表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第2章 エルフの都市 サガム
14/65

第13話 2日目 採取 中編

 その後は特に問題と言う問題も起こらず、途中で簡単な昼食をはさんで、人海戦術で草食動物の雄のケルの角、木の実のエヅル、アケグミ、モリモモ等や野草のアタバ、ヒガオ、イワバコ等々を採取して、木の実は袋に入れたり、野草は短く切っているロープで括り、真田が背負っている竹籠の中に入れた。


 交易に使う木の実や野草を取っている内に森の中はどんどんと暗くなっていた。

野草を取っていたウィルソンは周囲を見回すと。


 「思いのほか時間がかかったな。‥‥‥おい皆! 今日はこれ位にして完全に暗くなる前に野営地に向かうぞ!」


 「「はーい!」」


 今やっている作業を中断して、ミーシャ達はウィルソンの元に集まり始めた。

真田もウィルソンに集まった。


 「よし、忘れ物はないな。では出発」


 ウィルソン達は暗くなっていく森の中を野営地に向けて歩いて行った。


 それから十数分後、真田達は開けた場所に出た。


 野営地の傍には綺麗な川が流れており、前の採取に来た人達が使った焚き火の痕跡が残っていた。


 「よし、今日は此処で一晩を明かす。ミーシャとルカは焚き火に使う枯れ枝を。残りの者は俺と一緒にテントの設営だ。森が完全に暗くなる前に全てを終わらすぞ」


 「「はっ!!」」


 ウィルソン達はキビキビとした機敏な動作で自分達の役割を果たそうとしていた。皆が動く中、どうしたものかとボーとしている真田にミーシャが近付いてきた。


 「サナダさん。こっちです」


 ミーシャは誘う様に手招きをして再び森の中に入っていった。


 真田もミーシャの後に続いた。


 森の中は暗くなってはいるが完全に見えなくなっている訳では無く、薄ボンヤリとだが前が見えていた。


 「皆が寝ている時に獣が寄ってこないように一晩中焚き火をしますから、出来るだけ多くの枯れ木を取りましょうね」


 「分かりました」


 頷いて真田が枯れ枝を取りに行こうとしたら、あっ!!と何か重大な事を思い出したかのような声をミーシャは上げた。


 何事かと真田はミーシャを見た。


 「すっかり言うのを忘れていました。‥‥‥サナダさん、出来るだけ私から離れないようにしてください」


 「どうしてですか」


 ミーシャは真田の疑問に答えるかのように、鎧の下からあるペンダントを取り出した。


 周囲は薄暗くハッキリとわからなかったが、そのペンダントは青の宝石に何か加工している訳では無く、装飾もされていない、磨いただけの青の宝石にチェーンを付けているだけのシンプルな物だった。


 「町の中ならどうもないですけど、外に出てからこのペンダントから一定以上の距離を離れると、サナダさんがかけている首輪『フォース・ファロウ』が自動的に絞まるようになっているんですよ」


 ミーシャの申し訳なさそうな言葉に真田は、サー!!と、血の気が引いた。


 野草や木の実を取っている時は真田は何度もミーシャからある程度距離を取っていた。今回は大人しく集団から離れずに真田は行動していたが、もしも欲を出して更に多くの木の実や野草を取ろうと離れでもしたら、訳も分からない内に首が絞まって、苦しみながら死んでもいたかもしれない。


 「オルセンさん、出来ればそのような重要な事はもう少し早く、出来れば出発する前に言ってほしかったですよ」


 「それは本当に申し訳ないです」


 「‥‥‥では外に出ている間はオルセンさんから離れないようにしないといけないのか」


 「ええ」


 ミーシャの申し訳なさそうな顔を見て、真田はニヤニヤと気味の悪い顔をしていた。


 「事故を防ぐ意味で、首が閉まらないようにオルセンさんにピッタリとくっつかないといけませんね。具体的に言うとぎこちながらもお互いの手と手を取り合い、最終的にはお互いの身体と身体が重なり合う‥‥‥」


