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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第2章 エルフの都市 サガム
12/65

第11話 1日目終了。

ソフィアの出した大声に真田を牢屋に連れて行っている隊員たちは何事かと非常に驚いた様子で声がした方を振り返った。真田だけは年の離れた妹が怒っているのを見ている兄のような苦笑を浮かべていた。


真田が連れてこられたのは、審議が行なった部屋よりも更に奥にある建物のにある牢屋だった。


よく時代劇に出て来るような木で出来た牢屋だった。広さは3畳半ほどで、壁と床が加工された木で出来ていていた。


違いを挙げるとするならば廊下との境目に鉄格子がはめられており、片腕1本がやっと通れる隙間が開いているぐらいだった。右端に人1人が通れるほどの真田の腰位の高さの出入り口が備え付けられていた。


天井と壁の境目には換気口と光源の兼用の縦約10cm、横約40cmの長方形の木枠の窓があるが、其処にも脱出防止の鉄格子がはめられていた。


そんな牢屋が中央の通路を挟んで4個備えられていた。


見た目が若い隊員の1人が扉から一番手前の牢屋の鉄製の鍵を開けて扉を開くと真田に中に入るよう促した。真田が牢屋に入るとガシャン!!と鉄格子の扉は閉められ、カチャッ!!と錠前が閉められた。


 鉄格子の扉を閉めた隊員が隠そうとせずに露骨に嫌な表情をしていた。罪人とは話したくも無いという事らしい


 「食事は日に2度出る。食事はそこの隙間から渡す。俺達の温情に感謝しながら食べるんだな」


 隊員が差した方に真田が視線を向けると床と鉄格子の隙間と同じ幅で長さ約30cmの長方形の隙間が空いていた。


 どうやらそこから収監した罪人への食事の出し入れをするらしい。


 「言っておくが、脱走なんて下らない事を考えるなよ。この鉄格子と錠には魔法がかけられており、無理に壊そうとすると死なない程度には電撃が走るぞ。‥‥‥まぁ、自暴自棄になって死にたかったら、俺たちは止めはしないがな」


 挑発するように思いっ切り人を馬鹿にするような薄笑いをしている隊員に、真田は特に興味ないのか牢に入った者へと置かれているのか、それとも捨てられているのかいまいち判断がつかないボロの布を広げて汚れ具合を見ていた。


 挑発するように馬鹿にしたセリフを言った隊員は真田に完全に無視されたことで、一緒に来ていた仲間達からクスクスと笑われ、顔を真っ赤にして苦虫を噛み潰したような苦々しい表情をして、胸中に渦巻く黒い感情の思いの丈を叫ぼうとしたが、寸でのところで思い留まった。


 そんな事をしては下劣な人間達と同じではないかと。自分はそんな者達とは違うと。


 出そうになった負の感情の思いの丈を必死で噛み締めた歯を壁として、止まらせてを飲むように飲み込み、平静の表情を取り繕うとしていたが、口元がピクピクと動いていた。


 「ふん。そんな態度が何時まで続くのが見ものだな」


 思いっ切り負け犬のセリフを吐きながら隊員は木製の扉で自分のイライラを少しでも解消しようとバタンッ!!と勢いよく閉めた。


 真田1人となった牢屋には長方形の木枠の窓からは弱くなった淡い光と小鳥の囀りと生活音が入ってきていた。


 「(‥‥‥やはり牢屋にはボロの布切れ1枚しかないか。でも必要な寝具が全て揃っている牢屋というものも聞いた事が無いな)」


 真田はそれらをBGM代わりに入れられている牢屋にある物を確認すると、木の壁に背中を預け、頭を掻きながら胡坐をかいて、木の床を感触を確かめるように触っていた


 「(微かにだが、魔力を感じる。床に使用している木そのものに魔力が宿っているのか。それとも木の床に何かしらの魔法をかけているのかもしれないな)」


 数度木の床を触ると満足したのか、真田は手を離した。


 「(他の気配が無いから牢屋がある区画には今は私一人しかいないのか。‥‥‥

で、木の扉の所には当然のように見張り番として1人がいる訳だな)」


 自分が置かれている状況確認が終わると真田は次第に瞼が重くなっているのに気が付いた。


 意識が遠のくのを真田は疑問に思ったが、すぐに思い当たる原因が浮かんできた。


 今日だけでも睡眠中に何者かに強制的に転移させられて、2人のエルフを助けて、ワザと捕まって、助けたエルフが住む町に連れていかれて、量刑を決める審議を受けて、そして牢屋に入れられた。


