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第52話 【ギグ・エコノミー】と冒険者ギルドの崩壊。

搾取をなくす『スマートコントラクト』と『労災保険』

日本創紀学園が統治する完全環境都市スマートシティは、犯罪予測システムと就労支援によって、ついに「犯罪率ゼロ・失業率ゼロ」という前人未到の記録を打ち立てた。

だが、都市の経済圏が拡大し、外の世界(旧市街や近隣諸国)との交流が活発になるにつれ、旧来のシステムとの【互換性の欠如コンフリクト】が浮き彫りになってきた。

ある日の午後。

学園が運営するメディカルセンターの前に、泥だらけの少女が放り出されるようにして倒れ込んだ。

「痛いっ……! お願いです、治癒魔法を……!」

足を骨折し、ひどい怪我を負っているのは、旧市街を拠点とする若きDランク冒険者の少女、リナだった。

彼女を冷たく見下ろしているのは、恰幅の良い、宝石をジャラジャラと身につけた男――旧市街の『冒険者ギルド』を牛耳るギルドマスター、ガストンだ。

「ふん! たかがゴブリン数匹の討伐クエストで怪我をするなど、お前の自己責任だろうが! ギルドはクエストの斡旋はするが、治療費まで出す義務はない!」

「そ、そんな……! 事前のギルドの調査では『ゴブリン3匹』という話だったのに、実際は上位種のホブゴブリンの群れがいたんです! これはギルドの情報伝達ミス(エラー)じゃありませんか!」

リナが涙ながらに抗議するが、ガストンは鼻で笑った。

「うるさい! 文句があるならギルドを辞めろ! お前らのような使い捨ての駒(下級冒険者)の代わりなど、いくらでもいるんだ!」

ガストンがリナを蹴り飛ばそうとした、その時。

「対象者の不利益を放置するブラックな労働環境(コンプライアンス違反)は、我々が是正する!」

特務支援チーム【REDANGEL】のコイケが間に割って入り、ガストンの足を弾き返した。

同時に、医療チームがリナを保護し、瞬時にポーションと治癒魔法で骨折を完治させる。

「な、なんだお前たちは! 我々冒険者ギルドの内部事情に口出しする気か!」

喚くガストンの前に、俺と財務顧問のアカザワが歩み出た。

「内部事情ねえ」

俺はタブレットを操作し、ギルドの依頼書と報酬のデータを空中に投影した。

「アカザワ。このギルドマスターがやっているビジネスモデルの『利益率』を計算してみろ」

「はい」

アカザワが眼鏡を押し上げ、冷徹な声で告げた。

「依頼主から受け取った報酬額に対し、実際に冒険者に支払われているのは、わずか『20%』。残りの『80%』は、紹介料や施設維持費という名目で、すべてこのガストン氏が【中抜き】しています」

「は、はちじゅうぱーせんと……!?」

治療を受けたリナが、驚愕で目を見開く。

「な、なんだと! 当然だろうが! 依頼主と冒険者を繋ぐマッチングには、私のような権威ある仲介者が必要なのだ! リスクは冒険者が負い、利益はピンハネする! それが古き良き異世界の常識だ!」

「本当に時代遅れ(レガシー)だな」

俺はため息をついた。

「圧倒的な中間マージンを搾取し、労働者には一切の保証を与えない。そんな腐ったプラットフォームは、今日でサービス終了シャットダウンだ」

俺はシステムのコンソールを展開し、都市全域、そして近隣の全市民の端末に新たなアプリケーションを一斉送信した。

【Application_Start:Gig-Worker_Platform(ギグワーク・プラットフォーム『クエスト・マッチ』)】

ピィンッ!

「今日から、仕事の依頼はすべてこのアプリで行う。依頼主と冒険者を直接繋ぐ【P2Pマッチング(ギグ・エコノミー)】だ」

「な、なんだその板切れのシステムは!」

「仕組みは簡単だ。依頼主がアプリで『ゴブリン討伐』を募集すると、近くにいる手の空いた冒険者に直接通知が飛ぶ。ギルドのような中間業者がいないから、中抜き(手数料)はサーバー維持費のわずか『1%』のみ。つまり、冒険者の取り分は【99%】だ」

「きゅ、きゅうじゅうきゅう……!? 今までの5倍以上の報酬が、私の手元に!?」

リナが信じられないという顔で端末を見る。

「それだけじゃない」

俺はさらに、システムに組み込まれたもう一つの機能をアクティベートした。

「報酬の支払いは、ブロックチェーンによる【スマートコントラクト(自動契約執行)】で管理される。依頼主が事前に報酬を『エスクロー(第三者預託)』としてシステムに預け、クエスト完了のログが確認された瞬間に、自動で冒険者の口座に振り込まれる。つまり『報酬の未払い』は物理的に発生しない」

