第44話 オリエンス教会 フェイズ3
「(どうしよう‥‥‥)」
クリューベは静かに立ち尽くしていた。
目の前に聳える巨大の壁に気圧されているのだ。
状況的には最悪だった。
彷徨う広大な砂漠の中を1人で延々と歩いていて、喉が渇いたから水を飲もうとしたら水筒には何も入っていなかったのような、クリューベ1人ではどうしようもない状況に置かれていた。
まさか借金取りの男達の精神的な暴力の嵐よりも更に過酷な事態が起きるとはクリューベは夢にも思わなかった。今でもそうだ、これが夢であってほしいと願っている。
今ほどヒュペリーオン神を恨みそうになった事は無い。
日々の生活の苦難は人間を更なる高みへと誘う、ヒュペリーオン神の思し召しであると。ヒュペリーオン教は説いていた。
クリューベはそれはそうであると信じて疑わない。
人間とは前に進む生き物だと。身体的に子供から大人に成長するように、精神的にも熟成していくものだと。
だけれども。
今、それをしなくてもいいのではないかと、クリューベは泣きたくなってきた。
「(後でどんな困難が降りかかってもいいので、今だけはこの困難を回避出来るだけの力を。ヒュペリーオン神様!!)」
クリューベは天上にいる主神に祈りを捧げるが、現実は厳しく事態を回避出来るような事は一切起きなかった。
露骨に肩を落として項垂れるクリューベの前にある野菜を保管している所には、材料である野菜が全く入っていなかった。
当然のように肉も無く、あるのは野菜の切れ端しかない木製の野菜籠しか無かった。
「(咄嗟とはいえ、何でポトフが残っているから食べませんかって言ったのよ私は。もっと違う言い方があったでしょ!!)」
事態の急変についていけず混乱して正常では無かったとはいえ、教会で子供を保護する時と同じ台詞を言った事に、クリューベは激しく後悔していた。
ちなみにポトフに使った鍋は人数分しか作っておらず、また洗ってしまったので昼食のポトフは残っている訳が無かった。
真田を食事に誘ったのはいいが、材料が無いという割とどうにもならない状況に、クリューベはただ呆然と立ち尽くすしかなった。
このまま無為に時間を過ごすだけかと思われたが。
「どうしたのですか」
クリューベは声がした方を恐る恐ると、きょとんとした顔の真田が居た。
真田は食べさせてくれると言ったのだが、中々調理を始めようとしないクリューベを不思議に思って近づいてきたのだ。
最初は音も無く近づいた真田に驚いていたが、次第に物凄く申し訳無さそうな顔になっていった。
真田が怪訝な思いで見ていると、ふと目に野菜の切れ端しか入っていない木箱を見つけた。
切れ端しか入っていない木箱、クリューベの表情。
それら2つから真田はある答えを導き出した。
そして、クリューベに視線を戻すと真田が考えている事が当たっていると、首を縦に動かした。
事が事だけに何も言えず微妙な顔をして、明後日の方向を向いた。
「ああー。そうですねシスター。‥‥‥‥‥‥‥‥‥こってりのポトフは大丈夫ですので。ここは甘いお菓子など、どうですか?」
「お菓子ですか。でしたらポトフと同じように時間がかかりますが」
「いえいえ、シスターが作る事は無いですよ。出来合いですがクッキーがありますので」
「クッキー?」
初めて聞くお菓子の名にクリューベは不思議そうにするが、真田は無視してノーシェバッカスを発動させ、蓋に青と赤の英字が書かれ白の長方形の金属の缶詰を出した。
真田は中身が出ないように慎重に開けると、中にはスタンダードな円形や長方形ドーナツ型のクッキーが入っており、それらを茶色のプラスチックが形状事に仕切っていた。
「サナダさん、これがクッキーですか」
クリューベは初めて見るクッキーに、新しい発見した研究者のように興味津々に見ていた。
「ええ。私が居た所ではちょっと小腹が空いたら、食べる物なので丁度いいかなと思いましたので。‥‥‥1つ、食べてみますか」
「えっ!? いえ、大丈夫ですよ! 私はお腹が空いていませんから!」
クリューベは必死に遠慮をするが。
次の瞬間、クリューベのお腹からくぅーっと情けない音が真田の耳に届いた。
一瞬クリューベの表情が固まったが、次第に全身の血を集めたかのように顔が真っ赤になり、恥ずかしそうに俯いていた。
真田は笑いそうになるが必死に聞こえていないふりをして。
「クッキーには飲み物として、紅茶が合うのですよ。シスター、すみませんがお湯を用意して貰ってもいいですか」
「‥‥‥はい」
近くに居る真田がようやく聞こえる程の小声で呟き、お湯を作る準備に取り掛かった。
真田たちは三角のティーバッグに入っているインスタントの紅茶を、青のプラスチック製のコップで飲んでいた。
国際規格の手法でプロが入れた紅茶には劣るが、それでもインスタントながら企業努力により、重厚で芳醇な香りを出している紅茶に、クリューベは舌鼓を打っていた。
