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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第6章 外の世界へ
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第54話 チーム結成

 真田の目の前に裸体の少女は、ドキンッ!!と、心臓を鷲掴みされたかのような驚きに満ちた表情をした後、直ぐに目を伏せて視線をずらした。

 絵にかいたような動揺している姿を見て、真田は確信めいたものを得た。

 少女は何とかこの事態を切り開こうと何とか気にしていないように装った。

 しかし動揺は隠せないのか少女は唇を少し震わせながら、口を開いた。


 「ど、何方か存じ上げませんが、ひ、人違いなのでは。‥‥‥お、私はアランという男性では無く、‥‥‥‥‥‥ミーツェという帝都に住むしがない街娘で」


 「いや、貴女はアランさんでしょ」


 断ち切るかのように言い放った真田の言葉に、少女は石のように固まった。


 「何時も見ている目の形や鼻の高さなどの顔立ちがアランさんにそっくりで、しかも動揺しているのかいつも聞いている声のままだから、これで人違いと言われても」


 真田の指摘に少女は思い出したかのようにゴホゴホと咳き込んだ。


 「それに貴女から感じる気配が以前会ったアランさんだから、どんなに姿を変えても私は間違えようが無い」


 「気配?」


 「聞いた事は無いですか。魂の波動、雰囲気等々色々な言葉に言い換えられるが、その人を表す精神的なものを」


 「だけどそれは‥‥‥」


 少女は言いながら思い出した。初心者講習の最終日の事を。

 教官のオークランド、第1線で活躍するランクドライのチームズワールトが死を覚悟したミノタウロスの大群討伐をたった1人で成し遂げたという事を。

 目の前に居る少年は見た目どおりでは無く、剣の腕前は自分など足元にも及ばない存在なのだと。

 少女はこれまでかと諦めの重い溜め息を吐くと、胸の下で腕を組んだ。

 そして固い決意を孕んだ瞳で真田を見据え。


 「そうよ、サナダ。お前が言うように私はアヴェドギルト所属のアランよ。訳あって男装しているからアランという男性の名前を偽名として使っているわ」


 「‥‥‥教えてくれるのは嬉しいですが、そろそろ身体を隠した方がいいですよ」


 「えっ!?」


 真田はアランの胸を指し示し。


 「さっきから私にその大きな胸を惜しげもなく晒し、そして口で言うのが(はばか)れる大事な所が丸見えです。‥‥‥君が露出狂のように見て欲しいというのなら、幾らでも見ますが」


 そこで(ようや)くアランは自分が一体どういう状態なのか、冷静に判断できるようになった。

 何時もの癖で胸の下で腕を組んでいるので、見せ付けるかのように自身の胸を真田に晒している上に、決して人には見せてはいけないと言われた女として大事な所を惜しげもなく見せている状態だった。

 アランは瞬間湯沸かしのように顔が真っ赤になり、ザブンッ!!と、勢いよく湯船に肩どころか顔半分まで浸かった。その際には両腕を使って大事な所を隠していた。

 アランは恥ずかしさのあまりに林檎のように顔が真っ赤になって、誤魔化すように真田をキッ!!と睨み付けていた。

 

 「これで私の弱みを握ったと思っているのでしょ。それは大間違いよ」


 「(‥‥‥はっ? いきなり何を言いだすんだこのお嬢さんは)」


 突拍子も無い事を言いだすアランに真田は混乱していた。

 何でそんな事を言い出すのか真田には皆目見当もつかないのだ。

 アランはそんな真田の様子を一瞥する事無く更に続けた。

 寧ろ益々熱を帯びて来た。


 「弱みを握ったお前はこの事をたてにして、痛がって嫌がる私を無視しこの身体を若い欲望のままに蹂躙するのでしょ。そして一通りに試し終わると次は野外でするの。いつ人が通るかも分からない薄暗い路地で、興奮と不安が交差する中されるのでしょ。そしてそれも飽きたら、見知らぬ男達に私を使わせるの。身体中に白い液体がびっしりと付着するまでされるのだわ。そして誰が父親か知れない子供を妊娠したら場末の売春宿に売られ、妊婦姿に興奮する変態親父に‥‥‥痛っ!!」


 話の途中で頭部に鋭い痛みが走り、思わず舌を噛んでしまったアランは舌からの激痛に軽く涙目になっていた。

 少し痛みが取れたアランは自分を叩いた張本人を睨み付けた。


 「ちょっとなにするのよ」


 「君が人を犯罪者かのような前提で、(ただ)れた妄想を言うからだ」


 アランの妄想を強制的に止めたのは真田だった。

 妄想ワールド全開に話すアランに最初は言葉も出ずに呆れ果てていたが、話が進むにつれこのまま本当に性犯罪者のような扱いを受けると思い。亜空間から取り出した約2mにまで短くした直槍の柄で割と強めに叩いたのだ。