さらに俺は、リナの肩に手を置いた。

「そして、その1%の手数料は、すべて【労災保険ワーカーズ・コンプ】のプール金として運用される。万が一、クエスト中にリナのように怪我をした場合は、端末のSOSボタン一つで【REDANGEL】のドローンが即座に急行し、治療費と休業補償が全額、自動で支払われる仕組みだ」

「ほ、保険……休業補償……! 私が怪我をしても、見捨てられない……!?」

リナの目から、ボロボロと涙が溢れ出した。

使い捨ての道具として扱われてきた彼女たち下級冒険者にとって、それはまさに神の救済セーフティネットだった。

「さあ、リナ。もうあんなブラックギルドに所属する必要はない。お前は今日から、完全に自由で守られた『フリーランス』だ」

「はいっ……! 私、レクト理事長のシステムで、胸を張って働きます!」

【そして三日後】

「だ、誰も来ない……! 依頼主も、冒険者も……一人もギルドに来ないだとぉぉっ!?」

豪華なギルドのマスター室で、ガストンは頭を抱えて絶叫していた。

当然である。

依頼主からすれば「手数料が安く、有能な冒険者がすぐに見つかるアプリ」の方が圧倒的に良く、冒険者からすれば「報酬が5倍で、労災保険までついているアプリ」を選ぶに決まっている。

わずか三日で、ガストンの冒険者ギルドは完全に【オワコン】となり、誰も寄り付かなくなってしまったのだ。

「ええい、ふざけるな! あの生意気な学園長め……! こうなったら、裏の傭兵を雇って、あの街のサーバーとやらを物理的に破壊してやる!」

ガストンがヤケクソになって剣を抜き、雇ったゴロツキたちと共に学園へ乗り込もうとした、その時。

「対象者の自由な経済活動を妨害する独占禁止法違反エラーは、我々が物理的に排除する!」

天井のガラスをぶち破って、レオンティーナが大剣を構えて降ってきた。

その圧倒的な武威(ステータス暴力)の前に、ゴロツキたちは一瞬で泡を吹いて気絶する。

「ひぃぃぃっ!?」

腰を抜かしたガストンの前に、アカザワが分厚いファイルの束(電子データ)をドサリと落とした。

「ガストン氏。あなたがこれまで冒険者たちから不当に搾取していたマージンの証拠と、脱税の記録はすべて【クラウド監査AI】が特定済みです」

「お、終わりだ……。私の黄金の帝国が……」

ガストンは完全に白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

「ガストン氏。あなたの隠し財産はすべて没収し、被害に遭った冒険者たちへの慰謝料として還元させてもらいます。そしてあなた自身には……」

俺が冷たく見下ろす。

「借金を返すため、今日からアプリに登録して【Eランクのギグワーカー(日雇い)】として街の清掃クエストを死ぬまでこなしてもらおうか。安心しろ、労災保険には入れてやる」

「そ、そんなぁぁぁぁっ!」

こうして、中間搾取を行うブラックな冒険者ギルドは完全に解体された。

「レクト理事長! 今日のクエストも無事に完了しました!」

スマートシティの広場で、新品の防具を身につけ、見違えるように元気になったリナが笑顔で報告してくる。彼女の端末には、即座に高額な報酬が振り込まれる通知ピロリンッが鳴り響いていた。

「よし。しっかり稼いで、美味しいものを食べろよ」

中間搾取ミドルマンを排除し、労働者の権利と安全をテクノロジーで完全に担保する。

日本創紀学園がもたらす『ギグ・エコノミー』は、異世界の労働環境に真の自由と豊かさをもたらすのだった。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:搾取が横行する冒険者ギルドを解体するため、【P2Pマッチングアプリ】と【スマートコントラクト】を導入。中間マージンを排除し、【労災保険】を自動付帯させることで、すべての冒険者を自由で安全なフリーランス(ギグワーカー)へと解放した。

リナ(New)

役割:若きDランク冒険者(支援対象者)

状況:ギルドの嘘の情報で怪我をし、捨てられかけていたところをレクトに救われる。現在はアプリを通じて適正な報酬と安全な労働環境を手に入れ、凄腕のフリーランス冒険者として急成長中。

ガストン(New)

役割:旧・冒険者ギルドマスター(ざまぁ完了)

状況:冒険者の報酬を80%ピンハネするブラックギルドの元締め。レクトのアプリによってわずか三日で客と労働者をすべて奪われ倒産。現在は借金返済のため、街のゴミ拾いクエストを毎日こなす最下層のギグワーカーとして汗を流している。

アカザワ

役割:財務顧問

状況:ガストンの「80%ピンハネ」という非効率で傲慢なビジネスモデルに激しい嫌悪感を抱き、AI監査で彼を完全に追い詰めた。現在はクリーンなプラットフォームの手数料(1%)だけで莫大な利益を生み出すエコシステムに酔いしれている。

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