ。狩りにでも行ったのか。‥‥‥真田はどう思う」


 アランは静かに真田に問いかけた。

 それは事態に対して分からないから問いかける訳では無く、自分の考えを後押しして欲しい問いかけだった。

 真田は同意するかのように頷いて、口を開いた。


 「私もアランさんの考えに同意ですね。時間的に考えれば他の半分は、獲物を狩りに行って、あの5体は集落を守る留守役と考えるのが自然でしょう」


 「やはりか。襲撃するとしたら数が少ない今を叩くのが契機か」


 「でしょうね。数はそれだけで力となります。狩りに行っている奴らが戻ってくれば、14対2。数の上では不利になり、そのタイミングで仕掛ければ確実に乱戦となり、思いがけない怪我を負う可能性があります」


 「怪我が怖くて冒険者なんてやってられるかと思うが、それでもあまり怪我をしないようにするのがいいよな。さてどういった方法で攻め込むかだな」


 アランは樹に背中を預けて、腕を組んで思考の海に潜りこんだ。

 ゴブリンといえども弱い魔物相手に考えなしに突撃したら、痛い目に遭ったという話をギルトや酒場で何度も耳にしていたからだ。

 真田は考え込んでいるアランに少し呆れたような口調で。


 「アランさん、私達には魔法や弓矢を使っての遠距離射撃の手段も無く、煙玉や爆薬を使ったトリッキィーな手法もある訳では無い。かといってATD-XやF-2などの航空戦力の上空や、10式戦車や砲兵などの陸上からの遠距離援護射撃も無いのです」

 

 言葉の意味を理解出来ていないアランは呆然とするばかりだった。


 「やるべき方法はただ1つ。察知されずに出来るだけ近づいて、隙を付いて一気に斬りこむ。限られた戦力しかない私達には取るべき手段はこれしかないでしょ」


 「た、確かにそうだな」


 「では、行きますよ」


 真田は音も無く集落の方へと向かって行った。

 アランは真田に続いて、出来るだけ音を出さないように向かった。


 「よしよし。ゴブリン達には気付かれていないみたいですね」

 

 「そのようだな」


 真田たちはお互いに聞こえるだけの小声で、状況を確認しあっていた。

 真田たちは集落から数mの位置で、先程と同様に樹を楯にして身を隠していた。 先程よりも集落の様子が見えて、真田たちが近付いてきている事に気付いていないゴブリン達が、横になっていたり何かを話し合っている様子が見て取れていた。