 「わぁぁぁーーー!!!」


 真田の話を聞いている内に、ミーシャは薄暗い森の中でもハッキリと分かるぐらい顔を真っ赤にして、大声を上げてしまった。


 近くに居た枯れ枝を拾っていた女性が何事かと顔を向けたが、気付いたミーシャがしどろもどろになりながらも、何でもないと言ったので首を捻るも再び枯れ枝を拾い始めた。


 ミーシャは誰にも聞かれないように小声で言い始めた。


 「な、ななな何を言っているんですかサナダさん? そ、そそそそんな破廉恥な事は、こここ恋人同士でやるものですよ」


 「ん!? 背負ったりするのはエルフでは好きな者同士じゃないといけないんですか」


 「えっ!?」


 真田の一言にミーシャの表情が石像のように固まった。


 「ですから、移動の際はオルセンさんの走る速さと私の走る速さは違いがありますから、急ぐ時はどちらかの走る速さに合わせないといけませんから、最終的にはどちらかが片方を背負って行く事になるかもしれませんね」


 「えっ!? ‥‥‥じゃあ、ぎこちなく手と手を取り合うのは」


 「それは好きでもない同士ですからぎこちなくもなりますよ」


 「それでは、身体を重ね合うのは」


 「背負ったらどちらかの身体の上に乗りますから、身体が重なる事になりますよね」


 真田の常識を語るかのような言い草にミーシャは肩を落とした。


 「そ、そうですか。なんだそんな事か‥‥‥」


 ミーシャの納得したような、残念なような小さく呟いた独り言を真田は聞き逃さなかった。


 その表情はニヤニヤと意地の悪そうな表情をしていた。


 「へぇー、オルセンさんはどんな事を想像していたんですか」


 「ど、どんなって‥‥‥」


 ミーシャは自分が思い描いた桃色想像を思いだし、顔を再び真っ赤にした。


 自分の想像を打ち払うかのように顔を勢いよく横に振った。


 「そんな事を言うサナダさんは知りません。首輪が絞まって、窒息死すればいいんです」


 物騒な事を言いながら、まだ少し恥ずかしいのかミーシャは顔を赤らめて、枯れ枝を拾い始めた。


 「勘弁して下さいよ」


 苦笑みを浮かべて、枯れ枝を拾いながらミーシャに真田は許しを請うが、ミーシャは一度も真田と視線を合わせるようなことはしなかった。


 それは真田が意地悪な事を言っから怒っているのか、それとも自分が恥ずかしい想像した事を真田に悟られたくなかったのかはミーシャ自身も分からなかった。



 予想外の出来事があったが、森が完全に暗くなる前に必要量の枯れ枝を集めて、野営地で枯れ枝に火を点ける事が出来た。


 エルフの男性陣が作っていたテントは持ち運びが容易な簡易式の物だった。

それが2つあった。


 大きいのが男性用とそれよりも少し小さいのが女性用だ。


 ウィルソン達は傍の川から汲んだ水を持ってきた両手持ちの鉄鍋で温めて、少しの調味料を加えて、取ってきたアミサダケを一口サイズに剣で切り分けて、鉄鍋に入れると、即席のキノコスープが完成した。


 女性が木製の御玉(おたま)杓子(じゃくし)でアミサダケのキノコスープを持ってきた木製のスープ皿に注ぎ分けていた。


 ウィルソン達はキノコスープが入ったスープ皿に各自に行き渡ると、目を瞑って胸の前に手を組んだ。


 「我らの神アシュタロテ様。貴女様の加護の元で今日一日無事に過ごせて、食事が出来る事に感謝いたします。アーデン」


 『アーデン』


 ウィルソンが音頭を取り、続いてミーシャ達が同じ言葉を言うと、食堂から作って貰った携帯食を片手に食事を開始した。


 お世辞にも美味いものとは言えないが、少し寒い野外、温かいものを飲める事に嬉しそうて食べていた。


 真田はサガムを出発した時は手ぶらだった。ウィルソン達のように必要な道具は持ってきていないので、当然スープ皿を持ってきている訳が無いので、食事には参加できずに少し離れた所でウィルソン達が火を囲んで楽しく食事をしている姿を見ていた。