 真田は床に直鎗を置くふりをしながら、亜空間へと収納した。


 「私はそのような性犯罪者がするような事は君にはしない。幾つか疑問に答えてくれればそれだけでいいのだ」


 「それだけでいいの? 私を凌辱するような事は」


 「するか!! ‥‥‥というか何でそう思ったんだよ。何か薄い本の影響か」


 「薄い本? 長引いた依頼を終えて夜のギルト食堂スペースや偶に行く近くの酒場などの酔って騒いでいる男達が、いかに自分が女を喜ばせるか自慢しっていたから、男ってそうなのかなと思ったから」


 真田は本格的にズキズキと痛くなってくる頭を抑え。


 「私も男として生きているから、彼らの意見が100%間違いであると言えないが。それでも彼らがそうだから私もそうだと思うのは止めてくれ。君だって他の女性がそうしているからそうだと思われたくないだろ」


 「そ、それもそうね。悪かったわ」


 真田は自分達を包み込むグダグダな雰囲気を切り離すかのように、真剣な表情で敢えて声を低くし。


 「それで君に聞きたい事があるのだが」


 その瞬間、アランの身体がビクッ!!と緊張感が走ったかのように身体を強張らせた。

 暫しの静寂の後、覚悟を決めたアランは真剣な表情になり。


 「ええ、いいわ。‥‥‥けどその前に」


 「何ですか」


 さっきまでの真剣な表情は何処へ行ったのか、アランは恥ずかしそうに俯いて。


 「恥ずかしいからお前が私の身体を見えない方向を向いて頂戴。それが話をする条件よ」


 「はぁぁ? 何ですかその条件。恥ずかしいから話せないなんて、君は乙女か。もう既に一糸纏わない裸を見られたというのに」


 「れっきとした乙女よ。しかもあれは事故よ、事故。だから無効よ。いいからさっさと向こうを向かないと話さないわよ。‥‥‥それにここで悲鳴を上げてもいいのよ。そしたら飛んで来たグラぜルさんに犯されそうや乱暴にされそうになったとかある事ない事言うわ。お前はやってないと否定するけど、状況的にはどっちを信じるかは議論するまでないでしょ。そして駆け付けて来た騎士団に捕まる事になるけど、それでもいいの?」


 「‥‥‥分かりましたよ。見えない方向に向けばいいのでしょ」


 ただ話を聞くだけなのに何時の間にか性犯罪者かのような扱われそうなので、真田はぶつくさ文句を言いながらアランに背を向けるように湯船に身体を浸けた。

 

 「そして質問中は決して振り向かない事。もし振り向けばさっき言った事をするから覚悟して」


 真田は粗い(やすり)で削られていくように物凄い速度で聞く気が失せていったが、ここで聞かなかったら我慢したのが無駄になってしまうとの一心で我慢した。


 「振り向かないと約束します。それでいいですね」


 「ええ」


 真田は痛む頭を抑えながら、質問を始めた。


 「最初にアランというのは偽名と言ったが、それは本当ですか?」


 「そうよ。親から授けて貰った本当の名はあるけれども、それは男装をすると決めた時に捨てたわ。だから今の私はアヴェドギルト所属、ランクズィーベンのバートラム=アランよ」


 予想していたのか、アランの様子に少しの乱れも感じらず、雑談をするかのようにスラスラと答えていった。


 「そうですか。なら今後ともアランさんでいいのですね」


 「ええ、それで構わないわ」


 「男装している事は他は誰か知っているのですか」


 「私の男性を演じる演技力が高かったおかげか、誰も知らないわ。受付嬢のメアリーちゃんや職員の人達、オークランド教官達ですら知らない事よ」


 「でしたらよく初心者講習の時に誰にもばれなかったですね。あれは10人の人間が1週間、1日中一緒に居たのだから、誰かに見抜かれてもおかしくなかったのに」


 アランは渾身の作品を紹介する芸術家のように自信たっぷりな口調で。


 「ふふふ、それはマントのお蔭だ」


 「マント? ‥‥‥あっ、そっか」


 マントがどういうものなのか思い出した真田は、アランが言わんとしている事が理解出来た。


 「マントは身体を風から防ぐというものと同時に身体や鎧とかの装着している物を隠せる。それに私は胸当ても利用して、どうしても出てしまう男性と女性の身体の違いを隠していたわ。それに聞くけど、私が1度でもマントや胸当てを脱いだ所を見た事がある?」


 真田は条件反射のような速さで初心者講習の時の記憶を辿った。

 脳の自己処理能力によってある程度は不鮮明な所があるが、自身と話しているアランの服装はマントを羽織っているか胸当てや関節部を保護する防具を装着した軽装備しか無かった。


 「だから私はマントがどうしても必要な今の時期にギルトに加入したわ。夏とか暑い時期にマントを羽織っていると不審と思われるから」


 「でしたらよくその大きな胸を隠せましたね。鎧は身体に合ったものを装着するのが一般的な筈だから、どうしてもその胸に合わせた鎧を作らなければならない。だとしたら防具屋でよく男物の鎧を新調できましたね」


 アランは恥ずかしそうにサクランボのように耳まで真っ赤にして、言いにくそうにしながら。


 「そ、それは布を胸に何重にも巻いたからよ。鎧の寸法合わせはこの胸がほぼ平らになるまでにきつく巻き付けていたから、男装している事は見抜かれ無かったわ。聞かれた時は胸に酷い火傷を負っているからと嘘を言って、布を取る事無く寸法を合わせたわ」


