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第5話 【神の御殿】と新たなる眷属。そして無能が露呈する勇者

俺が【システム改変】で荒野のど真ん中に生み出したのは、地球の記憶を元にした2LDKの平屋建ての一軒家だ。

外見はレンガ調の落ち着いたデザインだが、内部は俺の【バグ】スキルを駆使した最新の設備が整っている。

「主様……この建物は一体……? 床も壁も、信じられないほど滑らかで輝いています……!」

「とりあえず靴を脱いで上がってくれ。ここは俺たちの新しい拠点だ」

おずおずと足を踏み入れたシエルは、リビングのフローリングを見るなり感極まったように平伏した。

「おお……なんて神々しい床なのでしょう。これほど美しい木材、王宮の謁見の間でも見たことがありません!」

「いや、ただのホームセンターで売ってるフローリングシートだから。そんなに拝まなくていいよ」

シエルにとっては、現代日本のありふれた建材すら、神が作り出したオーパーツに見えるらしい。

キッチンには大型のシステム冷蔵庫、奥の洗面所には足を伸ばせる広いユニットバスまで完備している。

当然この魔境に電気や水道は通っていないが、そこは俺のスキルの見せ所だ。

【Object: Faucet / Action: Endless_Pure_Water / Status: Temperature_Control】

蛇口のシステムコードを少し書き換えるだけで、無尽蔵に透き通ったお湯が出るようになる。

「ひっ!? 魔力も詠唱もなしに、無限に温かいお湯が湧き出しています!?」

「いつでもお湯が出るから、後でゆっくりお風呂に入って汚れを落とすといい」

「お、お風呂……!? このような神の御殿で、私ごときが沐浴など……恐れ多すぎます!」

パニックになって頭を抱えるシエルをなだめつつ、俺は冷蔵庫を開けた。

中は空っぽだが、俺の【翻訳】の力を使えば、空間のコードをいじって「物質を創造」することすら可能だ。

【Space_Coordinates: Fridge / Generate: High_Quality_Meat & Fresh_Vegetables】

空間の余白エンプティ・コードを、最高級の霜降り肉と新鮮な野菜のデータに書き換える。

「さて、腹も減ったし飯にするか。今日は焼肉だ」

「何もない箱の中から、いきなり極上のお肉が……! 主様はやはり、天地創造を司る神様だったのですね……!」

シエルの尊敬の眼差しが痛いが、美味い肉を焼く匂いがリビングに漂い始めると、彼女の獣耳もピクピクと嬉しそうに動き始めた。

その時だった。

「……何か来るな」

「主様、下がっていてください! 私が迎撃を――」

シエルが警戒態勢をとろうとしたが、俺はそれを手で制した。

家の外、芝生が広がる庭先に倒れ込んでいたのは、緑色の長い髪を持った美しい女性だった。

背中には半透明の羽が生えており、長く尖った耳が特徴的だ。

【Target: Lilia / Race: High_Elf_Spirit / Status: Miasma_Pollution (99%)】

「ハイエルフの精霊……? かなりの瘴気を吸い込んで、ステータスが限界だぞ」

「彼女は【大樹の精霊】です! この魔境の瘴気に抗い、森を守り続けていたはずですが……もう限界のようです」

シエルが悲痛な声を上げる。

精霊の体は黒い染みのようなものに侵食され、今にもノイズ混じりのホログラムのように消滅しそうに明滅していた。

「うぅ……森が、死んでいく……私、も……」

うわ言のように呟く精霊。

本来なら、精霊の消滅は世界の理であり、どんな魔法使いにも治癒することはできない。

だが、俺にとってそんな【世界の絶対法則】は、単なるバグに過ぎない。

「シエル、少し離れててくれ。今から彼女のシステムを【再構築】する」

俺は精霊に手をかざし、視界に広がるコードの羅列を読み取った。

【Status: Miasma_Pollution】という致命的なエラーコードが彼女の命を蝕んでいる。

これをただデリートするだけでは、魔境の空気に触れればまた再発してしまう。

俺はキーボードを叩くように、空中で指を躍らせた。

【Action: Install / Code: Miasma_Conversion_Reactor】

瘴気を吸収し、逆に自身の生命力マナへと変換する【永久機関】のコードを強引に組み込む。

実行エンター

カァァァァァッ!