 アランはゴブリン達に聞こえないように慎重な声で。


 「サナダ。俺が突撃の合図を出すから、それに合わせてゴブリン達に襲撃をかけるぞ」


 真剣な表情の真田はコクリと、深々と頷いた。

 アランはゴブリン達から一旦視線を外すと、高ぶる心を落ち着かせるように小さくだが確実に深呼吸をした。

 相手は今まで狩った事のあるゴブリンだが、初めて他人と仕事をする事にアランは知らずの内に緊張をしていたのだ。


 「(大丈夫、何時も通りの事をすればいい。サナダが居ようが関係無い。俺は俺のすべき事をすればいいんだ)」


 考えが纏まったアランは、覚悟を決めるかのように剣の柄を固く握った。

 そして剣を抜き真田に向かって頷いたのを合図に、矢のような速さで集落の方へと向かって行った。

 真田も抜刀し、アランの追い越さないように気を付け、後に続いた。

 最初に異変に気付いたのは、たまたま真田たちの方を向いて話していたゴブリンだった。

 何か変な気配を本能で感じ取ったそのゴブリンは、何気無しにその方向を見ると、武装した人間が2人、武器を持って勢いよく此方に近付いて来るのが見えた。


 『フガァァァァァァアアアアアアア!!』


 条件反射のようにゴブリンは、仲間に危険を知らせる鳴き声を腹の底から出した。

 その声に反応した他のゴブリン達は、立ち上がって唯でさえ大きい目を更に大きく見開き、何処に異常事態の原因が何処にあるのか見渡していた。

 それが拙かった。

 下手に知能がある所為で事態を確認しようとしてしまったのだ。

 動物のように本能に従い一目散での逃亡、自分の武器を手に取って立ち向かっていれば、生存時間は長くなっていたかもしれない。


 「うおォォォォォォおおおおおお!!」


 込み上げる恐怖心を押さえつけるかのように叫び声を上げるアランは、1番近くに居た呆然と見上げていたゴブリンを狙いを定め。


 「うりゃァァァァァあああああああ!!」


 振り上げた鋼鉄製の剣を、自身の速さを乗せたかのように素早く力強く振り下ろした。

 アランの手には、ゴブリンの頭蓋骨の岩石かのような固い抵抗を感じ取れていた。

 しかしそれは一瞬の出来事であった。

 まるで地面という巨大な磁石に強引に引っ張られるかのような速さで、アランの鋼鉄の剣はゴブリンの身体を真っ二つにした。


 「(まずは1匹っ!!)」


 ゴブリンだったものは、引力に引っ張られて地面に倒れ込んだ。その切断面からは大量の緑色の血液が出ており、悪趣味な水溜りが広がっていた。

 即死した仲間を見て本当の異常事態だと認識したのか、他のゴブリン達は地面に置いていた各々の得物を慌てて取ろうとしていた。

 

 「させるかァァァァァァああああああ!!!」


 犬歯を剥きだしにして叫ぶアランは、近くに居たゴブリンが刃毀れしているショートソードを手に取った瞬間、身体のバネを使いのバネが弾かれたかような速さで剣を逆袈裟に斬り上げ、ゴブリンの首を()ねた。

 首は蹴り上げられたボールのように飛び上がり、曲線を描きながら地面に落下しゴロゴロと転がって行った。また司令塔を失った身体は、自立する事が不可能になり地面にドサッ!!と音を立てて倒れた。

 その断面からは未だ動く心臓から送られてくる緑色の血液が、一定間隔で吐き出されるかのように出ていた。


 「(2匹目っ!! ‥‥‥次!!)」


 アランは立ち止まらず直ぐに、次の獲物に狙いを付けた。

 他のゴブリンと違い、木の棒に鋭い石を固定させた原始的な武器、石斧を逸早く持ったゴブリンだった。

 しかし仲間の死を見て恐怖したのか、はたまた本能的に自分が敵わない理解しているのか定かでは無いが、石の斧おろか身体全身が小刻みに震えていた。

 此処で大抵の冒険者たちは慢心を抱くが、アランは違っていた。

 厳しい目のアランは真っ直ぐそのゴブリンを見据え、剣道で言う中段の構えで剣先を向けた。

 慢心をすれば剣が鈍ると、剣の師匠の小言を口調を真似できるまで聞かされてきたのだ。


 「(だから私は決して慢心を抱かない。『目的』を達成するまでは!!)」


 アランは胸中に燃え盛る炎のような激しい感情を抱いた。

 いずれこの激情をまだ見ぬ相手にぶつける為に。

 アランは柄を握っている手と足に力を込め地面を蹴り、ゴブリンを斬り殺そうと限界までに弦を引っ張れた矢のような速さで襲い掛かった。


 「うおォォォォォォおおおおおお!!!」


 アランが命を刈り取ろうと振り上げた剣は、ゴブリンの身体めがけ振り下ろした。

 迫り来る刃を現実として見ていないのか、ゴブリンは石斧を動かさずに呆然と見るばかりだった。


 「(貰ったぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 アランは硬い骨と弾力のある筋肉もろともに、ゴブリンの身体を2つにした。

 立っている事が出来なくなったゴブリンだった物は、アランの方に倒れ込もうとしたが、アランが仰向けなるように蹴り倒した。断面からは大量の緑色の血液が地面を侵食するように広がっていた。