 「(ウィルソン達の姿と言っていた文言。あれは十字教での食事の前の祈りに似ているな。やはり異世界でも構成しているのは、似たり寄ったりな考えを持つ知的生命体なのだから、何処か似た部分が出てきてしまうのだろう)」


 そう結論づけると、真田は服が汚れるの気にせずに仰向けになった。


 無数にある宝石と見違う輝く星々が、夜空と言う宝石箱の中で燦然と輝いていた。


 「(星が綺麗だ。日本に居た頃は夜働いて、昼間は寝ていたからな。こんなに落ち着いて夜空を見上げたのは何年振りだろう)」


 ぼんやりと思い出に懐かしんでいると、近付く気配を感じた。


 真田が上体を起すと、目の前にミーシャが立っていた。その手にはキノコスープが入っているスープ皿を持っていた。


 「サナダさん。昼御飯も食べていないですよね。余りですけど宜しければこれを」


 座っている真田の前にスープ皿を静かに置いた。


 如何やら昼も夜も食べないでいる真田に持って来たらしい。


 真田がミーシャにお礼を言って、食事の前の言葉を述べた。


 約半日ぶりの食事に真田は直接少し温かいスープを飲んで、幸せそうな表情をした。


 表情そのままに、食後の言葉を述べると、ミーシャにお礼を言いながらスープ皿を返した。


 その姿をウィルソン達は訝しげな視線を送っていた。


 食事が終わり、野営地にのんびりした雰囲気が漂っていると。


 「みんな、注目してくれ」


 ウィルソンの言葉に野営地にいた皆の視線が集まった。


 「今日は採取お疲れ様だ。少々予定外の事があったが、皆の頑張りで交易で使う薬の材料になる木の実や野草の量が本来の予定より多く取れた」


 ウィルソンの言葉に真田は人知れず、苦笑を浮かべた。


 「(予定外の事ね。仲間の命が危機に瀕した事かそれとも私に弓を向けた事かね)」


 「明日はサガムに帰るが、皆には町に到着するまで気を抜かずに行動してほしい」


 ウィルソンの言葉に真田以外は黙って首肯した。


 「あとサナダ。猛獣が寄り付かないようにお前は寝ずの火の番をしろ。いいな」


 「はい」


 「明日は日の出と共に出発する。今日の疲れを残さないように休息を十分に取ってくれ。‥‥‥解散!!」


 その言葉と共に野営地にのんびりした雰囲気が再び漂った。


 ある者は弓や剣の手入れを、またある者は隣と雑談を始め、そしてまたある者は装備していた鎧を脱いで、傍の川で顔を洗ったりして寝る準備をしていた。


 「ライ、ミーシャ。ちょっと来てくれ」


 ウィルソンに言われた2人は首を傾げながらも近付いた。


 「「なんですか」」


 ウィルソンは聞かれないように小声で。


 「お前達2人で火の番を兼ねてサナダの監視をしてくれないか」


 「分かりました」


 と、ミーシャは何ともないように答えた。


 「‥‥‥分かりました」


 ライは渋々といった表情で答えた。余程罪人である真田と居るのが嫌らしい。


 「よし。もしサナダがおかしな真似をしようとしたら、すぐに問答無用に魔法を叩き込んでいい。俺が許可をする」


 聞いたライは満面の笑みを浮かべた。


 一方、ミーシャは。


 「(サナダさんはそんな事をするのかしら)」


 と、ウィルソンの言葉に疑問も持ったが、言うと不審がられると思い、おくびにも出さなかった。


 「じゃ、頼むな2人共」


 ウィルソンの言葉に真剣な表情で首を縦に動かした。


 

