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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第2章 エルフの都市 サガム
13/65

第12話 2日目 採取 前篇

あけましておめでとうございます。

今年も作者及び真田拓人共々は、『クアットゥオル・シーズン』を盛り上げていきますので、何卒宜しくお願いします。

 太陽が地平線から顔を出して、ある者達に意識の覚醒を促し、またある者達に眠りへと誘っている頃。

 

 『ノーシェ・バッカス』で亜空間から取り出したポリエステル製のマミー型の寝袋に包まって睡眠を取っていた真田はふと自分に近付く気配を感じた。


 牢屋がある区画に近付いてくるのは神樹の巫女の護衛部隊隊長ジェラルド=クルーニー、その人だった。


 真田は意識の覚醒を促すと同時に疑問が浮かんできた。


 何故護衛部隊の隊長であるジェラルドが牢屋に来ようとしているのだろうと。


 「(おかしい。彼の職務は巫女の護衛。牢屋に来る事は無いと思うのだが、此方に近付く気配も彼一人しか感じれないから、新たな罪人でも連れてきているというわけでもないな)」


 現状での疑問の答えを探ろうとしたが、直ぐにそれを放棄した。


 「(駄目だ。まだ脳が完全に活動出来ていない。これじゃ出したとしても碌でもないものになるな。‥‥‥まぁ彼なら突拍子な事はしないだろう)」


 結局根拠の無い行き当たりばったりな結論をつけると真田は着ていた寝袋から出ると、外気の氷を触っているかのような寒さに思わず身震いをした。


 「(寒いな。こんなことなら長袖を着ておけば良かった)」


 寒さを我慢して『ノーシェ・バッカス』を発動させ、寝袋と下敷きを亜空間に収納し、真田はまだ少し寝ぼけている頭を掻きながら、奥の木の壁に背中をよっかかった。


 冷たい外気に冷やされた木の壁と床から伝わる冷たさに、薄いTシャツやジーンズでは遮断できるはずも無く冷たさが伝わってきたが、真田はこれといって何かしようという訳では無く、ただ暇人のように口を開けてボケっとしていた。