「美味しい。こんな紅茶飲んだ事は無いです」
「それは良かった。こういうのは結構個人の好みが出ますから。‥‥‥そういえば、シスター」
「何でしょう」
「今から不躾な質問をします。これは貴女にとって不愉快になる可能性を孕んでいます。嫌なら嫌と言って下さい。知りたいのですが貴女を傷つけてまで知ろうとは思いません」
一瞬、躊躇うかのような表情を浮かべたが、真田の酷く真剣な声色に覚悟を決めたのか、クリューベは奥歯を噛みしめて真剣な表情で頷いた。
真田はクリューベの覚悟を感じ取ると静かに口を開いた。
「‥‥‥何故、高利貸しから金を借りたのですか」
真田の言葉はクリューベの心に見えない刃となって遠慮なく突き刺さった。
クリューベは忸怩たる思いで黙って聞いた。
「教会の規模や子供達の様子を見ていて不思議に思ったのですよ。此処がお金が潤沢では無い事は解りますが、借金をするまで困窮しているようには見えないのですが」
少しの静寂の後、自身の恥をさらすかのようにクリューベは吐露した。
「前に老朽化したオリエンス教会の屋根の改修工事をしたのです。しかし途中で資金が足りなったのです」
真田は心に奇妙な引っ掛かりを覚えた。
「それはおかしいですね。その改修工事の契約する時に必要となる金額が提示されるのでは。その金額に合わせて工事がされる筈ですが」
「そうなのですが。職人さんが言うには、何時も下ろして貰っている煉瓦の業者が近くの砦の破損部分の補修に駆り出されていて捕まらない。だけど知り合いに腕のいい煉瓦職人が居るけど、遠くになってしまうからその分の輸送費が嵩むからと」
「ああそれで」
「ええ。酷かった教会の雨漏りを直すのが目的でしたので、仕方が無く生活費から足りない分を出したのですが。何とか切り詰めて生活しようとしたのですが足りなくなってしまい。約2ヶ月半前に」
「高利貸しに金を借りに行ったと」
クリューベは肯定とばかりに小さく頷いた。
真田は胸中に漂っていた疑問の霧が晴れたが、ふとある疑問が浮かんだ。
「(彼女は自分の事を不甲斐ない人間だと評したが、仕方が無かった部分が大きかったのでは。砦の補修なんて一般人では予測不可能だろ)」
真田はちらりと俯いているクリューベを見たが、直ぐに視線を外した。
「(俺が違うと言っても、シスターは違わないと言い張るだけだからな。ここは長期的にシスターの自信を回復させていくのが、1番の近道だろうな)」
精神科医でも無い真田は、何故かクリューベの精神的な回復の工程を脳内で組み立てていた。
真田はこれ以上、雰囲気が重たくならないように話題を変えた。
「シスター。このオリエンス教会に入るとき思ったのですが、この教会は歴史的には古いのですか」
「えっ!? ええ。私も聞いた事しかないので正確には解りませんが、先代のシスターが言うにはこの地に帝都が出来る前からあったらしいですよ」
「帝都が出来る前から。‥‥‥それは古いのですか」
帝国の歴史に疎い真田はいまいちピンときてなかった。
帝国の歴史は10年程度だと言われても、信じてしまう程だ。
「古いと思いますよ。元々この地域は諸国が乱立していたのです。それを数百年前にフィルド帝国の礎を創った初代皇帝ドゥーガルド=エイリング先帝が周辺諸国を平定し、ただの田舎町だった此処をフィルド帝国の帝都にしましたからね」
「だとすると、街中にあるストラブール大聖堂はその時に移転して来たのですか」
「そうなりますね。皇族の方々はアストレア教の信者ですから、帝位の即位式はストラブール大聖堂で行いますね」
「だから、物凄く良い好条件の立地にあんなに豪勢な彫刻が彫られているのですね」
真田は何時も通る時に見ているストラブール大聖堂の外観を思い出しながら、紅茶を飲んでいた。
クリューベが渇いた笑みを浮かべながら飲んでいると、ふとある事が気になりコップを置いた。
「何故サナダさんは私達にこんなに良くするのですか」
真田は思いがけない質問に、虚を突かれたかのような顔となった。
「‥‥‥やはり迷惑でしたか」
クリューベはゆっくりながらも、首を振って明確に否定した。
「迷惑だなんて、とんでもない。‥‥‥ただ、ストラブール大聖堂みたいに大きくも無く派手さも無い、こんなに小さく外見が古臭い教会に信者でもないのに援助をするのか。しかも知り合ってたった数時間しか経っていない私達に、こんなにも目をかけて下さるかなと思いまして」
真田は納得したかのように何度も小さく頷いた。
「まあ、そりゃあそうですよね。そう思わない方がおかしいですよね。‥‥‥最初は本当に偶然です。歩いていてこのオリエンス教会を見かけて、興味をひかれて入ったのですよ。ですが、その後の事は単なる自己満足ですよ」
「自己満足ですか?」