 夜行性の鳥が鳴きウィルソン達が寝静まった頃、真田は獣が野営地に近付いてこないように火を絶やさないように焚き火の前にいた。


 パチパチと、真田達が拾ってきた枯れ枝が燃え盛り、限定的だが周囲を照らし、獣を近寄らせないでいた。


 「(どうしたものか)」


 真田は自分が陥っている事態に内心溜め息を付かぜる得なかった。


 朝食がスープと果実だけで、その後一日中昼御飯もなしに歩かせられたり、晩御飯がスープ一杯だけで、ウィルソンから不眠で火の番をしろという事態では無かった。


 別に真田にとってこれくらいの事はどうもなかった。


 過去には2日間不眠不休で歩き続けた事もあったり、四方八方敵だらけの孤立無

援の中で逃げ延びた事もあった。今以上の事態は嫌というほど経験して来た。

 

 ではなぜそんな真田が溜め息を付かざる得なかったのか。


 それは焚き火を挟んで真田の斜め左に居る人物に原因があった。


 ライであった。


 ウィルソンから火の番と真田の監視役を任されたライは、ミーシャに先にするからと焚き火の前に座ると途端に真田に嫌悪の視線を送っていた。


 最初は真田も別に気にしていないというスタンスで、無視をしていたが、普通ならば直ぐに視線の色を変えるものだが、ことライにいったては最初から視線の色を変えずに、真田に送り続けていた。


 流石に30分間もライの嫌悪の視線にされされた真田は耐え切れなかったのか。精神的な安息を得ようと、現状を打破しようと真田はライに話しかけようとしたが、絶対零度に匹敵するような視線と「黙れ。話しかけるな。というか死ね」と、どこぞの業界の人達には御褒美のような罵倒が飛んできた。


 頑なライの態度に取り付く島もなく、精神的な安息が得られず、このままずっと嫌悪の視線に晒さられるのかと思った真田は、内心溜め息を付かざる得なかった。



 真田が火の番を始めて夜は更に深けた。


 焚き火が燃える音、傍の川の流れる音、風が通り過ぎる音、ホホクロウの鳴き声が鳴り響く野営地では真田とライが向かい合って火を絶やさないように番をしていた。


 最初真田に嫌悪の視線を送っていたライは、今も嫌悪の視線を続けていた。


 「(彼は凄い情念を持った者だ。焚き火に使用した枯れ枝を消費量を見ても、何時間も経っているのは明白だ。何時間も1つの思いを維持し続けるのは並大抵の事でない)」


 真田はライの態度に舌を巻いていた。一応今は罪人として真田はサガムに居るてある程度の数のエルフに出会ったが、最初は皆ライと同様に真田には嫌悪や侮蔑と言った感情をぶつけていたが、それも少ししたら違う形になっていた。


 それがライは何時間も続けていた。


 「(しかし、勿体無いな。その強さを違う事に使えばいいのに)」


 真田は他人事ながら肩を落とした。


 少し時間が経つとライは徐に立ち上がり、真田を見つめていた。


 その視線には今まで変わらない嫌悪の感情が孕まれていた。


 「サナダ、ひとつ言っておく。‥‥‥ミーシャから優しくされたからといって勘違いするなよ。彼女は誰にでも優しいから、お前が罪人でも施しを施しをするんだ。そこには他意はない」


 言うだけ言ってライはテントの方に向かった。


 言われた真田は最初は呆気に取られたが、徐々にライの意図に気が付いた。


 ライは真田に嫉妬していたのだ。晩御飯を食べずに寝転んでいる真田にミーシャは良かれと思って、晩御飯であるスープを真田に渡した。その姿を見てライは好きなミーシャが他の男、しかも罪人である真田に近付いたので気が気でなかった。

 

