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第59話 【フィンテック(地域通貨)】と行動経済学。強欲銀行を駆逐する『スマート・トークン』の経済圏

テレワークとVRメタバースの導入により、身体的な制約や心の壁を抱える人々までもが社会の主役となり始めたスマートシティ。

5月も半ばを過ぎ、都市の経済規模は隣接する王国や帝国を凌駕するほどに膨れ上がっていた。

しかし、急速な経済発展の裏で、新たな「搾取の構造」が牙を剥いていた。

「レクト理事長。王都の『帝国中央銀行』から派遣された徴税官たちが、旧市街の商店主や学園の卒業生たちが運営する小規模事業に対し、不当な高利貸しと複雑怪奇な手数料を課しています」

理事長室で、財務顧問のアカザワが怒りを通り越して冷徹な笑みを浮かべながら、一枚の「紙」の契約書を提示した。

「彼らは『法定通貨ゴールド』の流通を独占していることを盾に、決済手数料として売上の30%を徴収し、さらには紙の通帳の維持費と称して、預金から勝手にお金を引き落としています。まさに合法的な略奪です」

「決済手数料30%に、預金の勝手な引き落とし……。前時代の銀行レガシー・バンクがやりそうな、最も質の悪いビジネスモデルだな」

そこへ、旧市街の商店街でパン屋を営む青年、テオが駆け込んできた。

「レクト理事長! 助けてください! 銀行に『利息の利息』を請求され、このままでは店を畳むしかありません! 一生懸命働いても、すべて銀行に吸い取られてしまうんです!」

テオの目には絶望の色が浮かんでいた。

彼のような真面目な労働者が、不透明な金融システムによって収奪される。それは、俺が目指す「誰もが豊かに暮らせる社会」に対する真っ向からの挑戦だった。

「テオ。もうその汚い紙のコインや通帳を使うのはやめろ。俺たちが、銀行という中間業者を完全に排除した『新しいお金の形』を作ってやる」

俺はシステムのメインコンソールを展開し、全市民の端末に新たな金融アプリケーションをデプロイした。

「中央集権的な銀行を介さない、ブロックチェーンベースの地域通貨……【スマート・トークン『エール』】の流通を開始する」

ピィンッ!

「今日から、この都市の決済はすべてQRコードによるデジタル決済へ移行する。手数料は完全無料。そしてこの『エール』には、行動経済学に基づいた【ナッジ(賢い後押し)】の仕組みが組み込まれている」

【翌日・旧市街の商店街にて】

「ガハハハハ! おい、パン屋のテオ! 今月の『通貨流通税』と『金庫保管料』を払ってもらおうか!」

帝国中央銀行の支店長、モルドレッドが、私兵を連れてテオの店に現れた。

「モルドレッドさん。残念ですが、あなたに払うゴールドはもう一枚もありません。うちは今日から、学園の【スマート・ペイ】しか扱わないことにしたんです」

テオが自信満々にスマホ(魔導端末)を掲げると、そこには燦然と輝く『エール』の残高が表示されていた。

「な、なんだその怪しい板切れは!? そんな子供だましの数字が、本物の金貨の代わりになるはずがなかろう!」

「いいえ。この『エール』は、街の清掃活動に参加したり、健康診断を受けたりといった『社会貢献』をするたびに、AIが自動でボーナス(インセンティブ)を付与してくれるんです。しかも、街のどのお店でも1エール=1ゴールドとして、手数料なしで使えるんですよ」

商店街のあちこちで、市民たちが「ピッ」という軽快な音と共に、QRコードでパンや野菜を買っている。

彼らの端末には、『地元の店で買い物をしたため、キャッシュバック5%発生!』という通知が次々と届いていた。

「ば、馬鹿な! 手数料を取らずに、どうやってシステムを維持しているのだ!」

「データだよ、モルドレッド」

俺とアカザワ、そして特務支援チームのコイケが、商店街の雑踏から姿を現した。

「俺たちが欲しいのは手数料という名の端た金じゃない。人々が『いつ、どこで、何を必要としているか』という【経済動態のリアルタイム・データ】だ。このデータがあれば、在庫のロスをなくし、物流を最適化できる。その利益を市民に還元キャッシュバックしているだけだ」