 「はぁそんな苦労を。それは大変でしたね」


 「流石に1日中は胸が締め付けて苦しいから、誰も知り合いがいない所や寝る時は布を外すけどね」


 「ああだから、初心者講習のテントの中で寝る前の時、もぞもぞと動いていたのですか」


 「えっ? あれを見ていたの」


 アランは初耳だと言わんばかりに驚いていた。


 「ええ。私はアランさんの下で寝ていましたから、上の方で何か動く気配を感じて見ると、暗闇の中でアランさんがごそごそ動いているので何しているのだろうと思っていましたが。まさか胸に巻いていた布を緩めていたとは、夢にも思わなかったな。‥‥‥だからか、何時もテント出ると直ぐにトイレに行くのか」


 「そうよ。緩めた布をを再びきつく巻き直していたの」


 聞いていて真田はある疑問が脳裏を横切った。


 「だとすると夏の時はどうするのですか。季節はどう足掻いても進んでいき、後数ヵ月後になれば暑い夏の季節になります。その時はどうするので」


 「だからこそ今の季節に沢山の依頼をこなして、褒賞金を稼いでおくのよ。マントが要らない夏の時期は活動をしなくてもいい程の褒賞金を稼いで、要る時期である秋から活動を再開しランクアップや褒賞金を稼ぐのよ」


 「それは男装がばれないようにする為とはいえ、面倒な方法で頑張りますね」


 完全に他人事の真田の声は、風船のように軽かった。


 「ではアランさん、何故貴女はそのような面倒な方法を取ってまで、男装を続けているのですか」


 「そ、それは‥‥‥」


 真田の核心に迫る言葉に初めてアランが言い淀んだ。

 言うのは簡単だ。能天気にまで事情を話せばいいのだから。

 だけれどもそれは無関係である真田を巻き込む事を意味していた。

 果たしてそれは人として正しい道なのか。


 「(それは絶対に駄目な事。問う以前の問題。あの問題は私1人で解決しなければならない問題であり、決して他の人達を巻き込んではいけない。もしここでサナダを巻き込めば、『あの日』に誓った覚悟がないがしろになり、今までの努力が水の泡となってしまう)」


 アランはその日の事を思い出していた。

 大切な人達が眠るある墓標の前で抱いた思いを。誓った決意を。

 浴室に酷く場違いなまでの息が詰まるかのような重苦しい雰囲気が漂っていた。

 黙っていた真田は雰囲気を壊さずに独り言のように呟いた。


 「覚悟か」


 ハッ!!と、アランは確信を突かれたかのように目を見開いて見ていた。


 「何かを偽ってまで成し遂げたいとの思いが、名前や性別を偽る男装をする事への覚悟となったのか。逆に言えばそれはそうでもしないといけないまでの大事件の一端を知っていて何から身を隠す。もしくは真相を知りたいか」


 「さ、サナダ。お前は‥‥‥」


 驚愕するアランに律義に振り向かずに真田は更に続けた。


 「アラン。君が何でそう思ったのか知らないが、名前や性別まで偽って成し遂げようとする物事があるのなら、今のままのように正直者では駄目だ」


 アランは思いがけない注意に少し不機嫌となった。


 「正直者って。私は何も言ってはいないぞ」


 「時に行動というものは言葉より雄弁に語ってしまう。私が問いかけた時、貴女は思わず黙ってしまった。それは自身の物事に巻き込まないようにした、貴女の配慮なのでしょう。それは正しい事で何の非がある訳では無い。しかしそれが今回は拙かった。貴女から感じられた覚悟が私に『ああ何か重大な事を隠しているんだな』と思わせてしまったのだ。‥‥‥言っておくが、こんな初歩的な事を部外者の私から言われるようじゃ、君の思いの達成は程遠いぞ」


 アランは冬眠前に食料を溜め込むリスのように頬を膨らませて、不満タラタラといわんばかりにしていた。真田の親からの小言のような注意に如何やらへそを曲げたみたいだ。


 「じゃあ、どうしろと言うんだよ」


 「本当っぽい嘘を言えばいいんだ。例えば‥‥‥‥‥‥そう。ギルトで伸し上がっていくのに女じゃ舐められるから男装している。もしくは男になりたかったから趣味で男装しているとか言えば」


 「趣味って!? 私はそんな変態じゃない。私はきちんと男性が好きな女性だ」


 「アランさん、それは差別的な発言だ。性同一性障害の人に謝れ」


 首をかしげるアランの頭の上には大量の疑問符が浮かんでいた。


 「サナダ。お前はさっきから何を言っているんだ」


 「とりあえず」


 真田は誤魔化すかのように無視して、先に進めた。


 「君が女である事は言いふらすつもりは毛頭に無い。君が思っているように不透明な点が多すぎる私を信頼しろっと言うのは無理な話かもしれないが。‥‥‥今は信頼してくれ、今の私からはそう言う事しか出来ない」