 ミーシャにライは真田に晩御飯を持って行かなくていいと言いたかったのだが、ミーシャの性格を知っているライは言うと自分が嫌われるのではないかと思い、泥水を飲む覚悟で言葉を飲み込んだ。


 真田はテントに向かうライの後ろ姿を、子供を見るような親のように微笑ましく見ていた。


 「(なんだそんな事か。彼にとってはそんな事では無いけども、大丈夫だ。そんな事には一切ならない)」


 言っても聞いてくれないだろうと思い真田は心の中でそう呟いた。


 ライは女性用のテントに上半身を入れると、少しすると出て来た。


 隣の男性の少し大きいテントに入る前にライは真田に向かってギンッ!!と睨んでテントの中に入って行った。


 余計な事はするなよ、と釘を刺したらしい。


 ライと入れ替わりにミーシャがテントから出て来た。


 昼間着けていた鎧を着ておらず、普段着なのだろうか薄緑色の麻の服を着ていた。


 頭を左右に動かしながら、歩行も何処か覚束なくまだ眠たそうに欠伸をし、瞼が半開きの状態で焚き火の方に向かっていた。


 「あー、サナダさんだー。おはようございますー」


 「おはよう。まだ真夜中だけどな」


 寝ぼけながら挨拶をするミーシャに真田は苦笑を浮かべた。


 焚き火の前に胡坐をかいて座るミーシャだが、座った事に安心したのかミーシャの意識は睡眠へと移行しようと、頭をこっくりこっくりと上下に動かしていた。


 何度か任務遂行への思いが睡眠に抗って頭を持ち上げるが、直ぐ様眠ろうと横になろうと、地面に衝突しそうになったが、何とか抗って頭を上へと持ち上げらせた。


 ミーシャの行動を見ていた真田はエルフ鹿威しだなと、口に手を当てて忍び笑いをしていた。


 何度か繰り返している内にとうとう睡眠に抗えなくなったのか、ミーシャは頭を上に持ち上げる事が出来ずに、あわや地面に衝突しそうになったが、真田が左腕一本でミーシャの身体を支え、激突は免れた。


 免れた事で安堵をした真田は左腕はそのままでミーシャの上体を起した。


 余程睡眠が深いのか真田が触れている事に気付かずに、スゥスゥと規則正しい寝息を立てていた。


 「(にしても気持ちよさそうに寝ているな。起こすのも不憫だから、このまま寝かしてやるか)」


 真田はミーシャを起さないようにゆっくりと地面に寝かせた。


 そこには年相応のあどけない少女の寝顔があった。


 真田はミーシャの寝顔を見て、クスリと軽く笑った。


 「(これでいいのだろう)」


 真田は自分を見ているものにそう内心呟いて、元の定位置に座った。


 後方のテントの出入り口の隙間からライが真田を監視をしていたのだ。


 ライは寝ようとテントの中には入った後、真田がミーシャに対して何かしないのか見張っていた。ミーシャが地面に激突しかけた時は、思わず飛び出そうとしたが、すんでの所で真田がミーシャの身体を支えたのでそのまま監視を継続した。真田がミーシャを寝かせるまで行動を一挙一動、視線が物質化していたら穴が開くぐらいに監視をしていた。


