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第45話 【クラウド・アセスメント】と神獣の暴走。最強の『サービス管理責任者』

傭兵団の健康管理と防衛インフラの最適化が完了し、スマートシティはかつてないほどの鉄壁の平和を謳歌していた。

そんなある日、学園の巨大な正門の前に、同盟国である南方の獣人国から一台の巨大な檻を積んだ馬車が到着した。

「レクト理事長! 同盟の証として、我が国で崇められている『神狼フェンリル』をお連れしたのですが……どうにも様子がおかしいのです!」

獣人国の使者が、青ざめた顔で報告してくる。

檻の中では、白銀の毛並みを持つ巨大な狼が、血走った目で唸り声を上げ、今にも鉄格子を噛み砕かんばかりに暴れ狂っていた。

『ガァァァァッ!! グルルルルッ!!』

「ひぃぃっ! これでは街に放つどころか、檻から出すこともできません!」

使者の背後では、獣人国から同行してきたベテランの『魔獣使い(テイマー)』たちが、鞭と肉の塊を持って右往左往していた。

「おかしいな……最高級のオーク肉を与えても食べない! 腹が減っているわけじゃないのか!?」

「なら、眠らせる魔法だ! 睡眠の呪文をかけろ!」

「ダメです! 魔法をかけると余計に激昂して暴れ出します!」

彼らは思いつく限りの手段を試していたが、神狼の怒りは収まるどころか激しくなる一方だった。

「レクト理事長、どうしますか? このままでは檻が破られ、都市に被害が出ます。REDANGELを出動させ、武力で制圧しますか?」

財務顧問のアカザワが眼鏡を光らせて問うが、俺は首を振った。

「対象者がパニックを起こしているのには、必ず『理由』がある。力でねじ伏せたり、当てずっぽうの対応を繰り返したりするのは三流のやり方だ」

俺は檻の前に進み出ると、タブレット端末を取り出した。

「対象者を正しく導くための第一歩。それは主観や思い込みを捨て、徹底的に客観的なデータを集める【アセスメント(事前評価)】だ」

俺は空中にシステム画面を展開し、新しいアプリケーションを起動した。

【Application_Start:Cloud_Assessment_Formクラウド・アセスメント・フォーム

「獣人国のテイマーたち。今からお前たちの端末に『ヒアリングシート』を送信する。神狼が暴れ始めた正確な時間、場所、その時の天候、周囲の音、食べたもの……記憶にある限りの事実をすべて入力しろ」

「こ、こんな板に文字を打ち込んで、何になるって言うんだ!」

「いいからやれ。魔獣の『声なき声』を聞くための作業だ」

テイマーたちが半信半疑でフォームに入力していくと、そのデータはリアルタイムで俺のスプレッドシートに集計されていく。

さらに、スマートシティの各所に設置された環境センサーのデータと、監視カメラの映像ログをAIに突合クロスチェックさせた。

ピィンッ!

数十秒後、AIが弾き出したアセスメントの解析結果が空中に投影された。

【Analysis_Result:対象者は『極度の聴覚過敏』状態にあります。都市を覆う防壁の『高周波マナノイズ』が、対象者の感覚器官に深刻なストレスを与えています】

「聴覚過敏……!?」

使者が目を見開く。

「そうだ。神狼は怒っているわけでも、腹が減っているわけでもない。この都市の防壁が発する、人間には聞こえない微弱な魔力音が耳に刺さって、パニックを起こしているだけだ。そこへお前たちが大声で騒ぎ、魔法までかけたから、余計にストレスが爆発したんだ」

原因さえ分かれば、対策(個別支援計画)を立てるのは簡単だ。

「コイケ! 3Dプリンターで、神狼の耳の形に合わせた【魔導ノイズキャンセリング・イヤーマフ】を出力しろ! それから、暗くて静かな『センサリールーム(感覚刺激の少ない部屋)』を一つ用意だ!」

「ハッ! 直ちに環境調整サポートを実行します!」

特務チームのコイケが、一瞬で錬成された巨大なイヤーマフを持ち、素早い動きで檻の隙間から神狼の耳にそれを装着させた。

スッ……。

その瞬間。

あれほど狂暴に暴れ回っていた神狼が、ピタリと動きを止めた。

『……? キュン……?』

神狼はパチパチと瞬きをし、不快なノイズが完全に消え去ったことに気づくと、まるで借りてきた猫のようにその場にコテンと座り込んだ。

「おおおっ……! 神狼様が、大人しくなられた……!」

「肉も魔法も効かなかったのに、ただ耳当てをしただけで!?」

テイマーたちが信じられないものを見る目で、檻の中の巨大な狼を見つめる。

神狼はすっかり落ち着きを取り戻し、俺が差し出した手に応えて、巨大な顔を擦り寄せてきた。

「よしよし。辛かったな。これでもう大丈夫だ」

俺が神狼のモフモフの毛並みを撫でてやると、周囲から歓声が上がった。

「レクト理事長! これは一体、どのような魔法なのですか!?」

使者が身を乗り出して聞いてくる。

「魔法じゃない。ただの【アセスメント】と、それに基づく【個別支援計画】だ。対象者の行動にはすべて意味がある。それを観察し、データを分析して、最適な環境を提供する。これが我々の『伴走型支援』の基本だ」

俺はテイマーたちに向き直り、ビシッと指を突きつけた。

「お前たちのように、ただ力で従わせようとするだけの者は時代遅れだ。今日からお前たちには、対象者のデータを正しく分析し、支援計画を作成する【サービス管理責任者(サビ管)】としての研修を受けてもらう」

「さ、さびかん……!? なんだか分からないが、あんなに手こずった神狼様を数分で救い出すなんて……! ぜひその技術、我々に教えてくだされぇぇっ!」

テイマーたちは一斉に土下座し、アカザワが嬉々として研修の契約書(もちろん有償のコンサルティング契約だ)を差し出した。

「よし。神狼も落ち着いたことだし、学園のふれあい広場でセラピー・アニマルとして働いてもらうか」

モフモフの神狼にすっかり懐かれたレオンティーナが、「アリアちゃんの次に尊い……!」と顔を埋めて悶絶しているのを眺めながら、俺はコーヒーを一口飲んだ。

当てずっぽうの対応を排除し、客観的なデータで対象者を救い出す。

俺の構築するシステムは、動物や魔獣の心にすら完璧に寄り添う、究極の福祉を実現していくのだった。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:パニックを起こした神狼に対し、【クラウド・アセスメント・フォーム】を用いて客観的なデータ収集を実施。当てずっぽうの対応を論破し、原因(聴覚過敏)にピンポイントで対処する完璧な個別支援を見せつけた。

アカザワ

役割:財務顧問

状況:他国の魔獣使いたちに【サービス管理責任者】の研修プログラムを売り込み、学園に新たな教育ビジネスの収益源を確保した。

神狼フェンリル(New)

役割:同盟国からの贈り物

状況:都市の魔力音でパニックを起こしていたが、レクトのノイズキャンセリング・イヤーマフによって嘘のように大人しくなった。現在は学園のふれあい広場で、最強のモフモフ・セラピストとして子供たちやレオンティーナを癒やしている。

魔獣使い(テイマー)たち

役割:コンサル対象者

状況:主観だけで魔獣を扱っていたが、レクトのアセスメント能力に完全降伏。現在はデータと根拠に基づいた支援計画を学ぶため、学園で「サビ管」の資格取得に向けて猛勉強中。

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