表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/17

第9話 元仲間の懺悔と最強の医療施設。そして元勇者の行き着く先

「主様、結界の外に人間が一人うずくまっています。どうやら先ほどから泣いているようですが……」

リビングでくつろいでいると、窓の外を見ていたシエルが不思議そうに首を傾げた。

俺の視界にも、システムからの通知が表示されている。

【Alert: Known_Entity_Detected / Target: Milena / Hostility: 0%】

「知ってる顔だな。ちょっと様子を見てくるよ」

俺が玄関を出て結界の境界線まで歩いていくと、そこにはボロボロの服を着て泥だらけになった少女が座り込んでいた。

かつて俺を追放した勇者パーティーの魔法使い、ミレナだ。

「……レクト」

俺の姿を見た瞬間、ミレナは大粒の涙をポロポロとこぼし、地面に額を擦り付けるようにして土下座した。

「ごめんなさい……! 本当に、ごめんなさい……!」

「いきなりどうしたんだ。それに、ザイードはどうした?」

俺が淡々と尋ねると、ミレナは震える声でこれまでの経緯を語り出した。

王都を追放されたこと。

ザイードが俺への逆恨みで魔境までやってきたこと。

そして先ほど、強力な魔物に襲われた際、自分が囮として見捨てられたこと。

「私……自分がどんなに愚かだったか、やっとわかったわ……」

「あなたがパーティーを支えてくれていたのに、それを当たり前だと思って……見下して……」

「ザイードに裏切られて、死ぬ寸前になって、ようやく自分の罪に気づいたの……。本当にごめんなさい……!」

顔を泥だらけにしながら泣きじゃくるミレナ。

かつての高慢な態度は見る影もなく、ただの哀れな少女に成り下がっていた。

「……まあ、ザイードならそのくらい平気でやるだろうな」

俺はため息を一つ吐いた。

怒りや憎しみというより、あまりの自業自得っぷりに呆れ果ててしまう。

「別に許すとか許さないとか、そういうのはもういいよ。俺はここで、今の仲間たちと楽しくやってるから」

「レクト……」

「ただ、怪我人を放り出しておくほど冷酷にはなれない。手当だけはしてやるから、中に入れ」

俺が結界の一部を【パスワード解除】して道を作ると、ミレナは何度も何度もお礼を言いながら敷地内へと足を踏み入れた。

そして、俺が【システム】で作り上げた現代風の家と、そこでくつろぐ伝説の精霊たちの姿を見て、完全に腰を抜かした。

「な、なにこれ……ここは、神様の御殿なの……?」

「ミレナさんですね。さあ、こちらへ」

呆然とするミレナの手を引いたのは、白衣を着たクルミだった。

「レクトさんが作ってくれた【医務室】にご案内します。ひどい擦り傷ですね、すぐに治しますよ」

クルミが案内した部屋は、地球の最新鋭病院すら凌駕する、SF映画のような医療施設だった。

【Object_Create: Auto_Recovery_Pod(全自動回復カプセル)】

俺がバグを利用して構築した、寝るだけであらゆる外傷と疲労をスキャンし、最適化(回復)するチート医療器具だ。

「ベッドに横になってくださいね。痛いことは何もしませんから」

クルミが優しく微笑み、ポッドのスイッチを入れる。

淡い緑色の光がミレナの体を包み込むと、彼女の全身にあった生々しい傷跡が、文字通り一瞬にして消え去った。

「うそ……高位神官の【超回復魔法】でも、こんな一瞬で治るなんてあり得ないわ……」

「ふふっ、魔法じゃないんですよ。レクトさんの【システム】のおかげです。私のような普通の人間でも、こうやって人を救えるんです」

クルミが誇らしげに胸を張る。

ミレナは自分の綺麗な肌を見つめながら、自分たちがどれほど恐ろしい存在チートをパーティーから追い出してしまったのかを、骨の髄まで理解した。