 「(次っ!!!)」


 倒れたゴブリンには目もくれずに、アランは次の獲物を探そうと目を走らせた。

 すると視界の端にゴブリンが2体、立っているのが見えた。

 アランは直ぐにその方向に向き剣を構え、何時でも斬りつけられるように体勢を整えた。

 しかし幾ら待ってもゴブリンは動こうとはせず、アラン達が来た方向を見続けていた。

 疑問に思ったアランは警戒しながらゴブリン達に近付き、立ち尽くしているゴブリンを感触を確かめるかのように剣先で突っ突いた。

 すると突っ突いたゴブリンの首は何の前触れも無く、反発し合う磁石のように簡単に胴体から落ちてしまった。それを契機に胴体も地面に、ドサッ!!と、倒れた。

 突然の事に驚くアランは戸惑いながらも、もう一体の方も同様に剣で突っ突くと、先程の結果と同じだった。

 アランは地面に横たわるゴブリンの遺体を、驚愕の目で見ていると。


 「お恥ずかしい限りですよ。その程度でしか出来ない事が」


 突然の声に首を痛める事を考慮せずに、アランは素早く声がした方を向いた。

 そこには苦笑交じりの真田が、近付いて来ていた。


 「ここ最近、鍛錬を怠っていた所為か、かなり腕が落ちているのですよ。全盛期だったら、斬られたという事を相手に知覚させない事が出来たのですが。今はこの通り、知覚させてしまったのですよ。‥‥‥まあ、そんな事よりも。アランさんが放った殺気や血の匂いを嗅ぎつけて、7つの気配が走って此方に近付いてきていますよ」


 「ほ、本当かっ!?」


 驚くアランが真田が指し示した方向を見たが、うっそうとした木々が邪魔して何も見えずにいた。

 アランはまだ見ぬ相手を睨み目付けるかのように厳しい目となり、緩んだ緊張の糸を再び張りつめるかのように、慎重に言葉を選びながら。


 「サナダ。此方に本当にゴブリン達が近付いてきているのか」


 「その可能性が高いと言うだけです。私の探査は、初心者講習の時にいったように何処にどれだけの気配を居るのか探るだけなので、何処にどれだけのどの種族が居るのかは見当もつきません。まあ、種族の固有波長を見つければ話は別ですけどね」

 

 真田は友人同士で雑談をしているかのような気軽さだった。

 アランがここが命のやり取りを行う戦場である事を忘れかけてしまう程に。

 我に返ったアランは雑念を取り払うかように水に濡れた犬のように、首を素早く小刻みに振った。

 再びゴブリンと思わしき気配が近付いている方向に視線を戻した。

 アランは険しい表情のまま、静かに口を開いた。


 「打って出るか」


 「おっ。先手を打ちますか、アランさん」


 アランは肯定するかのように静かに頷いた。


 「集落に誘い込むのもいいが、それだと態勢を整えられる可能性があるな。それだと思わぬ怪我を負う事があるかもしれない。だったら此方に走って向かって来ているのなら、個々や全体で直ぐに態勢を整えるのは難しい。だとしたらその隙をつけ込む手は無いだろ」


 「確かにそうですね」


 「だろ? ‥‥‥じゃあ、行くぞ」


 アランは言い終わると同時にゴブリン達が居る所へ駆け出した。

 真田もまた追い越さないように気を付けながら、後に続いた。


 木々の間を疾走するアランは、目の前から向かって来るゴブリン達を目にとらえた。

 

 「(どうやら私達の事をただの不審人物とでは無く、もう一段階上の敵として認識したみたいだな。私達に付着している人間の鼻では嗅ぎ取れない微量の同族の血の匂いを嗅ぎ取ったのかもな)」

 