 真田がボーッとしている内に区画と区画を分ける木の扉が開き、そこからジェラルドが出て来た。


 ジェラルドは牢屋の奥で座っている真田を見ると、信じられない物を見るかのように驚いた表情をしていた。


 「む。起きていたか。てっきり寝ているのかと」


 「ああジェラルド隊長、おはようございます。何か御用ですか」


 「用という用ではないが、君は罪人であると同時に巫女様の命の恩人であるからな。どうなっているのか気になってな」


 「そうですか。夜が寒いので、大きな布を何枚か追加して下さると非常に助かるんですが」


 ジェラルドはその太い腕を組んで、真田が寒そうに腕を摩っている姿を見て。


 「分かった。それぐらいなら私の権限でどうにかしよう」


 「そうですか、ありがとうございます。これで夜が暖かくして眠れます」


 真田とジェラルドが話していると1人の少女が牢屋がある区画に入って来た。


 ジェラルドは入って来た少女を見て、目を丸くした。


 少女もジェラルドを見て、同じように目を丸くしていた。


 「オルセンじゃないか、どうしたんだ?」


 「あ! ジェラルド隊長。これはその‥‥‥」


 ミーシャは出会っていけなない時に会ってはいけない人物に会ったかのような、なにかばつの悪そうな顔をしていた。


 ジェラルドはそんなミーシャの態度に怪訝な視線を送り、ふと視線を下げるとその両手には朝食に出たスープと緑色の果実が乗った木のトレイを持っていた。


 「うん? それはコイツの食事か。‥‥‥でも確か食事運びは別の奴がやる予定だったはずだが」


 「ですから、それはですね‥‥‥」


 何か言いたげそうなミーシャの表情から何か察したのか、首を横に振った。


 「分かった。ミーシャ皆まで言わなくいい。この件に関しては私から言っておく」


 「はぁ、分かりました」


 深く一礼をしたミーシャを見て、ジェラルドはニヤリと悪だくみを考えているような表情をした。


 「‥‥‥この状況、考えによっては好都合かもしれないな」


 「何か?」


 ジェラルドのボソッと誰にも聞こえないような小声の呟きに、ミーシャは訝しんだ。


 「いや何でもない。それよりも真田に食事を」


 「は、はい!」


 ジェラルドに促されてミーシャは慌てて、真田が収監されている牢屋に食事を入れた。


 ゆっくりとした動作で腰を上げて、真田は入れられた食事の前に胡坐をかいて座った。


 真田は鉄格子を挟んで通路に中腰で座っているミーシャの顔を見て。


 「君はミーシャというのか。なら改めて初めましてだな。私は真田拓人。3ヶ月という短い期間だがよろしく頼むよ」


 何の脈絡なしにいきなり始まった真田の軽い自己紹介にミーシャは少しの間きょとんとした顔だったが、真田の無邪気な表情とは違いややぎこちない表情だった。


 「ええ、そうですね。初めましてというの少し変ですけど、私はミーシャ=オルセンです。よろしくお願いします」


 「よろしく。‥‥‥では『いただきます』」


 真田はミーシャに向かって軽く一礼をして、両手を胸の前に合わせて、日本式の

食事の前の言葉を言って、朝食を始めた。


 木のトレイには嫌がらせなのか今回もスプーンが無かったので、スープ皿を直接両手で持って、直接口につけてスープを飲み干した。


 スープ皿を木のトレイに置いて、横にある緑の果実を手に取って真田は躊躇する事無く、皮ごと思いっ切り齧り付いた。


 水分を大量に含んだ瑞々しい果肉が真田の喉を身体を温めるスープとは違った喉の渇きを癒ていた。


 真田の食事風景をミーシャとジェラルドは珍しい動物を見るような視線で見ていた。


 緑の果実を芯以外食べ終わるとスープ皿に載せて、真田は両手を胸の前に合わせた。


 「ごちそうさまでした」


 食事の終わりの言葉を言って、木のトレイを通路に出した。


 出された木のトレイをミーシャは手に取って、食堂へと持って行こうと歩き始めた。


 区画と区画を遮る木の扉の所でミーシャは立ち止り、真田の方を振り返ると、


 「‥‥‥ではまた。サナダさん」


 意味深な言葉を残して、軽く一礼をして再び食堂の方へと歩き始めた。


 突然のミーシャの言葉に真田は呆気に取られた。


 少し間が空いた後、ジェラルドのゴホンッ!!とワザとらしい咳払いで真田の意識は戻ってきた。


 ジェラルドは徐にポケットに手を突っ込むと、そこから鍵を取り出すと、真田が入っている牢の錠前に鍵を差し込んで、鍵を左に回すとガチャリッ!!と噛み合っていたものが外れる音がした。


 ジェラルドは鉄格子の扉を開けた。


 「出るんだ」


 促すように短く言われると、真田は牢の外に出た。


 首輪をかけられているとはいえ、牢から出られた事への解放感からか真田は強張った背筋を伸ばすように背伸びをした。


 ジェラルドはそんな真田を淡々とした表情で見ていた。


 「今日お前にやってもらう仕事の現場に連れて行く。そこで監視する者と合流する予定だ」


「はーい」


 真田はどうにも締まりの無い気の抜けた返事をした。


 そんな態度に何かいう訳では無く、ジェラルドは無言で先に歩き始めた。


 真田は可笑しそうに口元を吊り上げて、ジェラルドの後をついて行った。



 

 真田が連れて来られたのはサガムの入口だった。


 まだ日が差して間もなく朝早いのかサガムの道には人は疎らだったが、住居からは話し声や朝食の美味しそうな匂いがそこらじゅうから漂っていた。

 

