第53話 【オンデマンド交通(MaaS)】と流通革命。利権に群がる馬車ギルドの終焉
冒険者ギルドが解体され、ギグワーク・プラットフォームが普及したことで、スマートシティと周辺都市との経済活動はかつてないほどの流動性を獲得した。
誰もが自由に働き、正当な報酬を得て、豊かな生活を享受している。
しかし、人やモノの動きが活発になるにつれ、新たなボトルネック(渋滞)が発生し始めていた。
ある日の朝。
学園の総合支援施設『ナゴミナ』のサービス管理責任者であるカメイが、困り果てた顔で理事長室へ駆け込んできた。
「レクト理事長! 大変です! 王都から施設へ向かう予定だった『重度訪問介護』のスタッフたちが、誰も到着していません!」
「到着していない? 以前導入した【ナビ・プラス】で、旧市街の迷路のような道も最適化されているはずだが」
「道が分からないのではありません。彼らを乗せてくるはずの『乗り物』そのものが、完全にストップしているのです!」
カメイがタブレットを操作し、王都のターミナル駅の映像を投影する。
そこには、足止めを食らって立ち往生している数千人の市民たちと、彼らを見下ろすようにして道を封鎖している、巨大な『馬車ギルド』の男たちの姿があった。
「なんだこりゃ。ストライキか?」
財務顧問のアカザワが眼鏡を押し上げる。
「ええ。王都の交通を独占している『鋼鉄の蹄』ギルドです。彼らは最近、学園の都市が発展して人の移動が増えたことに目をつけ、突如として『乗車料金の10倍への値上げ』を強行しました。払えない市民は乗せない、と物理的にターミナルを封鎖しているのです」
「完全な独占状態による価格の吊り上げか」
俺は冷たく言い放った。
「インフラを人質に取って私腹を肥やす。一番やってはいけないレガシー(時代遅れ)な利権ビジネスだな」
「どうしますか、レクト理事長。このままでは、介護スタッフだけでなく、都市間の物流や通勤・通学の足が完全に麻痺してしまいます」
「馬車ギルドが道を塞ぐなら、俺たちが新しい『道』と『足』を作ればいいだけだ」
俺はシステムのコンソールを展開し、都市全域のネットワークに新たなサービスをコンパイルした。
【Execute:Mobility_as_a_Service(MaaS:次世代モビリティ・プラットフォーム)】
ピィンッ!
「今日から、この大陸の交通インフラは【MaaS】へと移行する。馬車というアナログな乗り合いシステムは、完全にオワコンだ」
俺がエンターキーを叩いた瞬間、スマートシティの各所に設置されていた魔導ステーションから、無数の無人車両(自動運転魔導カート)が一斉に発進した。
【その頃・王都のターミナル駅にて】
「ガハハハハ! いいかお前ら! どうしても仕事に行きたければ、これまでの10倍の金貨を払って俺たちの馬車に乗れ!」
馬車ギルド『鋼鉄の蹄』のマスター、ボアロが、絶望する市民たちに向けて高圧的に言い放っていた。
「そ、そんな法外な金額、払えるわけがありません! お願いです、今日だけは乗せてください! ナゴミナで私を待っている利用者さんがいるんです!」
介護スタッフの一人が涙ながらに懇願するが、ボアロは冷酷に彼女を突き飛ばした。
「知るか! 貧乏人は歩いて行け! この大陸の道は、俺たち馬車ギルドの許可がなければ一歩も……」
ボアロが言いかけた、その時だった。
『プップー! お待たせいたしました! 迎車でございます!』
空から音もなく舞い降りてきたのは、ピカピカに磨き上げられた流線型の【無人・魔導エアロカー】の群れだった。
それらは市民たちの目の前にピタリと停車し、自動でドアを開けた。
「な、なんだこの鉄の箱は!?」
ボアロが目を剥く。
エアロカーから降りてきたのは、真紅のコートを羽織った【REDANGEL】のコイケだった。
「対象者の移動の自由を奪う交通独占は、我々が排除する!」
コイケは呆然とする介護スタッフたちに、タブレット端末を差し出した。
「お待たせしました。これからは、この【配車アプリ】を使ってください。現在地と目的地を入力すれば、AIが最適なルートを計算し、一番近くにいる無人車両(MaaS)が数分で迎えに来ます」
「えっ……? こ、これに乗れば、ナゴミナまで行けるんですか? でも、お高いんでしょう……?」
「料金は、これまでの馬車代の『10分の1』です。しかも、支払いはアプリ上でエールコイン(暗号資産)で自動決済。運転手がいませんから、人件費もかからず、24時間年中無休で稼働します」
「じゅ、十分の一!? しかもドアツードアで!?」
市民たちは歓喜の声を上げ、次々と快適なエアコン完備のエアロカーに乗り込んでいく。
アプリの画面には「〇分後に到着します」という正確なETA(到着予想時間)が表示され、エアロカーは馬車ギルドが封鎖している地上ルートを完全に無視して、空のハイウェイへと飛び立っていった。
「ま、待て! 勝手に客を乗せて空を飛ぶな! 俺たちの利権がぁぁっ!」
ボアロが地団駄を踏んで喚くが、誰も彼に見向きもしない。
わずか数十分で、数千人の市民たちはすべてエアロカーによって目的地へと運ばれ、ターミナル駅には大量の馬糞と、ボアロたちだけが取り残されてしまった。
【日本創紀学園・理事長室】
「……というわけで、馬車ギルドのストライキ(物理的封鎖)は、空飛ぶMaaSの導入により完全に無力化されました」
アカザワが、タブレットの交通データを見ながら冷たく笑う。
「当然だな。利権にしがみついてサービス向上を怠る既存産業は、破壊的イノベーション(ディスラプション)の前に滅びる運命にある」
俺はコーヒーを飲みながら、都市の上空を整然と飛び交うエアロカーの光跡を眺めた。
「これで、高齢者や障害を持つ市民たちも、ボタン一つでいつでもどこへでも移動できるようになった。真の【オンデマンド交通】の完成だ」
「はい。カメイ責任者からも『スタッフ全員が無事に到着し、重度訪問介護のサービスも予定通り提供できました』と感謝の報告が入っております」
俺たちが生み出すテクノロジーは、ただ便利なだけでなく、人々の「会いたい人に会える」「行きたい場所に行ける」という、最も根源的な自由と尊厳を守り抜く。
「よし。次は都市間の長距離物流(ドローン配送)の最適化に手をつけるか」
日本創紀学園がもたらすモビリティ革命は、大陸の距離という概念そのものを消滅させ、人々をかつてないほど強く、優しく繋いでいくのだった。
キャラクター・プロフィール
レクト
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:交通を独占して価格を吊り上げる馬車ギルドに対し、【配車アプリ】と【無人・魔導エアロカー】を用いたMaaS(オンデマンド交通システム)を導入。空のルートを開拓することで、旧来の利権を完全に無力化し、市民の「移動の自由」を確保した。
カメイ
役割:総合支援施設『ナゴミナ』のサービス管理責任者
状況:スタッフが足止めを食らいサービス提供の危機に陥るが、レクトのMaaS導入により事なきを得る。交通インフラの重要性を肌で感じ、施設の送迎システムのAI化に意欲を燃やしている。
ボアロ(New)
役割:馬車ギルドマスター(ざまぁ完了)
状況:ターミナルを封鎖して乗車料金を10倍に吊り上げようとしたが、レクトの空飛ぶ無人車両に客を全員奪われ、完全なオワコンに。現在は維持費の払えなくなった馬車の処理に追われ、自己破産の手続きを進めている。