 アランが言うようにゴブリンは胸中の激情をぶつけるかのように、犬歯を剝き出しにした表情で走って来ていた。

 そのゴブリン達の手には、集落に居た留守役のゴブリンと同様の武器を持っていた。刃には赤い血糊(ちのり)が付着しており、先程まで狩りをしていた事を如実に表していた。

 しかし中央の1匹だけ。他のゴブリンのように石や鉄を加工した得物では無く、年季の入った支え棒のような木の棒を持っていた。


 「(何だあれは。何故、足腰が悪い人が使う杖のような物を持っているんだ。他のゴブリン達と同速度を走っているから、足腰が悪いという訳では無いだろうに)」


 アランが怪訝な目で見ていると、杖を持ったゴブリンはその速度を落とし始めた。

 しかし他のゴブリンは速度を保ったまま、真田たちに向かって来ており、そのゴブリンだけが置いて行かれている形となっていた。

 ゴブリン達の不可解な行動にアランは疑問を抱いていた。


 「(一体どうしたんだ。数の有利性を自ら削ぐ真似なんて、戦いの定石を知らぬ訳では無かろうに)」


 その問いの答えは、直ぐに目の前に現れた。

 立ち止まったゴブリンは、杖の先端を狙いをつけるかのように真田たちに向けた。

 するとアランの背中に悪寒が稲妻のように駆けるように走った。

 アランの予感が的中しているかのように、杖を構えるゴブリンから魔力の高まりを感じ取った。


 「(魔法を使えるゴブリンかっ!! チームの初めての仕事としてはうってつけの相手だなっ!!)」


 内心そう皮肉めいた言葉を吐くが、アランは焦りを滲ませていた。

 例え初級魔術だろうと、直撃をくらえば大怪我を免れないのだ。

 アランは魔術の射線軸上から逃れようとルートを逸らそうとしたが、3匹のゴブリン達が先回りして妨害され、射線軸上から逃れずにいた。


 「どけェェェえええ!!」


 脱出しようとアランはゴブリンを斬り倒そうと剣を振り回し、包囲をするゴブリンを斬り倒していった。

 だが今回はそれが仇となった。

 魔術によって狙われている状況で立ち止まっている事自体、悪手中の悪手だ。 寧ろ多少の怪我を顧みずに、強引に突破すれば結果的に怪我は少なく済む。

 しかも人間とゴブリンの背丈は大きな隔たりがあるので、背丈の高い人間を狙ったとしても余程の事が無い限り同族のゴブリンに当たる事は無い。

 だからこそ。

 杖を向けていたゴブリンはアランに照準を合わせた。

 そして。


 『ゴブッ!!』


 叫び声と共に杖の先から直径数十cm程の炎の塊が、アランに向けて限界にまで引っ張られた矢のような速さで射出された。

 ゴブリンの包囲網にとまどってしまい、アランは迫り来る炎の塊への対処が遅れてしまった。


 「(あっ)」


 呆然としながらアランはそう思うしか出来なかった。

 脳がストレスを回避する為なのか、高速で迫り来る炎の塊を目で捉えているのだが、現実感の無い幻覚を見せられているかのような感覚にアランは陥っていた。

 このままアランに死という未来が突きつけられるかと思われたが。

 他のゴブリン達を相手にしていた真田が、間に割って入って来た。

 そして真田は振り上げた刀で、目にも映らぬ速さで迫り来る炎の塊を真っ二つに斬った。

 安定性を失った2つの炎の塊は、刀によって齎された衝撃と空気抵抗によって射線はズレ、反比例のグラフかのように線を描き近くの樹に、轟音を上げて当たった。

 脳の情報処理能力を超えた光景にアランとゴブリン達は呆然と立ち尽くして見るしか出来なかった。


 「アランっ!!」


 自身の名が耳に届き、アランはハッと我に返った。


 「ぼさっとするな。未だ戦闘は続いているのだぞ!!」


 「は、はいっ!!」


 真田からの注意アランは慌てて残っているゴブリンに向けて剣を構えた。

 展開について行けずに体勢を整えられていないゴブリンに、アランは力の限り勢いよく剣を振り下ろした。

 対処が間に合わ無かったゴブリンは、為す術も無く綺麗に真っ二つに左右に割れた。

 魔法を放ったゴブリンに向かった真田は、自身に杖を向けようとするゴブリンをすれ違いさまに首を斬り落とした。

 立っている事が出来なくなったゴブリンは、膝から崩れ落ち地面に当たった衝撃で、首がコロコロと転がって行った。

 真田は周囲に自分達以外の気配がない事を確認すると、ふうと溜め息を吐いて緊張の糸を解いた。


 「アランさん、お疲れ様です。チームアンジェラスの初仕事は何事も無く無事に終わりましたね」


 「それは違うぞ、サナダ。討伐の証明を持って行って、受付で褒賞金を受け取るまでが依頼だ。それまでの道中で何が起きるか分からないから、常に緊張を持って行動をするんだ」


