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第54話 【クラウド監査】と実地指導。完全電子化された『サービス提供記録』

空飛ぶMaaS(オンデマンド交通)の導入により、都市間ネットワークが完成したスマートシティ。

春の陽気が心地よい4月20日、俺たちは朝から少しばかり緊張感のある空気に包まれていた。

この日、学園がコンサルティングとシステム提供を行っているクライアントの福祉施設において、王国当局による「実地指導(行政監査)」が予定されていたからだ。

「レクト理事長。王国の監査官であるジャイルズ氏が到着しました」

財務顧問のアカザワが、タブレットでスケジュールの確認をしながら報告してくる。

「ああ。あくまで今回は俺たちの直営施設ではなく、クライアントの施設への監査だ。だが、俺たちがシステムを提供している以上、絶対に指一本触れさせるわけにはいかない」

【クライアントの福祉施設・応接室にて】

「ふん! 随分と小綺麗な施設だが、福祉の現場たるもの、血と汗と泥にまみれた『紙の記録』があってこそ! 魔導具に頼るような輩の仕事など、到底信用できん!」

応接室のソファにふんぞり返り、嫌味な笑いを浮かべているのは、王国厚生省の悪徳監査官・ジャイルズだった。

彼は「書類の不備」という難癖をつけては施設を脅し、賄賂を要求することで有名な男だ。

「さあ! まずは直近半年分の『サービス提供記録』と『個別支援計画書』の原本を全部ここへ出せ! それから、9月に作成したという『新サービスガイド』も見せてもらおうか!」

ジャイルズが机をバンッと叩いて威圧する。

そこへ、この施設のコンサルティングと管理支援を任せている優秀なスタッフ、カメイが静かに進み出た。

「ジャイルズ監査官。まず訂正させていただきますが、当施設が配布しているパンフレットは『新サービスガイド』ではなく、シンプルに『サービスガイド』です。正しい広報資料はこちらのデータをご覧ください」

カメイが差し出したのは、分厚い紙の束ではなく、薄型で高性能な一枚のタブレット端末だった。

「な、なんだこの板切れは!? 私は紙の原本を出せと言っているのだ!」

「当施設では、すべての記録を【クラウド・フォーム】と【スプレッドシート】で完全電子化し、デジタルで保管しております」

俺はカメイの隣に立ち、システム画面を空中に展開した。

「スタッフが現場の端末からフォームで入力した日々のサービス提供記録は、リアルタイムでスプレッドシートに集計(同期)される仕組みだ。アナログな転記作業は一切存在しないため、ヒューマンエラーによる書き損じも、計算式が壊れて【#VALUE!】エラーを吐き出すようなバグも完全にデバッグ(修正)済みだ」

「ば、馬鹿な! そんな魔導具のデータなど、後からいくらでも改ざんできるだろうが!」

ジャイルズが顔を真っ赤にして喚くが、俺は冷たく笑い返した。

「改ざんだと? 逆だ。紙の書類こそ、後からいくらでもハンコを押して捏造できる一番信用ならない媒体だろ」

俺は空中のホログラムを操作し、記録データのプロパティを表示させた。

「このシステムの全ログは【ブロックチェーン】に刻まれている。誰が、いつ、どこで入力し、誰が承認したのか、タイムスタンプ付きで1ミリ秒の狂いもなく不可逆的に記録されているんだ。改ざんは物理法則レベルで不可能だ」

「なっ……!?」

ジャイルズは食い下がるように、タブレットの画面を凝視し、必死に粗探しを始めた。

しかし、カメイの主導によって完璧に設計された『個別支援計画』と、それに基づく日々の記録は、一言一句の矛盾もなく、あまりにも美しく最適化されていた。

「く、くそっ……! サインの漏れも、時間の計算ミスも、何一つないだと……!? これでは、難癖をつけて賄賂を要求できないではないか……!」

ジャイルズが小声でギリッと歯ぎしりをした、その時だった。

「対象者の公正な事業運営を脅かす、悪質な監査官マルウェアの不正は、我々が暴く!」

真紅のコートを纏った特務支援チームのコイケとミクニが、応接室の扉を開けて入ってきた。

「な、なんだお前たちは!」

「ジャイルズ監査官」

アカザワが眼鏡を押し上げ、冷徹な声で告げた。

「あなたが他施設の監査の際、『書類の不備を見逃す代わり』として受け取っていた裏金……その全トランザクション(取引履歴)を、我々のAI監査システムがすでに特定しております」

「ひぃぃっ!?」

空中に投影されたのは、ジャイルズの隠し口座のデータと、賄賂の生々しいやり取りのログだった。

「福祉という、最も対象者に寄り添うべき制度を私腹を肥やすために使う。……一番タチの悪いバグ(寄生虫)だな」

俺が見下ろすと、ジャイルズは白目を剥いて膝から崩れ落ちた。

「お、おわりだ……。私の完璧な権力が、こんな板切れ一つに……」

コイケとミクニによって、ジャイルズはあっという間に拘束され、王国へと連行されていった。後日、彼は横領と職権濫用の罪で裁かれることになるだろう。

「レクト理事長、ありがとうございました。おかげで、クライアントの施設も無事に実地指導をクリアできました」

カメイがほっとした表情で頭を下げる。

「お前の日頃の完璧なサービス管理の賜物だ。ITシステムはあくまでツールに過ぎない。そこに魂を入れるのは、現場で対象者と向き合うお前たちだからな」

紙とハンコという前時代的な鎖を断ち切り、透明で完璧なデータによって正しさを証明する。

日本創紀学園がコンサルティングする福祉ネットワークは、いかなる権力の横暴も寄せ付けない、真の意味での「聖域」として機能し続けるのだった。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:クライアント施設の実地指導において、完全電子化されたスプレッドシートとクラウド・フォームの威力を発揮。計算エラー(#VALUE!)すらない完璧なシステムで、悪徳監査官の難癖を論破した。

カメイ

役割:サービス管理責任者

状況:クライアント施設へのコンサルティングを現場で取り仕切るプロ。正しい「サービスガイド」の運用と、完璧な個別支援計画のデータ管理で、監査官に付け入る隙を一切与えなかった。

ジャイルズ(New)

役割:王国厚生省の悪徳監査官(ざまぁ完了)

状況:紙の書類の粗探しをして賄賂を要求するレガシーな役人。ブロックチェーンで守られた完璧な電子記録の前に敗北し、逆に自分の裏金の記録を暴かれて失脚した。

アカザワ

役割:財務顧問

状況:不正な資金の流れを絶対に許さない男。AI監査を用いて敵の懐を丸裸にし、スマートに引導を渡すサポートを行った。

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