 それは聞いている者に自身の決意を知らしめるのには充分でハッキリとした言葉だった。

 アランはそれが不満らしく、小さく唸っていた。


 「うううう、それはズルいよ。そう言われたら私は信じるしかないでしょ。私の性格を知っているから、そう言っているのでしょ」


 「そう言えるのは、やはり君が善き人間だからだ。私のようなクズとは違う。このような形で無ければ、良い友人関係を築けただろうに」


 何だか寂しそうな言葉がアランの耳にいやに届いた。


 「アランさん。先程も言いましたように、貴女が女性である事は誰に言いいませんから、安心してギルトの依頼をこなしてください。‥‥‥ではアランさん、お休みなさい」


 そう言いながら立ち上がった真田は、脱衣場へと向かって行こうとした。

しかしそれに待ったがかかった。

 アランが真田の左腕を逃がさないように強く握っていた。

 真田はアランの手と顔を交互に見返し。


 「どうしたのですか」


 「‥‥‥あっ。いや。その。だからな」


 実行したアランも驚いて言葉にならない言葉を発していた。如何やら無意識での行動だったらしく、アランも自身の意図を掴みかねていた。


 「変なアランさん」


 苦笑する真田がアランの手を退けようとしたその時だった。


 「ま、待ってくれ!!」


 突然の大声に驚いて真田は、目を見開いて肩をぶるっと震わせた。


 「部外者であるお前が、そこまで私に気を遣ってくれるのは嬉しいのだが。卑しい私はお前の事が信頼できない。何時お前が私の事を女だと周囲に言い触らすか気が気でない。そんな事では日常生活で失敗したり、依頼でも集中できずに失敗してしまうかもしれない」


 アランの独白に真田は何も言わずに黙って聞いていた。


 「だから私とチームを組んでくれ。チームを組めば一緒に街中を歩いたり酒場に一緒に行ったりしても別に怪しまれないし、依頼に行ったとしても怪しまれない。唯一私を女だと知っているお前が隣に居てくれれば、私は集中して事を進められる。お前も私から常にいらぬ疑念を持たれずに済む。だから私とチームを組んでくれ」


 「あっ、いいですよ。私もそろそろ外に出ようかと考えていましたので」


 二つ返事でチームを組む事を了承した真田にアランは呆気に取られていた。

 チームを組むというのは軽々しく決められないと思っていたアランは、今日明日に決まるとは考えていなかった。


 「組んでくれるのは嬉しいが、もう少し考えた方がいいんじゃないか。チームを組むというのは冒険者としての一生を左右しかねない事態だぞ。そんな何処かに出かけるかのような気軽さで決めていいのかよ」


 「いいのではないですか? 私はちょっとお金が欲しくなったので、討伐系の依頼をこなしたいと思い始めた所ですし。‥‥‥というより私に拒否権があるのですか。私だって疑心暗鬼に付き纏われる日常なんて、勘弁してほしいですから」


 「そ、それもそうだな。分かった。‥‥‥これから宜しく頼むな、サナダ。良いチームを築いていこうな」


 「ええアランさん、頑張りましょう」


 真田とアランは互いの決意を示し合うかのように、ガッチリと固く握手をした。

 何だか明日へ向かう若者達という重要そうな場面だが、舞台が浴場で2人共裸という状況だからなのか、いまいち決まらずにいた。

 だからなのかもしれない。

 意地の悪そうにニヤニヤと大きく口元を真田が歪めるのは。

 

 「それよりもまず、アランさんは現状を如何にかしないとですね」


 「どういう意味かしら? ‥‥‥あっ」


 アランは真田が指し示した所、首のすぐ下を見てようやくその意味が理解出来た。

 アランの小ぶりのメロンのようにたわわと実った胸と2つの薄桃色の突端が、最初から露出狂かと思われるほどに真田に丸見えだった。

 真田は言った方がいいのだろうかと考えていたが、何時気付くだろうと気になって何も言わずにいたのだ。

 アランは風呂に入りすぎてのぼせたとは違う赤みが、全身を彩った。

 アランは真田を親の仇かのように、キッ!!と、睨み付け、


 「忘れてしまえェェェえええええええ!!」


 強制的に真田の記憶から自身の裸体を忘れさせようと、右の拳を石のように固く握り激情のまま勢いよく立ち上がり、浴槽の外に足を出ようとした。

 まさにその時だった。

 真田が使ってそのまま置いていた濡れた石鹸を踏んでしまったのだ。

 濡れた石鹸で自立する事は不可能に近く、前に飛び込むように滑ってしまった。


 「アランさん!!」


 アランの異変に真田はすぐさま反応し抱き抱えるかのように支えるが、急な事にかかる力を逃す事が出来ずに2人共、そのまま床に倒れた。


 「(痛てて、これぐらいで倒れるのかよ。完全に身体が鈍っているな)」


 自身の衰えに内心悪態を吐くと、真田の視界は白いもので塞がれているのに気付いた。

 そして両頬にはグミのような弾力があって柔らかい物が触れていた。


 「(これは何だろう)」


 真田は確認しようと手を動かしていると、何だかマシュマロのように柔らかい物に当たり、何の気無しにそれを軽く握った。


 「あんっ!」


 すると妙に艶めかしい声が上から聞こえて来た。


 「(あん? ‥‥‥‥‥‥あっ)」


 声で自分の上に何が覆い被さっているのか理解した真田は、幻覚だとわかっていても全身から血の気が引いた音が聞こえた。

 そう。真田の視界を支配しているものはアランの白い肌で、手が掴んでいるのは大きく実った胸だった。

 握る力を失った手から柔らかい感触が消えると、真っ青の真田の視界には馬乗り状態になって顔を全身の血を集めたかのように真っ赤になり、見る瞳は揉まれた事への怒りとその状況への羞恥によって雫が溜まっているアランが見えた。