 真田がミーシャから離れた事に安心したのか、ライの瞼が重くなってきた。


 ライは寝ずの監視を続けようと睡魔に抗うが、抵抗空しく睡眠状態に入って行った。


 真田以外全員が睡眠状態に入った事で周囲の目を気にする事が無くなったので、真田は肩の力を抜いた。


 「(一日中演技をするのは疲れる。目的のためとはいえ、慣れない事はあまりするもんじゃないな)」


 こわ張った身体を解そうと、真田は焚き火の前で軽いストレッチを始めた。

夜明けまであと数時間となっていた。



 真田は自分から見て左の空が白みがかっているのが見えた。


 「(太陽はあそこから昇ってくるのか。この惑星が地球と同じ公転自転の回転方向だと仮定すると。あそこが東、真正面が南で、右が西。そんでもって真後ろが北となるのか)」


 立ち上げると焚き火の前で寝そべっているミーシャを起こそうと近付いた。


 真田はミーシャの肩を揺らした。


 「オルセンさん、朝ですよ起きてください」


 呼びかけるもミーシャは嫌そうに真田の手を振り払った。


 「オルセンさん、朝ですよ寝ていたら怒られますよ」


 今度は強く肩を揺さぶった。


 ミーシャは「んーー」と、煩わしいそうに真田の手を振り払った。


 何度も繰り返している内に、ミーシャは上体を起こした。


 「もうなんですかー、せっかく気持ちよく寝ていたのに起こすなんて」


 その表情は瞼は半分しか開いておらず、眠たそうに瞼を擦っていた。


 「おはようございます。オルセンさん」


 「‥‥‥おはようございます。‥‥‥サナダさんもう朝ですか」


 「ええ。もうすぐ日が昇りますから、他の人達が起きてくる前に川で顔を洗うと良いですよ」


 ミーシャは素直に首肯して、寝ぼけながら立ち上がって、のそのそと川の傍まで行くと顔を洗い始めた。


 冷たい川の水を何度も被ると、寝ぼけていた意識が覚醒したのか、先程までとは違い、しっかりとした視線で前を見ていた。


 しっかりとした歩行で焚き火の前に胡坐をかいて座った。


 今は特にする事の無い真田とミーシャはただ焚き火を見ていた。


 2人の間にはのんびりした雰囲気が漂っていた。


 少しするとテントの方からゴソゴソと物音が聞こえて来た。


 ミーシャがテントの方を向くと、中からウィルソンとライが出て来た。


 ラフな格好に眠たそうに頭を掻いていたが、その手には布を持っていた。


 「おはようございます」


 「「おはよう」」


 ミーシャの言葉にウィルソンとライは寝たそうに答えた。


 川に近付くとウィルソンとライは顔を洗い始めた。


 それを皮切りに時間差はあるが続々と他の人達もテントの中から出て来た。


 皆一様に火の番をしていたミーシャには声をかけるが、同じ火の番をしていた真田には視線を合わせようともしなかった。



 もうすぐ地平線から太陽が出る頃になると、ミーシャ達は焚き火を囲んで朝食をしていた。


 朝食は昨晩と同様の保存食と温かいキノコスープだった。


 食前の祈りを済ませると黙々と朝食を平らげていた。


 真田は昨晩と同様にミーシャ達の姿を少し離れた場所で見ていて、食事が終わったミーシャが真田の食事にとスープを持って来た。


 真田は礼を言って受け取ると、何時ものように食前の言葉を言って、スープを飲み干して、食後の言葉を言って、ミーシャに皿を渡した。


 その姿をウィルソン達は訝しそうに、ライは忌々しそうに見ていた。



 食後ののんびりとした余韻が漂う中、ミーシャ達は後片付けをしていた。


 森に引火しないように焚き火は消され、就寝に使ったテントは男性陣によって小さく纏まられて、鞄に直した。使った食器や鍋は川で簡単に洗って、布で拭いた。


 真田は動いているミーシャ達の邪魔にならないように近くの樹木に寄り掛かってミーシャの行動を見ていた。


 そうこうしている内に野営地に残っているのは焚き火の燃えカスだけになった。

ウィルソンは野営地に物が残っていないか確認を終えると、


 「今日はサガムへ帰還だが、町に到着するまで皆には緊張感を持って行動してもらいたい。‥‥‥では、出発する」