真田は自己の行いを馬鹿にするかのような冷笑を浮かべた。
「私は自身が正しいと思った方法をしているにすぎません。借金取りの男達を殴ったのもあいつらが気に食わなかったから。子供達にパンや果物を買ってきたのは子供達の笑顔を見れば、私が幸せな感情になるから。借金取りの男達に利息分を払ったのは、気に食わないあいつらを何度も殴って帰しても何の解決にならないと考え、それを払えるだけのお金を持っていたから払ったまでです。それらが偶々シスター達だったという訳です」
真田は自身の行為を嘲るように言い放った。
それは決して誰かの為では無くて自分の為であると、自分に言い聞かせるように。
「だからシスターがお礼を言うなんて筋違いなんですよ。私は押し付けがましくシスター達を援助しますが、それは助けるという行為をする事によって、私が幸せになるからです。だからシスターは、また来たよあの人と、少し困り顔で私の善意という自己満足を受け取ればいいのですよ」
「で、でもそれは‥‥‥」
とても素晴らしい事なのではとクリューベは思わずにいられなかった。
「(誰かの為という相手側に一方的に圧し掛かるかような、下手をすれば潰してしまうかのような善意では無くて、自分の為にする事で相手側に負担を負わせない善意。一見、自己中心に思わせるようだけど、相手側を極限にまで思いやった善意)」
それが出来ればなんて素晴らしいのかと、クリューベは思わずにいられなかったが。
その反面、残念な気持ちが胸中を染みにようにじんわりと広がった。
別に物語出てくるような甘い言葉を言ってほしかった訳では無い。
年頃の男女とはいえ、知り合ってたった数時間しか経っていない。
それが分からない程クリューベは幼くは無い。
そんな言葉が簡単に出てくるような男は信用が出来ない。
だけれども、この心に微妙にだが確実に引っ掛かる残念な思いはどうすればいいのだろうかと、クリューベはやきもきするしかなった。
そんな葛藤するクリューベを余所に、真田は更に続けた。
「まだ私の自己満足を続けたいのですが、宜しいですか」
「そ、それは構いませんが、何をするのですか?」
真田は勿体振った仕草をすると、こう言い放った。
「それは‥‥‥」
真田の提案に良くも悪くもクリューベは拒否する事はなかった。
真田とクリューベが色々と相談している頃。
男達は雇い主でありアリング商会の元締めであるゲールノートが居る部屋のドアをノックした。
少しして中から、入室の許可が出るとドアを静かに開けた。
部屋の中では、ゲールノートが書類上の金額と袋に入っている硬貨が合っているか勘定をしていた。
「ボス、只今戻しました」
「早かったな。もう少し時間がかかると思っていたぞ」
「思いの外、事態が上手くいきましてね。何時もこうだと俺達も楽なんですがね」
「それは仕方があるまい。世界は儂達中心で動いている訳では無いのだからな。‥‥‥それで首尾の方はどうだった」
その言葉を待っていたかのようにリーダー格の男は満面の笑みを浮かべた。
「それはもう上々ですよ」
弾むかのような声に違和感を感じたのか、ゲールノートは怪訝な視線で上を見上げた。
「ツィスカから回収してきた利息分200万フラルです。此処に置いておきます」
男は持っていた金色の硬貨を20枚、机の邪魔にならない所に積み立てるように置いた。
それをゲールノートは相いれない異物を見るような鋭い目で見た。
「それはアウム大金貨じゃないか。それも20枚。一体どうしたのだ」
「ですから。ツィスカから利息分の200万フラルを回収したのです」
ゲールノートは耳に飛び込んで来た言葉に驚きの表情を浮かべた。
まるでそれは自分の信じて疑わなかった常識が間違いであると指摘されたかのように。
ゲールノートは置かれた硬貨を信じられないものを見ているかのように唖然として見ていた。
しかしゲールノートは自分の考えを振り払うかのように首を振った。
「いやそんな筈は無い。何時ものように返済が滞り無く出来るか出来ないか、滞った際にどういった対応をすればいいか調査した。あのシスターの収入や教会の人員の構成、出入りする信者の人数を、あのギルトを使って調べ上げたんだ。‥‥‥その上で借りた額は返せるが利息分の200万フラルは絶対に返せる筈が無い。それに間違いは無い」
アリング商会の回収率の高さはここにあった。
綿密な調査結果を元にどうすれば、負債者に効率よく金を返済させるかゲールノートが考え、それを男達が実行してきた。
最初は他の同業者たちからは非効率だと笑われたが、ゲールノートは特に反論する事無く、成果を挙げる事で他の同業者達の口を塞いできた。
それを真似する同業者が出てくるまでになった。
またゲールノートは自分がどれだけの暴利で金を貸しているのか認識していた。
そして多くの人間をどれだけの悲惨な目に遭わせて来たのか知っている。