俺が指を鳴らした瞬間、精霊の体を覆っていた黒い染みが一瞬で反転し、眩いほどのエメラルドグリーンの光へと変わった。

「……え? あ、あれ? 体が……すごく軽い?」

精霊――リリアはパチリと目を覚まし、自分の両手を見つめた。

「ただ瘴気を抜くだけじゃなく、瘴気を栄養にする体質に書き換えておいた。これなら魔境でも生きていけるだろ?」

「あ、あり得ない……! 精霊の根源ソースそのものを書き換えるなんて……あなたは、一体……?」

リリアは震える瞳で俺を見上げ、そして隣にいるシエルを見て驚愕の声を上げた。

「シエル……!? あなた、その姿は……あの絶対に解けない死の呪いはどうしたの!?」

「このお方は、ただの人間ではありません。理を書き換える、私の絶対の【主】です」

シエルが誇らしげに胸を張る。

リリアは数秒間呆然としていたが、やがてすべてを悟ったように深く頭を下げた。

「……私の命と、この大地の未来を救っていただき、ありがとうございます。大樹の精霊リリア、以後はあなた様の眷属として、この身を捧げます」

「よろしく頼む。とりあえず、焼肉が冷めるから一緒に食おうぜ」

俺が軽く提案すると、二人の美少女精霊は感極まって泣き出しながら、美味い肉を頬張るのだった。

どうやら、俺の異世界スローライフはかなり賑やかになりそうだ。

【一方その頃】

王都の冒険者ギルドは、異様な静けさと、冷たい嘲笑に包まれていた。

「ふざけるな! この測定魔道具が壊れているに決まっている!!」

勇者ザイードの怒号が、ギルド内に響き渡る。

彼の足元には、真っ二つに割れた【ステータス測定板】が転がっていた。

「ザ、ザイード様……何度測っても結果は同じです。あなたの筋力値は【15】……一般の村人レベルです」

ギルドの受付嬢が、青ざめた顔で震えながら告げる。

「あり得ない! 俺は魔王軍の幹部を単独で討ち果たした最強の勇者だぞ! 筋力値は【10000】を超えていたはずだ!」

ザイードは受付嬢の胸倉を掴み、怒りで顔を真っ赤にして唾を飛ばした。

しかし、周囲の冒険者たちの視線は氷のように冷ややかだ。

それもそのはず、先日のゴブリン討伐クエストで、ザイードはたった三匹のゴブリンにボコボコにされ、泣き叫びながら逃げ帰ってきたのだから。

「おいおい、本当に勇者様かぁ? さっきはスライムに剣を弾かれて腰を抜かしてたらしいぜ」

「ただのハッタリだったんじゃないか? 運良く強い魔導具でも拾って、イキってただけだろ」

冒険者たちの心無い嘲笑が、ザイードの異常なまでに高いプライドを粉々に砕いていく。

「違う! 俺は天才だ! 女神に選ばれた特別な存在なんだ!!」

ザイードは狂ったように叫びながら、腰に帯びた国宝の聖剣を引き抜いた。

「見ろ! 俺の究極奥義【聖翔斬】の威力を!!」

彼は全身の魔力を込め、ギルドの端にある硬度マックスの訓練用ダミー人形に向かって剣を振り下ろした。

かつてなら、一撃でダミー人形はおろか、ギルドの壁ごと跡形もなく吹き飛ばしていた必殺技だ。

……スカッ。

「……へ?」

剣はダミー人形の表面をわずかに撫でただけで、カチンと情けない音を立てて止まった。

ダミー人形には、爪で引っ掻いたような傷すらついていない。

「ぷっ……あははははっ!」

「なんだ今の! うちの婆ちゃんが薪割りしてる時の方が、まだ殺気があるぞ!」

ギルド中が、腹を抱えての爆笑の渦に包まれる。

「な、なぜだ……どうしてこんなことに……! 俺の力が……俺の才能が……!」

ザイードは膝から崩れ落ち、頭を抱えて床に這いつくばった。

彼はまだ、まったく理解していなかったのだ。

かつての彼のステータス【10000】も、どんな攻撃も避ける【絶対回避補正】も、聖剣の【絶対破壊効果】も。

すべては、彼が「役立たずのゴミ」と見下して追放した【翻訳家】レクトが、夜な夜なシステムに不正アクセスし、こっそりと付与し続けていた【バグ】のおかげに過ぎなかったということを。

「ザイード様……私たち、もうダメかもしれません……」

パーティーメンバーの魔法使いの少女が、完全に絶望した表情でへたり込む。

「宿屋のツケも払えませんし……明日には、王室からお借りしている武具の返還期限です……」

無敵の勇者から一転、借金まみれの最弱パーティーへと転落した彼らが、王都から追放されるまで、あとわずか一日の猶予しか残されていなかった。

【キャラクター・プロフィール】

【レクト】

役割:主人公

職業:翻訳家

状況:魔境に最新設備搭載のマイホームを召喚。空間を書き換えて高級食材を錬成するなど、生活水準を極限まで引き上げている。

【リリア】(New)

役割:サブヒロイン

種族:ハイエルフ(大樹の精霊)

性格:森を愛する心優しき精霊。瘴気で消滅寸前だったところを、レクトの【バグ】によって「瘴気をエネルギーにする体質」に改造され救われる。レクトを創造神と崇め、眷属となった。

【ザイード】

役割:勇者(ざまぁ対象)

状況:レクトの裏サポートが消えたことで、本来の「村人レベル」のステータスに戻ってしまった。ギルドで無能を晒し、周囲から嘲笑され、多額の借金と武具返還の危機に瀕し、完全に精神が崩壊し始めている。

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