「お、おのれ……! そんなことをされたら、我ら銀行の特権が……!」

逆上したモルドレッドが、私兵に命じてテオの端末を奪おうとした、その瞬間。

「対象者の公正な経済活動を妨害する『不当な徴収エラー』は、我々が排除する!」

コイケが神速の動きで私兵たちを制圧し、モルドレッドを路地裏の壁へと叩きつけた。

「モルドレッド支店長。あなたが裏で行っていた『帳簿の二重改ざん』と、預金の私的流用の証拠……ブロックチェーンの透明性の前には、隠し通せませんでしたよ」

アカザワが冷徹に眼鏡を光らせ、王国の金融監査局(俺たちの息がかかった新勢力)への通報ログを送信した。

「ひ、ひぃぃぃっ!? わ、私の築き上げた金貨の山がぁぁぁっ!」

モルドレッドは、自分が支配していたはずのゴールドが、デジタル通貨の波に飲み込まれて無価値になっていく絶望の中で、衛兵に連行されていった。

【数日後】

「レクト理事長! 見てください、商店街がかつてないほど活気に満ち溢れています!」

カメイが、タブレットで集計された経済指標を見せてくれた。

地域通貨『エール』の導入により、お金が街の中でぐるぐると回り(地産地消)、ボランティア活動や健康増進といったポジティブな行動が爆発的に増えていた。

「『善い行い』をすればするほど、自分も街も豊かになる。行動経済学による設計が、完璧にワークしているな」

俺はテオの店で買った、焼き立てのクロワッサンを頬張った。

「レクト理事長、次は『エール』を使った【ソーシャル・インパルス・投資】のプラットフォームを構築しましょうか。若者の夢に、市民が直接デジタル投資できる仕組みです」

アカザワが不敵に笑う。

「ああ、いいな。銀行の審査バイアスを通さず、みんなの『応援』で新しい才能を育てる。それが俺たちの選ぶ、未来の経済エコシステムだ」

強欲な中間搾取をテクノロジーで粉砕し、人々の善意と活力を正当な価値へと変換する。

日本創紀学園がもたらすフィンテック革命は、異世界の「お金」という概念そのものを、温かく希望に満ちたものへとアップデートしていくのだった。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:銀行による搾取を止めるため、ブロックチェーン技術を用いた地域通貨【スマート・トークン『エール』】を導入。行動経済学ナッジを取り入れ、社会貢献がそのまま個人の利益になる「善意の経済圏」を構築した。

ヒロアキ・アカザワ

役割:財務顧問

状況:デジタル通貨の透明性を利用し、旧来の銀行の不正(二重帳簿)を秒速で暴露。手数料ビジネスを破壊し、データ利活用による新たな収益モデルを確立した。

テオ(New)

役割:旧市街のパン屋店主(支援対象者)

状況:銀行の高利貸しに苦しんでいたが、地域通貨の導入により経営がV字回復。現在は「街の清掃活動」で貯めたトークンで、新しいオーブンを購入する計画を立てている。

モルドレッド(New)

役割:帝国中央銀行支店長(ざまぁ完了)

状況:通貨流通の独占と不透明な手数料で暴利を貪っていた。レクトのデジタル通貨に客をすべて奪われ、自身の不正も暴かれて一文無しで逮捕された。

コイケ(REDANGEL)

役割:特務支援チーム・リーダー

状況:フィジカルな徴税(略奪)を行おうとした私兵を瞬殺。現在は「エール」を使って、チームのプロテイン購入代金をキャッシュバックで浮かせることにハマっている。

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