第7話 【ファイアウォール】の構築と露天風呂。そして勘違いを極める元勇者
俺がワンクリックで魔物の大群をデリートした翌日。
【チート農園】で採れた奇跡の果実をかじりながら、俺はふと思った。
「よし、露天風呂を作ろう」
「ろ、露天風呂、ですか?」
シエルが目を丸くして聞き返してくる。
「ああ。家の中のお風呂もいいけど、せっかく景色を綺麗にしたんだから、外で広いお湯に浸かりたいだろ」
「主様がそうおっしゃるなら、私が岩を砕いて湯船の形を……!」
「いやいや、そんな力仕事は必要ないよ」
俺は庭の空きスペースに向けて手をかざし、お馴染みのシステム画面を展開した。
【Terrain_Edit: Open_Air_Bath】
【Water_Source: Ultimate_Relaxation_Hot_Spring】
【Effect: Fatigue_Recovery & Skin_Beautification】
指先で空中のキーボードを弾く。
「実行」
ゴゴゴゴォォォッ!
地響きと共に、庭の芝生の一部が隆起し、美しい天然石で囲まれた巨大な岩風呂が一瞬にして形成された。
さらに、どこからともなくこんこんと湧き出たお湯が、湯船を満たしていく。
湯気と共に、ふわりと硫黄のいい香りが漂った。
「疲労回復と美肌効果のバフもつけておいた。いつでも入れるぞ」
「あ、あり得ません……! 地形を瞬時に変えただけでなく、効能付きの温泉まで生み出すなんて……!」
リリアが湯船の縁にへたり込み、またしても拝み始めている。
「主様! 私、主様のお背中をお流しいたします!」
シエルがなぜか顔を真っ赤にしながら、尻尾をブンブンと振って立候補してきた。
「いや、気持ちは嬉しいけど、俺は一人でゆっくり入りたいかな……」
「そ、そんな殺生な! 眷属として、主様の玉の肌を磨く権利をどうか私に!」
「私もです! 精霊の力で、最高に気持ちいい水流マッサージを提供できます!」
美少女二人から混浴を迫られるという、男としては夢のようなシチュエーション。
だが、落ち着いてスローライフを送るためには、もう少しだけ【セキュリティ】を強化しておく必要がある。
「お風呂は後だ。その前に、昨日みたいな魔物の大群が来たらうるさいから、防犯システムを組んでおくよ」
俺は領地全体(家と畑と温泉を含むエリア)を範囲指定し、新たなコードを打ち込んだ。
【Security_System: Absolute_Firewall_Active】
【Target: Unregistered_Entities / Action: Counter_Shock】
パキィィィンッ!
甲高い音と共に、俺たちの拠点全体を覆うように、半透明の巨大なドーム状の結界が出現した。
これぞ、許可なき者の侵入を絶対に許さない【ファイアウォール】。
「この結界に触れた未登録の対象は、問答無用で弾き飛ばされる。これでゆっくり温泉に入れるな」
「もはや神の絶対領域ですね……。これで私たちは、永遠に主様と安全な楽園で暮らせるのですね……!」
うっとりとする二人を連れて、俺はようやく念願の露天風呂へと向かった。
【一方その頃】
「ゼェ……ハァ……! くそっ、この瘴気はなんだ……!」
元勇者ザイードは、魔境の入り口付近で早くも息も絶え絶えになっていた。
身につけているのは、スラムで拾ったようなボロボロの革鎧。
手にしているのは、刃こぼれだらけの赤茶けた鉄の剣だ。
「ザイード……もう帰りましょうよ……。こんなところにいたら、魔物に襲われる前に肺が腐って死んじゃうわ……」
元パーティーメンバーの魔法使いミレナが、顔を青ざめさせて涙ぐんでいる。
「うるさい! 俺に呪いをかけたレクトの野郎を見つけて、絶対に解呪させてやるんだ!」
ザイードの目は血走り、完全に狂気に取り憑かれていた。
自分の実力が「村人レベル」に落ちぶれたのは、すべてレクトの嫉妬による呪いのせいだ。
その最悪の勘違いを原動力に、彼は死の魔境を歩き続けていた。
「見ろ、ミレナ! あそこだ!」
ザイードが指差した先には、魔境の薄暗い景色には似つかわしくない、光り輝く巨大な半透明のドームがあった。
「あんな巨大な結界、あいつが引きこもっている証拠だ!」
「ち、違うわザイード! あれは……凄まじい密度の魔力よ! 近づいちゃダメ!」
ミレナの制止も聞かず、ザイードは狂ったような笑い声を上げて結界へと突進した。
「はははっ! 俺の報復に怯えて、あんなものに逃げ込んだか!」
ザイードは結界の前に立ちふさがり、ボロボロの鉄の剣を天に掲げた。
「無駄だレクト! お前の呪いごと、俺の全力でこの結界を叩き割ってやる!」
彼は渾身の力を込め、結界の壁に向かって剣を振り下ろした。
ガァァァァンッ!!
【Error: Unauthorized_Access(不正なアクセスを検知しました)】
ザイードの剣が結界に触れた瞬間、無機質な警告音が鳴り響いた。
【Action: Counter_Shock(迎撃プログラムを起動します)】
「……え?」
バヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!!
凄まじい雷光が結界の表面を走り、ザイードの全身を容赦なく打ち据えた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ザイードの体はボールのように弾き飛ばされ、数十メートル後方の汚泥の中へと頭から突っ込んだ。
鉄の剣は粉々に砕け散り、彼の全身からはプクプクと黒焦げの煙が上がっている。
「ザイード!」
ミレナが慌てて駆け寄る。
「ガハッ……ゴホッ……!」
ザイードは白目を剥きながらも、ゴキブリのような生命力でなんとか息を吹き返した。
「……は、ははは……」
彼は黒焦げの顔で、不気味に笑い始めた。
「……見たか、ミレナ。あいつ……俺の接近に気づいて、慌ててトラップを発動させやがった……」
「えっ……?」
「それほどまでに……俺の力が恐ろしいという証拠だ……! 待っていろレクト……絶対に……ぶっ殺してやる……!」
もはや哀れなほどに勘違いを極めた元勇者は、ピクピクと痙攣しながら泥水を啜った。
だが、ザイードたちは気づいていなかった。
彼らの背後、魔境の深い闇の中から、本物の【絶望】が静かに這い寄ってきていることに。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公
状況:念願の露天風呂を作成。セキュリティ対策として【ファイアウォール】を構築し、外部からの干渉を完全にシャットアウトした。現在はヒロインたちとの混浴攻防戦を繰り広げている。
【シエル&リリア】
役割:ヒロインズ
状況:主様の背中を流す権利を巡って共闘中。温泉の効能と神の御業に再び忠誠心をカンストさせている。
【ザイード】
役割:元勇者(勘違いストーカー)
状況:レクトの結界にボロ剣で挑み、自動迎撃システムで黒焦げにされる。しかし「俺が怖いからトラップを張ったんだな」と都合よく解釈し、さらに怨みを募らせている。背後から謎の魔物に狙われていることに気づいていない。