 「了解です、リーダー」


 まさか注意を受けるとは思っていなかったので、真田は苦笑交じりの表情で答えた。

 その後、真田とアランは手分けして討伐の証明用として、息絶えているゴブリンから右腕を手分けして切り取っていった。また再びゴブリンの集落に戻り、同じようにゴブリンの遺体から右腕を切り取っていった。


 「じゃあ、血抜きをしようか」


 「そうですね。そのまま袋に入れると血で汚れてしまいますから」


 過去に何かあったのか真田は、遠い目をしていた。

 縄を持って来ていなかった真田たちは落ちていた枝で右手を次々と突き刺ていき、ゴブリンの家の隙間に刺していった。

 緑色の血液が流れている14本の緑の腕を、ゴブリンの家でクリスマスツリーのように飾っている光景は、人間の狂気性を端に表していないかと真田としては悩みどころだった。

 真田は自分達が作り出した狂気のオブジェクトについて思い悩んでいると、アランがじっと此方を見ている事に気付いた。


 「どうしたのですか」


 「いや、お前が腰に下げている奇妙な剣であの炎を真っ二つにしたのだろ。初心者講習の時から只の剣では無いと思っていたが、魔法剣のように何かしらの属性が宿った鉱石か魔術に対抗出来る魔術の付与でもしているのか」


 「何言っているのですか。そんな事をしなくても、あの程度の魔術ならある程度の剣術の腕があれば、その剣でもあの炎を斬る事は可能ですよ」


 アランは腰に下げている剣と真田が下げている剣を何度も見返していた。


 「うぅん、そうなのか。そうは到底思えないが」


 「そう思うのはアランさんがまだ未熟だからです。色んな事を経験して、剣と精神が成長していけば、いずれは私がしたような事が出来るようになりますよ」


 それはチームメイトとして慰めでは無く、弟子の成長を見守る師匠のような口ぶりだった。

 アランは分かったような分からなかったような非常に複雑な顔をしていた。


 「そうなのかな。剣の腕が立つお前が言うのだから、そうなのか。‥‥‥でもなあ」


 「そんなに思い悩む事は無いですよ。アランさんがそう望み行動すれば、世界はそれにあった舞台を用意してくれますから」


 「‥‥‥私が望み行動すれば」


 アランは反芻するかのように呟いた。

 真田は肯定するかのように頷き。


 「まっ、その前にゴブリンの腕の血抜きが終わるのを待たないとですね」


 真田はズボンが汚れる事を考えずに地面にそのまま胡坐を掻いた。また、アランも真田に倣い地面に座った。

 その数十分後。真田は()している全てのゴブリンの右腕から完全に血が抜けている事を確認し、アランが持っていた布袋へと詰め、布袋の口を麻縄でキツク縛り、肩にかけた。


 「じゃあ、討伐の証明用のゴブリンの右腕を袋に入れたから帝都に戻るか」


 「分かりました。‥‥‥これは何処に出せばいいのですか。メアリーさんがいる受付にですか?」


 「いや。討伐の証明を提出する専用の窓口が別にあるから、そこに出して依頼書に職員のサインを貰い、内部にある受付に依頼書を出せばいいんだ」


 「ほぉ、そうなんですか。これを裏口にねぇ」


 真田とアランはもう此処には用は無いと、帝都がある方向に歩いて行った。


 数時間後。

 ゴブリンの集落からギルト本部へと戻った真田たちは、本部の敷地内にある討伐の証明を提出する窓口へと来ていた。

 窓口と言ってもメアリーが座っている立派な机がある訳では無く、雨風避けの屋根と壁の中に約2mの長方形の木の机があり、その奥には中へと繋がっている扉があった。

 