ある者は強制労働へと駆り出される時に、現場へと行く馬車に連れ込む男達に放送禁止用語連発の罵詈雑言を浴びせながら、現場に行かせた。またある者は泣きながら、強制的に娼館へ放り込まれ、好きでも無い男達に嫌がりながらも媚び諂い春を売っている。
そんな自分から金を借りるのだからクリューベも間違いなく、娼館へと送るのだと最初から確信していた。
だからこそ、目の前に置かれている利息分の200万フラルが信じられないでいた。
「(何処かの貴族か大商人のパトロンを見つけて来たのか。‥‥‥いやそんな筈は無い。もし探しているのなら、儂の耳に届いていないのは不自然だ。それにあんな教会に200万フラルを貸すか。貸したとしてもその見返りは娼館と変わらないぞ)」
目の前の状況に合う事態について整合性を整えようとするが、どれをとっても整合性が付かない事ばかりで、思考は空回りを回すばかりだった。
男はゲールノートを無視しつつ、自分で見て来たのを思い出していた。
「それは間違いないですね。俺達もボスの指示に従って、どうすれば早くツィスカが娼館を行く事を決めるように、動いていました。その甲斐あって、ツィスカは娼館に行く事を決意したのです。しかし邪魔をした冒険者がその200万フラルを払って、娼館を行くのを止めさせたのです」
ゲールノートは聞き捨てならない言葉に、思考を一旦停止させた。
「ちょっと待て。200万フラルを払ったのはあのシスターでは無いのか」
男はあっけらかんとした表情で。
「はい。その200万フラルを払ったのはツィスカでは無く。俺達を1度邪魔した変な冒険者のガキです」
ゲールノートは男の風船のような軽さに何者も焼き尽くす炎のような怒りを覚えたが、直ぐに怒って此奴らに何言っても無駄だと思い、鉛のように重い溜め息を吐いた。
「まあいい。取り敢えずシスターに貸していた金額の利息分の200万フラルは無事に回収出来た。これでこの案件は終了という訳だな」
「はい!」
何とか首の皮1枚繋がった事に安堵する男達とは対照的にゲールノートの胸中は晴れる事は無かった。
それは。
「しかし。200万フラルという大金を一括で代わりに払った冒険者は一体何者だ」
その1点の疑問に尽きた。
あの教会にそれだけの価値があるとは、到底思えず不思議でならなかった。しかも邪魔な孤児院まで併設されているので、建物の価値は無いに等しいだろうとゲールノートは考えていた。
「何者なんでしょう。俺達にはただの通りすがりの冒険者だと言っていましたが」
「ただの通りすがりの冒険者では無いだろ。継承が無い貴族の次男坊か三男坊。または暇を持て余した大商人の子供が妥当な線だろうな」
「冗談言わないで下さい。そんな子供に俺達は尻尾を巻いて逃げたのですか」
答えを持たないゲールノートは黙るしかなかった。
しばし部屋は自身の心臓の音が聞こるかのような静寂に包まれたが、破ったのは主であるゲールノートだった。
「これ以上、この件に突っ込んだら危険な予感がするが、それは同時に儂が大きく躍進するチャンスでもあるな。もしその冒険者を味方に付ければ、儂の地位も格段に上がる可能性を秘めておるな」
「‥‥‥という事は」
「その冒険者を此処に連れて来るのだ」
男達は物凄く嫌な顔をしそうになったが、上司の命令に逆らえる筈も無く。無表情の仮面を張り付けて、ただ頷くしかなかった。
真田はクリューベと別れて、1人アヴェドギルトへと向かっていた。
クリューベと今後について色々と相談した結果、真田はとりあえずアヴェドギルトに向かう事となった。
まだお昼過ぎたばかりとあってか、通りには大勢の人々が行きかっていた。
途中ストラブール大聖堂に差し掛かると、中からクリューベと同年代と思われるシスター達が楽しそうに雑談をしながら出て来た。
真田はふとクリューベの話を思い出して足を止め、シスター達のフードの部分を見ていた。
「(シスターが言った通りに白だな。彼女達がどの宗教に属しているのか、知るには今度からあの部分を見るようにすればいいのか。‥‥‥しかし、色の分配はどうやって決めたのだ。サッカーや野球のようにチームカラーという訳ではあるまい)」
もしかしてくじ引きじゃないだろうなと、しょうもない事を考えながら真田はアヴェドギルトに向かった。
アヴェドギルトの1階ホールは昼過ぎという時間帯の所為か、冒険者は殆ど居らず勤める職員で占められていた。
真田はホールを見渡すと、受付カウンターに目的の人物を発見した。
受付嬢のメアリー=カディックだった。
午後の業務に入っているのか、冒険者に受けるクエストの諸注意をしていた。
真田はそんなに急ぐ事でもないかと、食事スーペスにある椅子に座り、説明が終わるのをぼんやりと見ていた。
