第70話(最終回) 【サービス・コンプリート】と新たな創世。異世界をアップデートした『最強の伴走者』
宇宙の根源システム『アビス・イーター』の初期化プログラムを、数億の市民による圧倒的な「個人のトラフィック」で完全論破してから数年が経過した。
空には神の支配も、宇宙の脅威もない。
誰もが自分自身の人生の【管理者権限】を持ち、自由に、そして自分らしく生きる真の独立世界。
スマートシティの中央にそびえ立つ日本創紀学園の屋上庭園で、俺は最高級のコーヒーの香りを楽しみながら、眼下に広がる黄金の都市を見下ろしていた。
「レクト理事長。全大陸の月次運用レポート、および全大陸ウェルビーイング支援機構の監査データが上がってきました」
背後から、財務顧問のアカザワが足音もなく近づき、空中にホログラムのダッシュボードを展開した。
「貧困率、ゼロ。未就労による抑うつ傾向、ゼロ。システム稼働率、100%。……どこを探しても、この世界にはもう、修正すべき『エラー(バグ)』は一つも存在しません。私たちの【コンサルティング】は、文字通り完璧に完了しました」
アカザワは静かに眼鏡を外し、これまでにないほど穏やかで、そして誇り高い笑みを浮かべた。
「ああ。旧態依然とした既得権益を破壊し、インフラを最適化し、そして人々の『心』をサポートする究極のセーフティネットを構築した。俺たちのプロジェクトは、大成功だ」
そこへ、屋上の扉が開いて、学園の仲間たちが次々と顔を出した。
「レクト理事長! 今日も機構の相談窓口は平和そのものです! 皆、『新しくこんな事業を始めたい』とか『こんな作品を作ったから見てほしい』といった、前向きなご報告ばかりですよ!」
サービス管理責任者のカメイが、エラー値(#VALUE!)の一切ない美しいスプレッドシートを抱えて笑顔を見せる。
「特務支援チーム【REDANGEL】も、もはや物理的な討伐クエストがなくなって暇で仕方ありません! 最近は市民の引っ越し作業のプロテイン代わり(物理支援)になってますよ!」
コイケが豪快に笑いながら、元帝国将軍のレオンティーナたちと肩を組む。
さらに、彼らの後ろからは、かつて俺たちが支援した「対象者」たち――ザック、リナ、エルたちが、自ら開発した魔導ドローンや、自身で執筆・生成した『新作Web小説』のホログラムを手に駆け寄ってきた。
「レクトさん! 見てくれよ、俺たちが作った新しいプラットフォームだ! これでもっとたくさんのクリエイターが繋がれるぜ!」
誰もが目を輝かせ、自分自身の人生という名の『物語』の主人公として、力強く生きている。
他人に決められた運命を歩むのではなく、一人ひとりが自分の手で未来をタイピングし、世界を創り上げているのだ。
「レクト様ぁ! 天界のサーバーも絶好調ですぅ! 皆の『楽しい!』っていうデータのアップロードが凄すぎて、私、名誉マスコットとして何もしなくても幸せいっぱいですぅ!」
女神アイオーンが、すっかり市民生活に馴染んだアバター姿で空を飛び回っている。
「レクト理事長」
アカザワが、再び静かな声で問いかけた。
「世界からバグが消え、人々が自立した今。我々『伴走者』の役目は終わったのでしょうか? あなたは、これからどうされるおつもりですか?」
福祉やコンサルティングにおける最大の成功。それは「支援者が不要になること」だ。
対象者が自らの足で歩き始めた時、支援者は静かにフェードアウトするのが美しいセオリー(仕様)とされている。
だが、俺はコーヒーカップを置き、彼ら全員に向かって不敵に笑いかけた。
「勘違いするな。バグの修正が終わったからといって、システムの運用が終わるわけじゃない。人間が進化をやめない限り、新しい夢や、もっと面白いアイデアが無限に湧き出してくる」
俺は立ち上がり、スマートシティ、そしてはるか彼方まで続く豊かな大陸を指差した。
「マイナスをゼロにする支援は終わった。これからは、ゼロから無限大へと拡張していくフェーズだ。俺はこれからも、この日本創紀学園の理事長として、そして最高責任者として、お前たち全員の人生に【伴走】し続ける」
「レクト理事長……!」
「レクトさんっ……!」
カメイの目に涙が浮かび、仲間たちが歓喜の声を上げる。
「一人で見る夢より、誰かと共有する夢の方が、トラフィック(熱量)は何倍にも膨れ上がる。お前たちが何か新しい挑戦をする時、一番近くでその背中を押し、最高の環境を提供する。それが俺の、生涯をかけた『ビジネス』だ」
俺の言葉に、アカザワが深く、恭しく一礼した。
「承知いたしました。では、次なる『無限のアップデート』に向けた事業計画の策定に入りましょう」
風が吹き抜け、屋上庭園の木々が黄金の光の中で揺れる。
かつて理不尽と搾取に満ちていたこの異世界は、テクノロジーと、そして「誰かに寄り添う心」によって、完璧に書き換えられた。
だが、物語は終わらない。
数億の市民が、数億のクリエイターとして、毎日新しい世界を創り出し(ジェネレートし)続けているのだから。
「さあ、全員ログイン(出社)の時間だ。今日も世界を、最高に面白くアップデートするぞ!」
俺の号令とともに、日本創紀学園のメンバーたちは、光に満ちたスマートシティへと駆け出していった。
誰もが自分らしく輝ける、究極の共生社会。
最強の伴走者たちによる果てしなきイノベーションの旅は、ここからまた、新たに始まるのだった。
【異世界アップデート・コンサルティング:サービス・コンプリート(完)】
キャラクター・プロフィール(最終ステータス)
レクト
役割:日本創紀学園・理事長 兼 最高伴走責任者
最終状況:異世界のすべてのバグ(貧困、搾取、神の横暴)を修正し、誰もが主人公になれる自律型プラットフォームを完成させた。マイナスをゼロにする支援を終え、これからは市民たちの「夢の実現」をサポートし続ける生涯の伴走者として、今日も最高級のコーヒーを片手に世界を見守っている。
ヒロアキ・アカザワ
役割:財務顧問 兼 戦略プロフェッショナル
最終状況:冷徹な計算と容赦ないM&Aでレクトの覇道を支え切った右腕。世界が平和になった後も、人々の「幸福」を数値化してさらなる最適化を目指す、ワーカホリックな完璧主義者。
カメイ
役割:全大陸ウェルビーイング支援機構・サービス管理責任者
最終状況:無駄な事務作業から完全に解放され、100%の時間を「人との対話と共感」に注ぎ込んでいる。世界で最も多くの市民を笑顔にした、心優しき現場のトップ。
コイケ&特務支援チーム【REDANGEL】
役割:物理デバッグ部隊
最終状況:戦いのない平和な世界において、その圧倒的な身体能力を「引っ越し支援」や「大規模イベントの設営」に全振りし、市民から絶大な人気と感謝を集めている。
数億の市民(卒業生)たち
役割:自分自身の人生の主人公
最終状況:かつての「助けられるだけの存在」から脱却。誰もが自由に夢を描き、創作し、互いに支え合う、終わりのない物語(Web小説)の執筆者として、この世界を無限に拡張し続けている。