 寒々しい風が真田の身体に当たり、寒さに歯をガチガチと鳴らして、暖かさを求めて腕を摩っていた。


 「で、何をやるんですか。まさか門番をやれとは言いませんよね。もしそうだったらあなた達の神経を本気で疑いますよ」


 「それはまず無いから安心しろ。今回は素材を取ってきてもらう事になっている」


 「素材?」


 曖昧な表現に真田はどんな物かと尋ねようとしたが。


 「‥‥‥如何やら来たみたいだな」


 ジェラルドが振り返ると、真田もつられて振り返った。


 そこには6人の男女が立っていた。


 背は一番高い人は真田の頭2つ分高く、一番低い人は真田の目の高さだった。


 6人共茶色の髪で茶色の瞳をしていた。ジュードの鎧と同じような鎧を着ていていたが、色だけは違い緑色をしていた。手には弓が握られていた。


 真田は目の前に立っている一番背が低い人物に心当たりがあった。


 非常に。


 物凄く。


 ここで心当たりが無かったら、記憶障害を起こしている事を確信を持って言える程に心当たりがあった。


 「また会いましたね。サナダさん」


 片手を翳して小さく笑っているのは食事を持ってきているミーシャ=オルセンだった。


 何故かその手には竹で編まれた子供がすっぽりと入る程の大きさの籠を持っていた。


 ミーシャが真田に食事を持って行くは知っているのか、他の面々は特に反応は無かったが。ミーシャ以外の人は軽蔑するような視線を真田に送っていた。


 「ああそうですね。オルセンさん」


 真田は口元をピクピクとさせて返事をする精一杯だった。


 「さて、君には先程言った通り、彼等と同行して素材を取ってきてもらう」


 「その素材って何ですか? ‥‥‥部外者の私が同行するぐらいですからそんなに重要な物ではない事ぐらいは分かりますが」


 「いや、そんな事はないぞ。これから取りに行くのは交易で必要な物ばかりだ」


 真田はジェラルドの『交易』の言葉に一瞬反応したが、だがそれはすぐに表情の奥に引っ込んだ。


 「素材の詳細についてはウィルソンに聞いてくれ。‥‥‥森の中は危険な猛獣や魔獣がうろうろしている。一応だがお前に護身用の剣を渡しておく」


 ジェラルドが真田に渡したのは一般的な武器屋に格安で売っているような、柄の部分や刃の長さが標準的な長さの、紐付きの木の鞘に収まっている鉄の両手剣だった。


 「(このタイプの剣を持つのは、幾年ぶりなのだろう)」


 真田は感慨深げに鉄剣を見ていた。


 「すいません。手に馴染ませるのに軽く素振りをしてもいいですか」


 「ああ、それぐらいならいいぞ」


 ジェラルドの了解を得て、真田は剣を振り回しても当たらない少し離れた場所に移動すると、木の鞘から鉄剣を抜いた。


 鉄剣の刃は使い込まれていて、碌に手入れもしておらず少し欠けている所があった。


 その鉄剣の刃を見て、こんなものかと真田は苦笑をした。


 真田は両手で鉄剣を持つと、真剣な表情をして剣の素振りを始めた。


 鉄剣を動かす度にビュッン!!ビュッン!!と空を切る音が鳴った。


 真田は鉄剣の重心が何処に在るのか確認しながら、ワザと抜けた形で鉄剣を上下に動かす素振りをしていた。

 

 「(警戒されないように素人に毛が生えた程度の形での素振りだが意外と難しいな)」

 

 外見上は簡単な素振りだが、真田は思いのほか苦戦していた。人間は癖がある動物だ。幼少の頃、右手で字を書くように教え込まれて、それを長年実践していると、脳に物に字を書く時は右手で書くという刷り込みされて、物に字を書く時は無意識に右手で書いてしまう。だから普段右手で書いている人が急に左手で書くと同じ人が書いたと思えない程に字が崩れてしまう。


 長年やってきた手段を急に違う手段へとしようとすると、どうしても何処かぎこちない動きが出てしまう。そのぎこちなさを悟られないように隠すのに真田は手間取っていた。

 