「(あの様子を見る限りじゃ、特に問題はなさそうだ。データスの件で心に深い傷を負って、如何かなと思って行き帰りは一緒だったが、あの様子だとそれも早く終わりそうだな。‥‥‥何時までも一緒にいたら、彼氏とか出来なくなるだろうし)」
真田は懸案だったメアリーの精神的な回復具合が、順調である事に満足気な表情だった。
懸命に頑張る子供を見守るような親のような温かい目で、仕事をするメアリーを見ていた。
説明が終わったのか冒険者が受付カウンターから離れて行のを見ると、真田は自分の番とばかりに近付いて行った。
「メアリーさん」
「? どうしたのですかサナダさん。クエストを受けるのですか」
「いやあ、今回は違くてですね。ちょっと迷惑かもしれませんが、メアリーさんに聞きたい事があって」
「私にですか?」
疑問の声を上げるが、表情は何処か嬉しそうだった。
自分より色々な物事を知ってそうな真田から頼られている事に、動くとすぐに消えそうなまでの歓喜に打ち震えていた。
メアリーは込み上げる嬉しさを抑え込みながら。
「何でも聞いてください。私が知っている限りの事を教えます」
「そうですか。お言葉に甘えさせて貰います。‥‥‥アヴェドギルトで木材を卸している木工所、もしくは木工職人を紹介して貰えませんか」
「‥‥‥‥‥‥も、木工所ですか。ある事はありますが、場所までは」
何故木工所という疑問をぶつけそうになったが、最優先事項の頼られた事に何とかしようと、メアリーは乾いた声色で答えた。
「そうですか」
真田は情報が得られなかった事に渋い顔になった。
真田が木工所を探しているのは、借金取りの男達によって壊された教会の椅子を補充する為であった。
あの教会の規模を考えても、長椅子が4つしか無いというのはあまりにも不自然すぎる。
かと言って今のオリエンス教会に椅子を補充出来るまでの余裕は無かった。
あるとしても、何とか生活費を節約して1個1個と補充していくしかなった。
そこで真田がクリューベに椅子を作りましょうかと提案した。
クリューベは最初はそこまではと断っていたが、真田の自己満足という言葉に押し切られ、最終的には首を縦に動かしたのだ。
自己満足という面もあるが、実際には日曜大工をしてみたいと自分の腕が何処までなのかという欲求に駆られているのが大きかった。
「あ、あの何故木工所に行く必要があるのですか。もしかしてクエストに関係があるのですか」
「クエストは関係ないですけど‥‥‥」
真田は言いかけて何かを思い出したのか、固く口を噤んだ。
メアリーはそんな真田を不思議そうに見ていた。
「(危ない危ない。教会の椅子を作るからといったら、何で椅子を作る事になったのか説明しなければいけない可能性が出てきてしまう。そうなればシスターの嫌な思いを穿り返す真似をしてしまうな。それだけは決してしてはいけないな)」
王の前で騎士の誓いを立てるかのように真田はそっと胸に固く誓った。
ここで真田にとって困った事が起きた。
木工所に行く理由を作らねばならなくなった事だ。
真田は自分が弁が立つとは思っておらず、しかも自分に良くしてくれているメアリーに嘘を吐くのも抵抗を感じるのは事実だった。
真田はどうしたものかと首を捻らずにはいられなかった。
「(ここは日曜大工に目覚めたのですよと言うべきか。‥‥‥いや、止めた方が良いかもしれないな。日曜大工なんて概念が通じるか不透明すぎる。余計にややこしくなる可能性が極大だ)」
真田は知恵熱が出るかのように尤もらしい理由を考えるが、基本的に剣術バカの真田に妙案がある訳が無く。真田のした事といえば。
「それはそうと、誰か帝国の法律に詳しい人を知っていますか」
話を逸らす事だった。
「えっ!? 何かに巻き込まれたのですか」
無縁と思っていた法律という単語が出てきた事に、メアリーは驚きを隠せないでいた。
真田はそこで法律の勉強をするんですかでは無い事に、メアリーは自分の事を分かっているのか、それともバカにしているのかの判断は出来るだけ考えないようにした。
「まあ、巻き込まれたというか自分から巻き込まれに行ったというべきか。ちょっと帝国の法律が必要になる事態になるかもしれないなと思いましてね」
「‥‥‥あまり深くは聞きませんが、厄介事ですか」
「完全に厄介事ですね。相手側が中途半端に法律を使っているので、いつものようにやれないのが痛いですね」
「そうでしたら私は力になれそうにないですね。法律とかには明るくないので。‥‥‥でも、フィリスちゃんならもしかして」
「私がどうしたの?」
突然聞こえて来た声に真田とメアリーは、首を痛める事を考慮しない程の動きで声がした方を向いた。
真田とメアリーの視線の先には、制服姿のフィリスが立っていた。
「どうしたの、フィリスちゃん」
フィリスは少し疲れた様子で、解すように肩を回した。
「いや、ずっと机に向かって作業していたから、昼食ついでに身体が強張ってきたからちょっと動かそうと」