 そして震えながら極めて低い声で。

 

 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥な、何か言い残す事は」


 青白い顔の真田は必死に言葉を組み立てて。


 「‥‥‥‥‥‥ご」


 「ご?」


 「御立派です!!」


 「それが遺言かァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 アランの渾身の叫び声と共に振り翳された右ストレートは、真田の顔にプロボクサーが見惚れる程に綺麗に入った。

 そしてマウントポジションを取られた真田に抵抗出来る筈も無く、豪雨のように降り続くアランの左右のストレートをなされるままに受け続けるしかなかった。

 それは騒ぎを聞きつけて来たグラぜルが慌てて止めに入るまで続いた。


 危ゆく騎士団を呼ばれる事態を引き起こした真田とアランは、介抱してくれたグラぜル夫妻を感謝と謝罪をし、共に長期宿泊している宿屋『ツキノクマ』に戻り、チームとしての話し合いをするべく真田の部屋に居た。

 外からの月光と粘土の油皿に1本の灯心に火を点けている簡易型のランプの光によって貼れた頬を濡れた布で冷やしベットに座る真田は、半目で備え付けの椅子に座るアランを見ていた。


 「アランさん」


 正体を知る真田しかいない所為か、道中胸に巻き付けていた布は外しており、アランが着ている男物の服は胸に押されて盛り上がっていた。


 「わ、私は悪くないもん。お前が私の胸を揉んだせいだ」


 言葉としては否定しているが、真田の現状を見て流石に悪いと思っているのか普段の強気さは無かった。

 真田はこれ以上言うのは無意味かと判断して、話題を変えるかのように口を開いた。


 「すったもんだがありましたが、取りあえず私とチームを組むという方向で宜しいのですね。アランさん」


 「ああ。その方向で宜しく」


 「では、リーダー。チーム名はどうしますか。一生ものですからきちんとした名前が良いですね」


 「ちょっと待ってくれ」


 疑問を感じたアランはチーム名を考えている真田を止めさせた。


 「私がリーダーなのか。先程のカムールの浴場で‥‥‥」


 アランは緊急停止ボタンを押されたかのようにピタッと止まった。

 すると熱湯で血管が拡張し他とは違う赤みが、顔全体に見られるようになった。

 アランは言っていてカムールの浴場での出来事を思い出したのか、恥ずかしさのあまり言うのを止めてしまった。

 そんな事をつゆ知らずに真田は。


 「どうしたのですか、アランさん?」


 「い、いや何でも無い何でも無い」


 慌てふためくアランに何でも無いは無いだろと真田は疑念を持つが、然したる証拠も無いのでそれ以上の追及は止めた。

 アランは落ち着かせるように何度も深呼吸した。

 落ち着いてきたのか、アランは再び口を開いた。


 「私がリーダーでいいのか、お前は」


 「良いも何も、チームを組もうと言い出したアランさんがリーダーになるのが筋でしょう。誘われた私がリーダーになるというのはおかしな話です」


 「其れは解る。でも私はここ最近になってランクゼクスに上がったばかりの半人前で、多くの経験を積んではいなの。そんな人間がリーダーになったら、チームの運営が出来るとは思えないわ」


 今度は真田が疑問に思ったらしく、首をかしげた。


 「うん? アランさん、待って下さい。ちょっと話がおかしいですよ」


 「何でだ、何もおかしくないだろ。半人前の私がするよりも、剣の腕が立ち落ち着いて物事を見ているお前がリーダーをした方が、運営が上手くいくとの話よ。何処に不審な点があるというの」


 「質問ですが、アランさんは何処までチームの勢力を広げるつもりなのですか」


 少ししてアランはようやく真田が言わんとしている事に気付いた。

 真田は周囲には聞こえないようにアランにだけ聞こえるような小声で。


 「貴女は女性である事を隠して冒険者をしています。それは貴女が掲げる目的の為の手段で、それは決して何人にも知られてはいけない事。私は事故のようなアクシデントで知りましたが、それは例外中の例外。でしたらチームの構成人数は少ない方が都合の良い。極論を言えば、チームの構成はアランさんと私だけでも良い訳ですよ」