 何度か動かすと何処に重心があるのか掴めたのか、真田は鉄剣を木の鞘に戻し、ジェラルド達の方へ戻った。


 「もういいのか」


 「はい。お待たせしまして、すみません」


 「‥‥‥そうか。なら今からはウィルソンの判断に従ってくれ。‥‥‥ウィルソン、後を頼むな」


 ジェラルドからウィルソンと呼ばれた一番背が高い男性は首肯した。


 「じゃ、頑張れよ」


 ジェラルドは真田の肩にポンッ!!と手で軽く触って、神殿の方へ向かった。


 「さて、サナダだったな」


 口を開いたのはウィルソンだった。その口調には軽蔑の色が含まれていた。


 「これから俺達は交易にで使う物を取ってくる事が今回の任務だ。‥‥‥言っておくが、お前が足手まといになるようだったら、その場に置いて行くからな。そのつもりでいろ」


 真田の顔に近づけて眉間にしわを寄せて、厳しい口調でのウィルソンの警告に、


 何ともないように無表情で真田はただ黙って顔を上下に動かした。


 態度が気に入らなかったのか、ふんっ!!と口を鳴らして、ウィルソンは他のメンバーの方を向いた。


 「これから予定通りに森での素材集めをする。忘れ物とかをするようなドジな奴は居ないな」


 ウィルソンの確認の言葉に、ミーシャを始めとする他の面々は「はい!」と大きな声で返事をした。


 「よろしい。では出発する!」


 ウィルソンの号令を皮切りに、ミーシャ達は出発した。


 真田は列の一番手前から数歩先で歩かせられていた。


 

 

 サガムから出発して数十分後、木々を搔き分けてウィルソン一行が到着したのは、湿り気のある鬱蒼とし、落ち葉が散乱とした所だった。

 サナダこっちに来い」


 ウィルソンに呼ばれて真田は近くに駆け寄ると、ウィルソンは樹木の根元の部分に指で指していた。


 真田がその方を見ると、其処には傘の部分が平べったい、黄色の茸が大小数本生えていた。


 「それはアミサダケだ。ここら辺はアミサダケの群生地だ」


 ウィルソンが言った通りに、周囲の木々の根元にはアミサダケが多数生えていた。


 「お前がダケを採取して、背中に背負っている籠に入れるんだ。いいな」


 真田はコクリと静かに顔を縦に動かし、木の根元に屈んだ。


 「(取るとしたら大きい方がいいだろう。私は彼等とは関係が無いとはいえ、根こそぎ取るのも気が引けるしな)」


 比較的大きいアミサダケを引き千切らないように、根元の部分を手に持ち引っ張り上げ、真田は僅かな抵抗感を感じたが、柄が引き千切れる事無くアミサダケを綺麗に取れた。


 真田は背中に背負っている竹籠の中にアミサダケを入れると、同じ木の根元に生えている他のアミサダケを同様に取り、竹籠の中に入れた。


 比較的大きいアミサダケを取りつくすと、真田は他の木々の根元に生えているアミサダケを取りに立ち上がり移動を始めた。


 それから十数分後、真田は確認できる範囲での比較的大きなアミサダケを取り尽くして、仕事をしているか真田を監視をしているウィルソン一行の所に戻ろうと、

立ち上がろうとしたが急に彫刻のように固まった。


 ウィルソン達は中々立ち上がろうとしない真田に訝しげな視線を送っていた。


 それから数瞬後、真田は腰に下げていた鉄剣を右手で木の鞘から抜き取ると同時

にその場でターンをして、槍投げの選手のように、鉄剣をミーシャが居る方に真っ直ぐに投げつけた。


 真田から投げられた鉄剣はミーシャに当たる事無く、後ろの樹に刺さった。


 木に当たった威力が凄かったのか、鉄剣は木に深々く刺さり、ビィィン!!と小刻みに揺れていた。


 ウィルソン達は一瞬何が起きたのか、理解が出来なかった。


 理解出来たと言えば物凄い速さで、真田が自分達に何かを投げつけたという事だけだった。


 真田の右手を下ろした物を投げ終わった格好、腰に下げている鉄剣が木の鞘に収まっていない状態を見て、ようやく真田が鉄剣を投げたのだと理解できた。


 理解が出来ると同時に投げつけられたと思っているウィルソン達は怒りを覚えた。


 「とうとう本性を現したなぁ! サナダァァーー!!」


 大声を出してはいけない森の中にいる事を忘れて、ウィルソンは烈火の如く怒りのままに大声を出し、肩にかけていた長弓を外して、背中に背負っていた木筒から弓矢を取り出し、弦を引くと同時に弓矢を真田に向けた。