 目が覚めてからの今日の様々な出来事に、自分が思ってた以上に精神的にまた肉体的にも疲労感が蓄積されていた事に少なからずショックを受けていたが、それも長くは続かなかった。


 「(無駄な体力の消耗を極力抑えるのが先決だな。今は特に‥‥‥やる‥‥こと‥‥は‥‥)」


 真田は睡魔との戦いにあっさりと降伏して、自らの意識を手放した。



 木枠の窓からの冷たい風に当たり、真田はブルッ!!と自分の身体が冷えていることに無意識に反応し、それがきっかけとなり脳が意識の覚醒を促した。


 重たくなった瞼を上げると何も映らなかった。


 真田が変に思い瞼を何度も上下させるが、それは変わらなかった。


 どうしたものかと悩んでいると、おぼろげだが徐々に手の輪郭が見えて来た。

如何やら寝ている間に夜となっていたらしい。


 真田は冷えた自分の身体を無駄だと思いながらも、暖かさを求めて摩っていた。


 「(寒いな。昼はTシャツ一枚で良かったけど、夜は冷えるな。寒暖差が激しいのか。日本でいう春か秋の季節になるのか。‥‥‥これは段階を早めた方がいいな)」


 両腕を摩りながらそう思案していると、近付く気配を感じ取った。


 偶々近くを通っただけかと思ったが、迷いなく一直線に牢屋がある区画に向かっていた。


 真田は念の為何時でも身体を動かせるように楽な状態に持っていった。


 「(気配は1つか。流石に此処で事を構えるというのは無いと思うが、今までの彼等の態度から考えると、それが否定できないのも事実だな)」


 真田が内心警戒していると、木の扉が開いた。


 入って来たのは1人の少女だった。


 背丈は真田の目の高さで髪はウェーブがかかった肩まである茶髪のストレート。茶色の瞳。白い肌にスラリとしたモデル体型。身に纏っているのは町で見かけた白のローブを着ていた。


 手には火の点いた蝋燭に木製のトレイを持っていた。如何やら食事を持って来たらしい。


 「食事です」


 無機質な声色で長方形の隙間から真田の前に出されたのは木のお盆には約20cm位の皿に注がれた冷めたオレンジ色をしたスープとみずみずしい赤い果実が直接置かれていた。


 真田は出されたお盆の前まで行き、胡坐をかいて胸の前で両手を合わて、


 「ありがとうございます。‥‥‥ではいただきます」


 持ってきた少女に軽く一礼をして、日本ならではの食事作法をした。


 真田の行動に食事を出した少女は物珍しそうな視線を送っていた。


 エルフの少女の視線に気付かないまま、お盆にはスプーンが置かれてなかったので、そのまま皿を直接持って口をつけた。


 冷めたオレンジ色のスープを口に入れた瞬間、真田は驚きを禁じ得なかった。


 「(色からしてキャロットスープかと思ったが、味はカボチャだな。‥‥‥完全に先入観に嵌っていたな。私が日本に来た時のように此処は異世界だという事に完全に忘れていた)」


 表情では美味しそうにカボチャスープを飲んでいたが、内心では穴があったなら

 

 今すぐに入りたいほど恥ずかしさを覚えていた。


 その証拠に頬が少し赤くなっていた。


 カボチャスープを飲み干し、お盆に置くとデザートに置いてある赤い果実を手に取って、何気なしに赤い果実の皮を剝こうとキャンプ道具専門店で買ったサバイバルナイフを出そうとしたが、ハッ!!と何かに気付き寸で所で思い留まった。