もう一生、彼には敵わないし、彼なしでは生きていけない。

「レクト……私、どんなことでもするわ。床掃除でも、畑仕事でも……だから、ここに置いて……」

ミレナの完全なる敗北と服従宣言だった。

【一方その頃】

「はははははっ! 俺は生き延びたぞ! 俺は天才だ!!」

元勇者ザイードは、暗く湿った洞窟の中を狂ったように走り続けていた。

ミレナを囮にしたおかげで、背後からキメラが追ってくる気配はない。

「ざまぁみろミレナ! お前のような無能は、俺の身代わりとして死ぬのが一番の貢献だ!」

ザイードはゲラゲラと笑いながら、洞窟の奥へと進んでいく。

ここなら外の魔物にも見つからないし、安全に夜を越せるはずだ。

そうタカをくくっていた彼だったが。

ピチャッ……。

足元に、何か生温かい液体が落ちてきた。

「……あ?」

ザイードが松明の光を天井に向ける。

そこには、巨大な蜘蛛の巣に絡めとられ、ミイラのように干からびた大量の魔物たちの死骸がぶら下がっていた。

中には、先ほど彼が逃げ出したAランク魔物であるキメラの死骸すらある。

「な……なんだこれ……」

ザイードが震える声で呟いた瞬間。

暗闇の奥から、無数の巨大な【赤い眼】が一斉に彼を見下ろした。

カサカサカサカサカサカサッ……!

おぞましい足音が洞窟内に反響する。

姿を現したのは、家ほどもある巨大な漆黒の蜘蛛。

死の魔境の最深部に巣食う、Sランクの絶望【アビス・スパイダー】の群れだった。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

ザイードは絶叫し、腰に下げていた折れた鉄の剣を震える手で構える。

「く、来るな! 俺を誰だと思っている! 勇者ザイード様だぞ!!」

彼が渾身の力を込めて放った最後の魔法の炎は、巨大蜘蛛の吐き出した粘着糸によって一瞬でかき消された。

「あ……」

バシュッ!

次の瞬間、無数の強靭な糸がザイードの全身に絡みつき、彼を天井へと勢いよく吊り上げた。

「ぎゃあぁぁぁぁっ! 離せ! 助けてくれ! 誰か、誰かぁぁぁっ!!」

どんなに泣き叫んでも、誰も助けには来ない。

彼は自らの保身のために、最後に残った仲間ミレナを裏切り、自分からこの地獄の底へと足を踏み入れたのだから。

「レクトォォォォ! 俺が悪かった! 俺が間違ってた! だから助けてくれぇぇぇぇっ!!」

最も見下していた少年の名前を泣きながら叫ぶザイード。

しかし、その惨めな命乞いが届くことは永遠になく、彼の意識は深い闇の底へと引きずり込まれていった。

【キャラクター・プロフィール】

【レクト】

役割:主人公

状況:ミレナの懺悔を受け入れ、哀れみから領地での下働きとして彼女を保護する。クルミの医務室にチート級の医療器具【全自動回復カプセル】を導入し、さらに拠点の設備を完璧なものにしている。

【クルミ】

役割:専属看護師(保健の先生)

状況:レクトが【バグ】で作り出した最新医療設備を使いこなし、ミレナを治療する。魔法が使えなくても人を救える喜びに満ち溢れている。

【ミレナ】

役割:元勇者パーティーの魔法使い

状況:ザイードの裏切りを経験し、レクトに土下座で謝罪。彼らが築き上げた【神の御殿】とチート設備を目の当たりにし、これまでの己の傲慢さを心の底から悔い改めた。現在はメイド見習いとして領地に滞在。

【ザイード】

役割:元勇者(ざまぁ完了)

状況:保身のために仲間を裏切って逃げた先が、Sランク魔物の巣窟だった。自分のプライドも希望もすべてへし折られ、最も見下していたレクトに泣いて命乞いをしながら、魔物の餌として自業自得の最期を迎える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