 他のエルフもウィルソンと同様に肩から長弓を外して、弓矢を真田に向けていた。


 真田は弓矢を向けらているにもかかわらず、ウィルソン達の肩から弓を外して、自分に弓矢を向けるまでの一連の動作に感嘆していた。


 「(流石エルフだな。怒りの状態でも、標的に弓を構えるまでの動作が素早く行えるとは)」


 ちょっとした音で暴発しそうな一触即発の状態でも真田は笑みを浮かべる余裕を見せていた。


 ウィルソンは笑みを浮かべる真田に違和感を覚えた。


 「(何だ? アイツは怖くないのか、自分が置かれているのは生死を分ける極限の状況なのに。それともこの状況をひっくり返せる秘策でも持っているのか)」


 ウィルソンは自分の考えを捨てるかのように首を横に振った。


 「(だが秘策を持っていようが関係ない。今ここでアイツの生命を終わらせる、この俺の手で!!)」


 並々ならない決意を持ってウィルソンは真田に向けている弓の弦を引く力を更に込めた。


 他のエルフ達もそれは同様だった。


 笑みを浮かべる真田がウィルソン達によって弓矢で生命が終わるかと思われた瞬間。


 「キャァァァーーー!!!」と何かを引き裂くような悲鳴が周囲に鳴り響いた。


 驚いたウィルソン達は反射的に振り向くと、そこには顔を青白くしたミーシャが居た。


 先程ミーシャはウィルソン達のように真田に弓を向ける事無く、自分の顔の真横を高速で通り過ぎた物を確認しようと、ギギギと壊れた機械を動かすようにゆっくりとした動作で首を飛んで行った方を見て、大人の腕を二回り大きくした大蛇が刺さっているのを見て思わず悲鳴を上げた。


 ウィルソン達はミーシャの視線の先を見て、愕然とした。


 「あ、あれはアロコンダ」


 真田の投げた鉄剣が灰色の大蛇に刺さっていた。


 アロコンダ。大きい物では6mまで成長し、全身が濃ゆい灰色をした大蛇だ。獰猛で鋭い牙には猛毒があり、噛まれてから1分以内に死に至る。普段は中型動物を食べているが、偶に森に迷い込んだ人間の子供を食べる事もある。


 アロコンダは自分の胴体に刺さった鉄剣を取ろうと、全身を使ってもがくが、更に傷口を広めて赤い血が小雨のような樹皮に流していた。


 愕然とするウィルソン達を見て、真田は深い溜め息を付いた。


 「やっぱり気付いて無かったんですね」


 「どういう事だ」


 「どうもこうも無いですよ。その巨大な蛇がオルセンさんに噛みつこうとしたから、それを阻止しようと剣を投げ飛ばしたんですよ」


 「な、ならいきなり剣を投げ飛ばさなくても、言葉で言えば」


 ミーシャの他に同行していた女性のエルフの言葉に。


 「信じましたか」


 真田の短くはっきりとした言葉にミーシャ以外は息を呑んだ。


 「私は言葉で危ないからそこから離れてと、注意を促しても良かったのですが、貴方達は私の言葉をすんなりと信じましたか。だから私は急を要する事態だったので剣を投げたのです。‥‥‥お分かりいただけましたか」


 真田の言葉にウィルソン達は反論もせずに黙って口を噛み締めていた。もしあの時危険が迫っているのを逸早く気付いた真田が、言葉で危ないとそこから離れるんだと注意を発しても、自分達は聞き入れなかっただろうと、寧ろ何を言っているんだと罪人は臆病風に吹かれたのだと、嘲笑っている自分達の姿が容易に想像できたからだ。


