表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/17

第6話 【全選択】からの【一括削除】。そして勇者追放の刻

魔境での異世界スローライフが始まってから数日。

俺が【バグ】で作り出した拠点の朝は、信じられないほど平和だった。

「主様、おはようございます! 今日も一段と神々しいですね!」

「レクト様! お風呂のシステム、最高でした……! 私、もうこの家から一生出たくありません!」

朝から元気な神狼族のシエルと、完全に引きこもりと化した大樹の精霊リリア。

二人の美少女精霊に囲まれながら、俺はシステム冷蔵庫から出した無尽蔵のコーヒーをすする。

魔境のド真ん中だというのに、危険の『き』の字もない。

「さて、今日は少し庭を拡張して、畑でも作るか」

「畑、ですか? しかし主様、魔境の土は浄化したとはいえ、作物が育つには数年単位の土壌改良が……」

リリアが心配そうに首を傾げるが、俺は笑ってシステム画面を開いた。

【Area_Coordinates: Garden / Action: Instant_Cultivation】

【Seed_Data: Golden_Wheat & Miraculous_Fruits】

俺が指先で空中のキーボードを弾くようにコードを打ち込む。

実行エンター

その瞬間、家の前の芝生が一気に耕され、ふかふかの黒土へと変化した。

さらに、どこからともなく種が降り注ぐと、凄まじい速度で発芽し、成長していく。

わずか数秒の間に、黄金に輝く小麦畑と、見たこともないほど瑞々しい果実が実る果樹園が完成してしまった。

「……えっと、土壌改良……?」

「主様の前では、世界の常識など何の意味もありませんね……」

リリアが呆然と呟き、シエルは悟ったような顔で頷いている。

【Status: Absolute_Growth_Rate(絶対成長補正)】を付与しているから、何度収穫しても翌日には元通りだ。

これで食糧問題も完全にクリアである。

だが、そんな穏やかな空気を切り裂くように、俺の脳内に赤い警告音アラートが鳴り響いた。

【Alert: Massive_Hostile_Entities_Approaching / Quantity: 10,000】

「……ん? 何か来るな」

俺が視線を向けた先、地平線の彼方から凄まじい砂埃が巻き上がっていた。

「な、なんて数ですか……! あれは魔境の深部から溢れ出した【魔物の大暴走スタンピード】です!」

シエルが血相を変え、鋭い爪を伸ばして戦闘態勢に入る。

オーク、ゴブリン、キメラ、さらにはAランクの魔獣までが混ざった、一万を超える魔物の大群。

それが、一直線に俺たちの拠点を目指して突進してきていたのだ。

「レクト様、逃げてください! 私が結界を張って時間を稼ぎます!」

リリアも悲痛な覚悟を決めた顔で、俺の前に立ち塞がる。

だが、俺はコーヒーカップを片手に、面倒くさそうにため息をついた。

「いや、そんなに気張らなくていいよ。ちょっとポチッとするだけだから」

俺は空中に展開されたシステム画面の【ターゲット一覧】を呼び出した。

そこには、迫り来る一万匹の魔物のデータがずらりと並んでいる。

俺はマウスをドラッグするような手の動きで、そのすべてのデータを範囲指定した。

【Target_Select: All(全選択)】

システム画面が真っ青に反転し、一万匹の魔物すべてにロックオンのカーソルが重なる。

「さて、と」

俺はただ一言、最も残酷で、最も簡単なコマンドを入力した。

【Action: Delete(削除)】

実行エンター

ピィンッ、という軽い電子音が鳴った。

次の瞬間。

「ギャァァァ――」

「グオォォォ――」

咆哮を上げていた一万の魔物たちが、まるでテレビの電源を切ったかのように、フッとその場から消滅した。

血一滴、肉片一つ残さず、システム上から【データごと消し去られた】のだ。

「「…………え?」」

シエルとリリアが、あんぐりと口を開けたまま固まっている。

「よし、終わった。じゃあ、さっそく収穫した果物で朝飯にしようぜ」

俺が何事もなかったかのように振り返ると、二人の精霊はついに両膝をつき、深く深く平伏した。

「ああ……主様は、やはり全知全能の創造神……!」

「私、一生ついていきます……! 足の裏でも舐めさせてください……!」

「いや、舐めなくていいから。早く飯食おう」

こうして、魔境最大の危機は、わずか数秒のワンクリックで片付いてしまった。

【一方その頃】

王都の薄汚れた安宿の一室。

バンッ!!!