 「(危ない。危ない。此処でサバイバルナイフを出してしまったら、必要な前提を自ら壊してしまう所だった)」


 真田は表情には出さなかったが、内心相当焦っていた。


 サバイバルナイフを使えない状況に真田は次にやる判断を下すのは速かった。


 それは単純にして動物的。赤い果実を皮ごとの丸かじりであった。


 真田は大きく口を開けて、上下の白い歯を赤い皮に当てると一気に噛んだ。


 口の中で何度も皮ごと果肉をシャクシャクと咀嚼していると、ビックリ箱を開けたかのように驚いた。


 「(外見上は林檎のようだが、食感では完全に梨だな。皮が邪魔だが、それも差し引ても瑞々しくて、果肉がギッシリと詰まって噛む時に少し抵抗があって、美味しい果物だな)」


 あまりの美味しさに真田は無言で林檎のような梨を貪る様に食べた。


 その様子を食事を持ってきたエルフの少女は実験動物を観察している研究者のような無機質な視線を真田に向けていた。


 林檎のような梨を食べられない中心部だけを残して、カボチャスープが入っていたスープ皿に置いた。


 真田は再び胸の前で両手を合わせてると、


 「ご馳走様でした」


 日本式の食事の終え方をして、木のトレイを通路側に出した。


 木のトレイを取れるように出したのだが、持ってきた少女は取らずに真田をじーっと見ているだけだった。


 真田は少女の視線に怪訝にお思いながらも、顔には出さずに休もうと奥の方に引っ込もうと腰を上げようとしたら。


 「ねぇ、ちょっといいですか」


 先に口を開いたのは少女だった。先程の無機質な口調とは違い、真田に何か興味を持っているようだった。


 「なんですか」


 疑問の言葉と共に真田は上げかけた腰を下ろした。


 「食事を始める前と終わった後の言葉はあなたの国での慣習か何かですか? 神様に捧げる言葉にしては短すぎるとは思うけど」


 「ああ、感謝の言葉ですよ」


 「感謝の言葉?」


 少女は真田の言葉に益々疑問の度合いを深めた。


 「ええ、人間、エルフに限らずあらゆる生物は自らの生命活動を維持するにはどうしても、他者の命を搾取せねばなりません。だから私が居た日本ではその尊い命を貰う動植物に、それを調理してくれた人に、食べる動植物を取ってきた人に、その機会を当て得てくれた神様に食事が出来る事に感謝の言葉を述べているんです」


 「へぇーそうですか。じゃ最後の言葉も?」


 「ええ、同じように感謝の言葉です。おかげでこの命が永らえる事が出来ました。と」


 エルフの少女は真田の言葉に感心するように頷いていた。


 彼女が知っている人間達は粗暴で信仰心も無く、品性の欠片も無いような者達

ばっかりだったから食事作法を守る真田の行動に思わず感心したのだ。


 「中々慎み深い国ですね、二ホンというは」


 「それなりにはですね」


 少女の言葉に思わ真田は思わず苦笑を浮かべた。


 少女と真田の間には少し雪解けが始まったかのような雰囲気が漂っていた。


 「一応朝と夜の食事は私が持ってくる事になりましたから」


 「そうですか。食事に更なる楽しみが出来ましたね」


 楽しそうに話す真田に少女は首を傾げた。


 「楽しみ? 何があるの?」


 「綺麗な女性と一緒に食事できるなんて、滅多に無い事ですから楽しみになりますよ」


 真田の少年のような無邪気な表情と言葉に琴線に触れたのか少女は徐々に白い肌の頬を真田に出した赤い果実のように紅潮させ、恥ずかしそうにプイッ!!と視線を扉の方に向けた。


 「そ、そんなお世辞を言って、味方に取り込もうとしても、む、無駄なんですからね!」


 恥ずかしそうに言うエルフの少女に真田は声を出さずに微笑んでいた。


 真田に綺麗だと言われて余程恥ずかしかったのか少女は極力視線を合わさないように置いてある木のトレイを持ち上げた。


 「‥‥‥それじゃ、また朝に」


 「ええ、また朝に」


 真田の言葉を背で受けて少女は木の扉を静かに閉めた。



 少女は真田に出した木のトレイを持って食堂に到着した。


 食堂には早番の食事には遅く、遅番には早い時間帯だったのか誰もおらず、奥の調理場で遅番の隊員達の食事を作る音だけが響いていた。


 エルフの少女は調理場の前の木製のカウンターに木のトレイを置き、


 「トレイ、此処に置いときまーす」


 「はーい」


 調理番からの返事を受けて自室に戻ろとしたが、引き止める声が聞こえて来た。


 「ミーシャちゃーーん」


 背中越しからの甘ったるい猫撫で声に無視して自室に戻ろうと考えたが、したらしたで後々面倒事を起こすので断腸の思いで振り返った。


 ミーシャが露骨に嫌そうな表情をして振り返ると木のカウンターに寄り掛かって手招きしている笑顔の女性が居た。


 「なんですか、アシュリーさん」

 