 「そうだったな。私は他の冒険者とは違ったリスクを抱えているのだから、通常の他のチームと違った動かし方をしなければいけないのか」


 完全に自分の事を女性である事を忘れていたアランは、自身が歩こうとしている道がいかに困難か改めて認識した。


 「なら私がリーダーの方がいいかも。リーダーの権限で構成人数を制限できるから」


 「そうした方がいいと思いますよ。‥‥‥ではリーダー、チームの名前を」


 「そんな急には思いつかないわ。サナダも言ったように一生ものだから大事にしたいし、人から笑われない名前にしたいわ」


 「カッコイイ名前ですか。‥‥‥過去の英雄や聖人の偉業に(あやか)って、英雄や聖人の名前を使うとかですか」


 アランは少し不満そうな顔をして。

 

 「それは強いお前ならいいけど。半人前の今の私なら名前負けしそうだから、却下」


 「いやいや。魔王を倒した英雄や数多の人々を救った聖人だって、最初は皆弱かったのですよ。アランさんのように目的を立てて、幾多の困難に逃げずに立ち向かい、最終的には目的を達成した。それが人々から評価された事だけです。それ以外はそこら辺のおっさんとおばさんと変わらないですよ」


 「英雄や聖人の事をおっさんやおばさん呼ばわりするお前はやはり強いな。‥‥‥でも駄目だ。半人前の私が名を使ってしまうと、名前が穢れてしまう。他のをしよう」


 「うーん、そうですか。‥‥‥‥‥‥‥‥‥では、アランさんは冒険者として何かやりたい事はありますか」


 「やりたいこと」


 アランは反芻するかのように呟いた。


 「男装はアランさん個人の目的の手段でしかない。それとは別にどういう冒険者になりたいか。チーム名に信念や戒めを刻み込む事で、自身を律するというものもあります」


 「信念、戒めか」


 アランは言いながらある日を思い出していた。無邪気に剣を振るっていた小さい頃を。

 そしてある日、とある殺風景な広い室内で剣の師匠である父親から言われた一言を。

 アランは夢遊病患者かのように無意識にポツリと呟いた。


 「か弱き民を守れる者でいれ、か」


 「‥‥‥それがアランさんが剣を振るう理由ですか」


 ハッと我に返ったアランは、少し動揺したように見えたが直ぐに落ち着きを取り戻した。


 「あっ、ああ、そうだな。此処は危険が多すぎる。私やお前のように魔物や盗賊といった敵に対抗できる力がある者はいいが、殆どの人々は大人で成体のゴブリン2、3匹をようやく倒せるだけの非力だ。その所為で日々恐怖に怯え、子供が魔物に遭遇してしまったら殺されてしまう。だからこそ力がある私はか弱き民を剣によって守れる勇敢な人を目指しているの」


 「それってなんだか騎士の心得に似てますよね」


 「まあね。剣を教えて貰った人が騎士団に勤めていたから、その影響かも」


 軽い調子で言い放つが、アランの表情は少し寂しげなものだった。


 「でしたらその方向でチーム名を考えていきましょうか。アランさんが人々を守れる勇敢な冒険者となれるように」


 「そうだな。‥‥‥‥‥‥シュナイトはどうだろう。名は体を表すというように、私達は勇敢である事を包み隠さず表しているだろう」


 「止めた方がいいですよ。そんな子供みたいな発想でチーム名を付けたら、他の冒険者達に笑われると思いますよ」


 「えぇ、そうかな。依頼者に覚えて貰うには分かり易い方がいいと思うけど。‥‥‥‥‥‥ではヤークトはどうだ。敵を狩り尽してやると意気込みを表している。敵を狩り尽せば、必然的にか弱き民は安寧を得られるわけだけど」


 「却下。話する以前の問題です。そんなチーム名を付けるようだったら、何があろうとも私はチームを脱退させていただく。色々と言うと朝までかかりそうなので言うのを控えますがアランさん、貴女は絶対にこの名を付けた事を後悔する事になります。だからヤークトをチーム名として付けるは反対です」


 「そ、そうか。なら仕方が無いな」


 強い口調で反対する真田に気圧されてしまい、アランはあっさりと提案を取り下げた。


 「それに」


 真田は子供に一言一句言い聞かせるような親のような口調で。


 「アランさんに剣や心構えを教えた人の理念に反する事にもなります。その人の真意は解りませんが、おそらくはただ敵を倒すだけの事じゃないです。その先を見据えての事だと思いますよ」


 アランは何も言えずに黙っていた。

 あの時を同じにしている訳でも無く、聞いてもいない筈なのに真田の言葉が何だか妙に真実味を帯びていたのだ。

 言われっぱなしのアランは少し不機嫌な表情になり。


 「じゃあ。さっきからサナダは反対ばかりしているけど、何か案はあるのか。案は無くて反対だけするような子供の真似は止めてくれよ」


 「そうですねぇ」


 アランに促されるままに倒れないように後ろに手を付き、余計な情報に惑わされないようにか天井を仰ぎ見るようにして、真田は思考の海へと入って行った。


 「(チーム名はアランに剣を教えた人の考えに基づいて付けた方がいいのだろうな。多分その人は、勇敢で人々から尊敬を受けるような人物にアランを育て上げたかったんだろう。今は何らかの理由で、それを中断せざる得ない状況に陥った。だとしたらその方向でつけるのが自然だろう。無理して方向性を捻じ曲げる必要性は感じない)」

 