「ふーん、そうなんだ。‥‥‥ねぇ、確かフィリスちゃんは法律の勉強をしていたよね。何かサナダさんが困っているみたいだから、手を貸してほしいの」
フィリスの胸中は嬉しいような悲しいような複雑さをようしていた。
単純にメアリーから頼られている事には嬉しいのだが、それが違う相手である事が辛い上にそれが真田である事により拍車をかけていた。
フィリスは物凄く面倒臭そうにしたかったが、それをするとメアリーが悲しむと考え、何ともないように装う事にした。
「別にいいけど、何の法律なの? 一言で法律というけど、貴族に関する封建法、シスターや神父などの聖職者に関する教会法、私達一般市民に関する公民法等々、多岐に亘るけど、何の法律を探しているの?」
「お金に関する法律を」
「お金に関するね。公民法でいいのかしら。‥‥‥まあ、いいわ。法律の本は事務室にあるから、私について来て」
フィリスは身を翻すと来た道を引き返した。
真田はメアリーに軽く礼を言うと、フィリスの後に続いた。
真田は事務室で金融法の本を借りると、食事スーペスで必要そうな項目をメモ帳に写すと本をフィリスに返却し、教会に足を向けた。
大通りから外れ幾つもの路地を歩き、もうすぐ教会に到着する時、扉の前で見知った人物がいる事に気付いた。
それは借金取りの男達だった。
誰かを待っているのか、男達は入ろうとせずにただ扉の前をウロウロしていた。
真田はあらゆる感情を放棄したかのような無表情となり、教会へと近づいて行った。
男達は真田が居る事に気付くと、近づいてきた。
「何だ。お金は返したから、教会には何も用は無い筈だ」
「ああ、教会にはな。‥‥‥用があるのはお前だ」
「何だと?」
真田は引っ掛かりを覚え、眉毛の端がピクッと動いた。
男達は少し面倒臭そうな表情で。
「今回の件で想定外の事を起こしたお前にボスが興味を持ってな。連れてこいと言ってな、俺達はその案内役だ」
胡散臭そうな男に言葉に真田は存外素直に答えた。
「それは丁度いい。俺もお前達のボスに会って話してみたかったからな」
「素直で助かる。行かないとゴネたらどうしようかと思っていたぞ。‥‥‥付いて来な、こっちだ。」
男達の案内でアリング商会が使っている建物に到着した真田は、応接室に通され待つように言われた。
応接室の壁には精巧に描かれた風景、静物、人物の油絵。邪魔にならないように高そうな壺や花瓶が置かれており、見る者に持ち主の財力を見せつけるかのように置かれていた。
部屋の中央には真田の膝の高さまでしかない木製の長机が置かれており。それを挟むように上流階級が使ってそうなフカフカの羽毛を赤い革で背凭れや座面に敷き詰めている肘掛椅子が2つと長椅子が1つ置かれていた。
真田は特にする事も無いので、扉に近い椅子に座って待つ事にした。
数分後。
ドアを開けて入ってきたのはアリング商会の元締めであるゲールノートだった。
ゲールノートは真田を見ると値踏みするかのような目で一瞥すると、視線を外し長椅子へと座った。
男達が全員入って来ると、ゲールノートはビジネススマイルを浮かべ、人を安心させるような朗らかな声色で話しかけた。
「君がツィスカ=クリューベさんの利息分の200万フラルを払った、冒険者でいいのかい」
「ああ」
「助かったよ。あのシスターは中々払ってくれなかったから、如何しようかやきもきしていたのだ。部下が何か君達にしたようだが、彼らも焦りから行き過ぎがあったみたいだから、許してくれないか」
慣れているなと真田は率直な感想を抱いた。
商売をする上で相手側からの最低限の信頼はどうしても必要だ。
得るのには相手側に自分は味方である事を認識させなければいけない。
それを話術で得ようとしているので、こういう話し方になるのだろうなと真田は考えていた。
「いやぁ、若いのに大したものだ。200万フラルなんて大金を出せるなんて余程の腕の‥‥‥」
「そこまでにしようか」
遮るかのような真田の冷たい声にゲールノートは表情が固まった。
「俺は世間話をしに来たんじゃない。俺は俺の用があって、お前はお前の用があって俺を呼んだ筈だ。時間は無限では無いから、さっさと要件を言え」
真田の不遜な態度にゲールノートは怒るどころか、膠着していた表情筋を緩めニヤリと笑みを浮かべた。
「面白いガキだな。よかろう、儂も暇では無いのでなさっさと終わらせよう。‥‥‥何、簡単な事だ。儂と手を組まぬか」
真田は特に反応する事無く、黙って聞いていた。
「儂は今はこのような小さな商会の元締をしているが、いずれはこの帝国や周辺諸国の経済を裏から操る大商人になるのだ。その為には莫大な金と他を排除できる力が必要だ。金は高利貸しをしていれば、何もしなくても入ってくる。しかし力だけはどうしようもない。こればかりは強い者を雇い入れるしかない」