 「(裏口の前に即席の窓口を作りましたという雰囲気を醸し出しているから、言われなきゃ誰にもここが窓口だと思わないだろな)」

 

 真田がそうぼんやりと考えていた。

 アランは依頼書を出しているのが見えたので、真田はゴブリンの右腕が入った布袋をそれぞれ机の上に置いた。するとアランは慣れた手つきで机の上に置いてあった鈴を、チリンチリンと甲高い音を鳴らした。

 少しすると、奥の扉から中年の男性職員が出て来た。


 「はいはい。ちょっと待ってくだ‥‥‥おお、アランか」


 「魔物の討伐が終わったから、証明の確認を頼むぜ」


 「今日もか。連日、よく頑張るな。ちゃんと身体を休ませているのか」


 「これぐらい疲れの内に入らないぜ。出来るなら、1日2回連続で魔物の討伐依頼をしたいぐらいだ」


 「‥‥‥程々にな。ところで、隣に居るのは誰だ?」


 「ああ。今日からチームとして仲間になったサナダだ。知っているだろ、何時も雑用のような依頼しか受けない変わった冒険者を」


 「ああ、君か。噂は聞いているぞ。初めましてだな、私はカースだ。此処で魔物の討伐証明の確認業務を行っている者だ。宜しく」


 「よろしくお願いします」


 真田は条件反射かのようにカースと握手をした。


 「依頼はノーウェイの森に集落を構える14匹のゴブリンの討伐か」


 職員は依頼書で確認すると、袋から討伐の証明用のゴブリンの右腕を出していった。


 「‥‥‥12、13、14。うむ、ちゃんと同じ腕が規定数あるな。魔物の討伐がきちんと為されたと認定しよう」


 カースは持っていた羽ペンに墨を浸けると、依頼書の下部の空白の欄に自分の名前を流れるように書いた。


 「これを受付に持って行き、褒賞金を受け取りなさい」


 「おう、ありがとう」


 依頼書を受け取ったアランは片手を軽くあげて受付の方に行き、軽くお辞儀をした真田もまたその後に続いて行った。

 ごった返すほどでは無いが人の壁によって、奥のクエストボードが見えない程に冒険者たちが居るアヴェドギルト本部の1階ホールを真田たちは、人に当たらないように気を付けながら、受付へと向かっていた。

 受付は冒険者が明日の行うクエストの事務作業に追われていた。

 真田たちは少し空くのを待っていると、メアリーの隣のダークエルフが受付嬢の受付が空いたのでアランは一目散にそこに入った。

 アランは依頼書を出すと、ダークエルフの受付嬢は淡々と機械的に事務作業に取り掛かった。

 必要事項が書かれているのを確認すると、ダークエルフの受付嬢は奥の部屋に入り、褒賞金が入った袋を持って来た。

 アランは受け取った事のサインをすると、早々にその場を立ち去った。


 「サナダ。褒賞金を分配するから、一旦宿屋に戻ろう」


 「了解」

 