 アシュリー=ダフ。背はミーシャの頭一つ高く、白い肌で髪は腰までロングのポニーテール。動きやすい緑の服装の上に白いエプロンを着ていた。ミーシャより胸が数段大きい。


 詰所の食堂の料理長だが元はミーシャと同じサガムの警備部隊に所属していた。ある日突然「私は料理人になる」と言い出して、即座に上司である警備隊長に退職届を叩き付け、周囲の猛反対を押し退けてサガムを出て行った。十数年後、ふらりと町に戻ってきて、長老の前に自分が作った料理を出した。その料理の腕前が認められて詰所の食堂に配属され、前任の料理長の下で更に腕を磨き、昨年から料理長として隊員達の胃袋を満たしていた。


 「捕まっている人の食事を持って行かされたんだよね。可哀想に」


 「別に。任務の一環ですから仕方がないですよ」


 ぶっきらぼうに答えるミーシャに顔を顰める事無く、アシュリーは笑顔を崩す事は無かった。


 「で、で。今回捕まった人間ってどんな奴なの」


 野次馬根性丸出しの好奇心に満ちた表情を浮かべているアシュリーに嫌そうに少し眉を顰めたが、特に話さない理由も無かったので話す事にした。


 「うーん、‥‥‥‥‥‥一言で言えば普通の少年ですね」


 「普通?」


 アシュリーの疑問にミーシャは首肯した。


 「ええ。顔は普通で背も私より少し高い位で。何の特徴も無い何処にでも居るような少年ですね。‥‥‥今までと違うとしたら、礼節がしっかりしていたぐらいですかね」


 「へぇー」


 「あの少年が居たという『二ホン』では食事の前に『いただきます』。食事の後に『ごちそうさま』と感謝の言葉を言うらしいです」


 「感謝の言葉?」


 「何でも、食材になった動植物と食材を調理した人や食材を取ってきた人、食事をする機会を与えてくれた神様に対しての感謝の言葉らしいです」


 「ふーんそうなの」


 話半分で話を聞いて適当に相槌をうちながらも、アシュリーの中では真田に対する懐疑的な感情が生まれた。


 「(『いただきます』と『ごちそうさま』か。‥‥‥聞いた事の無い言葉ね。何かしらの意図で出した嘘という可能性もあるけど、ミーシャちゃんはそれに気付いているのかしら)」


 真田の意図も気になったが、アシュリーはそれよりも遥かに大事で重要な事に気付いた。


 「ねぇミーシャちゃん」


 「‥‥‥なんですか」


 「何やら少し楽しそうに話すけど、牢屋に入っている人間と何かあったの?」


 ニヤニヤと意地の悪そうな顔をしているアシュリーの言葉を聞いた瞬間、ミーシャは反射的に真田の言葉を思い出し、その白い肌が長時間風呂に入った後のように顔を真っ赤になった。


 「な! なんでですか!? あの少年とは何もなかったですよ! 何も! それにあの少年は罪人なんですよ! 寧ろ食事を持って行く事になって嫌なんですよ!」


 ミーシャはアシュリーの言葉に必死になって否定をするが、アシュリーの言う通りミーシャは先程の真田の事を話す時は、まるで仲の良い友人の事を話すかのように朗らかな表情で話していた。


 「(あららら? ミーシャちゃんのこの反応は。これはもしかしてもしかすると!!!)」


 顔を真っ赤にして必死になって否定をするミーシャの顔を見ながら、アシュリーはニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。