「だから、あいつらを撃退した俺を取り入れようと」
「ああ。その歳でその強さなら、伸びしろは十分にあるからな。‥‥‥何もタダという訳では無い。冒険者稼業は不安定だろ、儂と手を組めば月々に安定的に中級ランクの褒賞金が手に入るぞ。どうだ」
それは真田にとって魅力的な提案だった。
いや冒険者全体に言えるかもしれない。
幾ら一回一回の褒賞金が高いとはいえ、冒険者は何時まで続けられるか将来性は不透明であり、ギルトは仕事の斡旋はするが保証が全くない不安定だ。
もし意気揚々とクエストに向かったとしても、途中で重大な怪我や病気になればそのクエストは失敗になる。最悪、そのまま冒険者引退という事もある。
初心者講習の教官役のオークランドのように引退後ギルトが再雇用するケースがあるが、それはごく一部の有名な冒険者に限ってであって、殆どは出身地に帰り、残りの余生を農家のように暮らしていくのが一般的だ。
それでも冒険者になりたい若者たちが後を絶たないのは、歴史に名を残すような発見や為した冒険者が多数いるからだ。
それが給与として安定的に入るというのは、冒険者のきつさを知っている者なら喉から手が出る程の好条件だ。
手を組めば何も考えず、ゲールノートの言う通りにしていればそれなりのお金が入って来る。
真田はゲールノートの提案と冒険者の現状を天秤にかけた上で、こう言った。
「嫌だね」
吐き捨てるかのような拒否にゲールノートは耳を疑った。
冒険者の実情を知った上で出した好条件がまさか拒否されるとは思ってもみなかったのだ。
真田はゲールノートを無視したまま続けた。
「安定した給金は魅力的だが、それ以上に俺は冒険者というものにやりがいを感じている。お前の野望に何ら興味が持てない程にな」
「言うじぇねか、ガキの分際で。後悔するぞ」
「ああ、するかもな。手を組まずに良かったという嬉しい後悔が」
ゲールノートが眉間に皺を寄せて睨めつけるが、真田はどこ吹く風と涼しい顔をしていた。
「さて、お前の用件は終わったな。今度は俺の用件を聞いてもらうぞ。‥‥‥オリエンス教会のシスターから巻き上げた、違法な利息分200万フラルを返して貰うぞ」
「な、何言っているか分からんな。あのシスターから取った利息は、帝国の法律によって認められたものだ」
「たかが1万フラルを2ヵ月半借りて、その利息が200万というのはあまりにも暴利だろ」
「そんなもの知らんな。それにそういう契約でいいとサインをしたのはシスターの方だ。それを儂らに責めるのは筋違いだ」
「それだとなにか。お前は正当な契約を結び、それによって発生した利息が高くなっても仕方が無いという訳か」
「ああ、そうだ」
一拍の間を置き、真田は露骨に盛大な溜め息を吐くと、ボソッと呟いた。
「利息制限法」
ゲールノートはビクッと身体が固まった。
真田は黒のジャンパーのポケットからメモ帳を取り出し、目的のページを開けた。
そして突きつけるかのように言い放った。
「とある貴族のバカ息子が遊ぶ金欲しさに高利金貸しから金を借りたものはいいが、返せなくなり親に泣きついて、その親の権限で成立させたという貴族の恥晒しの法律だ。まあ、表向きは民衆に増える多重債務者の救済となっているがな。‥‥‥とにかく、公民法の第3編の第2章の金銭を目的とした消費貸借上の契約の利率を規定した法律だ。貸金業をやっているお前が知らないとは言わせないぞ」
真田が寄り道してまでアヴェドギルトに行ったのはこの為であった。
フィルド帝国とその周辺諸国に根を張る巨大な組織だ。
当然、周囲との摩擦が起きるのは明白で、何か争い事が起きて互いの価値観をぶつけても解決する事は無い上に、下手をすれば組織の運営が出来なくなってしまうかもしれない。
その為、揉め事はその国の法律によって解決するだろうと真田は思ったのだ。
「(法律書自体がギルトにあるとは思ってみなかったが)」
真田はフィリスに聞いたが、元々はギルトで調べる事とは考えておらず、ギルトの顧問弁護士のような人物に聞くつもりだった。
「(やばいぞ、これは)」
ゲールノートは想定した事よりも大きく道をそれ出している事に、内心は霧雨のような細かい焦燥感が漂っていた。
まさか法律を持ってくるとは考えていなかったのだ。
冒険者はただの力押しだけで、たとえ不利になったとしても持ち前の話術を駆使すれば、上手くやり込めるという自信があったので、真田を呼んだのだ。
真田は知ってか知らぬかは定かでは無いが、畳み掛けるように更に続けた。
「その利息制限法には、貸金業者から借りた金額の大小に関わらず法定年利は10%と書いてある。お前がシスターに課した返済期間の2ヵ月間の利息は200万フラル。計算したら241.183%になったぞ。法定金利の24118倍だ。これを暴利と言わずに何と言うんだ」