 何だか技能を教える塾の講師のような考えになっているが、真田はそれに気付いてはいなかった。

 考えが纏まり真田は天井からアランへと首を動かした。


 「アンジェラス。‥‥‥はどうでしょうか」


 「アンジェラス、鐘の音の意味か。‥‥‥シュナイトと付けようとした私が言うのもあれだが、ちょっと女の子っぽくて可愛らしくない。これこそさっきお前が言ったように、他の冒険者に笑われるじゃないの」


 「私は名案だと思いますよ。‥‥‥だってリーダーが女の子ですから、チーム名もそれっぽくて」


 真田は浴槽での出来事へのお返しとばかりに、ニヤニヤと意地悪そうに呟いた。

 顔が真っ赤なアランは事実なだけに何も言い返せずに、うぅぅと唸りながら睨むだけだった。


 「まあ、冗談は置いといて」


 冗談かよとアランの呟きは無視して真田は続けた。


 「私達が戦場で鳴らす鐘の音は共に駆ける味方に安堵を、敵対する者達に恐怖を与える鐘の音です。鐘の音は必然的に人々に聞いて貰わないといけません。敵対する者達には勇敢に立ち向かい、人々と共に生きていくという願いを込めましたがどうですか、リーダー?」


 アランは納得したかのように何度も頷いていた。


 「うん、いいじゃないか。最初はどうかなと思ったけど、お前がそう言う願いを込めているのなら私は文句は無いわ。‥‥‥だとするとアンジェラスと付けるとなると何か音が鳴るような物を持っていなければならないのかしら。でもそんな物を持っていたら敵に感付かれてしまうでは」


 「いやいや、鳴り物はいりませんよ。私達が織り成す音は剣戟、甲冑、足音、息遣いなどの生活で起きうる音で人々を安心させ、最終的には帝都で時を知らせるストラブール大聖堂の鐘のように、居るだけで人々を安心させるかのようなチームになりたいですね」


 小っ恥ずかしさを感じながらも真田は、チームとしての将来的な展望を言っ

た。


 「私もそうなれたらいいと思うわ。でもリーダーが半人前の私でそのようなチームが出来上がるのかしら。何だか途中で失敗しそうな気がしてきた」


 将来的にそれを成しえると何も確証の無い事に、不安視しするアランの表情に弱気が見えていた。

 真田は不安を取り除く為に赤子に触れるかのような優しい口調で。


 「最初から何でも成功するなんて、そんなのはあり得ないですよ。不完全な神から作られた不完全な私達は、どうしても失敗してしまいます。でもそれは決して成功しないという意味ではありません。失敗を幾重にも重ね、何が悪かったのか考え軌道修正し最終的に成し遂げればいいのですから。アランさんだって最初から思うように剣を振れた訳では無いですよね。何度も練習をしているからこそ、魔物を倒せる剣が振れるのではないのですか」


 「確かにそうね。剣の素振りをしていて、ち、‥‥‥師匠から何度も指導を受けたから、剣を振るえている。そう考えれば最初から出来た訳でも無いのに、失敗を恐れて何もしないのはおかしいわね」


 剣の師匠の厳しい鍛錬を思い出しアランは懐かしそうに微笑んでいた。


 「では、チーム名はアンジェラスで宜しいですね。次はチーム内での規約、約束事を決めましょうか。‥‥‥まずは褒賞金ですが、分け前は人数で分ける方向で宜しいですか」


 「そうだな。褒賞金の分配はチームを長くやっていく上で一番大事な要素だからな。この金銭トラブルでチーム内に不和が生じて、戦闘中の連携が上手く取れなかったり、最悪の場合チーム解散なんて腐るほどあるからな。どんな内容でもチームで戦闘を行った以上は、各人員で平等に分配する事だな」


 真田は付け加えるかのように後に続いた。


 「後はチームで使う共有費ですかね。食糧費、寝床のテント、火を起こす薪、都市に入る通行料、宿屋があれば宿代かな。とにかくチームで使うお金を確保しないとですね。いざという時に誰が出すんだって揉めますから」


 アランは失念していたとばかりに手を自身の頭に置いた。


 「そうだったな。今までは1人で活動していたから、全ては自分で出していたから問題は無かったけど。今度からはチーム単位として動く以上、チームの活動費が必要となって来るな。完全に忘れていたな。だったら褒賞金の分配は私、お前、チームの活動費の3つで分けるか」