 ウィルソンは引っ張るかのように歩を進めた。


 ミーシャ達もその後に続き、真田も続いた。



 カドモニアの森を歩く事、数時間。異変に気付いたのは真田だった。


 『それ』は何かを探しているようで、真田の索敵範囲を行ったり来たり行ったり来たりを繰り返していた。


 真田も最初はミーシャ達に気付かれないように警戒をしていたが、一向に近付いてこないので警戒の度合いを徐々に下げていた。


 餌を探して森の中をウロウロとしていたと思われていた『それ』が急に立ち止った。


 真田は餌でも見つかったのかと思ったが、動き始めた。


 真田達に向かって一直線に。


 その事に真田はただの偶然だと思い歩いていたが、『それ』は真田達の進行方向に修正しながら、だんだんと距離を詰めていた。


 ようやく真田は自分達を狙っていると理解した。


 同時にある判断に迷っていた。


 「(如何する。この感覚はサーベルベアーと同じ魔獣の類。それが近付いて来ている事を言うべきか、それとも言わざるべきか)」


 本来なら言うべきだと真田は十分に理解していた。同行している者達に危機を伝えるのは当たり前だと。危機を事前に察知出来るか出来ないでは、生存率に明確な差が出て来ると。


 だが、真田は言う事が出来なかった。


 根底にあるお互いの不信感が阻害していた。。


 近付いてくる『それ』に対して素知らぬふりをする事にした。


 真田は、もし仮に途中でミーシャ達が気付けば、それに合わせて行動をする事にした。そして気付かなかったときは‥‥‥。



 近付いて来る『それ』が更に真田達に近付いて来た時、ウィルソンは急に立ち止った。


 それにつられて、後続のミーシャ達も立ち止った。


 後続のミーシャ達は立ち止ったウィルソンに怪訝な視線を向けてた。


 「(なんだこの禍々しい瘴気は。‥‥‥まさか魔獣がこの近くに居るのか!?)」


 ウィルソンは気にしている場合ではないと、何か忙しなく周囲を気にしているように見えた。


 ウィルソンの様子に戸惑っていたが、ミーシャ達は迫りくるただならぬ気配に敏感に感じ取ったのか、困惑した表情が広がっていた。


 ウィルソンは禍々しい気配の主を探ろうと、気配を感じる方へと目を凝らした。

次の瞬間、ウィルソンは目を丸くした。


 それは、決して会ってはいけないものを見てしまったからだ。


 驚きが苛立ちへと変わるのに時間はかからなかった。


 「(何で此処にアイツが居るんだよ。アイツの縄張りはもう少し西の方だろ!?‥‥‥もしかして何らかの原因で縄張りに変化が起きたのか)」


 ウィルソンは吐き捨てるかのように、短く呟いた。


 「カヌスウルフめが」


 カヌスウルフ。全身を灰色で覆われており、黒き瞳。スラリとした前後ろ足には鉄の鎧を紙のように切り裂く鋭い爪。獲物の肉を簡単に引き千切る牙。サーベルベアーと同様に魔獣に属している。最大で5mもある、狼系の大型の魔獣である。


 森に住むエルフ達からはサーベルベアーと同程度の脅威として認識されている。

またサーベルベアーとは違い、一度標的にと決めた獲物には力尽きるまで永遠に食らいついてくる厄介者とされている。


 「(非常に厄介だな。このメンバーでも、カヌスウルフを倒せない事は無いが多くの怪我人、犠牲者が出てしまう。最悪全滅するかもしれないな)」


 最悪のケースを浮かべてウィルソンの表情は険しいものとなった。


 「(仲間から犠牲者を出さないで、採取した薬草や木の実を無事に町に届けるにはどうすれば)」


 ウィルソンは腕を組んで唸っていた。


 カヌスウルフが徐々に近づいてくる中、ウィルソンの脳裏にはある考えが浮かんで、名案とばかりに表情が明るくなった。


 「(これだ! この方法でやれば、仲間達からの犠牲は無くなるかもしれない)」


 ウィルソンは思いついた方法を実行させようとミーシャ達を集めた。その中には何故か真田の姿もあった。

誤字脱字がありましたら、御指摘宜しくお願いします。

感想も随時募集中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