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第69話 【ピア・ツー・ピア(P2P)】と完全同期。数億の『私』が紡ぐ反撃のアルゴリズム

空を覆い尽くす漆黒の初期化プログラム【アビス・イーター】。

宇宙の根源システムによる無慈悲な「世界デリート」に対し、スマートシティのみならず、大陸全土の数億の市民たちが【管理者権限ルート】を分割共有し、反撃を開始した。

「すごいトラフィックです! 大陸中の市民の端末から、迎撃用のコード(祈りと魔力)が中央サーバーを経由せずに直接、敵のコアへと送信されています!」

理事長室のコンソールで、ミレナが光の奔流を示すホログラムを見上げながら叫ぶ。

「中央サーバー(ボトルネック)を排除した完全な【ピア・ツー・ピア(P2P)ネットワーク】だ。市民一人ひとりが自律的な『ノード』となり、お互いのリソースを直接やり取りして敵の攻撃を相殺している」

俺は腕を組み、窓の外で輝く黄金の防壁を見つめた。

かつては「助けられる側」だった者たちが、今は自分たちの手で世界を守っている。

スラムでその日暮らしをしていた子供たちが、高度な暗号化魔法を構築している。

心を病んで引きこもっていた職人が、VR空間から防衛兵器の動作を最適化している。

文字すら読めなかった農民たちが、DAO(分散型自律組織)の投票システムを使って、最も効率的な魔力供給ルートを瞬時に決議している。

「レクト理事長。市民たちの処理能力スペックは確かに凄まじい。しかし……」

財務顧問のアカザワが、眼鏡の奥の目を細めてデータを分析する。

「敵は宇宙の根源。データ容量が文字通り『無限大インフィニティ』です。我々の市民がどれだけリソースを束ねても、このまま削り合いを続ければ、いずれこちらの熱量モチベーションが尽きてしまいます」

その言葉を証明するかのように、アビス・イーターの放つ黒い巨兵バグ・ゴーレムの数がさらに倍増し、市民たちの黄金の防壁が少しずつ押し込まれ始めていた。

「くそっ……! 奴ら、さっきの防衛パターンの学習を完了しやがった! こっちの防御アルゴリズムが通用しなくなってきてる!」

前線で指揮を執るハッカーのザックが、通信越しに悲鳴を上げる。

「物理防御も限界です! このままでは、結界が保ちません!」

特務支援チームのコイケが大剣で黒い巨兵を叩き斬りながら叫ぶが、斬っても斬っても敵は無限に湧き出してくる。

「……やはり、無限の容量(敵)に対し、有限のリソース(人間)で『耐える』戦術はジリバッド・ノウハウだな」

俺はシステム端末の前に座り直し、最高権限のコマンドラインを開いた。

「レクト理事長? 何を……?」

「アカザワ。ビジネスでもシステム開発でも、圧倒的な資本(敵)に勝つためのセオリーは何だ?」

「それは……まともに戦わず、『ルールそのものを変える(パラダイムシフト)』ことです」

「その通りだ。奴らはこの世界を『ゴミ箱(ごみ箱フォルダ)』に叩き込もうとしている。なら、俺たちはそのゴミ箱の底をぶち抜いて、宇宙のシステム(上位レイヤー)そのものに【マージ(結合)】してやる」

俺が叩き込んだコードは、防御壁を強化するものではなかった。

逆に、市民たちとアビス・イーターを隔てていた『ファイアウォール(境界線)』を完全に解除オープンするコマンドだった。

防壁解除パージ! 全市民のトラフィックを、アビス・イーターの『削除ポート』へ全開で逆流させろ!」

「なっ……!? 結界を解くんですか!? そんなことをすれば、世界が直接デリートされてしまいますぅぅっ!」

女神アイオーンが頭を抱えてしゃがみ込む。

だが、ファイアウォールが消え、アビス・イーターの漆黒のエネルギーが街に降り注いだ瞬間。

「……消えない?」

アイオーンが恐る恐る目を開けると、街は消滅するどころか、逆に市民たちの放つ黄金の光が、漆黒のエネルギーを「飲み込んで」いた。

『エ、エラー……! 対象データの容量が、許容範囲キャパシティをオーバーしています……!』

上空のアビス・イーターから、無機質な警告音が響く。

「当然だ。俺が市民たちに送ったのは、ただの防御コードじゃない。『一人ひとりの人生の記憶、喜び、悲しみ、そして未来への希望』という、極めて複雑で圧縮不可能な【超特大の感情データ】だ」

俺は不敵に笑った。

「宇宙のシステムよ。お前は俺たちを『もう進化しない単調なゴミデータ』と判定して、一括削除デリートしようとした。だが、自由を手に入れた数億人の人間の『個性オリジナリティ』は、お前のキャッシュメモリで処理しきれるほど軽くはないぞ」

市民たちから放たれた「自分らしく生きる」という圧倒的な感情のデータ(ビッグデータ)が、アビス・イーターの削除ポートを逆流し、宇宙の根源システムのメモリを完全にパンクさせたのだ。

『処理不能……! 処理不能……! スタックオーバーフローが発生……! 自己崩壊モードに移行します……!』

「さあ、みんな! これが最後の一撃だ! 俺たちの世界を、宇宙の中心に【デプロイ(本番環境へ移行)】するぞ!」

俺の号令とともに、カメイ、ザック、エル、コイケ……数億の市民たちが、最後のエクスキュート(実行)ボタンを一斉に叩き込んだ。

眩い光が宇宙の裂け目を突き抜け、漆黒のアビス・イーターを内部から完全に粉砕クラッシュした。

そして光が収まった後。

空にはもう、黒い裂け目も、押し付けがましい神の魔法陣もなかった。

そこにあったのは、どこまでも高く、澄み切った無限の青空だけだった。

「……終わった、のか?」

アカザワが、モニターに表示された『エラー検出:ゼロ』の表示を見て呟く。

「ああ。俺たちの世界はもう、何者にも初期化されることのない、真の【独立サーバー(自由な世界)】になったんだ」

歓喜の声が、スマートシティから、そして大陸全土から沸き起こる。

いよいよ次話。

異世界を「日本創紀学園」のシステムで完全にアップデートした俺たちが、最後に辿り着く究極の「伴走支援」の形。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:圧倒的な力を持つ宇宙の削除プログラムに対し、「防御」ではなく「超大容量の感情データの逆流」という前代未聞のハッキング(DDoS攻撃に近い手法)を敢行。宇宙の根源システムをパンクさせ、世界を完全な独立環境(自律世界)へと導いた。

市民たち(数億人の卒業生)

役割:共同管理者

状況:一人ひとりの「自分らしく生きたい」という願い(非圧縮データ)が最大の武器となり、宇宙の初期化プログラムを論理崩壊させた。彼らこそが、この世界を救った真の勇者たちである。

アビス・イーター

役割:宇宙の根源システム(デリート完了)

状況:人間の感情と個性のデータビッグデータを甘く見積もった結果、メモリ不足によるフリーズと自己崩壊を起こし、宇宙のチリとなって消滅した。

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