 真田は肯定するように頷き、決まった事をメモ帳に書いた。


 「次は戦闘に於いての役割分担ですね。アランさんの武器は初心者講習の時に言っていたように、剣でいいのですか」


 「そうだ。‥‥‥というよりも剣しか振れないと言った方が正しいかも。私は剣士だから剣を極める事が第一だから」


 「魔法はどうですか。回復魔術があれば、依頼をして行く上で非常に助かりますが」


 「魔術か。どの属性の魔法が使えるのか調べた事が無いから、どういった魔術が使えるかは言えないな。‥‥‥お前はどうなんだ。どんな魔術を使えるんだ」


 「今の私はアランさん同様に剣を主体とした戦闘スタイルですから、補助的な魔術しか使えないですね。相手を眠らせたり、麻痺させて動けなくさせたり。それと‥‥‥」


 真田はそう言うと、亜空間からメモ帳とシャープペンシルを取り出した。

 何も無い空中から突然物が出てきた光景に、アランは驚きを隠せないでいた。

 真田は見せつけるようにメモ帳の裏表をアランに見せていた。


 「これはノーシェバッカスという空間系の収納魔術ですね。これがあれば野外活動で必要な道具を楽して持ち運びできます」


 「そ、そうか。な、なら、テントや薪、食糧の運搬はお前に任せるとするか」


 戸惑いを感じつつアランは何とかリーダーの役割を果たそうとしていた。


 「分かりました。では次に発見した宝物の分配についてですが。発見した宝物は‥‥‥」


 その後もチーム内の規約について真田とアランは入念に話し合った。


 外の月が先程よりも頂点により近付いた頃、


 「だいたい、これぐらいでかね」


 真田はメモ帳に書いたチームアンジェラスの規約に、書き漏らしが無いか見返していた。

 そして自分が知る限りの事を記している事を確認すると、メモ帳からアランの方へと視線を動かした。


 「アランさん、規約が出来ましたよ。確認をお願いします」


 「う、うぅぅん」


 生返事をしたアランは頭部が何度も上下に動いていた。

 いわゆる舟を漕いでいる状態。居眠りをしていた。

 話し合いの最後の方になると徐々に瞼が閉じられていくのが真田から見え、最 後の規約では完全に瞼は閉じられた状態だった。


 「(依頼を終えて休む間もなく、規約についての話し合いをしたから疲れているのは解るが、冒険者としてはそれは致命的だぞ。夜通し歩き続けなければいけない事だって発生する可能性があるというのに)」


 内心呆れる真田は取り敢えず規約の確認は明日に回そうと考えた。

 真田はメモ帳とシャープペンシルを亜空間に収納すると。

 

 「アランさん。此処で寝たら風邪をひきますから、自分のベットで寝ましょ」


 「‥‥‥うん」


 半覚醒状態のアランは幼子のような返事をすると、椅子から立ち上がった。

すると何を思ったのか。

 真田が座っているベットの近くで靴を脱ぎ、ベットにもぞもぞと入って行った。

 真田が全く使ってないので新品同様の枕に頭を乗せ、仰向けの状態でなけなしの羽毛が入っている羽毛布団を被って、安らかな顔でスウスウと規則正しい寝息を立てた。

 あまりの自然な行動に真田は注意する事無く、ただ呆然と見るだけだった。

少しの間、アランの寝息が響き渡る部屋で固まっていた真田は、ハッと我に返った。

 

 「おおい、そこは俺の寝床だ。君の寝床は隣の部屋だぞ!!」


 夜という事もあって、周囲に迷惑をかけないように耳元でようやく聞こえるぐらいの小声で、真田は寝ているアランに注意をした。

 やはりと言うべきか、当然と言えば当然で。完全に熟睡状態に入っているアランに聞こえる訳無く、羽毛布団を呼吸に合わせて規則正しく上下に動かすばかりだった。

 真田は何度も肩を揺すったり声を掛けたりして退かそうとしたが、アランの寝るという決意は確固たるもので、全ては徒労に終わった。

 真田は巨石のように動かないアランを見下ろし、


 「(こんなことならアランの部屋で話し合いをするべきだったな)」


 起こす事を諦めたのか、ベットから離れ亜空間から1つのフード付きのマントを取り出した。

 初心者講習の時に使った茶色のフード付きのマントだ。

 それを羽織ると真田はアウクシリアを取り出し、いつものようにAM6:00:00にタイマーをセットした。

 部屋の隅を淡く照らすアウクシリアを置き、真田は簡易型のランプの灯を消してその近くに腰を下ろした。


 「(こうやって横にならずに寝るなんて、日本で野宿していた時以来か。‥‥‥考えてみれば結構久しぶりだな。一応、この世界に来てからは大体横になって寝ているからな)」


 思わぬ事から昔を思い出した事に真田は人知れず苦笑した。

 真田は瞼を閉じると、徐々に湧き上がってくる眠気に自身の意識を放り投げるようにして渡した。

 真田は肩を上下させて、アランと同様に規則正しい寝息を立てていた。

 忙しくなる明日に備えて。

 やっとタクト君が外で活躍できるようになりました。

 今まではギルト所属としての義務や敵を誘い出すのに一時的に外に出る事はありましたが、主体的に外に出る事は無かったので、タクト君にどんな困難を負わせようか今から非常に楽しみです。

 アランの浴場と部屋でのくだりでは、あれっ?と思うと思いますが、タクト君を考えるとあれで正解なのだろうなと思います。

だからこそ戦闘中ではあのようになってしまうのです。‥‥‥だとしてもスタイルの良いうら若き乙女の裸体を見て、何も反応しないのはそれはそれで歪んでいるように思えるのは気のせいでしょうか。


 誤字脱字矛盾がありましたら、ご報告の方を宜しくお願いします。


 さあ、次は狩りの時間だ!!

 

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