 「ちょっと! 聞いているんですかアシュリーさん!」


 「聞いてる聞いてる、聞いているよミーシャちゃん」


 激しいミーシャの追求を嘘くさい笑顔でアシュリーはサラリとかわした。


 その後続いたミーシャの必死の弁明は騒ぎを聞きつけた休憩中の早番の隊員達が来るまで続けられた。



 

 外ではそんな事が行われているとは知らずに、真田は新月の夜なのか光が差さない真っ暗な牢屋で腕を組んで考え事をしていた。


 「(野宿とは違ってある程度の安全は確保されているな。これで昆虫や動物たちに睡眠の邪魔をされずに眠ることが出来るな。まぁ違うもの(・・・・)がきそうだがな。‥‥‥取り敢えずやる事も無いし寝るのに必要な物を取り出しておくか)」

真田が軽く右腕を動かすと瞬きをする間もなく、其処に元から無かったかのように

 右腕の肘から先が消えてなくなった。


 真田は目の前の光景に驚く事も無く、また肘から先を喪失した事での激痛で叫んだり顔を顰める事も無く、逆になった事に非常に満足した表情をしていた。


 「(やはり予想通りに魔法は使えたか。この首輪はこの世界で発見されている術式に反応しているな。‥‥‥私が使える魔法は問題なく使えるという事か)」


 真田の右腕は切断されている訳では無く、通常空間と位相がずれた空間。亜空間に右腕を伸ばしているだけだった。


 『ノーシェ・バッカス』。今の真田が使える数少ない魔法の一つ。空間系の属している魔法だ。特徴としては手にした物体を収納できる亜空間の規模が術者の魔力量に応じてバラバラだ。だが魔力量が少ない術者であろうとも、最低でも店でよく見かける標準的な蜜柑箱タイプの段ボール1つ分の大きさはある。そこから術者の魔力量に応じて亜空間の規模が広がっていく。極論を言えば術者が山1つ入る亜空間を持っているとすれば、山を収納する事が可能になる。


 真田は右の二の腕を何かを探すようにゴソゴソと虚空に動かしていた。


 「(おっ!! あったあった!!)」


 目的の物が見つかり欲しかった玩具を見つけた子供のような嬉しそうな表情をして、つかみ上げると、何もない暗闇の虚空から真田の全身がすっぽりと入りそうなポリエステル製の中に羽毛が入っている赤い色のマミー型の寝袋だった。


 「(これをキャンプ道具の専門店で見つけた時は半信半疑だったな。こんな物で寒い日も暖かく眠れる訳が無いと疑っていたから、実際に寒い夜に使ってみた時の驚きは今でも鮮明に覚えている。一発でコイツの虜になり、改めて『科学』の凄さを思い知らされたな)」


 日本で体験して過ごした日々の事を思い出していた。


 「(後は下にひく物を‥‥‥)」


 再び『ノーシェ・バッカス』を発動させて、右腕は半分にしてある物を探していた。


 少しして目的の物が見つかったのか、表情を綻ばせて先程のマミー型の寝袋と同じ形、同じ素材の薄いマットレスを出した。


 使うのが楽しみなのか生き生きとした表情で早速を床にひいて、マミー型の寝袋に入るとあまりの心地よさに真田はまるで砂漠でオアシスを見つけたかのような至福の表情を浮かべた。


 「(ああこれだこれ。中に羽毛が入っているから外が寒くても、中が暖かいからよく眠れる。初めて使った時には何でもっと早く買わなかったのか、本気で後悔した程だ。そしてあまりにもいいから、必要ないのにネットカフェに寝泊まりしていた時も使ったんだよな)」


 寝袋の性能を堪能していると、ふと真田に再び睡魔が襲ってきた。


 如何やら胃の中に入っている食事を最優先で消化しようと、脳が最低限の生命活動以外の活動を停止させていた。


 「(明日は早そうだから、もう寝よ)」


 真田は特に抗う事も無く、睡魔の誘いをすんなりと受け入れた。

 

 夜は更けて行った。様々な人々の思惑を包み込んで。


誤字脱字がありましたら、御指摘よろしくお願いします。

感想も随時募集中です。



年内の投稿はこれが最終です。

今年もあと僅かになりました。今年が良かった人もまあまあな人も悪かった人も正月が風邪正月にならないように、体調にはお気を付けて。

では、また来年。よいお年を。


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