 真田はアランと共に宿屋へと戻っていった。

 数十分後。

 宿屋に戻り何故か真田の部屋に入ったアランは、袋に入っていた10万フラルを机の上に出した。

 そしてそれを3等分すると、自分の取り分を財布代わりの袋へと入れた。

 真田も取り分を取ると、首から下げている袋へと入れた。

 そして残った3万フラルが机の上に所在無さげにポツンと置かれていた。


 「どうするよ、これ?」


 「規約通りにチーム共有費として使っていきましょ。その方が後々に揉めませんから」


 「それもそうだな」


 アランは残った万フラルを再び袋の中へと入れた。


 「で、これは誰が管理するかだよな。2つもあったら間違えて、片方ずつ使ってしまうかもな。‥‥‥うーん。サナダ、これを預かっておいてくれ」


 「いいのですか。私が勝手に使うかもしれませんよ?」


 「それは信頼しているぜ。お前が勝手に使う人間では無いと」


 真田はアランから差し出された布袋を受け取った。


 「それは責任重大ですね。ちゃんと管理せねばなりませんね」


 真田は苦笑交じりの表情を浮かべて、ノーシェバッカスを発動させ亜空間へと収納した。


 「さて時間が余った訳だが、サナダはどうする?」


 「もう仕事が終わりましたから、後は夕食を食べて寝るだけですよ」


 真田の答えにアランは物凄く心外そうな顔をした。


 「ええ!? まだ時間があるから、簡単か夜間に出現する魔物の討伐の依頼しようぜ」


 「却下です。1日1回の仕事でいいじゃないですか。だから高額の褒賞金が出るオークの討伐依頼を受けようと提案したじゃないですか。それを比較的安いゴブリンの討伐を受けたのはアランさんですよ」


 「うっ。‥‥‥だって仕方が無いじゃないの。弱いと云ってもゴブリンの存在は、数が揃えれば人にとっては脅威そのものだし」


 痛い所を突かれたアランは真田から視線をずらして、いじけるかのようにそう答えた。

 やはりかと真田は露骨に溜め息を吐いた。


 「チームとしての仕事は1日に1回。残った時間は各自の自由とするチームの規約として決めた以上、私はこれ以上仕事をしません」


 真田は証拠とばかりに規約を書いたメモ帳を亜空間から取り出し、言っている条項が書かれているページを開けてアランに見せた。

 初耳とばかりに戸惑うアランは、条項を見た瞬間驚きの表情を浮かべた。


 「何これ? 私は決めた覚えが無いんだけど」


 「私がその条項を提案した時に、アランさんはいいよと了承しましたので規約として書きましたので、悪しからず」


 「うううう」


 疲れて寝ていたとはいえほぼ勝手に決められた事にアランは不満を表していた。

 寝床を占拠された恨みを晴らせた事に真田はニヤリと少し薄気味悪い笑みを浮かべた。


 「じゃあ、そう言う事なので私は自室で寛ぎますので、アランさんも自室に戻られてください」


 真田はアランに帰るように促すが、アランは一向に戻る気配を見せる事は無かった。

 寧ろ、何言っているんだ此奴はと不思議な顔をされた。


 「俺の秘密を唯一知っているお前を監視しない訳にはいかない。だから俺はお前が寝るまでお前の傍を離れる事はしないぞ」


 「えっ? それって本気なんですか。てっきり冗談だと思ってました」


 「何が冗談か、俺は何時でも本気だぞ。‥‥‥というか、チーム結成の理由はそうだっただろ。俺がお前の事を監視しやすくて、お前が思い悩まされないようにする為にチームを組んだんだろ。もう忘れたのか」


 アランの口調に迷いなど感じられなかった。

 まるであらゆる生物は酸素を吸い込んで生命維持をしているのだと常識を言っているようなものだった。

 アランの本気度に真田は頭が痛くなり。


 「そうですか。じゃあ勝手にしてください」


 「おう、勝手にするぞ」


 アランはそのまま真田の部屋に居着く事となった。

 それはアランの宣言通りに夕食を終えた真田が眠るまで続けられた。


 説明回!!

 チームとして初仕事である事と、初めての魔物の討伐依頼だったので討伐依頼の一連の流れを書いてみました。(まあ、他の依頼とそう大差は無いですが)

 作中でタクト君達のゴブリンの血抜きですが、時間はかかりますがあれはどうしても必要な事では無いでしょうか。

 どうしても街にある建物に持って行くわけですから、血抜きをしないと道路や建物の床が血で汚れてしまいますので、公衆衛生の概念があまり無いとはいえ、流石に魔物の血で汚れますのであまりいい顔はしないと思いますので、入れてみました。

 また作中でタクト君とアランがギルト本部で騒ぐ描写がありましたが、あれはチームの結成が弱みを握られただけでは無く、元々仲が良い2人だからチームを結成したんだぞと考えていましたので、描写してみました。

 ちょっと不親切だったと思いましたが、件をいれてしまうと話の流れが悪くなってしまうと考えたので、敢え無くカットしました。

 そこら辺が今後の課題ですね(笑)


 誤字脱字矛盾がありましたら、御指摘の方を宜しくお願い致します。

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