乱暴に扉が蹴り破られ、重武装の近衛兵たちが雪崩れ込んできた。

「ザイード! 王宮からの通達だ! 貴様から【勇者】の称号を剥奪し、王都からの永久追放を命じる!」

「な、なんだと……!?」

二日酔いでベッドに転がっていたザイードは、信じられない言葉に跳ね起きた。

「ふざけるな! 俺は魔王軍を退けた英雄だぞ! 国王陛下に直接会わせろ!」

「黙れ、このペテン師が!」

近衛兵の隊長が、容赦なくザイードの顔面を殴り飛ばす。

「ぐふっ……!」

「昨日、貴様らがゴブリン相手に逃げ回ったという報告は入っている! 過去の戦果も、すべて何らかの細工をした詐欺だったのだろう!」

兵士たちはザイードの腰から国宝の【聖剣】を奪い取り、部屋にあった金目のものを次々と没収していく。

「や、やめて! それは私の杖……!」

魔法使いのミレナが泣き叫ぶが、兵士たちは容赦しない。

「借金のカタだ。貴様らのような詐欺師パーティーは、身ぐるみ剥がされてスラムで野垂れ死ぬのがお似合いだ!」

兵士たちが去った後の部屋には、ボロボロの服だけを着たザイードとミレナが残された。

「どうして……どうしてこんなことに……俺は、俺は選ばれた天才のはずなのに……!」

床に突っ伏し、血の涙を流して地面を叩くザイード。

その時、ミレナが虚ろな目でポツリと呟いた。

「……レクトよ」

「……あ?」

「レクトがいなくなってからよ……私たちの攻撃が通じなくなったのも、魔法が弱くなったのも……」

ミレナの言葉に、ザイードの脳裏に「最弱職」と見下していた元仲間の顔がよぎる。

「あいつは戦いの最中、いつも後ろでブツブツとよくわからない呪文を唱えていたわ……。もしかして、あれが私たちの力を底上げしていたんじゃ……?」

本来なら、そこで「レクトに謝罪しよう」となるのが正常な思考だ。

だが、ザイードの腐りきったプライドは、まったく別の【最悪の結論】を導き出してしまった。

「……そうか。あいつだ……! あのゴミが、俺たちに【弱体化の呪い】をかけてから出ていきやがったんだ!」

「えっ……? ザイード、いくらなんでもそれは……」

「絶対にそうだ! 俺の才能が急に枯れるわけがない! すべてはあの【翻訳家】のクソ野郎の嫉妬だ!」

ザイードは血走った目で立ち上がり、怒りに身を震わせた。

「許さん……絶対に許さんぞレクト! 魔境の底まで追いかけて、俺にかけた呪いを解かせ、死ぬまで奴隷としてこき使ってやる!」

完全な逆恨みと勘違いを拗らせた元勇者は、破滅の運命へと向かって、自ら魔境への足を踏み出す決意を固めるのだった。

【キャラクター・プロフィール】

【レクト】

役割:主人公

職業:翻訳家

状況:一万匹のスタンピードを【全選択】からの【一括削除】で瞬殺。農地も一瞬で完成させ、完全無欠のスローライフを謳歌中。

【シエル&リリア】

役割:ヒロインズ

状況:レクトのデタラメな力を目の当たりにし続け、ついに「神」として崇拝する領域に到達。忠誠心が限界突破している。

【ザイード】

役割:元勇者(ざまぁ対象)

状況:称号剥奪、財産没収、王都追放のトリプルコンボを食らう。自身の無能を認められず、「レクトが弱体化の呪いをかけた」と最悪の勘違いをして魔境へ向かう。

【ミレナ】(New)

役割:元勇者パーティーの魔法使い

性格:気弱だが計算高い。レクトの不在が不調の原因だと気づき始めているが、ザイードの狂気に逆らえず巻き込まれていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