「だからといって利息を返すのはおかしいだろ。利息が無かったら儂達はどうやって生活すればいい」
「阿保か。お前の所の金利が法定金利の24118倍という違法である以上、お前がシスターに課した金利が正当であるという主張は意味を為さない。よって利息の200万フラルはお前が不当に得たとして、公民法第3編第4章の不当利得返還請求の権利に基づいて、法定金利以外の利息を返還を要求する」
淡々と決まっている事務仕事をするかのような真田の言葉に、冷静に振る舞っていたゲールノートに些細な動揺が見て取れた。
ゲールノートが此処まで躍進できたのは、民衆や一部の貴族の法律に対する無知の部分が大きかった。ゲールノートの顧客は社会的弱者が殆どだった。
フィルド帝国の住人達にとって法律は、毎年徴収される税や兵役程度しか知らずに生きている。
実際には法律を知ったところで腹は膨れないというのが本音で、中々法律が認知されない要因となっていた。
その為、法律は一部の知識人しか知らないのが実情であった。
だからこそゲールノートは地方都市から帝都に店を構える事が出来たのだ。
その前提が崩された以上、ゲールノートの有利性は皆無となった。
ここでようやく理解した。
目の前のいる冒険者の少年は見た目どおりの存在では無い事を。
今のゲールノートに出来る事は、如何にしてこの状況を上手く切り出せるか考えを巡らせることだけだった。
真田は声色を少し和らげて、語り掛けるように言った。
「何、法定金利を差し引いた利息分を返して貰えればそれでいい。それさえしてくれれば、お前が違法金利で暴利を貪っている事を帝国に言うつもりは無い。全て俺の心の中に留めておく。どうだ、お前にとってそんなに悪い提案じゃないだろ」
ゲールノートは長椅子の背凭れに寄り掛かり、胸の前で腕を組んで考える仕草をした。
考えがまとまったのか、ゲールノートは前のめりになり静かに口を開いた。
「そうだな。ここはお前の提案に乗った方が賢明のようだな」
「では、法定金利10%、160フラルを差し引いた199万9840フラルを返すのだな」
「ああ、お前達。儂の部屋から199万9840フラルを持って来い」
ゲールノートの指示に男達は戸惑いを見せたが、真田がギロリと睨むと、脱兎の勢いでゲールノートの部屋へと向かった。
数分後、男達は1つの袋を持って来た。
真田はそれを受け取ると、机に中身を取り出すと、ジャラジャラと男達が見た事も無い大金が机の上に散らばった。
真田は確かめるように同じ硬貨同士を集めていた。
「アウム大金貨19枚、ソリン小金貨9枚、シング大銀貨9枚、エシュ小銀貨8枚、ペソー銅貨4枚。確かに法定金利を差し引いた199万9840フラルだな」
真田は机の上にある硬貨を全て袋に入れると、徐に立ち上がった。
ゲールノートを氷のように冷めた表情で見下ろし。
「これに懲りたらもう2度と暴利を貪るような真似をするな。今回は話し合いで終わらせたが、次は貴様が五体満足で明日を迎えられるとは限らんぞ」
真田はそう言い残すと外に出て行った。
数分後、真田がアリング商会の建物から完全に出た事をゲールノートは確認すると、
「くそっ! あのクソ生意気なガキめ。多少、法律を知ったぐらいで儂の商売を邪魔しおって」
忌々しそうに言うゲールノートの瞳の奥には憎悪の炎を滾らせていた。
ゲールノートから発せられる怒気にリーダー格の男はおずおずといった様子で。
「しかし本当に何者なんでしょうね。莫大な財産を持っていて法律を駆使してくるなんて」
「分からん。本当に貴族か大商人の息子かもしれんな。‥‥‥だが、これで明確になったあいつは儂の敵、ひいては金貸し業界に仇名す存在だな。あいつが居る以上、儂達の商売は成り立たなくなる可能性が大きいな。‥‥‥だから」
「だから?」
男の質問にゲールノートは勿体ぶったような口調で。
「あのガキを殺す」
そのシンプルな答えに男は戦慄を覚えた。
それ程までにあの冒険者を疎ましく思っているのかと。
金にならない事を一切しないゲールノートが金を払ってまで、あの冒険者の存在を消し去りたいという事に。
しかし男には一つの疑念があった。それは。
「それは誰が実行するのですか。‥‥‥言っては何ですが、俺達では」
「分かっている。1度敗れたお前達には期待しておらん。忘れたのか、ここ帝都には殺人、誘拐、窃盗等の犯罪を一手に引き受けるギルトがある事を」
「う、噂程度には」
「なら黙っておけ。大事な事だからな儂自ら交渉に行く」
ゲールノートは起きる出来事を想像し、清涼というものから大きく外れた、脂ぎった笑みを浮かべ。
「さあ、楽しい時間が始まるぞ」
作中に出て来た法律は日本の法律を参考にしています。
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