 「私を監視するのはいいですけど。それに没頭して周囲への注意が散漫にならないで下さいよ。ここは危険な猛獣や魔獣がいる森なのですから」


 真田はそう言いながら弓を地面に向けているウィルソン達の横を通って、まだ顔を青白くしているミーシャの近くに移動した。


 「オルセンさん。剣を」


 「え!? ええ」


 真田はミーシャから剣を受け取ると、尚も生きようと威嚇をするアロコンダに、


 「すまんな。これも弱肉強食。自然界の掟だ」


 アロコンダの頭に剣を素早く突き刺した。


 口を開けてピクピクと数度の痙攣を起すと、アロコンダは途端に動かなくなった。木の枝に巻き付いていた尻尾もだらりと垂れた。


 真田はアロコンダが動かなくなったのを確認すると頭を刺した剣を引き抜いた。


 先端に血がついていたので拭き取ろうと、昨日の『聖域』での身体検査で没収される事を免れた、何の変哲もないシンプルな一枚の青いハンカチを後ろポケットから取り出した。


 剣の先端についた血を青のハンカチで丁寧に拭き取り、血が残っていない事を確認して柄をミーシャに向けた。


 「剣、ありがとうございます」


 「は、はい! いえどうもです」


 驚いた表情で返事をするミーシャに真田は思わず苦笑を浮かべた。


 ミーシャをアロコンダの毒牙から守った真田にはある1つの問題が突きつけられていた。


 ミーシャを助ける為とはいえ、アロコンダに投げつけた鉄剣が自分が思ってた以上に力を込めて投げたのか、思いの外樹木に深々と刺さっていた事だ。


 真田はアロコンダの胴体を貫いて見事なまでに深々と半分まで刺さっている鉄剣がある樹木を見ていた。


 「(どうするこの状況。こう見事に深々と刺さってしまったら、どうしようもないぞ。あの剣が無くても上手く立ち回る事は出来るが、だがあればあったで便利だ。それに借り物だから後で返さなくてはいけないからな)」


 真田がどうやって樹木に刺さった鉄剣を取ろうと思案していると、何やら自分の見ている視線を感じた。


 其処に向くと、緊張をした面持ちのミーシャが居た。


 「あ、あのサナダさん。宜しければ私が取りましょうか」


 「そ、それは願ったりかなったりですけど、でもどうやって?」


 「まっ、見ていてください」


 先程の緊張した面持ちとはうって変わって、ほんの少し嬉しそうな表情をした

 

 ミーシャは真田にそこを退くようにと言って、自分は樹木から少し離れた場所に移動した。


 真田が退くのを見たら、ミーシャは精神を集中して、


 「彼のものを縛れ。『ウッド・タイ』!」


 魔法を発動させた。


 空中に浮かぶ複数の魔方陣から出現した数本の蔦は真っ直ぐ一直線に樹木に刺さった鉄剣に向かった。


 「(こ、これは!?)」


 真田は昨日『聖域』で見た同じ光景に、驚いた表情をしていた。


 ミーシャは剣の柄と握りの部分に絡ませ、しっかりと蔦が絡まったのを手応えで感じると、ミーシャは蔦をように動かした。


 ミーシャが奥歯を噛み締めて蔦を手前に動かすと、少しずつだが鉄剣が動き始めた。


 少しすると、鉄剣は樹木から完全に取り出された。


 ミーシャは取れた鉄剣を蔦で渡した。


 「はいどうぞ、サナダさん」


 「ああ、ありがとうございます。オルセンさん」


 真田はミーシャに向かって軽く一礼をした。


 「いえ、これぐらいのことでしたら」


 「そう言っていただけると助かります。‥‥‥ウィルソンさん」


 先程から事の成り行きを見ていたウィルソンは、一瞬ビクッ!!と身体をこわ張ってしまった。


 「な、なんだ?」


 「めぼしいアミサダケをあらかた取りましたが、まだ何か取る物はあるのですか」


 「あ、あー‥‥‥、そうだなもうここら辺は取る物は無いから、次の場所に移動する」


 「分かりました」


 ウィルソンはゴホン!!と、場の雰囲気を区切りをつけるように咳払いをした。


 「少々予定が狂ったが、これより我等は予定通りに次の場所に移動する」


 ウィルソンに反対する者は居らず、真田以外はコクリと首を縦に動かした。


 「では、出発する」


 ウィルソン達は次の目的地に向かって、出発をした。

誤字脱字がありましたら、御指摘宜しくお願いします。

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